全国各地の地域は、それぞれに独自の魅力や歴史、そして課題を抱えています。そんな地域の課題を解決しようという、若い世代の関心も高まってきていますが、移住をして新たな事業やプロジェクトを始めるには、なかなか勇気がいりますよね。
すぐに移住したり、遠くの地域を頻繁に訪ねることは難しいけれど、遠隔で手伝えることがあればぜひ関わりたい…という方は少なくないのでは。
今回のイベントレポートでは、そんな人たちの思いをインターネットで形にする方法をご紹介。「インターネットで、みんなが地域にできること」をテーマに開催された、Google「イノベーション東北」主催のイベント「INTERNET FOR LOCAL DAY」の様子をお届けします。
去る2015年11月22日、「渋谷ヒカリエ」に全国各地の地域で活躍するゲストたちと、200名以上の参加者が集いました。
開会のあいさつをする Google「イノベーション東北」の松岡朝美さん
まずは午前中の第一部、「LOCAL SUNDAY SPECIAL」をご紹介。全国各地で活躍するゲストのみなさんをお招きし、取り組まれているプロジェクトやそれぞれの地域が抱える課題を共有していただいた後、会場みんなで課題解決のアイデアを話し合うイベントです。Google「イノベーション東北」とグリーンズが2015年の夏から毎月開催してきた「LOCAL SUNDAY」の拡大版となります。
ゲストは6地域。福島県西会津町から「西会津国際芸術村」コーディネーターの矢部佳宏さん、新潟県十日町から「ギフト・ラボ」代表の後藤寿和さん、神奈川県小田原市から「旧三福不動産」共同代表の山居是文さん、長野県小谷村から、「くらして」主宰の前田聡子さん、岡山県西粟倉村から「村楽エナジー」代表取締役の井筒耕平さん、そして福岡県天神から「福岡移住計画」主宰の須賀大介さんです。
除雪が楽しくなる「ジョセササイズ・ワールド」を広めるには!?
「日本ジョセササイズ協会」、「西会津国際芸術村」コーディネーター
矢部さんが暮らす福島県西会津は日本有数の積雪量である雪国で、冬場の雪かきも一苦労です。そんな中、「除雪をエクササイズにして楽しんじゃおう!」という町の職員の声からはじまったのが、「ジョセササイズ」運動。
「除雪あるある」用語の開発・解説や、健康増進にもつながる除雪動作の研究、除雪キャラの公募など、とにかく除雪をおもしろおかしく楽しんじゃおうという「ジョセササイズ・ワールド」を矢部さんが披露されたあと、今度は会場のみなさんから、ジョセササイズの世界観をより広げていくためのアイデアを募集。
矢部さんのグループに集まった参加者からは、除雪による消費カロリーを計算するセンサーの開発、ミーハー心を刺激するグッズやウェアの販売、除雪をすれば地元の方のお家でご飯が食べられるという「除雪ツアー」の企画、さらにはアート作品「シンクロナイズドジョセササイズ」の制作などなど、遊び心満載のアイデアが飛び出しました。
会場は終始笑いが絶えず、”地域の課題”といっても、こんな風に楽しみながら取り組むことができるんだと、参加者のみなさんも実感していた様子です。
観光から日常へ。繰り返し通いたくなる街をつくるには?
「山ノ家」、「ギフト・ラボ」代表
2人目は新潟県十日町市から後藤寿和さん。美しい棚田風景が広がる十日町では、地域集落の中でアート作品を展示する「大地の芸術祭」が3年に一度開催されており、会期中には全国、世界各地からたくさんの観光客が訪れます。
そんな十日町市の悩みは、イベント期間が終わると街にほとんど人がいなくなってしまうこと。十日町の空き家を改修して「山ノ家カフェ&ドミトリー」を開き、地元の人たちとともに様々なイベントを手がける後藤さんは、「観光から日常へ」をテーマに掲げ、イベント終了後も繰り返し人が訪れる街づくりの方法を会場に問いかけました。
グループでの議論では、観光客にとって、地元の人との接点・交通インフラ・気軽に参加できる体験が不足しているのではという指摘がなされ、それらを解決するアイデアが出されました。
例えば、地元の人が交代で車を出して観光客のガイドとなり、各地を案内した上で自宅のごはんに招くという「地元ガイドプロジェクト」。はじめて十日町を来た人が最初に訪ね、地域の情報を知ることができるビジターセンターの開設。そして、地元の人を交えた月イチ飲み会などの気軽なアクティビティを増やすことなど、多彩なアイデアが出されました。
小田原で創業する人を、5年で100人生み出したい!
「旧三福不動産」共同代表
3人目は神奈川県小田原市から山居是文さん。新宿から小田急線で一本のアクセスの良さを誇る小田原市で、商店街の空き家をリノベーションし、イベントスペース・コワーキングスペースを兼ねた不動産屋「旧三福不動産」を経営しています。
小田原の商店街には空き物件が多数あり、それらをリノベーションすれば少ない元手でも新しい事業に挑戦することができます。山居さんは、この地域特性を活かして今後5年間で新規創業者を100人生み出したいと考えており、そのためのアイデアを募集しました。
参加者からのアイデアとしては、小田原で創業する際に具体的にどのようなハードルやステップがあるかを可視化して発信すること、事業を始めやすくするために地元の人たちと訪問客が交流する機会を増やしていくこと、空き物件ごとに募集業種を掲載して創業を促し、地域全体を編集していくことなどが挙げられました。
参加者の中にも「小田原に行きたい」と語る人が何名かいらっしゃったようで、この日の山居さんとの出会いが、本当に創業につながるかもしれません。
大切なくらしを未来に残していくために、仲間とつながり、深まりたい
「くらして」主宰
4人目は長野県小谷村より前田聡子さん。前田さんは野外教室への参加がきっかけで、小谷村大網集落の暮らしと人に惚れ込み移住を決めました。そして、同じく移住した夫婦との2組4人で「くらして」を結成し、小谷村の人々からさまざまな暮らしの知恵を学びながら、小谷村の暮らしの情報を外部に発信しています。
農作業や炭焼き、鹿の解体や地域のお祭りなど、昔から連綿と続く集落の文化とリズムを大切にしながらも、未来に渡って集落を維持していけるように移住者を増やしていきたい。そのために地域の外の仲間をどうつくり、関係を深めていくかを、会場の参加者とともに考えました。
会場からは、移住者だけでないさまざまな距離感の仲間が関われるイベントを開いていくこと、またそこでは必ず地元の人たちと一緒に、地域の課題を見つめ考える機会をつくることが大切だという意見が出されました。
参加者のみなさんも前田さんご夫婦から小谷村の魅力を感じ取った様子で、小谷村の日常を身近に感じられる場を丁寧に開き続けていけば、おのずと仲間の輪は広がっていくはずだという前向きな声が寄せられていました。
多様な分野とコラボして、林業・バイオマス業界を引っ張りあげたい!
「村楽エナジー」代表取締役
5人目は岡山県西粟倉村から井筒耕平さん。「新しい時代のローカルソフトインフラを担う」というビジョンを掲げ、西粟倉村での林業、バイオマス発電、温泉経営などを手掛けています。
ところがこの業界、少数の専門家と地域のボランティアにプレーヤーが限られており、多様な分野と協業して事業を盛り上げていけるような中間的プレーヤーが不足しているのが悩みの種だとか。そこで会場には、「あなたの得意分野を活かして林業を引っ張りあげてください!」とのお題が投げかけられました。
そんな井筒さんのグループには、宇宙工学から都市工学、デザイナーやエンジニア、企業人事etc. 多種多様な専門分野の人材が集まり、数多くのアイデアが出されました。
なかでも井筒さんイチオシは、「ひねくれウッディ」というオリジナルキャラクターをつくり、SNSで毎日林業界のおもしろネタをアップしていくというもの。林業とボイラーだけに木曜日と火曜日だけ真面目な情報をレクチャーする、というのもミソだとか。
一見とっつきにくい林業やエネルギー業界を身近に感じさせる、ユーモアあふれるアイデアですね。
移住者と地元の方がつながるインターネット上の仕組みをつくりたい
「RISE UP KEYA」、「SALT」、「福岡移住計画」主宰
最後のゲストは福岡県天神から須賀大介さん。茨城県出身、東京でIT企業を経営していた須賀さんは、震災をきっかけに、子どもを安心して育てられる場所を求めて福岡県に移住。自分と同じような移住者が、居場所と仕事と住まいの”居・職・住”が得られるよう、「福岡移住計画」を主催し、糸島市「RISE UP KEYA」、福岡市「SALT」など、移住者や地元民が集えるシェアスペースを複数展開しています。
地方移住者のほとんどが直面するのが、居場所と仕事と住まいの”居・職・住”をどうやって得られるかという悩み。ご自身もさまざまな苦労をしながら福岡に移住した経験から、外からやってきた移住者と地元民がより早く深くつながれるコミュニティづくりの必要性を語りました。
そんな須賀さんからのお題は、移住者と地元の方がつながるインターネット上の仕組みはどんなものがあるかというもの。高齢者の生活上の悩みなど、地域の困りごとをネットに発信して移住者が助けられる仕組みや、地域情報を集約した「イトペディア」の開設など、地元目線でのリアルな情報をいかにインターネット上に上げていくかという観点で提案がなされました。
腹ごしらえもローカルスペシャル!
全国各地の新鮮な素材で美味しいランチ
今までの「LOCAL SUNDAY」の3倍ものゲスト人数でお送りする「LOCAL SUNDAY SPECIAL」、会場各地でところせましと議論が盛り上がり、あっという間にお昼の時間に。
この日のランチは、ゲストが暮らす地域の食材をふんだんにつかったスペシャルメニュー、「うつくしまえごま豚のタコライス&自家製たまねぎドレッシングサラダ」です。エゴマ豚は福島県、トマトは岡山県、レタスは長野県、新米コシヒカリを新潟県から取り寄せてつくっていただきました。
ランチメニューは、「うつくしまエゴマ豚のタコライス&自家製たまねぎドレッシングのサラダ」
提供は、全国各地の素材をつかって地域の魅力を発信する「47DINING」(ヨンナナダイニング)のみなさんです。
それまで真剣に地域の課題解決のアイデアを語り合っていたからか、初対面の参加者同士もすっかり打ち解けた様子で、ランチ中も和やかなムードで会話が盛り上がっていました。
離れていても、地域のためにできること。イノベーション東北「みんなで地域プロジェクト」で6地域のチャレンジを応援!
無事、6地域のグループ発表が終わり、地域の課題を解決するためのさまざまなアイデアが集まりました。ゲストの方々も、地域の中にいるだけでは見えなかった視点や発想が得られ、とても参考になったようです。
会場で寄せられたアイデアを発表する、小谷村の前田さん
大盛況で幕を閉じた「LOCAL SUNDAY SPECIAL」ですが、会場で生まれた熱量をその日のもので終わらせず、継続的に地域と関わり続けるための仕組みが、インターネットに存在します。それが、イノベーション東北です。
イノベーション東北では、全国各地の地域の「プロジェクト」を、あなたのアイデアや専門性を活かして応援することができます。今回のゲスト6名の地域でのプロジェクトもサイト上に掲載されているようです。イベントに参加した人も、参加できなかった人も、ぜひプロジェクトに参画してみてください!
午後のイベントも盛りだくさん!
第二部「with INTERNET | インターネットと地域が出会い、ひらかれるローカル」
午後の部も様々なテーマで濃密なディスカッションが繰り広げられました。写真とともに、各部の様子を振り返っていきましょう!
第二部のタイトルは、「with INTERNET | インターネットと地域が出会い、ひらかれるローカル」。インターネットの強みを活かして地域内外の多くの人を巻き込みながら、新しい働き方を実現しているゲストのお話を伺いました。
前半のインスパイヤートークをつとめたのは、2002年から13年間に渡って横浜での地域づくりに取り組んできた、横浜コミュニティデザイン・ラボの杉浦祐樹さん。
インターネットを通して情報を発信していくことで、地域の知見がネット上に蓄積され、それが更なる情報や人を呼び寄せると語る杉浦さん。インターネットをまちづくりに活かす上での大事なポイントとして、Learn(学ぶ)・Make(つくる)・Share(共有する)の3点を挙げられました。
「横浜コミュニティデザイン・ラボ」代表理事
後半は、杉浦さんがモデレーターとなり、徳島県神山町から齋藤郁子さん、岩手県滝沢市から伊藤貴之さん、瀬戸内の離島で活動する甘利彩子さんの3名のゲストによる、地域でのインターネット活用事例の紹介とパネルディスカッションが行われました。
杉浦さんの掲げるShare(共有する)のポイント通り、ただインターネットを情報伝達の手段として使うだけでなく、その地域ならではの体験をシェアすることで、地域内外の協力者を巻き込んでいる様子が印象的でした。
「カフェオニヴァ」の齋藤郁子さん(左)、「チイキット」の伊藤貴之さん(中央)、「瀬戸内こえびネットワーク」の甘利彩子さん(右)
「面白そうだからやってみる、失敗したときのことなんて考えない!」自由奔放なギークが切り拓く、まだ見ぬ地域の姿とは?
第3部のタイトルは、「with GEEKS | Geek in Local ギークが地域でおこすイノベーション」。地域で活躍するギークの方々を招き、テクノロジーを活用した地域プロジェクトとその未来について語ります。
前半のインスパイヤートークをつとめたのは、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の小林茂教授です。社会にはその時代ごとに中心と辺境の構造があり、イノベーションは常に辺境から巻き起こることを指摘します。
東京を中心にこれまで発展してきた大都市経済圏が行き詰まりを迎える現在、地場産業と情報産業をかけあわせながら、自らの手で新しいサービスや製品を形にする力を持つ、ギークやメイカーと呼ばれる人々の持つ可能性を語りました。
情報科学芸術大学院大学(IAMAS)教授
後半は、小林教授がモデレーターとなり、徳島県神山町の寺田天志さん、福島県会津若松市の藤井靖史さん、宮城県石巻市の古山隆幸さんの、3つの地域で活躍するギークたちとトークセッションを繰り広げました。地域の課題という真面目なテーマのなか、自分たちがつくったもの、立ち上げた活動を少年のような表情で楽しげに語る姿が印象的でした。
パネルディスカッションでは活動を始めた頃の心境を尋ねる質問が出ましたが、「うまくいかなかった時のことは考えなかった」、「不安より楽しさが先行して、気づいたらつくっていた」と、ギークらしいものづくりに対して純粋な答えが帰ってきました。
地域のためというよりも、自分自身が楽しいからやる。その純粋な好奇心が、結果として地域の課題の突破口を生み出すのかもしれません。
デジタルカーモデラー/3Dクリエイター/フリスビープレイヤーの寺田天志さん(左)、「CODE for AIZU」、会津大学准教授の藤井靖史さん(中央)、「イトナブ」、「ISHINOMAKI2.0」古山隆幸さん(右)
お味噌汁の内部で起こる対流をたとえに、地域の課題解決のプロセスを語る藤井さん。自由な発想のギークたちの語りに、会場の参加者もだんだん病みつきに!?
みんなで描く、地域の未来。想いをつなげるフィッシュボウル
いよいよクライマックスの第四部。「with EVERYONE | みんなで描く、地域の未来」と題し、会場みんなが主役となって全員参加型のフィッシュボウル(金魚鉢会議)形式での話し合いが行われました。
モデレーターは働き方研究家、リビングワールドの西村佳哲さん。テーマはシンプルに、今日一日を振り返って「みんなが地域に何ができるか?」
対話の始まりは5人のゲストから。「パラミタ」の林篤志さん、「BAGN」の坂口修一郎さん、上毛町地域おこし協力隊の西塔大海さん、瀬戸内こえびネットワークの甘利彩子さん、くらしての前田聡子さんです。
1人ずつ人が入れ替わっていくフィッシュボウル(金魚鉢会議)
フィッシュボウルの特徴は、常に1つだけ空席になった状態で対話が繰り広げられること。輪の外にいる誰かが話したくなったら空いている椅子に座り、それまでいた参加者のうち誰かが退場して対話のバトンを渡す、という流れを繰り返します。
はじめての対話形式に戸惑いながら、対話を始めるゲストのみなさん。緊張の苦笑いを交えながら、おそるおそる言葉を交わしていましたが、ある時、輪の外から参加者が椅子へと近寄り、場の空気に変化が生まれます。次第、次第に対話は熱量を帯びてゆき、話題を変えながら次々と新たな参加者へとバトンが渡されました。
「よそものと地元の人で、共通言語をどうやってつくる?」「地域のためってそもそもどういうこと?」「インターネットで離れていてもできることは?」……徐々に人が入れ替わりながら、地域に対する思いを言葉にしてつないでいきます。
議論が盛り上がってきたところで惜しくも時間切れ。フィッシュボウルの熱気が冷めやらぬまま、最後のプログラム「オープンマイクセッション」へと移ります。立候補者が次々と壇上へ上がり、一日を通して感じたこと、新たに挑戦しようと決めたこと、自分が手がけるプロジェクトへの参画呼びかけなど、地域に対する熱い思いを発表しました。
地域に対する熱い思いをシャウトする、オープンマイクセッション
最後はみんな集まって記念撮影。大盛り上がりのうちにINTERNET for LOCAL DAYは幕を閉じました。
たくさんの魅力的な人や活動と出会い、日本の地域の未来に大きな可能性を感じた一日でした。ですが一方で、どの地域もまだまだ多くの課題を抱えており、共に課題解決のためのアクションを起こしていく仲間を探しています。また、参加者のみなさんも、今回つながりを持った地域や人を、どうやって継続的に応援していけるかを考えている様子でした。
そんな時に力を発揮するのがインターネットです。今回登壇したゲストの方々が活動する地域のプロジェクトを、Google「イノベーション東北」を通して応援することができます。
自分のアイデアや意見を提供する「ワンタイムサポート」と、自分の専門性を活かして継続的に関わる「プロボノサポート」。自分のスキルや、使える時間に応じて柔軟に関わり方を選べます。
離れていても地域のためにできることは、きっとまだまだたくさんあるはず。
あなたにぴったりの地域との関わり方を見つけてみませんか?
(写真: 関ひとみ)