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青梅市・羽村市の未来をつくるのは、そこに住む人たち。トークセッション「地域の未来をつくる暮らしと仕事」から見えてきた、ファシリテーター養成講座の可能性とは?

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最後の記念撮影。たくさんの笑顔がこぼれました

特集「マイプロSHOWCASE 東京・西多摩編」は「西多摩の未来を考える!」をテーマに、西多摩を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介し、西多摩での新たなイノベーションのヒントを探る羽村市・青梅市との共同企画です。

みなさんが、“地方”と聞いて思い出すのは、どんな地域でしょうか? きっと多くの人が、日本の中心・東京都から遠く離れた地域を想像するかもしれません。

けれども、全国で地方創生が叫ばれるいま、そこで指す地方は、東京都内にも存在します。今回紹介する青梅市と羽村市も、地方創生での位置付けでは“地方”のひとつです。

両市では地方と同様に、人口減少や少子高齢化による課題に対し、「地方版総合戦略」を策定。市民、地域団体、事業者、行政など、さまざまな主体が一体となってまちづくりを進めるという点から、それぞれの市の特徴を生かし、取り組みを進めています。

羽村市では、若い世代をターゲットに、定住人口を増加させることをゴールに設定しています。もともと羽村市は定住意向の高い人たちが多いまち。その住民たちが感じている、暮らしと遊びがちょうどいいサイズにまとまっている羽村市の魅力の可視化を試み、若い世代の定住人口の増加へとつなげていこうとしています。

具体的には、羽村で「遊ぼう・暮らそう」「子育てしよう」「働こう」といった「はむら笑顔プロジェクト」を推進し、若い世代が羽村市で暮らし、子どもを育て、仕事をする流れを生み出していきます。

一方、青梅市では、子育て世代を主なターゲットにした定住促進や地域資源を活かしたにぎわいの創出、人口減少・高齢社会ならではのまちづくりの推進など、目指すべき方向性のもとに、出生率の向上や若年世代の移動率の改善を進めていきます。

そして、子どもを生み・育て、将来にわたり暮らし続けたいまちを実現するための「おうめ版ネウボラ事業」、暮らし・働き・訪れる人々にとって魅力あふれるまちを創出するための「中心市街地活性化事業」、安全・安心なまちづくりを推進するための「おうめ版多世代交流センター事業」といった、青梅市ならではの「政策パッケージ」によって、人口ビジョンに掲げた将来展望を実現しようとしています。

そんな両市がともに力を入れているのが、さまざまな主体が一体となって進めるまちづくりや郷土愛の醸成です。そのひとつとして始まったのが、共同事業の「プラチナ未来スクール」。プラチナ未来スクールでは、まちづくりの活動をサポートしたいという人を対象に、平成27年度に全6回の「ファシリテーター養成講座」を開催しました。

地域のことを考える人はたくさんいる

青梅・羽村両市で進行中の、“さまざまな主体が一体となって進めるまちづくり“は、大きな可能性を秘めているようです。それは、2月27日におこなわれた「トークセッション『地域の未来をつくる仕事と暮らし』〜 マイプロジェクトSHOWCASE東京・西多摩編」を目の当たりにして、たしかに感じました。

この日は、ファシリテーター養成講座の受講者たちがイキイキとその成果を発表。また、地域のあり方や関わり方をさぐる参加者たちも、まちづくりに対する積極的な姿勢を見せていました。

このイベントでは、地域でのまちづくりに関するトークセッションに加え、「ファシリテーター養成講座」の受講生たちを中心に、青梅市・羽村市のこれからを考えるワークショップがおこなわれ、活発な意見交換も生まれていました。
 
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トークセッションでは、真剣に話に耳を傾ける参加者の姿が。メモを取りながら聞いている人もいました

トークセッションでは、まず「NPO法人グリーンズ」の小野裕之が、これまでにgreenz.jpで紹介された多くの事例をもとに、全国の「地域の未来をつくる仕事と暮らし」を紹介しました。

次に、「この地域で仕事をつくるということ」と題し、奥多摩→青梅でレンタサイクル事業を手がける「TREKKLING」の沼倉正穀さんが、地域で自ら仕事をつくる面白さ、そこに必要な覚悟を、ユーモアを交えて伝え、最後に「非営利型株式会社Polaris」で、未来における当たり前の働き方を実行している市川望美さんから、暮らすことも働くことも同じように大切にする姿勢を軽やかに体現している様子が示されました。

この後は、テーブルごとに5〜6名でトークセッションの感想などを共有。ファシリテーター養成講座の受講生がファシリテーターとなって各テーブルについているため、初めて会った人同士でも対話がスムーズで、和やかな雰囲気が一気に広がっていきます。
 
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ワークショップでは、地域、会社、大学などカテゴリーが違う、普段の生活ではなかなか話す機会のないメンバーで盛り上がります

続いて、参加者自身が「イノベーター」「ファシリテーター」「それらを必要とする人」「それらを応援する人」のどれになりたいかを考え、それぞれのグループに分かれて話が始まると、やりたいことや目指すものをはっきりと口にする人も多く、対話はますます盛り上がりを見せていきました。話しやすい雰囲気をつくりあげていたのは、もちろんファシリテーターの存在です。

さらにそれらの希望を具体的な動きとして発表、最後に「明日から何をするか」を宣言し、行動化するところで、ワークショップは終了しました。

もともと地域に対して関心の高い人が集まっていたとはいえ、初対面の人同士で質の高いディスカッションができたことは、ファシリテーターを務めた人はもちろん、受講生にとっても大きな自信につながったのではないでしょうか。

参加した人の中にも、ファシリテーションの重要性に気づいたり、そんなファシリテーターを養成した講座に興味を持った方がいたかもしれません。

さまざまな人が持つ個性がまちづくりの魅力となる

ファシリテーター養成講座の講師、「ひとづくり工房esuco」の浦山絵里さんに、講座についておうかがいしました。

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受講生たちをぐんぐん引っ張って、ファシリテーションの魅力を伝えた浦山さん

ファシリテーター養成講座の受講生たちは、年代も仕事も千差万別。本当にさまざまな人が参加していました。そこで浦山さんが考えたのは、「その多様性をつぶさず、持ち味をいかしたままで活動していけるようにすること」だったといいます。

ファシリテーターについての知識も人それぞれ違ったことから、浦山さんは、参加者のわからない、知らないという姿勢を大切に講座を進めました。なぜなら「わからない人たちとわかり合うにはどうするべきか」という問いこそがファシリテーションの基本だからです。

また、相手をイメージできるのは、自分がわかっていることの範囲だけなので、実際に“体験”“体感”することを重視して、講座は進められました。

夜は7時半から9時半まで。ときには朝から夕方まで、まる一日の日もあり、市民講座としてはかなりハードだったと言いますが、受講者は高いモチベーションを持って、積極的に参加し続けていたそうです。

浦山さん いろんなことを面白がる人が多かったです。上手くいかないことでも面白がると、こうしたらどう? っていうアイデアがわいてきたりするんです。それに、積極的な方が多かったので “そんなことではわかり合えない”といった強い意見が飛び出すこともありました。

そういった一見批判的なことを言う人の存在のおかげで、他の人はどうなのか、お互いに考え合う相互作用が生まれてきたといいます。
 
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ファシリテーター養成講座の様子。本番さながらの実践をとおして学びを深めていきます

講座の後半では、グループに分かれ、具体的にプログラムをつくっていくことになりました。たとえば「チームマスオさん」は、いわゆる『サザエさん』に出てくるマスオさんのように、多世代で暮らす男性たちを中心に集まったチームです。

羽村市の場合は、市自体がコンパクトなため、同居しなくとも親世代と非常に近い距離に住み、支え合いながら暮らすことができます。そうやって幸せな家庭が集まることで幸せな地域になるのではないかと「マスオさん協会」をつくろうという提案が出たそうです。正確な統計はないそうですが、羽村市にはマスオさんが多いという説もあり、この地域ならではのアイデアといえるかもしれません。

浦山さん 私はここの住民じゃないので全然わからないんですけど、住民が何かないかなって頭をひねると、こういうのが出てくるんですね。私もすごく面白かったです。

こういうところに、市民が自分ごととしてまちづくりに関わる意味や価値があるのかもしれません。多様な受講生が集まった講座は、社会の縮図でもありました。だからこそ、言葉ひとつを使うにも相手に伝わるための表現が必要になります。

それを浦山さんは“和文和訳”という言葉で表現しますが、それは多様な人の集合である市民活動でも重視される点でしょう。それを体験した受講生たちが、こういった会をもっと広げていくことで、地域社会全体がもう少しつながっていくことを浦山さんは期待しています。

それはすでに具体的な成果として形となりつつあります。3月29日には「どうする どうなる どうしたい!? おうめの自治会・自治会館」と題して「第13回ぷらっとCafe」がおこなわれることになりました。

青梅市で開催する「ぷらっとCafe」はお茶を飲んでくつろぎながら、みんなで地域の未来を語り合う場。これまではプロのファシリテーターを招いておこなってきましたが、今回はこの講座で学んだ市民ファシリテーターが場の運営を担います。

このように今年度の「ファシリテーター養成講座」での学びは、これからますます広がりを見せていきそうです。この勢いは、来年度から始まる予定の「地域イノベーター養成講座」にも続いていくことでしょう。

浦山さん 私にとって今回のファシリテーター養成講座での収穫は、行政の方が深く関わってくれたことだと思っているんです。この講座を通して、市民と行政がやりとりをして、行政を含めたチームになるきっかけが生まれた気がしています。

浦山さんのねらいどおり、講座を通して場の運営をする人や企画をする人となった受講生が、行政も巻き込みながらいろいろなことを広げていけば、ファシリテーター養成講座は大成功と言えそうです。

地域のことを考える人との出会いが新たなスタートに

その一方、ファシリテーター養成講座を受講した人たちは、ファシリテーションという新しい知識を得るだけではなく、さまざまな気づきや発見があったようです。

羽村市内の企業で働いているという内藤大幹さんは、講座について「一言で言うと面白かった」と感想を伝えてくれました。

普段は会社の外で知らない人と交流することがないという内藤さん。いろいろな人と出会えたことが特に印象に残ったそうです。

そして、「ファシリテーションって参加者の人がどうしたいかを持ち上げていくスキルなので、”自分がこうしたい”ではなくて、自分を消すみたいなことなのかな」と、ファシリテーションの本質的なところをつかみ始めているようでした。
 
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トークセッションの内容をまとめる係に集中していた内藤さん

この日、トークセッション参加者たちに対しファシリテーションを実践していた市川はづきさんは、「地域に思うところや興味のある人ばかりなので、よくしゃべってくださってやりやすかったです」と、ドキドキしつつも手応えを感じたことをお話してくれました。

市川さんは羽村市生まれ、羽村市育ち。大人になり、暮らしというものを考えるにつれ、地域への関心も深まってきたところに、ちょうどこの講座がスタートしました。地域に対して熱く考える人との出会いから、いまはファシリテーションスキルを使って地域に貢献していくということも考えているといいます。
 
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楽しみながらファシリテーターとしての務めをしっかり果たしていた市川さん

同様に中井豊明さんも、地域について興味のある人がたくさんいることに新鮮さを感じたひとりです。その結果、市がおこなっていることにも少しずつ興味が出てきたそうです。

「地域での活動にファシリテーション講座での学びを活かすのはまだ敷居が高い」と言いつつも、ファシリテーションの技術に対する興味が増したので、自分なりに勉強して、会社での会議の無駄をなくしたいと考えるなど、受講したことでおおいに刺激を受けたようです。
 
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中井さんは羽村市の図書館を利用して、これからもファシリテーションについて学ぶそうです

この日、笑顔をふりまきながらファシリテーターとして、積極的に参加者を盛り上げていたのは、佐藤イク子さん。佐藤さんは、「会議だけでなく、人と相対するときにどうするか、人との付き合いにも役立つと思った」と言います。人から話を引き出すことを意識することは、日常の人間関係にもいい影響を及ぼしているようです。

そして佐藤さんには、3月29日の「第13回ぷらっとCafe」でファシリテーションをおこなうという大舞台が控えています。講座で得た技術を披露するとっておきの場に向けて、「頑張ります!」と意気込んでいる佐藤さんの笑顔が印象に残りました。
 
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常に笑顔でファシリテーションを進めていた佐藤さん

この4人は受講生のほんの一部。さまざまな人が受講した結果は、きっとさまざまな形でこれから目に見えてくることでしょう。この日のイベントで実際にファシリテーションする姿を目にして、そんな想いが強くなりました。

地域を盛り上げる成功事例がこの両市から

次年度も「マイプロSHOWCASE東京・西多摩編」は続いていきます。そしてもちろん青梅・羽村両市の地方創生も続いていきます。それらを支えていくのは、まちの人たちと行政の人たちです。

ファシリテーター養成講座は次年度も2期目を開催予定です。また、ファシリテーター養成講座に続き、ネクストステップとして開催予定の地域イノベーター養成講座の中からも、ファシリテーターとは違った形で地域を盛り上げる人たちが誕生していくことでしょう。

このように、青梅・羽村両市が人口減少や少子高齢化による課題に取り組んでいくに連れて、両市はますます住みやすく、たくさんの人が暮らし続けていきたいと思うようになっていくはずです。その成功事例は、東京から遠く離れた“地方”にとっても有益なものになることでしょう。

(撮影: 袴田和彦)