「LOCAL SUNDAY」は、地域と人、地域と地域とのつながりを育んでいくことを目指したイベントです。日曜の朝に集まって地域で活躍するプレーヤーにお話をうかがい、ランチタイムには地域の食材を使った料理を食べながら、みんなでアイデアを出し合います。
Google「イノベーション東北」とグリーンズとの共催イベントで、greenz.jpでも第1回や第2回の様子をお伝えしてきました。
今回は2015年10月25日に開催された、第3回の様子をご紹介します。
ゲストは、岩手県盛岡市での「いわてアートプロジェクト2016」の実行委員を務める杉田靖子(すぎた・やすこ)さんと、国内外各地で人びとの生活に寄り添うアートプロジェクトを企画している北澤潤(きたざわ・じゅん)さん。これまでと同様、Googleの松岡朝美(まつおか・ともみ)さんとグリーンズ理事の小野裕之がホストを務めました。
2種類の関わり方ができる「イノベーション東北」
今回の会場となったのは、東京都千代田区の神田駅近くにあるシェアオフィスtheCです。日曜の朝から約30名が集い、リラックスした雰囲気でスタートしました。
LOCAL SUNDAYへの参加は初めてという人がほとんどでしたが、「イノベーション東北について聞いたことがある人は?」という松岡さんの問いかけに、7〜8割の手が挙がりました。
イノベーション東北は、Google が中心となり、地域で新しい変化を起こそうとする人と、その人の想いに共感し、サポートしたい、かかわりたいという人をオンラインでつなぐマッチングプラットフォームです。
2013年5月にスタートし、震災を機に新しい挑戦に取り組もうと立ち上がった東北のみなさんと全国のサポーターをつないできました。そして、東北で得た学びを、今度は日本全国へと展開し、みなさんが全国の地域で新しい変化を起こしていけるよう、インターネットの力で応援しています。
現在多くの事業者や、自治体、NPOなど地域で活躍するプレイヤーが登録されており、2016年3月の時点で、440を超える地域の“プロジェクト”と、ユーザー2,200名以上が登録されています。そして、これまでに1,850件以上のマッチングが成立してきました。
イノベーション東北への関わり方としては、2種類あります。
ひとつは「プロボノサポート」。自分の専門技能や知識を活かした中長期的な支援を行います。
もうひとつは「ワンタイムサポート」です。サイト上に掲載されているプロジェクトに対して、アイデア提供やアンケートへの回答など、どなたでも気軽に参加していただけるサポートです。松岡さんによるデモンストレーションがあり、参加者全員がスマートフォンなどを使って早速取り組むという場面もありました。
東京から新幹線で2時間! 「いわてアートプロジェクト2016」
一人目のゲストは杉田さんです。岩手県盛岡市での「いわてアートプロジェクト2016」についての説明と、そこに至るまでの過程についてご紹介いただきました。
「いわてアートプロジェクト2016」の実行委員として、1年のうち100日は岩手で過ごす、限りなく岩手な関東人。
2003年より岩手県で自殺防止、引きこもり防止活動を行うセラピスト集団「アイアム」の副代表として活動する中、震災が発生。海外から支援に訪れる数々のアーティストたちをサポートする活動が、現在の「いわてアートプロジェクト2016」のもとになった。人が循環することで生まれる地域の活性化、そこから生まれる心の復興とは何かをテーマとして活動している。
・イノベーション東北のプロジェクトはコチラ
「いわてアートプロジェクト2016」のもとになったのは、女性セラピストたちの活動でした。もともとカラーセラピストとして活躍していた杉田さん。
震災後、「海外から支援にやってきたアーティストの迎え入れに奮闘する代表の島口さんをサポートしよう!」とこの取り組みを始めました。この4年の間に60回以上のワークショップを開催。これまでに関わったアーティストは20名、参加者は1500人を超えます。
海外からやってきたアーティストとしては、たとえば、震災後いち早く現地に入り、避難所でポートレイトを描くという活動を始めた中川直人さん。ニューヨークで活躍しているアーティストです。
避難所で、中川さんはある年配の男性のポートレイトを描きました。その男性は津波で流されて2日間漂流した末に助かったものの、「なんで自分が助かってしまったのか」という想いにとらわれていたのだそうです。
実は、この男性はかつて小学校の校長を務めた経歴の持ち主でした。中川さんが描いたポートレイトには、教師としての長年の経験に裏打ちされた堂々たる男性の姿が描き出されていました。その絵を見て、彼は自分の誇りを取り戻したといいます。
また、「いわてアートプロジェクト2016」に深く関わっているJose Maria Sicilia(ホセマリア・シシリア、以下ホセマリアさん)も、震災後早くから日本に駆けつけてくれたアーティストのひとり。スペインの国宝級といわれる現代アート作家です。
ホセマリアさんは「あなたたちのことを教えてほしい」というスタンスで関わっていったので、地元の人たちも心を開いていったのだそう。
2012年3月、岩手県野田村の小学校で行われたワークショップでホセマリアさんは子どもたちに「あなたは震災のあった2011年3月11日まで、何をしていましたか?」という問いを投げかけました。そして2011年のカレンダーに当時の記憶を書き込むように言いました。
暗黙の了解のように、震災のことを子どもたちに思い出させないようにしていた中での、ある意味思い切ったワークショップでした。しかし、ワークショップ後に、「楽しいこともいっぱいあったんだよ。でも先生がだめっていうから話せなくなっちゃったんだ」という子どもたちの発言を聞いて、「これは必要なことだったんだ」という思いがスタッフの中に広がったのだそうです。
このようにして、震災の個人の記憶から数々のアートが生まれていきました。中には各地の美術館から、ぜひ譲ってほしいと請われた作品もあったそうです。それにもかかわらず、ホセマリアさんは「この作品は“ここの人のもの”だ」と言い、岩手に置くべきだと主張しました。
来年、「いわてアートプロジェクト2016」で多くの人の目に触れる機会を持つのは、そうやって生まれ、地元に根を下ろした作品たちなのです。
5年経った今だから話せることがある、と杉田さんは言います。
杉田さん 話すこと、表現することで当時の感情や記憶が整理され、それがいつしか思い出となって定着されます。
心の中が整理されることは、心が癒されることの入り口でもあり、前に進む力を与えます。表現することでつらい気持ちも昇華され、代わりに“アート”が残ります。“アート”だからこそ残せるんです。
また、現実の世界で失われたものも、アートの世界では鮮やかに描き出すことができます。現実の世界では叶わないことでも、アートの世界だったら実現できることがあります。
穏やかな語り口のなかに、しなやかな芯の強さが感じられ、会場全体が杉田さんのお話に引き込まれるようでした。
「アート」は、生活の場で誰でもできるもの
そして、もう一人のゲストは北澤さん。茨城県取手市の《サンセルフホテル》とニュージーランドでの《空想都市不動産》の事例を中心に紹介していただきました。
1988年東京生まれ、アーティスト・北澤潤八雲事務所代表。
行政機関、教育機関、医療機関、企業、地域団体、NPOなどと協働しながら、国内外各地で人びとの生活に寄り添うアートプロジェクトを企画している。日常性に問いを投げかける場を地域の中に開拓する独自の手法によって、社会に創造的なコミュニティが生まれるきっかけづくりに取り組む。代表的なプロジェクトに、不要な家具を収集し物々交換することで変化し続ける“居間”をつくる「リビングルーム」や、仮設住宅のなかに手づくりの“町”をつくる「マイタウンマーケット」、地域の空き部屋を太陽光発電の“ホテル”に変える「サンセルフホテル」などがある。
サンセルフホテルは、茨城県取手市にある井野団地の空き部屋をホテルの一室にし、地域の人がホテルマンに変身するというプロジェクトです。
茨城県取手市にある井野団地
「女将になるのが夢だった」という女性がお出迎え
それぞれのホテルマンが、お客さんにしてあげたいことを自分で考え、“ルームサービス”として提供します。
ルームサービスはビンゴ大会やキャンドルづくりなど。中にはただおしゃべりをする、というものも
また、“サンセルフ”という名前にもある通り、宿泊客は自分でソーラー発電をし、日中に貯めた分だけの電気を使うことができます。
宿泊客が自ら発電機を持ち歩き、ソーラー発電を行う
そしてクライマックスは、夜空にのぼる太陽。
発電した電気を使い、太陽に見立てたバルーンを夜空に上げる
北澤さん アートの原点は「わけのわからない状況に対するヒトの応答」だと考えてみるとどうでしょう。
無性に何かやってみたくなる、やらずにはいられない心の衝動。それは暗闇の洞窟に入り込んで洞窟壁画を描いた原始人の心理と似ています。そしておそらく現代人も同じようにその感覚を持っている。キッカケさえあれば、「アート」は生活の場でだれでもできるものだと思います。
自分の住む団地の空き部屋がホテルになるという、ある種「わけのわからない状況」に対して、地域の人たちは自らホテルマンとなって、自分にできる最高のおもてなしをする。そこには一人ひとりの創造性に根ざした「もうひとつのコミュニティ」が出現するのです。
お茶目なホテルマンたちの写真に、会場の雰囲気も和みました。
宿泊客の見送りするホテルマンたち
それに加えて、北澤さんが最近手がけた「Unreal City Estate(空想都市不動産)」というプロジェクトも紹介されました。
これは、都会の中にある公園を舞台に“もうひとつの都市”を空想していくというものです。
ニュージーランドにアルバートパークという公園があります。ここはかつて原住民であるマオリ族が星を見上げていた丘でした。現在は英国風の庭園になっています。
アルバートパーク
そこに突如、不動産屋さんが出現。広い公園に想像上の区画が施されます。地域住民はお金の代わりにアクティビティによって区画をレンタルしていくのです。
公園内につくられた不動産屋
公園中央の噴水。多種多様なアクティビティにより区画が埋まっていく
さまざまなアクティビティが集まって、公園はアンリアルな雰囲気になっていきました。《空想都市不動産》は「空想」によって「現実」を上書きしようとする実験的なプロセス。プロセスこそが重要であり目的です。
最後に「もし、《空想都市不動産》を代々木公園でやるとしたら?」という北澤さんの問いかけに、参加者の想像力のスイッチが入ったようでした。
地域の食材でつくったカレーを片手にアイデアセッション
ゲストトークの後は、参加者によるアイデアセッションです。おふたりから投げかけられた課題に対してアイデアを出し合います。まずは自分にできることを考えて、それをみんなでシェアしていきます。
杉田さんからのお題は「展覧会を多くの方に観ていただくために、岩手をもっと近くに感じてもらうには何が必要か」というもの。杉田さんの「いわてアートプロジェクト2016」にかける想いをひしひしと感じていた参加者のみなさんは、自分にできることについて、真剣に考えをめぐらせます。
参加者からは、地元の人と訪れた人がつながるようなツアーやイベントを企画する、FacebookなどのSNSを使って情報を発信するといった意見が出されました。北澤さんの空想都市不動産のお話に刺激を受けたのか、「代々木公園に仮想岩手をつくる」、「盛岡空想旅行社をつくる」といったアイデアも。
一方、北澤さんからのお題は「もし代々木公園に空想都市をつくるなら」という、想像力を刺激される課題。
参加者からは自分のバックグラウンドや経験にもとづいたアイデアが出されていました。たとえば、日本に住む外国人が出展する万国博覧会。テントやゲルなどをホテルの個室にして、すべて物々交換の原始生活特区にする。噴水をお風呂にする、などなど。
ランチのカレーを片手に話し合いは熱気を帯び、プロジェクトが始まるときの“うねり”のようなものが生まれ始めていました。
地元の食材を使ったランチもLOCAL SUNDAYの楽しみのひとつ。今回は「PEACE DELI」の新納平太さんにお願いして、2種類のカレーをご用意。岩手県盛岡の牡蠣ときのこのカレーと、茨城県取手のバナナポークウデ肉&シモタファームの野菜を使用したカレー
杉田さん ツアーを行うという意見がいくつか出ましたが、実は旅行会社にアプローチしたこともあります。
そのときは、残念ながら話がまとまりませんでしたが、今回みなさんに出していただいたアイデアを取り入れて、たくさんの方に「いわてアートプロジェクト2016」へ足を運んでいただきたいと思います。
北澤さん 代々木公園は米軍の宿舎敷地や、オリンピックの選手村だった歴史をもつ場所。そんなところで《空想都市不動産》をするというのは、今はまだそれこそ空想段階です。実際にやるとなったら、できるものもあればできないものもあるけれど、その過程を見せつつやっていくことになるでしょう。時代が変わるようなプロジェクトになるかもしれない。
会場では、それぞれのアイデアに刺激を受け合いながら積極的な交流が行われ、第3回「LOCAL SUNDAY」は盛況のうちに幕を閉じました。
– INFORMATION –
いわてアートプロジェクト2016は、現在イノベーション東北でプロジェクトを立ち上げています。
ご興味のある方は是非、サポーターとしてご参加してみてください。
1. あなたにとっての「3・11」の記憶を言葉に残しませんか?
震災から5年という1つの節目に、日本中の3.11の記憶をアートとして留め、未来へ紡いでいくため、皆さんの3.11の記憶の “ワード(一言)”を募集しています。
集まったものは、いわてアートプロジェクト2016の今後の活動や展覧会の中で、何かしらのカタチとして残し、表現していきたいと企画しています。
https://www.innovationtohoku.com/project/challenge/index.htm?cid=409efeed86cd448fbeb5ec311f8df4d0i
2. いわてアートプロジェクト2016のイメージを教えてください!
今後、私たちの活動をより魅力的に発信していくために、WebサイトやSNSを見て、みなさんが感じた「いわてアートプロジェクト2016」のイメージを簡単なアンケートにてお答えください。
https://www.innovationtohoku.com/project/challenge/index.htm?cid=e23e060ff14a4f199da970a2089e14b7i
3. いわてアートプロジェクト2016を日本中・世界中の人に知ってもらいたい!
いわてアートプロジェクト2016を、日本中・世界中の人に知ってもらい、一人でも多くの方に興味を持っていただき、足を運んでいただけるように、Google+、Facebook、twitter、Webサイトなどで発信している私たちの活動を、みなさんのSNSやブログ、口コミで拡散していただけませんか?
https://www.innovationtohoku.com/project/challenge/index.htm?cid=2e875cc65eee4259b59baa69f8c92bf0i