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ローカル×人情で生まれる奇跡こそがソーシャルデザイン!「マイプロ関西」の3年間を振り返ると見えてきた、日本の“西海岸”としての関西の可能性とは?

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greenz.jp×大阪ガスによる「マイプロジェクトSHOWCASE関西編」が始まったのは2013年3月のこと。greenz.jpにとっては、初めての首都圏以外のローカルに密着したパートナーとの取り組みで、その後に全国各地で展開した「マイプロSHOWCASE○○編」のモデルにもなりました。

これまでの3年間の歩みのなかで感じた手応えや変化、関西ならではのソーシャルデザインのあり方への期待とは? greenz.jp編集長・鈴木菜央が聞き手になり、立ち上げから関わってきた、小野裕之兼松佳宏(YOSH)杉本恭子の3人が座談会形式で語りました。

大阪ガスは「新しい時代を築く人」を応援する企業

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「マイプロ関西」のまとめページ。3年間に掲載した記事は80以上にも!

菜央 僕らと大阪ガスさんの出会いは、東日本大震災直前の2011年3月4日。僕が、大阪ガス主催のイベントにゲストで呼ばれて行ったときに、「大阪ガスの社会貢献の今後を考えていきたいので相談に乗ってくれないか」というお話があったと記憶しています。

小野 そうそう。それから僕と菜央さんが、月一回くらい大阪ガスに行って、社会貢献室のみなさんとざっくばらんに話し合うようになったんだよね。

菜央 大阪ガスは、1985年に「扇町ミュージアムスクエア(OMS)」を作って、18年間に渡って本当に親身になって演劇文化を作ることに取り組んで多くのアーティストを輩出したことを知ってビックリしましたね。

1年ぐらい大阪に通って話し合ううちに、大阪ガスの方たちが「かつてOMSを通じて演劇文化を応援していたのと同じように、greenz.jpを通じてほしい未来を作ろうとするソーシャルデザイナーを真剣に応援すればいいんだ」という腑の落ち方をされて。2013年春から「マイプロ関西」が始まりました。
 
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「マイプロ関西」立ち上げ時には、大阪ガスのみなさんとの座談会も行いました。左からYOSH元編集長、大阪ガスの江本雅朗さん、山納洋さん、田畑真理さん。

YOSH OMSでアーティストや演劇をする人、京都リサーチパーク(KRP)でベンチャー企業を支援したのと同じ文脈で、「これから新しい時代を築くであろう人たち」を応援しようとするなかで、ちょうどソーシャルデザイナーがハマった感じがあったのではないかと思います。

あと、OMSに関わっていた江本雅朗さんや山納洋さんの原体験として、「クリエイティブな人と関わることで、大阪ガス社員である自分自身も磨かれていった」ということがあったので、社員教育的な文脈も期待されていたよね。

小野 そうそう。年2回ずつ社員のみなさんとのワークショップも開いていました。

YOSH ソーシャルデザイナーとの出会いを通じて、社員がどう変化していくのかということについては、本当にいろんなやり方があると思うので、引き続きチャレンジしていきたいですね。

「マイプロ関西」はどんな変化をひき起こしたのか?

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菜央 3年間プロジェクトを継続するなかで、どんな変化や成果がありましたか?

小野 ひとつは、大阪ガスの担当者さんの姿勢がどんどん変化していったこと。「マイプロ関西」でご一緒させていただいた近畿圏部社会貢献チーム(旧称)のみなさんのなかは、急に「ソーシャルデザインに取り組む」と言われて戸惑った人もいたと思うんです。でも、今では「現場は任せておいてください!」ってすごく頼もしいお言葉をいただいていて(笑)

YOSH 「社会貢献」から「ソーシャルデザイン」へ、というのは、ある意味“守り”から“攻め”への変化なので、戸惑いを感じた方もいたでしょうね。でも今は、「やることは変わらず、もっと本質に近づくことなんだ」と理解していただけるようになった手応えがあります。

小野 そして、昨年は「社会貢献室」が「ソーシャルデザイン室」になるという大きな変化もありました。ソーシャルデザインは大阪ガスにとって“自分ごと”であるという意識が深まった結果だと思います。

昨年秋に開催された「ソーシャルデザインフォーラム2015」では、「大阪ガスの仕事そのものがソーシャルデザインだ」という宣言もありましたしね。
 
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2015年9月、大阪ガスにて開催された「ソーシャルデザインフォーラム2015」

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大阪ガスの会員サイト「マイ大阪ガス」と連動したソーシャルデザイナー支援企画「ソーシャルデザイン+」

YOSH 「マイプロ関西」の場合は、「ソーシャルデザインを応援する」ということと大阪ガスの本業がつながっていることがすごく面白いんだよなあ。

杉本 3年目からは、記事を書いて応援するだけでなく、もっと具体的で直接的なソーシャルデザイナー支援も始まりましたね。

大阪ガスからは、大阪ガス会員ポイント「さすガっス!」で、ソーシャルデザイナーを応援する「ソーシャルデザインプラス(SD+)」をご提案いただきました。集まったポイント数に応じて、大阪ガスから最大で50万円の支援金を年間8団体に、提供するというものです。

greenz.jpからは、「マイプロ関西」で取材した人たちに、“人生の先輩”の胸を借りて次のステップを模索する場を提供する「NEXT STEP対談」を提案。メディアとして、ソーシャルデザインの担い手を応援することにも取り組みました。

YOSH 「マイプロ関西」を立ち上げ時に採用した関西のライターさんたちの多くは、今もgreenz.jpで活躍してくれています。

杉本 「マイプロ関西」の取材を通して、取材先と新しい仕事を始めたり、影響を受けて会社をやめちゃったり(笑)ライターさんたちの人生にもそれぞれに大きな変化がありましたね。

関西ならではのソーシャルデザインって?

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小野さんは、「マイプロ関西」の立ち上げ時から、プロデューサーとしてプロジェクトを推進してきました。

菜央 「マイプロ関西」で60以上の事例を取り上げるなかで、関西のソーシャルデザインに対する解像度もかなり高くなっていると思う。“関西ならでは”だと思うのはどういうところですか?

小野 ワークショップの自己紹介が一番関西を象徴しているんだけど、全員が必ずひとネタ挟んでくるんです(笑)あと、主体性が高い人が多いのも感じますね。

東京は、やっぱりあまりにも大きなものに接続しすぎているので、意見に対する匿名性が高くなってしまうんです。どれだけ「自分ごとです」と言っても、どこかで「日本代表」としてしゃべってしまうようなところがある。

ところが、ローカルの規模感のせいか、関西ではみんながもっと自分の言葉で「自分ごと」を語り、取り組んでいるように思います。

YOSH 関西って、都会ではあるけれど、東京と比べて何世代も地元に根付いている人がたくさんいますよね。それだけ多くの文脈が共有されやすいし、「あー、ああいう人いるわ」って想像できる。

その分、多様であるが故に、話し合いながら解決していかなくてはいけない課題もたくさんあるわけだけど、それを放っておかずに、自分たちで解決しようとする。

でも、それもあくまで自然体で、活動や事業を大きく展開していくことには関心がないようにも見える。それはそれでいいのかもしれないけれど、なかには全国に広がっていくべき最先端の気づきが埋もれていることもあって、それはもったいないなと思うときはあります。

小野 東京は「ヨソ者」の集まりで、お互いに「いつかどこかに行ってしまう」と思いながら、今この瞬間を楽しもうとするベクトルがすごく強いでしょう? 関西は、たとえ移住してきた人であっても「敢えて選んで住んでいる」という人がずっと多いと思うので。

課題に対しても「じっくり取り組んでやっていこうぜ」という姿勢になるし、「できることは自分たちでやっていこう」という雰囲気もある。そもそも、東京みたいにドカーンと稼いでパアーッとシャワーのように使うという選択肢もないし。
 
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「マイプロ関西」立ち上げ後、京都に移住したYOSH元編集長。いまでは、たまに京都弁もしゃべります!

YOSH コミュニケーション力が高くて、失敗してもちゃんとツッコミを入れてもらえる安心感はうれしいですね。ちゃんと人として受け入れてもらっている感覚というか。

杉本 関西の取材先を振り返ると、いわゆる社会起業家としてコンペなどに出場して…というタイプの人と、「なんか、あの人困ってはるし。どないしよう?」と動いているうちにソーシャルデザインになってた!というタイプの人がいるなあと思います。

関西というより、地方ならではのソーシャルデザインの立ち上がり方なのかな? あと、お金が回るかどうかよりも、面白さを追求する傾向も感じます。

YOSH お金のことは大事だけれど、最初に立ち上がるときにはあまり考えないのは、たしかに関西らしさかも。京都でも大阪でも、そういう話を聴くよね。

小野 ざっくり言うと「お金より人情」ですよね。それは福岡も同じで、まずはノミュニケーションですからね。あと、ひとつのコミュニティのなかの多様性が高いなあと思います。

東京は人口が多いからクラスタ化していくけれど、地方では多様性を持たないとコミュニティの規模が成立しないから。だからこそ、ちょっと変な人でもちゃんと居場所があるんですよね。

YOSH 根づいているという“ローカルさ”と“人情”が掛け合わさるって奇跡も起きるというか。地域スポーツクラブのFC岸和田が、自前の人工芝グラウンドを持つに至ったストーリーなんか、まさに奇跡みたいだったよね。イノベーションってそういうことかもしれない。計算通りじゃないのがいいのかも。

小野 あと、すごく印象的だったのは、入賞した団体に5000万円を出すという「Google インパクトチャレンジ」が開催されたときに、「マイプロ関西」の取材先から、HUB Chari虹色ダイバーシティノーベルが選ばれたこと。5団体中の3団体までが関西ですよ。やっぱり力があるなあと思いました。

greenz.jp×関西で生まれる新しい可能性

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杉本(筆者)は、グリーンズ初の関西在住ライターでした。「マイプロ関西」2年めから、ライターさんをサポートするエディターを担当。

菜央 印象に残っているエピソードとか、やってみて興味深く思ったことは?

YOSH 大阪ガスの担当者のみなさんや「マイプロ関西」の取材先を招いて「green drinks 関西」を開くと、「お互いの存在は知っていたけれど、実はちゃんと話したことがなかったし、ゆっくり話せてよかった」と言われることがあって。関西のなかで活動する同じカテゴリーの人同士でも、お互いをよく知らないままでいることが意外とあるみたいなんだよね。

グリーンズは、東京からのそっとやってきたわけで、「関西のこと、全然わからないんです!」という素人感を持っている。だからこそ、いいつなぎ目になれる気がしています。

杉本 メディアは文字通り「媒体」で、つなげる役割を担うものではあるけれど、グリーンズは他のメディアよりちょっとおせっかいというか(笑) 取材先同士をつなごうとしたり、読者と取材先が出会う場をセッティングしたり、関わりすぎるくらいなのかなと思います。その、おせっかい感が意外と関西の気風にあっていたのかも?

小野 うん、人情派だからね。ときどき、東京のクライアントさんにドライでクールな対応をされると傷ついたりすることあるもん(笑)

関西は、東京より規模は小さいけれど大きな都市がひしめきあっていて、ものごとを試せる雰囲気があると思う。たとえば、UR都市機構の本社は横浜にあるんだけど、本社は稼ぎ頭だからなかなか新しいことができない。「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」なども、まずは関西で実験をしてから、パッケージ化して全国に展開しているらしいです。

YOSH スマイルスタイルの「ハローライフ」みたいに、関西で生まれたモデルのエッセンスが全国で共有されていくと面白いですよね。とはいえ、作る人が必ずしも広げることが得意かどうかはわからないから、いいコラボレーションをつくるのも、メディアの役割なのかもしれないです。

関西は日本の“西海岸”的な存在かもしれない

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杉本 関西で取材をしていると、cobonの松浦真さんインターナショクナルの菊池信孝さんのように、「スケールアウトは目標ではない」という考え方を持つ人にも出会います。東京やグローバルの基準や価値観を自分たちに当てはめることに慎重でいようとする姿勢のある人も多いし。

日本という国の多様性を考えるうえでも、アンチ東京というか、あえて違う価値観のなかで立ち続けようとする関西の土地柄はけっこう大事なんじゃないかなと思うんですよね。

YOSH ミラツクの西村勇哉くんが、「スケール・ディープ」という言葉を使っていて。土地に根付くこともスケールを大きくするやり方のひとつだと言うんだけれど、そういうことかもしれないね。

菜央 たとえば、なぜポートランドで、市民が積極的にローカルなまちづくりができるのかというと、ある意味、ドライなマネー資本主義にほとほと疲れた人たちがアメリカ中から大集結しているからなんだよね。だから、「自転車中心のまちづくり」「ホームレス問題への取り組み」「食べ物の地産地消率アップ」とか、新しい取り組みがたくさん生まれてくる。

関西には、ちょっと生きづらさを抱えている人の居場所があって、ヘンな人たちの受け皿になる人情もある。真面目な話、関西は日本の西海岸的な存在なのかもしれないね。「暮らしにくいと思っている人は関西に集結しよう」という流れがあってもいいかもしれない。

YOSH 京都で暮らしていていると、ごくふつうにお寺や神社でサラリーマンが手を合わせている風景があったりするんです。「ここにいていい」というそれぞれの帰る場所が街にたくさんって、それがとても健やかだなあと。

小野 東京で「自分らしくある」ためには戦わなければいけないですよね。「勝ち取る」感じがあるというか。物価や家賃も高くて、すべてのアクションにかかるコストが高いから、ものごとを動かすためのロジックが必要だし、感覚的に「とりあえずやろう」というのは継続性を維持できないから。

YOSH 「関西は自信を喪失している」という話もあるけれど、自信喪失した先になにを見出すかが大事だと思う。お寺も、大学もこのままではよくないだろうし、古くなった形だけの当たり前を乗り越えて、新しくて本質的なものを生み出すためには、危機感もウェルカムだと思うよね。

小野 うんうん。ただ、東京は400年の歴史だけしかないけれど、それ以前の1000年はずっと関西を中心にして日本は動いていたんだし、東京を基準として判断する必要は必ずしもなくて。

今はあえて「このままでいいんだ」と強く肯定することが必要なのかもしれない。そこに関西の“らしさ”や“おもしろさ”を活かす方法が見えてくるんじゃないかと思いますね。
 

(対談ここまで)

 
「マイプロ関西」を通して、ソーシャルデザインのあり方について新たな視点で見ることができたり、日本のソーシャルデザインの多様性を考えるきっかけになったり。また、メディアとしてのgreenz.jpの役割や可能性を発見することにもなったり。3年間の歩みを振り返ると、そこにグリーンズのコミュニティの成長の軌跡が見えてきました。

4年めを迎える「マイプロ関西」でも、引き続き大阪ガスさんと共に関西のソーシャルデザインの担い手を応援し、関西から「ほしい未来をつくる」ことに挑戦したいと思います。

関西に旅するとき、関西のことを知りたくなったときには、ぜひ「マイプロ関西」のまとめページを参考にしてください。きっとそこにも、あなたの「ほしい未来」へのヒントが見つかるはずです。

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※こちらの募集は定員に達したため、受付を締め切らせていただきました。