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熊本と大分の隣人のために集まろう。開催間近の「グッドネイバーズ・ジャンボリー」坂口修一郎さん×伊藤総研さんが考える、地域フェスにできること

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

森の中の廃校で楽しむ参加型のフェスティバル「グッドネイバーズ・ジャンボリー」。これまでグリーンズでも紹介をしてきた、鹿児島の人気野外フェスです。

7回目となる今年のテーマは「GATHRING FOR THE NEIGHBORS OF KUMAMOTO&OITA(熊本と大分の隣人のために集まろう)」。被災地支援をテーマに込めた今回のフェスはどんなものになるのでしょうか?

「グッドネイバーズ・ジャンボリー」の坂口修一郎さんと編集者の伊藤総研さんが今年7月に福岡でおこなった対談を通して、これまでと今回の「グッドネイバーズ・ジャンボリー」についてお届けします。
 
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坂口修一郎(さかぐち・しゅういちろう)
1971年鹿児島生まれ。ミュージシャン、プロデューサー。93年、青柳拓次(リトルクリーチャーズ)、栗原務、ボーカリストの畠山美由紀らと、10人編成の無国籍楽団Double Famous(ダブルフェイマス)を結成。トランペット、トロンボーン、パーカッションを担当。Landscape Products(ランドスケーププロダクツ)に所属し、アートイベントや企業のコミュニケーション・ディレクターも務める。2010年より鹿児島の野外イベントGOOD NEIGHBORS JAMBOREEを実行委員長として主催。東日本大震災後に緊急来日したジェーン・バーキンの公演におけるバンドのコーディネーションとプロデュースでも知られる。

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伊藤総研(いとう・そうけん)
1974年、福岡県生まれ。横浜国立大学卒。在学時よりフリーランスとして活動。「BRUTUS」など雑誌や書籍の企画・編集・執筆のほか、映像制作、ウェブ制作、キャンペーン企画、構成作家など、出版や広告宣伝、企画立案など幅広い分野にわたって活動中。

「グッドネイバーズ・ジャンボリー」が7年続く理由

坂口さん 「グッドネイバーズ・ジャンボリー」は、鹿児島の森に囲まれた廃校で開催するフェスです。

クラフト作家のものづくりワークショップや映画上映があったり、日本中から40店舗くらいの飲食店が出店したり。ステージでは基本的に鹿児島で活動しているバンドが演奏します。楽器を持っていけば誰でも参加できるマーチングバンドというのも毎年やっています。

ジャンルを超えたクリエイティブを満喫できるイベントなんですね。そして最後にはその年のゲストアーティストが登場。今年はUAがやってくるんですよ。

伊藤さん 「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を立ち上げた最初のきっかけは何ですか?

坂口さん 自分は鹿児島出身なんですけど、東京でずっと音楽活動をしていたんですね。でも30代後半くらいのときに、地元で何かできることはないのかなと考え出したんです。そして「自分にできることは音楽を楽しむような場所をつくることだ」と思って、一番手っ取り早かったのがフェスティバルだったんです。

伊藤さん 今ほど地域フェスが多い時期じゃなかったですよね。当時って。

坂口さん まだここまではなかったですね。今は日本全国でいうと400~500はあると言われています。

伊藤さん 一度開催されても、続かないフェスが多いですが、それって何が原因なんですか?

坂口さん いろんなところから相談を受けたりするんですけど、1回目はみんな熱い思いで立ち上げて、手弁当で一生懸命やるんですね。でも1回目って、だいたい赤字になるんです。まず運営の仕方がわからないし、野外でやるにはいろんなリスクがあるし。それで過剰に予算を使っちゃうパターンが多い。

「グッドネイバーズ・ジャンボリー」の1回目も、赤字でした。だけどその時はみんなの気持ちが熱いから「次は頑張ろう」って2回目をやるんです。

こういうのって定着するまで3年くらいかかると思うんですけど、労力も必要なので続けていくうちに熱が冷めていくんですね。だからお金の問題で続かないということもあるし、人の問題で続かないということもあります。
 
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対談は福岡パルコ内のフリースペースで開催

伊藤さん 「グッドネイバーズ・ジャンボリー」が続いているのは、なぜですか?

坂口さん お金の面では、どこからも補助金をもらってないんです。だから補助金が無くなったらフェスも終わりとはならない。僕らは入場料と企業のサポートと出店料とだけでまかなっています。そして人の面では、実行委員の人たちに役割がうまくはまって結束しているのと、鹿児島の人がやっぱりお祭り好きなんじゃないですかね。

伊藤さん Facebookなどを見ていると、ボランティアの人たちの自主性が感じられます。7年経つとそんなことも出てくるのでしょうか。

坂口さん ボランティアスタッフは30人から50人くらい募るんですけど、3分の1くらいは県外から来てくれるんです。みんなモチベーションは高いですね。結構意外だったんです。

鹿児島までの交通費や宿泊費は払うけど、お金ももらわずに一生懸命働いてくれるって。今って物理的な距離とかっていうよりも関心レイヤーなんですよね。自分の関心レイヤーにはまる体験や人のつながりを求めて、遠くても飛び込もうという人が増えていると思います。
 
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伊藤さん コンテンツでいうと、「グッドネイバーズ・ジャンボリー」はすごくローカルなものと外のもののバランスが、普通のフェスとは「ちょっと違うな」という気がするんです。

坂口さん それはコンテンツの中にヒエラルキーみたいなものを絶対つくりたくないと思っているからです。それに、地方のミュージシャンだけを集めたのではコンテンツが足りないんですよね。

だからおもしろくするために、器をつくっている人とか絵を描いている人とか、たくさんの人が自分にできることで参加するという場所をつくりたかったんです。一品持ち寄りパーティーのカルチャー版みたいな。

だから「グッドネイバーズ・ジャンボリー」ではミュージシャンが絵描きより偉いってことは絶対ないです。フラットなんですね。
 
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伊藤さん 廃校の屋内でワークショップや映画上映もあるから、ステージでやっている音楽を聴かない人がいる可能性もありますよね。さらに飲食もありますけど、もしかして僕が行ったフェスの中で一番おいしいんじゃないかって思うんですよね。

坂口さん せっかく県外からもたくさん来てくれるので、地元のおいしいものを食べてもらいたいんですよ。お酒に関しても、鹿児島は焼酎王国なのでおいしい焼酎を飲んでもらいたい。

逆に鹿児島の人には、全国のワインや日本酒もこの機会に知ってほしいなと思っていろんなお酒を置くようにしています。だからおいしいお酒を持ってきてくれる人を選んで、一本釣りしてくるんです。例えばワインは東京・渋谷にある「アヒルストア」にお願いしています。

伊藤さん ものすごい量のワインボトルを空けまくっているもんね(笑) 焼酎があれだけ潤沢にあるのも鹿児島のフェスっぽいと感じます。
 
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隣人の僕らにできることは、すぐに忘れないこと

伊藤さん 今年は今までと違う試みもあるんですか?

坂口さん 今年はグッズをたくさんつくりました。行く前から楽しくて終わった後も楽しめるようにしたくて、後に残るものがあったらいいなと思ったんです。

そして「準備リー」という企画もはじめました。フェスの準備に簡単に参加してもらいたいと思って、みんなで考えた企画です。
 
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オフィシャルグッズは福岡や東京の協力ショップでも購入可能

坂口さん 「準備リー」では、みなさんにフェス準備の様子をinstagramで「#gnjamboree2016」とハッシュタグをつけて投稿してもらいます。それから僕たちがその写真をチェキのフィルムにプリントして、時系列で壁に貼り出していくんです。

たとえば「フェス用の靴を買ったよ」とか「チケットを買ったよ」とか。あと出店者の人が「こういうメニューにします」とかですね。みんながいろんなことを準備していると思うんですけど、それを可視化する写真展です。
 

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「県外の人にも準備を楽しんでもらいたい。」と話す坂口さん

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ステージをみんなでつくる事前ワークショップ。ゲストアーティストのUAのルーツが鹿児島・奄美なので、奄美の泥染をするアーティストと一緒にみんなで装飾をつくっていく

伊藤さん 僕、この活版印刷ポスター好きです。今回、「KUMAMOTO & OITA」って入っているんですよね。
 
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「GATHRING FOR THE NEIGHBORS OF KUMAMOTO&OITA」というテーマがプリントされたポスター。オンラインでも購入できる

坂口さん 活版印刷ポスターは熊本の「NINE LETTER PRESS」にお願いしてオリジナルでつくってもらったものです。これが貼ってあれば震災を忘れないで身近に感じ続けてもらえるんじゃないか、と思っているんです。
 
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活版印刷ポスターは明治時代から受け継がれる校正機を使った昔ながらの手法で印刷。手作業で生まれる擦れや滲みなど、一枚一枚違う風合いを味わえる

伊藤さん 今、熊本や大分の人に仕事をお願いするのって大事ですよね。

坂口さん そうですね。仕事をお願いすると、ずっと継続する可能性もあります。

たとえば鹿児島で皮財布をつくる職人が実行委員の中にて、活版印刷を見て「これいいね」って言うんですね。それでインクをつけずに皮肉を刷ってみたら、いい感じになって。

そこでさっそく、今年のフェスで皮にエンボスで刷って財布をつくるワークショップをすることにしました。このワークショップをきっかけに、また次の活版印刷の仕事が生まれたらいいなと思っています。
 
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鹿児島のレザーブランドRHYTHMOSとNINE LETTER PRESSのコラボワークショップ。売上げの一部は、震災で影響を受けた大分熊本スモールビジネスを支援するクラウドファンディング「OK PROJECT」に寄付される

坂口さん そもそも、「グッドネイバーズ」という名前で活動をしていて、本当に隣のネイバーである熊本と大分に地震が起きて何もしないでいるのはおかしいなと思ったんです。それで「僕らなりにできることは何か」といろいろ考えた結果、一番やらなきゃいけないことは“すぐに忘れないこと”だと。

だからポスターだけじゃけなくて、今年はオフィシャルTシャツにも「熊本と大分のために集まる」と掲げました。いつもはここって「A BEAUTIFUL DAY IN KAGOSHIMA」って書いているんです。そしてこのTシャツのオンライン販売売上の半分を、中央共同募金会に寄付するようにしています。
 
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TシャツボディはUNITED ARROWS green label relaxingのオーガニックコットン。デザインは鹿児島のデザインオフィスjudd.designによるもの。フェス当日のブース販売売上の半分は「OK PROJECT」に寄付される

伊藤さん 友人として見ていて、坂口くんって動きの早さとかすごく感心するところがあるんですよ。「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を続けているだけじゃなくて、新しいこともどんどん始めているし。動きかたや自分の指針みたいなもので、大事にしていることってあるんですか?

坂口さん あんまり後先考えないってことじゃないですかね。始めた時はちょっと後悔するんですよね。「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を始めた時も、「やっちゃったなー」って最初は思いました(笑)

やり始めてみたら、思いのほか大変だったので「しまったな」と。じゃあなんで毎回そう思うのにやるんだって言われたら、やっぱり焦りじゃないけど「時間がない」と思っているんですよ。だから今のうちにやれる時にはやっとこうかなとやり始めて。そんなにすごく計画立ててやっているわけじゃないです。
 
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地域フェスの価値って何だろう?

坂口さん 僕自身も「Double Famous」っていうバンドをやっていて、フェスによく出ていた時期がありました。北海道の次はすぐ名古屋、と各地を回る感じで。そうするとどの地方フェスも同じ出演者ラインナップでパッケージ化しているような状況があって、そこに疑問を感じたんです。
 
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1993年に結成した無国籍楽団「Double Famous」。坂口さんはトランペットなどを担当

坂口さん そして地方のフェスに出演しても、街のことを全然知らずに帰っちゃうんですね。運営側も忙しいから街案内なんてできないし、ミュージシャンはステージ裏でワイワイやっているけど会場からは外に出ない。地元のものを食べたり、地元の人と交流したりもない。

だけど僕らは「もっと街のことを知りたいし、そこでしか食べられないものを食べたいし、そこにいる人たちともっと知り合いたい」と思ったんです。だから自分がこのフェスを始めた時には、それを変えようという思いがありました。

伊藤さん だから県外からくるゲストアーティストって、毎年必ず1組だけなんですね。そして、そのゲストが今年はUAなんですね。音楽だけがヒエラルキーの上じゃないと言いつつも、UAを観に行くだけでも当然いいですよね。
 
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坂口さん はい。やっぱりどんな素晴らしい絵が飾られていても、1000人がそれを見てみんなが「おお!」とならないじゃないですか。でも音楽のいいところって、1人が発したことに対してみんなで共有できるっていうことなので、楽しくなるんじゃないかな。

でも一番観てほしいのは、「しょうぶ学園」が主宰する、知的障がいがある人たちのバンド「otto & orabu」なんです。
 
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otto(おっと)は民族楽器を中心としたパーカッションバンド。orabu(おらぶ=鹿児島弁で「叫ぶ」の意)は叫びのコーラス。鹿児島市にある障害者支援施設「しょうぶ学園」が主宰している

坂口さん 今やもう、一番盛り上がるアーティストになってきていて。ずるい言い方をしちゃうとUA目当てでフェスにきた人に、「otto & orabu」にハマってほしいんです。実際そういう人って結構たくさんいるんですね。だまされたと思って観てみてほしい。

彼らってとにかく格好つけてなくて、鏡のような存在なんです。みんながシーンとしているとそういう感じだし、逆に1000人が盛り上がると、ものすごいパワーを発揮する。だからジャンボリーの時が彼らも一番輝いているなと感じます。

伊藤さん 僕も最近はずっと行っているけど、フェス的には「otto & orabu」がピークで盛り上がりますよね。
 
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坂口さん 毎回東京から来るバンドが、予備知識なく自分たちの前で盛り上がっちゃうから、ちょっと戦意喪失…みたいな。「もう自分たちやんなくていいんじゃない(笑)」という感じになっちゃうぐらいなんです。他ではなかなか見られないアーティストなのでぜひ。

伊藤さん 前夜祭もおもしろいですね。

坂口さん もともとはスタッフが前の日に焼肉をしていただけだったんですね。それが楽しいもんだから、だんだん人が集まるようになって。それで「これはちゃんとしてお金もらわないと、食材が間に合わないぞ」ってなったんです。お金をいただくようになると、僕らの悪いクセでどんどんエスカレートしちゃって(笑) 去年はついに60kgとかの豚の丸焼きになっちゃったんです。

伊藤さん 「え、これ前夜祭?」くらいの豪華な料理人と豪華な丸焼きが(笑)

坂口さん そうそう。豚の丸焼きなんて普通できないから、興味を持つ料理人も多いんですよ。それで「やってみたい」ってすごいシェフが来るようになっちゃって。今年はカリフォルニアの人気オーガニックレストラン「Chez Panisse」の元料理長が来るんです。
 
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伊藤さん 会場へのアクセスとして、バスはちゃんと予約した方がいいですね。あたふたしちゃうので。バスだと運転しないからお酒も飲めますし。

坂口さん そうですね。そしてできるだけ鹿児島を回ってほしいと思って、開催を土曜日にしました。だから翌日の日曜日、もし車でいらっしゃる方にはちょっと遠出も楽しんでほしいですね。

地元のことを大事に思っている人たちが隣の県にもどの場所にもいて、その人たちが困っている時には何かできればと思っています。明日はわが身。そういうことを重く感じる必要はないと思うんですけど、地元を愛している人たちが「それぞれ助け合おうよ」みたいな感じで今年は集まれたらなと思います。
 
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今年のチケット購入方法は3パターン。オフィシャルサイト、ファミリーマートの「ファミポート」、協力ショップ店頭で買うことができる

(対談ここまで)

いかがでしたか?

今年の「グッドネイバーズ・ジャンボリー」は「準備リー」やグッズなどで遠方の人もさらに楽しめる内容になっていました。

楽しみながら熊本・大分を応援できる今年の「グッドネイバーズ・ジャンボリー」に、みなさんも参加してみませんか?
 

8月20日に開催する「グッドネイバーズ・ジャンボリー」のダイジェストムービー