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住民の「困ったね」と「役立ちたい」をマッチング! 「NPO法人Co.to.hana」が立ち上げた、有償ボランティアで地域の絆を取り戻す住民サービス「ひとしごと館」

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

みなさんはボランティアサービスを「利用した」ことがありますか?
ボランティア活動に「参加した」ことはあっても利用する立場になった経験がある人は少ないのではないかと思います。

そもそも、どういった機会にボランティアサービスを利用することができるのでしょうか。住んでいるまちのサービスの窓口はどこなのでしょうか?

今年の2月に大阪市浪速区でスタートした「ひとしごと館」は、ボランティアを軸にした新しい住民サービスの試みです。

浪速区から委託を受けて運営に取り組むのは、「NPO法人Co.to.hana」。阪神・淡路大震災の記憶を伝える「シンサイミライノハナPROJECT」や、都市の遊休地を活用し、農を通して地域コミュニティをつくる「北加賀屋みんなのうえん」など、デザインで社会課題を解決するCo.to.hanaの活動はこれまでもたびたびgreenz.jpでお伝えしてきました。

今回の「ひとしごと館」の運営にもCo.to.hanaらしく、関心をもちやすい場のデザインやコミュニケーションデザインのアイデアが込められています。Co.to.hanaで「ひとしごと館」を担当している藤野宏美さんにお話しを伺いました。
 
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藤野宏美(ふじの・ひろみ)
1990年生まれ、大阪府池田市で育つ。神戸芸術工科大学環境・建築デザイン学科卒業。在学中の2012年12月より1年半、西区まちづくりセンターにて勤務。地域ニーズ調査、ファシリテーションのアシスタント、広報業務などを行い、地域活動協議会の立ち上げ支援を行う。2014年NPO法人Co.to.hanaに入社し、事務・広報とコミュニティデザイン業務を担う。

ワンルームマンションの多い地域に、きずなを取り戻したい

現在の日本の平均寿命は80歳以上。2015年の統計によると、人口に占める65歳以上の人口は26%(2015年現在)となり、超高齢化社会になりました。社会保障費の支出は年々膨らみ続ける一方で、高齢者を支える若者の数は減少。社会保障費の収支の差は年々広がり続けています。

無縁社会と超高齢化社会が原因となり、今後“電球の交換”や“買い物代行”など、社会保障制度で対応できない困りごとが一層増えてくると予想され、日本で暮らす一人ひとりが、この問題の解決方法を「自分ごと」として考えていく必要に迫られているのです。

「ひとしごと館」を開設する浪速区に限っては、高齢化が進む社会背景に加えて単身者ワンルームマンション暮らしが多く、毎年人口の30%が流動しているのだそう。居住者人口の流動が激しいため地域コミュニティができにくいという特徴があります。

一方で、交通の便が良く、企業が集まり、大阪府内外からもたくさんの人が出入りします。観光地も多く、外国人観光客も増えるなど、多様な人が集まる活力のある地域のひとつでもあります。

その浪速区に「ひとしごと館」をつくることで、社会保障制度では対応できない、ちょっとした困りごとを「助け合いの仕組み」で支え合うこと。そして、多様なまちのきずなを取り戻すことが藤野さんのチャレンジです。
 
minna多世代が集い、助け合いで支えあうまちの在り方をめざす浪速区とCo.to.hana

お互いが持つ「価値」を交換して、お互いさまの関係をつくる

ここで「ひとしごと館」の仕組みを紹介します。いわば、浪速区民の困りごとと、浪速区民のとくいをマッチングさせる会員制のボランティアサービスセンターであり、サービスは無償ではなく有償で提供されます。一体なぜ、あえて有償としたのでしょうか。Co.to.hana.の藤野さんに「ひとしごと館」の運営スタイルについて質問してみました。

「ひとしごと館」のサービスはボランティア・サービスを受けたい方だけでなく、ボランティアに参加したい方も含め双方に会員登録してもらう仕組みです。

事務局が会員の特徴を把握することで、サービスに信用が生まれます。また、会員のとくいを活かしたマッチングをすることも可能です。さらに多様な人が出入りする浪速区ですから、区外の人も助け合いに参加できる仕組みを考えています。

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同じ区内に住んでいる住民同士の特技をお互いに活かすための対話がスタート

今回「ひとしごと館」で実施する有償ボランティアのカタチは大きくふたつあります。ひとつ目は、誰かの「困りごと」から“ひとしごと”をする方法です。たとえば、電球が切れてしまい困っている人のところへ、手伝いに行ける人を募り電球の交換をしてもらうといったサービスです。

もうひとつは、会員の「とくい」から“ひとしごと”をする方法です。たとえば、教員免許を持っているけど現在は別の仕事をしている人が子どもたちに勉強を教えたり、長年主婦をしていて、調味料にもこだわりをもった人が誰かのために料理をしたりといったことを行います。
 
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昔のように隣近所がよく知った間柄だという関係は薄くなってきています。無償サービスにすると頼む側も遠慮しがちにもなるので、有償にするほうがかえってお互いに気持ちよい関係で関わることができると藤野さんは教えてくれました。

また、謝金程度でも有償にすることで「困りごと」を助ける側にもやりがいが生まれるのだそうです。お互いが持つ「価値」を交換して、お互いさまの関係をつくるという考えです。

“ひとしごと”という意味には、「ちょっとひとしごと」や「人のためにひとしごと」という意味を込めています。この“ひとしごと”を通して、会員ひとりひとりが輝くような取り組みにしていきます。ロゴマークは「ひ」をモチーフに人が輝いている姿をイメージしています。

長屋のような、お互いさまの関係を大切にしたい

もともとは建築を勉強していた藤野さんは、建築をつくるにあたり「ひとのつながりづくり」をテーマに制作を続けていたのだそう。しかし、建築をつくる中でひとのつながりづくりは実現できるのだろうか? という疑問も感じていました。

卒業論文と制作を進めるにあたり、なにをテーマに進めるかを考える中で、ハードではなくソフトを設計する「まちづくり」という考え方があることを知った藤野さん。そこでゼミの教授の勧めをきっかけに、大阪の空堀地域の活性化に勤める「からほり倶楽部」に参加。建築家やデザイナー、不動産業を行う人などが集まり、議論を重ねながら企画を考えているところに魅力を感じました。

また、同時期にstudio-Lさんの存在も知り、こういったことが職業になることを知り、自分もこういう仕事をしたいと考えるようになったといいます

そんな彼女に影響を与えて、まちづくりの仕事に進ませたのは、2つの現場でした。

ひとつは、卒業後に縁があり1年の期限付きで働いた、大阪市西区の地域活動協議会の立ち上げ支援。もう1つは、参加者として関わった千林商店街界隈を元気にする「千林1000ピースプロジェクト」。

どちらの現場も、まちの人たちの地域に対する想いが強くて、それをまとめるコーディネーターの力でみんなの意見が重なりあい、わくわくする気持ちが実際にプロジェクトになって起ち上がっていく過程を体験することができました。その空気感や気持ちの高まりって、すごいなと思いました。

あと、それぞれが持つ仕事や家庭ではなかなか感じられないような達成感や喜びが実感できる場なのではないかと感じました。それで、そういう現場をつくりたいと思ってCo.to.hanaに入りました。

私、長屋育ちなんですね。だから隣の家のお姉ちゃんと壁越しにコンコンって合図おくりあって遊んだこともありましたし、町内会のつながりも太かったし、親だけではなく、地域のいろいろな人たちにも育てられてきました。なので近所付き合いがあるコミュニティって自分のルーツだから、人のつながりを大切にしたい気持ちが強いんだと思います。

浪速区でつくる「有償」ボランティア・サービスの特徴

実は、こうした有償ボランティア・サービスが起ち上がるのは、全国的に初めてのことではありません。実際に10年以上も前から「有償ボランティア」という考え方や取り組みはスタートしています。そういった先進事例の良いところを学びつつ、デザインの力で社会課題の解決を目指すCo.to.hanaならではの3つの提案を考えました。

まずひとつ目は、世代や地域を超えたコミュニティをつくることです。既にCo.to.hanaでも運営している「北加賀屋みんなのうえん」での取り組みもそうですが、多世代が集まることで、活動に広がりが生まれます。

また、浪速区の交通アクセスがよく、仕事をしている人や学生、主婦、高齢者など、多様な人が集まりやすいといった特徴も活かすことができます。

ふたつ目は「とくいの見える化」です。「ひとしごとカード」を事務所やwebサイトで展示して、どのような人が活動してくれるのかが見えるようにしました。人と人の関わりなので、どんな人が活動してくれるのかを可視化することで、依頼する人の不安解消につながるのではと考えました。

また、「こんなとくいを持っている」と掲示することで、「だったらこんなことも依頼してみようかな」と依頼内容にも広がりが出るのではないかと考えました。

3つ目は、企業や団体の方々との連携をはかることです。ひとしごと館は、地域の困りごとを解決する場でもありますが、同じ志を持って集まって下さっている人の「とくい」を積極的に活かす場をつくりたいと思っています。

そのため、企業や団体さんとコラボレーションしながら企画を一緒に行い、法人さんにとっては地域密着のCSRやCSV活動となり、会員にとっては自分のとくいを発揮できるような場づくりを行いたいと思っています。

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ひとしごと館に展示されている「とくいカード」

運営をする上では特に「みんなで」つくりつづける場所にするということを重視しています。そうすることで、会員の声を拾いやすい環境をつくると共に、愛着を持った場所を実現するのだとか。

10月からオープンするまでの期間、何度か勉強会を行いました。そこで集まり一緒に取り組みを考えたメンバーは、現在も積極的に関わって下さっています。今後は、会員さんでとくに関心を持って下さっている方と一緒に、月に1度の運営会議を開催し、フラットに関われる場づくりをしていきます。

昨年の10月に行った「仲間づくり・助け合い事業」事業説明会では、事業の趣旨を紹介するとともに、参加者の自己紹介の時間を設け、参加した理由や自分の特技を発表しました。

当日の説明会には、20代から70代までの多世代が集まり、半分が浪速区在住もう半分が他の区や市から来た人でした。

説明会を通じて、ボランティア活動をしたいとは思っているが、どう動いたらいいのか、どこに行けばいのかわからない人はたくさんいるし、町会の役員のように必ず行かないといけないものではなく、ゆるくつながれる場が求められていることがわかりました。

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住民説明会では、浪速区をどうしていきたいか、や社会活動への参加について意見を交換。ウェブデザイナーや大工仕事ができる人、セラピストなど多彩な方が集まりました

また、将来的には「ひとしごと起業家」を育てていきたいとも語っていました。

自分の特技を活かしながら活動する中で、自分の特技と地域の困りごとをマッチングさせ、自立した事業展開をサポートしていきたいと考えています。

「こんなことが社会のためにできたら」と漠然と考えている人は、案外多いように思います。そういった人が実際に活躍できる場をつくり、仲間とともに実践していくことで個人の自信につながり、“プチ起業”のような形で独自で実践できる人を増やしたいと思っています。

自分のやりたいことを実現しながらも、少しでもお金を稼ぐことができるって、理想だと思いませんか?

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ワークショップ形式でボランティアに活かせそうな“とくい”も発表

こうした開設準備の甲斐もあり、1月30日に開催されたひとしごと館のオープニングには、約50名もの地域の方や取り組みに関心を持った方に見届けられながら、無事オープンしました。
 
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オープニングのテープカットのようす

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式典には住民の方も駆けつけました

開設準備とともに進めてきたのが「移動式屋台の制作」です。この企画は、大阪ガス会員サイト・マイ大阪ガス内の「Social Design+」で実施された支援金チャレンジのサポートのもとに進められています。
 
yataiこの屋台が浪速区を回ります

「ひとしごと館」の拠点は浪速区内に1箇所だけですが、屋台をつくり「出張窓口」としてまちに繰り出すことでサービスの存在を広めたいと思います。また、拠点だけでは拾い上げられない地域の様々な「困りごと」も屋台に立ち寄る住民のみなさんとの会話から見つけていきたいと考えています。

今回の「ひとしごと館」は浪速区でスタートする取り組みですが、

少子高齢化は、今後必ず全国で大きくなる問題。今は浪速区で始まる取り組みではありますが、しっかりと事業を確立させて、将来的には全国にこのモデルを展開して、高齢者の孤立により起こる問題を解決したいと思っています。

また、誰かの困りごとを解決しながら、自分のとくいや個性を活かして活動できる人を一人でも増やしていきたい。

と藤野さんは意気込みを語ってくれました。

地域のことは地域でまかなうことは理想的なありかたです。ただ、それを実現することは容易ではありません。藤野さんたちがめざす、参加することが楽しく、何歳になっても自分の新しい役割を見いだせるつながりがひとつのモデルケースになれるでしょうか。

2月1日から「ひとしごと館」がオープンしています。はたして、どんな場所になっているのか、どんな方が集まっているのか、実際に立ち寄ってみて体感してみてはいかがでしょうか。