旅行中の宿泊や、結婚式、パーティーなど、みなさんも様々なシーンでホテルに訪れるのではないでしょうか。そんな非日常な空間でとる食事は、特別おいしく感じられるかもしれません。
でも、会場を去るときにふと振り返ると、うしろには、どっさりと余った食べ物の山・・・ そんな光景が広がっていることも、残念ながら事実です。
こうして捨てられていく世界の食糧廃棄量は、国連のレポートによると、生産量の3分の1にものぼるといわれています。(出典元)また、観光産業は世界的に年々発展しており、2015年は、のべ12億人の人が海外に出かけ、2030年にはこれが18億人にまで達するそう。(出典元)旅行者の多くがホテルに泊まることを考えると、食事だけでも、世界に与えうる影響は膨大ですね。
そんななか、フランスの大手ホテルチェーン、「AccorHotels」は、4月、2020年までに、食糧廃棄量の30パーセント削減を目指すと発表しました。しかも、これを主に「食材をローカルに調達する」ことで達成していくというのです!
世界90カ国以上で、3900軒ものホテルを展開する世界最大級のホテルチェーンだけに、意欲的な目標といえますが、具体的にどのように実施していくのでしょうか?
「AccorHotels」は、2011年から持続可能な発展のためのCSR実施目標、「Planet21」を掲げており、今回の発表もそのひとつ。食料部門には、今後、特に力をそそいでいきたいとしているのです。
「Planet21」では、顧客・パートナー・地域・雇用者・建物・食料という6部門で、包括的に目標を提示しています。
まずは廃棄された全ての食品の量を計り、内容を記録していくことから始めるようです。更に、ローカルに食材を調達していくということですが、この「ローカル」、実はとっても近く。同社が世界中で展開するホテルの敷地内なのです!
計画によると、野菜や果物、ハーブなどを庭や屋根を利用して栽培し、ホテルの食事に活用するそう。ホテルから直接、食材を調達できれば、新鮮でおいしいのはもちろん、運搬が不要なため、二酸化炭素排出量の削減にもつながります。都会の菜園は、空気を浄化するだけでなく、景観も美しくなり、いいことづくめですね。
2020年までに、この「ホテル内菜園」を世界各地で1000箇所つくりだすことが、彼らの目標だといいます。
季節の収穫に合わせて、シェフがメニューを調整します。さらに、土だけでなく、栄養やミネラルが豊富な水を使った水耕栽培など、各地にあった方法で栽培されるようです
すでに同社系列のいくつかのホテルで実施されており、パリの「Pullman Hotel」では、650平方メートルと市内でも最大規模の菜園を展開。毎年500kgもの収穫があり、街の生態系の多様化にも貢献しているそう。
今回の決断に伴い、「AccorHotels」は、これまで40ほど提供していたメインコースを、10〜20まで縮小するそうですが、環境に優しいうえに、食事の質も上がるのなら、利用者としても文句はないのではないでしょうか。
また、「AccorHotels」は食材の調達方法に関する宣言書も作成しています。その内容は、ローカルかオーガニックか、肉類の基準値など詳細に及び、全てのホテルで遵守されるそう。「AccorHotels」の飲食部門を統括するAmir Nahai(以下、アミールさん)は、
全ては、お客様に自分の家族や子どもたちに食べさせるような食事しか、提供しないと約束するためなのです。
と話します。そして、「AccorHotels」が積極的にCSRに取り組む理由について、CEOのSébastien Bazin(以下、セバスチャンさん)は、次のように述べています。
想像してみてください。日々、50万人もの住民が行き交う街を。「AccorHotels」は、さながら大都市のように毎年1億2000万人もの人を迎い入れ、2億食を提供しているのです。
私たちはそれに伴う責任を、十分、認識しているからこそ、及ぼす負荷をできる限り抑え、ゲストや従業員、地域に利益を与えられるよう努めてきたのです。
セバスチャンさん(左)、アミールさん
日本や海外のホテルでも、廃棄食品を肥料にしたり、フードバンクに寄贈するなどの活動が行われていますが、「AccorHotels」のように、サービスの持続可能性を包括的に考え、目標をわかりやすく明示しているホテルはまだ少ないのではないでしょうか。
家族や子どもたちにも与えられるものだけを提供するという、アミールさんが述べた価値観は、これからのあらゆるビジネスのお手本となるように思います。
私たちが、ホテルやレストランを利用するとき、少し意識して自分の思想にあった運営をしている会社を選ぶと、こういった動きも加速するかもしれませんね。
[via AccorHotels, TRAVEL VOICE, theguardian, EUROMONITOR, FAO.org]
(Text: 日南美鹿)