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育児中という強みが仕事になる。子どもを預けなくても、ママたちがイキイキと働ける仕組みをつくるNPO法人「ママの働き方応援隊」

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ママの働き方応援隊理事長・恵夕喜子さん(写真中央)と、ママハタメンバー。企業のPRイベントの企画と運営を手がけたときの1枚。

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。こちら記事は、会員サイト「マイ大阪ガス」内の支援金チャレンジ企画「Social Design+」との連動記事です。

子どもが生まれた後も仕事をしたい時、あなた(もしくは、パートナー)はどうしますか?

子どもを保育園や幼稚園に入れたり、おじいちゃんおばあちゃんに面倒をみてもらうことを考えますか? あるいは保育園に入ることが難しく、子どもが小学校に通うまで、再就職を待つ人もいるかもしれません。

でも、選択肢は本当にそれだけでしょうか? 出産後の女性は、出産前に想像していた以上に子どもを愛おしく感じ、「子どもと一緒にいたい」と願う人も多いそうです。もしも子どもと一緒にいながら仕事ができたら、最高ですよね。

しかし日本において、子連れ出勤が可能な企業はほとんどありません。出産後も継続して働く女性の割合はわずか23.1%。残念ながら「子育て期間=離職」が日本の現状です。(※国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」2002年に 基づく)

「既存の働き方で活躍できないなら、自分たちで働き方を変えるしかない。子どもを預けないと働けない、という発想から抜け出さないと」。穏やかな声で、けれどもとても力強く語ってくれたのは、NPO法人「ママの働き方応援隊(以下、ママハタ)」の理事長・恵夕喜子さん

恵さんは、赤ちゃんとお母さんが学校などに出向いて、命の授業を行う「赤ちゃん先生プロジェクト」を主催しています。greenz.jpでも以前ご紹介したこちらの取り組みですが、前回の掲載から3年が過ぎて、プロジェクトはどのように変化したのかを取材しました。
 
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恵夕喜子(めぐみ・ゆきこ)
鹿児島県奄美大島出身。NPO法人「ママの働き方応援隊」代表理事。高校卒業後、関西にて就職。23歳で結婚し、2児を出産。29歳で大手証券会社に就職し、12年間勤務。その後大手銀行、広告代理店、コンサルティング会社にてキャリアを積み、独立。プライベートでボーイスカウトのリーダーを10年間勤める間に、「子どもの教育には母親が変わることが必要」と痛感。2007年に女性の働き方を変えるためにNPOを設立し、2012年に赤ちゃん先生プロジェクトを本格スタートさせる。

世界一小さな“赤ちゃん先生”が日本中で大活躍

さて、前回取材した「赤ちゃん先生プロジェクト(以後、赤ちゃん先生)」をもう一度おさらいしましょう。

0歳から3歳までの小さな子どもを“赤ちゃん先生”と呼び、お母さん(ママ講師)と一緒に小・中・高・大学で月に1度、命の大切さを伝える授業を行います。

生徒たちは子育ての大変さを目の当たりにし、自分自身も大切に育てられたことがわかり、いじめの抑制や自己肯定感を上げる効果が期待されています。一方、高校や大学の授業では、親になる準備として授業を展開。出産と育児で人生がどのように変わるかを知ることができ、ライフプランを考えるきっかけにもなります。

また、高齢者施設では、小さな子どもの訪問はお年寄りの生き甲斐そのものにつながるといいます。
 
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「赤ちゃん先生」クラスの様子。赤ちゃんを目の当たりにし、子どもたちは、自分自身も大切に育てられたことを知ります。

これらの授業は、赤ちゃん先生(子ども)とお母さん(ママ講師)に加え、トレーナーと呼ばれるファシリテーターが担当します。

ママ講師は1回の授業につき2,000円、トレーナーは3,000円の謝金が支払われます。ママ講師もトレーナーも事前に「ママハタ」で研修を受け、仕事としてこの授業を担当しています。
 
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「赤ちゃん先生」に参加するには有料の資格講座の受講が必要になります。ママ講師は6時間、トレーナーは24時間の講座の受講後に活躍できます。その後毎年ブラッシュアップのための研修にも参加します。

授業の開催にあたっては、開催先が公立の学校などの場合、謝金を支払うことが困難です。しかし、この取り組みに共感する企業が費用を出資する“スポンサー制度”を導入することで、授業が成立しています。

育児中のありのままの姿を見せることが、そのままお仕事になる。その斬新な発想に、前回は記事の掲載後、大きな反響がありました。

「赤ちゃん先生」は企業だけでなく、東京都港区、兵庫県は神戸市、西宮市、鹿児島県の奄美市など、行政からもどんどん予算がつくようになりました。

北九州市は市長自ら少子化対策は「赤ちゃん先生」でやりたいとのことで、「市内の全高校と大学で親になるための授業をやってくれ」と言っていただきました。活動拠点の神戸市でも多くの大学で授業を行っています。

赤ちゃんとママ、ついに企業にも進出

北は福島県から南は沖縄まで、全国規模で授業が開催され、今やこの取り組みに携わったママハタメンバー(ママ講師、トレーナーなど)は1,618人、これまでの「赤ちゃん先生」の開催数は1,985回(2016年8月29日現在)と、まさに破竹の勢いで活動が広まっています。近頃は、なんと企業の研修にも「赤ちゃん先生」が取り入れられ始めたとか。

「赤ちゃん先生」は通常、小さな子どもを抱えるママの1日のスケジュールを、座学で学んだりするのですが、「コープこうべ」様の研修では、赤ちゃんをおんぶして、ベビーカーを押して買い物をし、さらにご飯をつくって子どもたちに食べさせるという研修内容にしました。

「コープこうべ」の幹部社員を想定したオリジナルの研修内容ですが、参加者は「こんなに大変なのか!」と、育児の大変さをようやく実感したとか。
 
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「コープこうべ」の幹部社員向け研修の様子。買い物ひとつとっても、子どもと一緒に行うなら重労働。

近頃は「ママハタ」の噂を聞きつけた他企業からも研修依頼が舞い込むなど、ママと赤ちゃんによる快進撃は続いています。「育児=命を育む大仕事」の価値を多くの人に伝え、多くの人に気づきをもららし、人々を笑顔にしてきた「赤ちゃん先生」ですが、「やってみて一番大きく変わったのは、ママ自身だった」と恵さんは言います。

仕事をやめて家庭で育児だけに専念するママたちの中には、「私の人生何なの?」って思う人も結構いるのです。

でも、ママ講師やトレーナーになったり、赤ちゃん先生の学校代表や学級代表として組織を運営していると、スポンサーや市長に直接会って折衝する機会も増えます。すると「なんか、子連れで社会とつながるってすごいことじゃない?」とママの意識が変わるんです。

かくして、意識ががらりと変わったママたちの大躍進が始まりました。

雇ってもらうよりも、子育て中にしかできない働き方を自分たちでつくりたい!

恵さんはNPO設立当初から、出産後に子どもを預けて企業に雇用されるしかない女性の働き方を変えたいと思っていました。そこで始まったのが「お仕事倶楽部」。ママたちが持つ「クチコミ力」と「つながり力」を活かし、企業のイベント集客や、企業のファンを増やす取り組みです。

日本では75%の家庭で、ママが家計を握っているといいます。企業はイベントや広告宣伝費にお金をかけていますが、特にハウスメーカーや食関係企業など、ママを味方につければ、膨大な宣伝広告費をかけずとも自社の売り上げアップにつながる企業は多いのです。
 
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イベントブースでとある企業の商品をPRする「ママハタ」メンバー。

例えば、これまで教材や文具、玩具の開発・販売を手がける「株式会社学研ホールディングス」の依頼を元に、「ママトレ」を開催してきました。実は「学研」は自社教材を使った塾も展開しており、子育て中のママが講師となって、自宅や公民館などで教室を開くこともできるのです。

その説明会を「学研」の社員が行うのではなく、「ママハタ」のメンバーがその良さを伝える会を開いたところ、教室は大人気に。企業側が主催すると「勧誘されそう」「無理やり買わされたらどうしよう」と心配になりがちですが、「ママハタ」のメンバーが客観的に企業の良さをPRするので、そんな心配はゼロなのです。
 
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学研の教材の魅力を「ママハタ」メンバーが他のママたちに伝えています。

しかも参加は無料で、子連れでの参加がOK(スタッフによる見守り託児つき)という、嬉しい環境を用意しています。こうした学びの場は「ママ脳大学」と名称を変更し、2017年の4月から街中のカフェやフリースペースをキャンバスに、学びの場を本格的にスタートさせるとか。

恵さんは、こうした企業PRだけでなく、ママとなった女性が自分自身の脳力の高さに気づき、その脳力を社会を変えるために活用することも目標にしています。中でも恵さんが注目しているのが“講師業”。長年コンサルティング業務に携わっていた経験をフルに生かし、起業したいママたちのビジネスプランを考え実践する「ママ脳ワクワク実践会」も開いているのです。

ママハタで新規事業を立ち上げ、法人を立ち上げママハタグループとして独立するママも出ています。「赤ちゃん先生」の立ち上げに関わっていた元保育士のママは、「自分は保育士なのに自分の子を預けて仕事をしないといけない」というジレンマから、自らが子どもと向き合える、一般社団法人「あそびの先生協会」を立ち上げました。

オランダの「ピラミッドメソッド」を応用し、「遊びを通して子どもの自主性を育くむ」というもの。あそびの先生の講師を資格制にして、先生になりたい人は「インストラクター養成講座」を受講し、このメソッドをどんどん広めていく、という仕組みです。

「赤ちゃん先生」は“講師業”なんです。「ママ脳大学」でもママが「やりたい!」とか「好き!」という気持ちをベースに、自分が経営者になることを目標にして、講師業のビジネスプランを検証・実践します。

講師業は時間単価が高く、いざというときに代講を立てることも可能で、まさにママにはうってつけの仕事なのです。

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「ママ脳ワクワク実践会」で起業に向けて学ぶママたち。講師は恵さん。

ママが変われば、日本も変わる

現在は大手人材派遣会社と共に、「あそびの先生協会」の講師をセットにして、子どもを保育園などに預けなくても一緒に出勤できる働き方のモデルを考案している最中だそう。

企業が10万円で1人を雇おうとするところ、ママが3人から5人でチームを組み、みんなで仕事をシェアします。5人のうち2人は「遊びの先生」として子どもと接している間に、残り2人が業務をこなす。さらに1人はコーディネーターとして、急遽欠員になった場合などに備えておくんです。

恵さんは、ママになった女性が自らの能力の高さに気づき、その素晴らしさをもっと広めるために、今年の4月から一般社団法人「ママ脳総合研究所」を立ち上げました。

さらには、「インターネットがあるんだから、会議はテレビ電話でいいでしょ」と、活動拠点を生まれ故郷の奄美大島に移転。奄美大島の大自然の中でママたちが起業に向けて学べる「ママ脳大学」のツアーパッケージをつくり、「奄美大島を学びの島にしたい」という夢の実現に向かって歩んでいます。

ママになったら脳が進化する、つまり子育て中のほうが脳力が高いという学説があります。私自身も子どもを産むまで、働くのも勉強も嫌いでしたよ(笑)

でも産むと変わるんです。奄美の大自然の中でママの感性を開き、ママの社会起業家を育てたいなと思います。ママが変われば、家庭が変わり、ひいては日本も変わっていくと思うんです。

「そもそも小さな子どもがいると働けないというのは、生産性や効率を求めた高度成長期の発想。経済が停滞する今では、もっと人間関係やつながりを大切にした働き方を広めて、女性が子どもを産みやすい社会にしないと」と恵さんは言います。

ちなみに「ママハタ」に集うママたちはベビーラッシュ。妊娠するたびに「やったね、また赤ちゃん先生が増えるね! おめでとう」と祝福され、みんなが赤ちゃんを産みたいという雰囲気が常にある状態なのだとか。

恵さんが言うように、子育て中の女性は能力が高まっているのであれば、こうした女性が力を発揮できない日本は、大きく損をしていると言えます。

「本当に?」と、まだまだママの可能性を疑っているあなた。ぜひ一度、「ママハタ」ホームページと恵さんのブログを覗いてみてください。しなやかで強く、それでいて母としての優しさを秘めた女性のパワーを突破口に、新しい日本の未来像が見えるかもしれませんよ。

– INFORMATION –

 
「NPO法人ママの働き方応援隊」の「Social Design+」でのチャレンジを応援しよう!
ママが“望む働き方”を実現するための事業経営を学べる「ママ脳大学」年間スクールを立ち上げたい!

https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/social/social17.html