トイレの前に並んで記念撮影する住民のみなさん
「6億人」。みなさんはこの莫大な人数、何の人数だと思いますか?
実はこれ、インドで清潔なトイレにアクセスができない人の数なんです! インドの総人口は約12.5億人、その半数にあたる人々が、野外のトイレを使う生活を未だにしていることになります。
この状況を打破しようと、ナレンドラ・モディ首相は「Clean India」というキャンペーンをスタート。2019年までにインド中に下水設備や衛生的なトイレの設置を目指す方針を打ち出しました。
とはいえ、いったいどうやって実現するの? そう疑問に思う方もいるかもしれません。そこで今回は、モディ首相の方針を実現するために、アメリカの非営利団体「SHRI(Sanitation and Health Rights)」が提案した、具体的な解決方法をご紹介しましょう!
「SHRI(Sanitation and Health Rights)」は、インドのなかでも発展途上のエリアに、健康・社会的な権利・経済の平等をもたらそうというミッションのもと、全くインフラが整っていない地域にも清潔なトイレを設置できるシステムを生み出しました。
彼らの提供するトイレは16個室で1ユニットとなっていて、男性用・女性用がそれぞれ8個室ずつある、コミュニティで共同利用できる仕様。最大の特徴は地下水を利用した、環境に配慮している点です。
トイレを使用すると、地下のタンクへと排泄物が蓄積されます。そのタンクでは微生物の働きによってバイオガスが発生するようになっており、そのガスを利用して発電機を稼働。その電気を利用して、綺麗な地下水を汲み上げるという循環ができています。
SHRIの考案したトイレの生み出す循環を解説したもの。一挙にインドの抱える「トイレ」、「水」という2つの問題を解決します!
地下水は1時間で1,000リットルの汲み上げが可能で、トイレ1ユニットがあれば600世帯の生活用水をカバーできるほどなのだとか! そしてその水は1リットル当たり0.008ドルという市場価格とほぼ変わらない価格で販売され、住民はプリペイドカードを利用して支払いができるようになっています。
水の売上は1ヶ月で900ドル。この費用はトイレの運営やメンテナンスに充てられるため、自治体などが予算を捻出する必要もなく、住民も無料でトイレを利用することができます。
プリペイドカードを使って水を買う様子。安全な上に近所で買えるのでとっても便利です!
このトイレがインドで求められる背景には、清潔なトイレが使えない人の多さはもちろんのこと、1億人近い人たちが清潔な飲み水を得られない環境に住んでいることも挙げられます。実は、水が原因となる感染症で毎年80万もの新しい症例が発生することも大きな問題となっているのです。
これまでにインド政府は多大な予算を投じて、インドのトイレ環境の向上を目指してきましたが、「SHRI」が考案したこのトイレが普及することで、根本的に問題を解決できる可能性が見えてきている様子。
村の誰でも利用できるトイレは、綺麗な水も提供してくれるんです。
安全面を考えれば、当然必要なこの設備。しかし、今まで野外のトイレを使用することがあたりまえだったインドの田舎では、使用の必要性やメリットを啓蒙していく必要があるのだそう。
実際に「SHRI」では、最近4ユニットのトイレを北インドのビハール州にて設置しましたが、約1,500人の村民のうち、利用しているのは一日平均800人。100%の利用率まではまだまだ届きませんが、住民にとって安全で清潔なトイレを利用するメリットを徐々に浸透させていくためには、十分な滑り出しはできている様子。
インドの村の集会の様子。トイレの設置はここにいる、村の女性や子どもを守ることにもつながります。
SHRIのファウンダーとして、このプロジェクトを牽引する、Anoop Jain(以下、アノープさん)は、このように語ります。
僕はこの問題の解決に一生を捧げるつもりです。そう簡単に全ての野外トイレが無くなるとは僕らも思っていません。ただ一方で今ある技術で、この問題は十分解決できるんですよ。
僕はこのトイレのシステムを享受する人たちに、実験のモルモットみたいになってもらいたいわけじゃなくて、これによって生活が向上することを実感してほしいのです。
右側がこのプロジェクトのファウンダーであるアノープさん。
「SHRI」では現在、ベンチャーキャピタルや投資家からの出資によってトイレの設置を進めていますが、これからは継続的にインド政府とも手を組み、多くの人たちに清潔なトイレを提供することを目標としています。
彼らの考案したトイレが示してくれているように、先進国に住む私たちが使うトイレを単に導入することが、発展途上国の社会課題を解決する最適の方法とは限りません。
きっとそれよりも大切なのは「どんなことに困っているのか?」、「どんなものがあれば幸せに暮らせるのか?」と、彼らの話に耳を傾けること。そこで生まれた共感が、社会課題を解決するアイデアを生み出すきっかけになるのではないでしょうか?
[via Co.Exist,SHRI,rice,openIDEO,Microsoft New England,Northwestern University,Northwestern University-2]
(Text: 村上萌)