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東京で使う木材は東京の森で! 奥多摩で森と都市をつなぐ「東京・森と市庭」 の本拠地に行ってきました!

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特集「マイプロSHOWCASE 東京・西多摩編」は「西多摩の未来を考える!」をテーマに、西多摩を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介し、西多摩での新たなイノベーションのヒントを探る羽村市・青梅市との共同企画です。

東京都西多摩郡奥多摩町。都心から電車で1時間ほど行くと、そこには緑豊かな森や里山の風景がひろがっています。ここに東京の森から切り出した木材で、オフィスの内装や住宅のリノベーションを手がける会社があります。「株式会社東京・森と市庭(いちば)」です。

じつは東京の面積の3分の1以上は森林。江戸の時代から多摩西部の山々では林業が盛んに営まれ、そこで育てられた木は筏(いかだ)に組まれ、多摩川を下って江戸の町に流通しました。また薪や炭、農産物などさまざまな形で江戸の暮らしを支えていたのです。

やがて昭和になると、国策によって、スギやヒノキがたくさん植えられました。ところが戦後、国産材の需要は一時期は伸びたものの、現在ではすっかり衰退し、多くの人工林は荒れたままになっています。「東京・森と市庭」では、そんな森の再生と商品化に取り組んでいます。

今回は、営業部長の菅原和利さんに、「東京・森と市庭」の拠点である奥多摩町を案内していただきながら、その取り組みと東京の森への思いについてお話をうかがいました。
 
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菅原和利さん
株式会社東京・森と市庭 営業部長
1987年生まれ、神奈川県小田原市出身、東京都奥多摩町在住。法政大学人間環境学部在学時から奥多摩町でまちづくりに取リ組み、卒業後は同町へ移住。空き家をシェア別荘化する事業や、地域資源を活かしたアウトドアウェディング事業などを行う地域プロダクション会社を23歳で起業。その後、不動産営業を経て株式会社東京・森と市庭へ合流。同社では東京の森と都市をつなげる営業活動を担う。

グリーンズ取材チームで「森と市庭」の本拠地にお邪魔しました!

都心からのんびり電車に揺られ奥多摩駅に降り立つと、ここが東京だとはにわかには信じられないほど、おいしい空気と豊かな自然が溢れていました。
 

菅原さんがまず案内してくださったのは「東京・森と市庭」がもっている社有林です。駅から車で5分ほど行ったところにある社有林には、日本の代表的な常緑針葉樹の「スギ」と「ヒノキ」の森がひろがっていました。大きなスギの木を利用したツリーテラスがあり、多摩川の支流となるきれいな川も流れています。
 
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奥多摩町にある「東京・森と市庭」の社有林。

「東京・森と市庭」では、商品を開発・提供するだけではなく、都心で生活する人に「東京の森を体験してもらいたい!」と、実際に森に足を運んでもらうことを大切にしています。そのために奥多摩町に林業体験、間伐体験、ワークショップなどができる自社の森林を持っているのです。

よく見ると、間伐されているところとされていないところで、下草の生え方が違っていたり、光の入り方がまったく違うのがわかります。
 
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「東京・森と市庭」の社有林の奥には多摩川の支流となる渓流が。今もわさび田としても利用されている。

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社有林のなかにあるツリーテラス。登ってみるとかなりの高さ! 眺めも良いです。ここでワークショップの時にはお昼のお弁当を食べたりします。

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スギとヒノキ。「どちらかわかりますか?」と、菅原さんがその違いを解説してくださいました。手前がヒノキ、奥がスギです。

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間伐したものの、使い道のない木が切り捨てられています。こういった森の現実を踏まえ間伐材の有効活用を目指して商品化をすすめていこうとしています

森と都会のコミュニケーション拠点「東京・森のcory」

つづいて案内していただいたのが、奥多摩の古里(こり)地区にある「東京・森と市庭」のオフィスと木工房。昨年、ここで新しいプロジェクト「東京・森のcory」がスタートしました。

「東京・森のcory」は「東京・森と市庭」「木工房ようび」「ツクルバ」の3社で始めた“東京の森”をフィールドにした森と都会のコミュニケーションの拠点づくりプロジェクトです。

もともとここは奥多摩森林工芸館「木の家」としてオリジナルの木工品を製作、展示、販売する店と工房だったんです。その場所をお借りして、森と都会のコミュニケーションスポットとして運営を始めました。

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東京・森のcoryの交流スペース「コモン」。2015年秋には半日アクティビティツアー「コリフェス」も開催しました

県道沿いに交流スペース「コモン」があり、そのすぐ下にある木工房では「東京・森と市庭」の商品がつくられています。そこから川のほうへ少しくだると、ログハウスを利用した宿泊施設もありました。

このように、生産、加工、マーケティング、販売、コミュニケーションという一連の流れを同じ場所で仕組み化することで「東京の森」ブランドを構築していこうと考えています。

大切なのは、東京という同一空間にある、都市と森の空間的豊かさを、みんなで共有・形成すること。ただ商品をつくるのではなく、森の価値を知ってもらう場をつくっていこうと考えました。

「あつまる・つくる・とまる」が一体となった新しい拠点としてここに来ていただき、奥多摩・古里とその周辺の自然をフィールドにした、森とつながる新しい体験を提供していきたいと思います。

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東京・森のcoryコモン内

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東京・森のcoryが提供する宿泊用のログハウス。運営はツクルバ。airbnbで借りることができる

旧小河内小学校を東京の森の発信拠点に

「東京・森と市庭」は、地元の信用金庫と組んで奥多摩の起業支援をおこなうなど、森の課題解決にとどまらず、地域のソーシャルデザインのハブ的な機能もはたしています。

たとえば、都心の人たちに森にきてもらうコミュニケーションスペースとして、12年前に廃校になった旧小河内(おごうち)小学校の管理・運営もしています。
 
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奥多摩フィールド(旧小河内小学校)

旧小河内小学校はノスタルジックな2階建ての木造校舎で、眼下には奥多摩湖を望む気もちのいいところです。ここを「奥多摩フィールド」と名付け、映画などの撮影場所としてレンタルしたり、企業研修会場や各種イベント会場として使っています。

カナディアンカヌーの工房やこの小学校の卒業生を中心にしたまちおこし団体の活動拠点としても使っています。

カナディアンカヌーの「Mountscape canoe craft」はカヌーとカヌーづくりの楽しさを広めるための試みを始めています。奥多摩の自然を楽しみながら、ウッドカヌーのつくり方も学べるというものです。

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旧図工室。廃校にカナディアンカヌー。「Mountscape canoe craft」は、東京の木でカヌーをつくることを目指している。一艇つくるのに200時間ほど。制作体験のワークショップも開催している。詳しくはホームページへ

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旧理科実験室。旧小河内小学校の20代後半~30代前半の卒業生を中心に小河内地域から奥多摩・西多摩を盛り上げたいと立ち上げたまちおこし団体「Ogouchi Banban Company」の活動拠点でもある。

古民家ビアカフェ

そして最後に案内してくれたのは、奥多摩駅前にある古民家ビアカフェ「バテレ」。

ここは森林所有者さんから紹介していただいた古民家を「東京・森と市庭」がサブリースしてバテレ合同会社へ貸し出し、「古民家ビアカフェ・バテレ」として展開しています。2015年夏にオープンし、その後醸造免許を取得して、奥多摩町で初めての自家製ビールをつくることができるようになりました。

今年3月より自家製ビールを販売します。奥多摩の川や森で思いっきり遊んだ後、でき立てのビールを楽しむことができます。

奥多摩町を訪れてもらうためには、立ち寄りたいと思える魅力的な場所があることも大切なこと。こうした拠点づくりも「東京・森と市庭」はサポートしているのです。
 
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奥多摩駅前の古民家をリノベーションして営業している「ビアカフェ・バテレ」。2015年7月よりビアカフェとしてオープン。昨年12月に発泡酒醸造免許を取得。2016年3月に自家製ビールを販売開始

「東京・森と市庭(いちば)」の仕事とは?

では、ここからはそんな「東京・森と市庭」が、どんな活動展開をしているか、紹介していきましょう。

いま木が売れなくなってきて、森の価値がなくなり、森が荒れてしまっている状態になっています。スギとヒノキの1立方メートルあたりの単価は1979年がピークで、現在はその2、3割まで落ち込んでいるんです。

林業が衰退しているので、なかなか活用されていかない。森自体が死んでしまっている。人口も少なくなって地域の自立もままならない。そこにもういちど価値ある森を取り戻し、付加価値をつけて商品をつくり、森と都市をつなげていきたいと考えているんです。

農家が畑のそばで農家レストランをやるように、林業も自分の山の材を近所で販売していきたい、それが「東京・森と市庭」の思いです。木材は奥多摩町の森林所有者の方が森林を現物出資してくださり、そこの木材を使えるようにしています。

東京の森から材を出し、加工して、販売しています。農業でいうところの六次産業化ですね。

このように“東京の森”をブランドとして育てていきたい、と話す菅原さん。そのため「森と市庭」では林業の一般的な商品とは違い、東京の森に生えている木の状況に合わせて商品を開発しているそうです。

樹齢20年~30年生の細い間伐材や、節がたくさんあるような木材に価値をつけて売っていこうと考えています。

その代表的な商品が「モリユカ・09」です。間伐材を使った置き床タイルで、材料は東京産の「ヒノキ」です。昨年「ウッドデザイン賞」を受賞しました。

8枚の板を張り合わせた一辺500ミリの正方形。厚さは一般的なオフィスの床でよく使われるタイルカーペットと同じ、9ミリ。それぞれの板はカッターで切り離せるので、さまざまな大きさに調整しやすいつくりになっています。
 
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「東京・森と市庭」の主力商品「モリユカ・09」。幅:500mm、長さ:500mm、厚み:9mm、素材:多摩産ヒノキ材(無節)、裏面クラフトペーパー。ウッドデザイン賞2015受賞。500mm角のパネル状で軽く、カットも容易。

オフィスや部屋の中に「無垢の木の空間」を手軽につくることができるんです。オフィスで使うことを前提にしているので、9ミリという厚さを採用しました。既存のタイルカーペットの上に置いたとしても、ドアなどの建具の干渉を受けづらい仕様にしています。

とくに間伐材は細い材料になるので径が細くても使えるサイズにしました。薄いのでホームセンターに売っている手ノコなどで切ることができ、角などの仕上げの施工も簡単です。パネル式なので、並べていくのも早く、無垢の木の床をつくることが容易になる商品です。

木本来の魅力をまずは体験していただきたいので、塗装をしない無垢が基本。靴あとがつかないようにウッドステイン塗料でのカラーリングのサービスもあります。こちらは自然塗料なので身体に害がない安心・安全な塗装です。

最初はオフィスで靴のまま使用する方向で考えていた方も、敷きつめてみると素足が気持ちよいので土足厳禁にしたくなるようです。私も何度か施工に立ち会っていますが、敷いた後のお客様の喜んでいる反応を見ると、とても嬉しいです。

モリユカ・09の導入事例としては、株式会社ミュージックセキュリティーズ、株式会社ツクルバのオフィスや、都内個人マンションのリビングスペースなどがあるそう。
 
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それぞれのタイルが組み合うよう、縁にはオス・メスの「さね」がついている。

モリユカ・レンタル

もうひとつ「東京・森と市庭」ならではのユニークな商品が、東京スギの床板レンタルサービス「モリユカ・レンタル」です。

「モリユカ・レンタル」は床をレンタルすることを前提にしたものです。厚さが20ミリ。裏面には3ミリのゴムがついていて、タイルカーペットの上にそのまま置いても滑りにくいつくりになっています。

だいたい30平米のオフィスのフロア全体に敷きつめて、レンタル料は1ヶ月あたり約1万円。初期費用がかからず、気軽に無垢材の床を導入することができます。

モリユカ・レンタルの導入事例としては、NPO法人フローレンスの飯田橋オフィスや衆議院議員会館会議室などがあるとのこと。
 
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東京スギの床板レンタルサービス「モリユカ・レンタル」。20mmという贅沢な厚さのスギ板に、ゴムシートを取り付けた置き床タイプ。

東京の森に愛着をもってもらうために

このように、共同出資者として名を連ねているオフィスプロデュースの会社、環境共生型住宅のコンサル会社と一緒に、リノベーションやDIYの会社などとも協力して事業を展開し、少しづつお客様も増えてきました。

今後は、商品の販売はもちろんですが、森を体験してもらう機会をどんどん増やしていきたいそうです。

会社のミッションとして林業をなんとかしたいという思いがあるのですが、そのためには商品を売っていくだけではなく、森のある奥多摩町にきていただき、「東京の森」に愛着をもっていただくことが大切だと考えています。

東京にこれだけの豊かな森があることを、都民の方々はあまり知らないのではないでしょうか。じつは東京23区の面積より、東京都の森の面積のほうが大きいんですよ。実に、東京都の36%が森林なんです。

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確かに、東京と言われて“森”というイメージはあまりなかったような気がします。

森の価値を伝え、東京の森で育った木をつかった商品で、東京の森を再生させる「東京・森と市庭」。これまでのイメージや価値観とはまったく違った、あたらしい東京の魅力を提供してくれているのではないでしょうか。

森と都心のコミュニケーションの拠点づくりや地域再生の取り組みに、これからもいろいろ注目していきたいですね。

(撮影:服部希代野)