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新たな伝統が生まれる瞬間に立ち合おう。伝統工芸のまち・富山県高岡市で次々とイノベーションが起こる理由(後編)

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

富山県高岡市は、高岡銅器・高岡漆器というふたつの伝統工芸が息づくまちです。ここではいま、「伝統を受け継ぎながら革新していこう」という機運が高まっています。

前編では、この数年で新たに生まれたデザイン性の高い製品の数々と、若手職人たちの団体「高岡伝統産業青年会(通称:伝産)」が果たした役割をご紹介しました。ここからは、伝産の周辺で生まれたまちづくりの活動と、高岡で次々とイノベーションが起こる理由をお伝えしていきます。

高岡の魅力が凝縮された「高岡クラフト市場街」

出会った人を魅了し巻き込んでいく高岡。大学教授や学生たちもその網からは逃れられません。2010年には富山大学芸術文化学部の学生たちが職人の協力を得て「クリエイ党」を結成、伝統技術に若い感性をプラスしたユニークなものづくりに挑戦してきました。
 
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学生が製作した「鋳物オセロ」

2014年に同大を退職した松原博元教授は、高岡で「CREP4」という団体を立ち上げました。高岡の魅力を発信し、次の世代を担う人材を育てる産官学金連携プラットフォームです。

これまで20以上の地域で暮らし、自宅は横浜にあるという松原さん。高岡に残ったのは、「まちのサイズがちょうど良く、プロジェクトを行いやすいから」だそう。CREP4では、2012年から「高岡クラフト市場街」というイベントを企画運営しています。
 
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2016年は9月22日〜26日で開催!

松原さん 高岡では、1986年から「工芸都市高岡クラフトコンペティション」を行っています。秋には全国から応募された作品を展示する「クラフト展」も開き、たくさんの人が訪れるイベントとなっています。

しかし、何十年と続ける中で、少々中だるみを起こしていました。そこで、高岡のあちこちで開かれていたクラフト系イベントを「クラフト展」の時期に合わせて開催し、まち全体でクラフトを楽しめるコミュニティ型クラフトフェアを開催することにしたのです。

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「高岡クラフト市場街」実行委員長を務める松原さん

つくり手と買い手が直接コミュニケーションしたり、ものづくりの体験ができたりする高岡クラフト市場街は、全国からたくさんの人が集まる高岡の一大イベントへと成長しました。

もちろん、このイベントには伝産も全面的に協力しています。外から来た人が提案した企画を地元の人が受け入れ、一緒に盛り上げる。そんな姿勢が基本となっているから、高岡では面白いことが次々と起こるのでしょう。
 
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昨年は会期中に、職人の話を聞きながら、高岡の器で高岡の美味しい料理と酒を楽しむイベントも開かれました。

高岡の人の柔軟な姿勢や結束力の強さはどこから生まれるの?

「高岡って、時代の変化やよそ者を受け入れる柔軟性があるんですね」。そんな感想をこぼしたところ、数人の方から「昔はもっと保守的だったし、今でもいろんな考えの人がいるよ」と言われました。

それでもこうして次々とイノベーションが起こっているのは、家業を継いだ若者たちが「このままではいけない」と危機感を抱いて新しいことに挑戦し、それが連鎖していったためでしょう。前編で紹介した、島谷さんを応援した能作さんのエピソードはそれを如実に表していると思います。
 
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「すずがみ」開発の裏側を教えてくれた島谷さん

地域の結束力が高い理由のひとつは、分業制で協力しながらひとつの製品をつくってきたから。また、松原さんのいうとおり「ちょうど良いサイズ」というのもあると思います。

「伝統産業青年会」のような組織はほかの地域にもありますが、高岡は「市」でまとまっているのに対して、ほかは「県」という単位で活動しています。高岡は職人同士がすぐに会いに行ける距離にいるから、連携しやすいのですね。

それに加えて、飲み会が頻繁に行われていることも遠因としてあるかもしれません。高岡では鋳物の火が消えるまで、仲間の職人と飲みながら待つ習慣があったそう。そのDNAが残っているからでしょうか、みなさんとってもお酒が強くて飲み会が大好き。前編で紹介した映画『すず』の中でも、こんな歌が歌われていました。

♫高岡でベロンベロン 今日も元気だベロンベロン ああ 明日もベロベロベロンベロン 美味しいお酒だ ベロンベロン……

一度聴くと忘れられないメロディとフレーズ。飲んべえにはたまらないのではないでしょうか。

これだけ見るとただのお酒好きのようですが、飲み会の席では世代や工房を越えて交流が生まれます。40〜50代が20〜30代に新製品を開発するときの考え方やデザイナー・バイヤーとのつき合い方を教えたり、誰かがぽつりと呟いたアイデアを実際に企画に落とし込んだり。

私はお酒が弱いのでどちらかというと飲み二ケーションは苦手なのですが、ちゃんと効果もあるんだなぁ……と感じました。

ちなみに、若者や観光客も飲み会に誘っているそうで、「外から来た人を高岡の仲間にしてしまう」という効果もあるようです。
 
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伝産メンバーのデザイナー・羽田純さんが考案したはっぴ。職人と問屋で構成されていた伝産にデザイナーを引き入れたことで、ウェブサイトや名刺を含むデザイン周りがスタイリッシュで目を惹くものになりました。

まだまだ伝えたい!高岡の面白さ

ここまで、高岡の「ものづくり」に光を当てて紹介してきましたが、高岡の面白いところはそれだけではありません。それは、人と人をつなぐ宿泊施設やサービスがあること。
 
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まずひとつは、「ほんまちの家」。風情ある町家をリノベーションしたゲストハウスで、宿泊者と地域の人の交流の場「ほんまちのヨル」や、古い着物や器を破格で販売する「蚤の市」など、イベントも開催しています。

ここは、空き家活用を通した若者のまちなか居住を推進する「高岡まちっこプロジェクト」から生まれました。管理人の加納さんは現役の大学院生。高岡をテーマに研究に取り組んでいるため、高岡の情報通です。

「明日何しようかな」と相談すれば一緒にプランを練ってくれますし、予定が合えば宿泊者全員に声をかけて飲みに行ったりすることも。私が訪問したときは、「今日ちょうど職人さんと飲み会があるからぜひ」と誘ってくれました。
 
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もうひとつは、外国人旅行者に向けて、職人など“高岡ならでは”の人を紹介するサービス「IRORI」。代表の山崎慶太さんは、元々東京を拠点に地方の文化的体験を外国人に提供していました。しかし、「より距離の近い交流ができるサービスにしたい」という考えから、2015年に高岡へ移住。現在は、地元の人との食事やものづくり体験などをコーディネートしています。
 
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こうして外からふらりと来た人を地域につなぐ役割を果たす人がいるのも大事なポイントだと思います。旅先で親切にされるとそのまちが好きになるし、地域に知り合いが増えると「また来たい」と思うものですよね。ひとりで訪れても、楽しい旅になるはずです。
 
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このほかにも、情緒ある美しい街並、街中に鎮座する高岡大仏、美味しいお酒と魚、素敵なクラフトショップなどなど、高岡の魅力は挙げたらキリがないのですが、この辺りにしておこうと思います。続きはぜひ、あなた自身が高岡に行って確かめてください。観光地化されていないので物価も安いですし、今が行き時です。

スーパーマンのように突出した人物が地域を引っ張るのではなく、優秀なコンサルタントがまちづくりを企画するのでもなく、町民一人ひとりが小さな挑戦を始め、その化学反応でまちが盛り上がっていく。そんな高岡の町民文化は、日本遺産にも選ばれています。

伝統を受け継ぎ革新を起こすものづくりの息吹を感じに行くも良し、活気あるまちづくりのお手本を見に行くも良し、ただふらりと遊びに行くも良し。高岡は、たくさんの刺激をあなたに与えてくれるはずです。
 
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– INFORMATION –

 
高岡クラフト三大イベント同時開催!
2016年9月22日~26日、クラフトコンペの優秀作品を展示する「工芸都市高岡2016クラフト展」、高岡鋳物発祥の地・金屋町一帯の町屋に工芸の一品を展示する「金屋町楽市inさまのこ」、市内各所で“観る”“買う”“体験する”“食べる”などを楽しむ「高岡クラフト市場街」の三大イベントが同時に開催されます。ものづくりのまち高岡を楽しむ絶好の機会をお見逃しなく。