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取材を通して学んだことを、暮らしの中で実験する。千葉県いすみ市でライター・イン・レジデンス「ローカルライト」を主宰する磯木淳寛さんの横顔

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greenz.jpライターの横顔」は、日々、greenz.jpが発信する記事を書いていただいているライターたちを紹介する連載企画です。グリーンズに関わっていただくライターたちのこれまでのキャリア、日々の暮らしぶり、構想中の企画、そして展開されているマイプロジェクトについて掘り下げていきます。

「第一線で活動をしている人に会って一対一で話を聴けるなんて、ライターっていい仕事ですね」。ライターをしていると、こんなことを言われることがあります。本当にその通りで、いい仕事だなぁと思います。

greenz.jpライターの磯木淳寛(いそき・あつひろ)さんは、そんなライターの仕事の醍醐味をたくさんの人に味わってもらいたいと、「ローカルライト-地域の物語を編む4日間」と称してライター・イン・レジデンスを始めました。

参加者は千葉県いすみ市にある磯木さんの家に宿泊して取材・執筆のノウハウを学び、地域の人を取材します。完成度の高い原稿は、greenz.jpをはじめとしたウェブマガジンに掲載されることも。

このプログラムの参加費は0円からのドネーション制。どこかから助成を受けているわけではありません。そこにはどうやら、磯木さんのこだわりが隠れているようです。いすみ市を訪問して、お話を伺いました。
 
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磯木淳寛さん

土を整えれば、作物は育つ。だからライターとしても、無理な売り込み営業はしない

まずは磯木さんについてご紹介しましょう。磯木さんはフリーランスのライター兼編集者。

“自然と共生する価値観”と“農を中心とした地域暮らしの可能性”をテーマに取材・執筆・企画をしています。「ソトコト」「BE-PAL」「季刊自然栽培」といった雑誌を開けば、磯木さんの名前を目にするでしょう。

グリーンズには2012年からライターとして参加し、ローマ法王に米を食べさせた男・高野誠鮮さんインタビューなど、印象的な記事を多数書いてきました。

また、グリーンズの学校「アーバンパーマカルチャークラス」ではファシリテーターを担当。「講座が終わっても参加者同士が集まって実践する場をつくりたい」と、みんなで集まったり、いすみ市に呼んで一緒に畑を耕したりしています。
 
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そんな風に、「書く」ことだけに留まらず幅広く活躍している磯木さんですが、高校卒業後10数年間は東京でバンドマンをしていたというから、ちょっと意外に感じます。一体どんな過程を経ていまに至るのでしょう。

独立する前はオーガニック食品の宅配会社で生産者にインタビューする仕事をしていました。その会社に入ったのは、漠然と環境に興味があったから。「オーガニックとかいいかも」という軽い気持ちでした。ただ、何度も文章テストがあって、面接にたどり着くまでが大変でした。

未経験から正社員でライターへ。すごい転身です。

完全に未経験というわけではなくて、中央線の地域Webのライターをしたり、ネットで「ライター 募集」と検索すると出てくる、1文字1円みたいなものをかじったりしたこともありました。

ライター希望者が検索すると、「ライターで食べていくのは無理だな」と思うような案件ばかりヒットする検索ワードですね。磯木さんにもそんな仕事をした時期があったとは…。

その時点で既に32歳ですからね。これをライターになりたい人に話すと、「自分にもなれる気がする!」とよく言われます。

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ともあれ、厳しい選考を経てライターになった磯木さんは、全国の生産者に揉まれながら経験を積んでいきました。

印象的だったのはあちこちの農家さんの口からたびたび「足るを知る」という言葉が出てきたこと。

取材をしていて「もっと量を増やそうとは思わないんですか」と聞いたら、「限界がある」と言われたんです。そりゃそうですよね、田畑の面積には限りがあるし、日は暮れるから耕せる時間も決まっています。足るを知って、中身を充実させていく。自然を相手にしている人はそういう考え方になるんですね。

一方、会社ではWebページや会員誌やメルマガを日夜書きまくっていました。顧客属性ごとの書き分けや販売設計やコミュニケーション設計を徹底的にやったことは今にとても役立っていますが、同時に、独自の世界観を持つ農家さんたちに憧れていきました。

話を聞くだけではなく、自分でもやってみたい。その想いは、取材を通して農業に関する知識が蓄積されていくのに比例して強まっていったといいます。

あるとき、取材に行った農家さんのところにたまたま別の農家さんが来ていたんですよ。実際にやっている人同士の話は深くて、自分の質問の浅さが浮き彫りになり、「これはちょっとまずいな」と思いました。「実践者にならないとこれ以上深い記事は書けないぞ」と。その経験も大きかったですね。

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転機が訪れたのは、2013年。いすみ市にあるマクロビオティックのカフェ&宿、「ブラウンズフィールド」で、「ここに住んで働かないか」と誘われたのです。奥さんも乗り気だったことから、会社を辞めて3か月後にはいすみ市に引っ越し、マネジメントと広報の仕事を担当しはじめました。

それと同時にフリーランスのライター・編集者としての活動も開始します。取引先はどんな風に広げていったのでしょうか。

これはこだわり…というかひとつの実験として試しているんですが、売り込み営業はしていないんですよ。繋がりや声をかけてくださった方のご縁で仕事をしています。

パーマカルチャーや自然栽培の世界では、「状況を整えるとうまくエネルギーが回り循環していく」という考え方をするんです。

慣行農法でいうと「これ位の大きさでこういう色艶の野菜をつくろう」と決めて肥料や農薬をあげるところを、自然農法は「こいつ(野菜)が育ちやすいよう手助けしよう」と長い目でみてじっくりと土を整える。

そういう話をたくさん聞いて共感してきたのに、すぐに目に見えるような結果を求めてあちこちにぐいぐい営業かけたら嘘だろうと思って。

仕事の本質は、自分がやりたいことをやるのではなく、人が喜ぶことをすること。だから、目先のお金にならないこともするし、企画づくりにも時間をかける。そうして全体として調和が取れていれば、自然とうまくいく。磯木さんはそう確信しているといいます。
 
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“善い言葉”を発信する人を増やす

そんな磯木さんがライター・イン・レジデンスを始めたのは、いすみ市で移住促進をしているNPOのスタッフとの何気ない会話がきっかけだったといいます。

ブラウンズフィールドに来る人をもっといすみ市全体に案内したいなと思って相談したら、「空き屋があるからそこを活用してほしい」と言われて。「もし良かったら住んで管理してほしい」ということだったので、ブラウンズフィールドを出て住みはじめました。

4LDKの平屋、畑つき。自分の好きな野菜を自由に植えられる環境も得られるということで、願ったり叶ったりの話でした。
 
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念願の畑を手に入れた磯木さん。カボチャ、サツマイモ、ジャガイモ、イチゴ、大麦、空豆、落花生など、少量多品種で生産しています。

住まいも変わり、数人が滞在できる一軒家を使えるようになったことで、「それなら最初に考えていたことより色々なことができるな」とイメージを広げた結果、ライター・イン・レジデンスに行き着きました。ヒントになったのは、グリーンズに掲載された下記の記事だったそう。

ライター・イン・レジデンスにした理由はいくつかありますが、ひとつは、「人をインタビューする」ということを、もっといろんな人が経験するといいんじゃないかと思ったから。

インタビューって、通常だったらお金を払って講演会に行って聞くような話を、マンツーマンでじっくり聞けるでしょう。面白いし、視野が広がるし、影響を受ける。こういう機会を自分だけに留めておくのはもったいない。若い人に受け渡したほうが、もっと価値を生むだろうと思いました。

そこには、食の世界でよく使われる「人は食べものでできている」「食べることは生きること」といったキャッチコピーに対する違和感もあったといいます。

食べたものが体をつくることは事実だし、「だからいいものを食べましょう」と言いたいんだということはわかる。でも、それだけじゃ足りないんじゃないかと思うんですよ。食べるだけじゃ動物と同じ。心があってこそ人間ですよね。

人の話す言葉や本に書かれた言葉に影響されて価値観がつくられて、それによって行動が変わる。ひとりひとりの行動が変わると、そこから未来が変わる。

なによりぼく自身も、取材先の方をはじめ、たくさんの人との出会いと言葉に影響されて今があります。どんな言葉に触れるかってすごく大事ですよね。“善い言葉”と出会う機会をつくり、発信できる人を育てたら、その人の為にもなるし、世の中の為にもきっとなると思いました。

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インターネットの普及により、誰もが発信者になれる時代になりました。

普通の人の意見が大きな力になる場面もある一方で、信憑性の低い情報、発信源がわからない情報がまとめサイト等に取り上げられ、それを見た人も自分で考えたり調べたりせずシェアをして拡散されていくという一面もあります。こんな時代だからこそ、 “善い言葉”を発信する人を増やすことが大事なのでしょうね。

本来、書き手は取材した相手の話すことを丸ごと信じて書いたりはせず、裏を取りますよね。対象を疑いつつも対象を愛する。そういった姿勢は、文章スキルよりも大事なことだと思っています。

参加者の書いた記事が月間一位に!

第1期のライターインレジデンスは、2015年2月に実施しました。SNSなどでも拡散されて話題となり、4名の枠に対して倍以上の応募があったそう。好評だったため、5月には第2期を、8月には京都で第3期を開催しました。
 
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プログラムの内容は、「良いインタビューとは?」というお題のディスカッション、意味を変えず文章を入れ替えるリライトの練習、参加者同士の相互インタビューなどなど。あらかじめ用意もしますが、参加者の個性やスキル、その場の雰囲気に応じて臨機応変に変えているといいます。

後半では開催地域で活動している人に実際にインタビューをして記事を一本書き上げ、完成度の高い記事はウェブマガジンに投稿します。greenz.jpで月間一位になった人気記事もありました。

個人的な話ですが、インタビュー中に胸に響いた言葉があっても、全体の流れに沿わないためどうしても入れることができずに悩むことがあります。自分が感じた感動を優先するか、記事としての完成度を優先するか。そこが悩むところなのですが、この3本は全部、前者を優先しているように感じました。対象への愛に溢れていて、胸に残るものがあります。
 
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京都で開催したときは、川辺で取材しました

「COMINCA TIMES」の記事は、ちょっとクセがあるけどグッとくるんですよね。「これは自分には書けないな」と思ったのもあって、greenz.jp編集部デスクのコウタくんと一緒に選びました。

実は選考のときも、「この人はクセが強そうだな」と思って外しそうになったんですよ。でも、「それは自分の中のクセを認めないことになるな、この人を受け入れることは自分にとって大事なんじゃないか」と思って選びました。それが結果的にすばらしい記事を書き上げているわけだから、面白いですよね。

ライター・イン・レジデンスは、磯木さんにとっても新鮮な学びの場になっているようですね。

いいなと思ったことも、「本当かな?」と疑って実験してみる

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磯木さんの奥さんはケーキ屋さんをしています。玄関には出店の際に使用している看板が掛かっていました

ところでこのライター・イン・レジデンス、数万円取っても良さそうな内容ですが、なぜ参加費を0円からのドネーションにしたのでしょう。

参加費を決めるのが難しかったので参加者自身に決めてもらおうと思ったことと、このやりかたにした時にどんなことが起きるかに興味があったんです。

「自治体の助成金で運営しては?」と信頼する人に助言されて、一瞬考えたこともあるんですよ。でも、儲けたくてはじめたことじゃないし、自分の責任でリスクを取るかわりにやりたいようにやろう、と。

先にもらうことを考えていると物事は循環しない。もらうことを考えず先に与えると、めぐりめぐって結果的に返ってくる。これも、取材を通して学んだことだといいます。
 
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そもそも、書く人を増やすというのは、見方を変えればライバルを増やすということ。自分の仕事や収入、特権を守ろうと思っていたらできません。しかし、あえてそれを周囲の人に受け渡していくことで、新しいものが入ってくるのかもしれませんね。

実際、磯木さんはライター・イン・レジデンスを始めたことで、地方のイベントに招かれたり、「うちでもライター・イン・レジデンスをやりたい」と声をかけられたりと、それまではなかった展開が生まれているといいます。

開催場所を限定するモデルにしなかったから京都でもできたし、京都で開催したからほかのところからも声をかけてもらえるようになりました。必要としてくれる人に応えられる状況になっているので、よかったのかなと思います。

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お話を伺っていて、磯木さんにとってはライター・イン・レジデンスも普段の暮らしや働き方も、取材を通して聞いてきたことが本当なのかどうかを確認する実験場なのだな、と感じました。

みなさんも、心を動かす“善い言葉”に出会ったら、「本当にそうなのかな」とちょっぴり疑って、日常生活の中で小さく実験してみませんか?

きっと、読んで頷くだけではわからなかった、新しい展開が生まれるはずです。

– INFORMATION –

 
次回募集をお見逃しなく! ライター・イン・レジデンス「ローカルライト-地域の物語を編む4日間-」
http://isokiatsuhiro.com/about-local-write/

磯木さんのウェブサイトはこちら「SLOW MODERN FOOD」
http://isokiatsuhiro.com/