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職能×社会問題×ワクワク=ど真ん中! 富山の「ど真ん中名刺プロジェクト」山科森さんに聞く、自分だけの天職の見つけ方

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この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

みなさんは、所属している組織以外の名刺を持っていますか? あるいは、そんな自分だけの名刺が欲しいと考えたことがある人も多いかもしれません。

名刺の役割のひとつは、渡した相手に自分のことを知ってもらうこと。とはいえ、それって案外むずかしいですよね。もし、名刺一枚で、自分のやりたいことが伝わり、自然とモチベーションが高まり、自分がさらに変わっていくきっかけになるとしたら…

そんな“ど真ん中”な名刺を作ってみたいと思いませんか?

富山県の西部に位置する小矢部市では、そんな自分だけの名刺を持つ人が続出しています。その仕掛け人が、ヤマシナ印刷代表で、コミュニティスペース「ELABO」オーナーも務める山科森さんです。

今回は、山科さんに「ど真ん中名刺プロジェクト」なる活動に込めた思いを伺いました。 
 
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山科森さん(やましな・しげる)
1973年富山県小矢部市に生まれ。いつ潰れるか分からない実家の印刷会社が、儲けることをやめ、地域の中で必要とされる存在になるべく、ありがとう集めをスタート。その後、会社の2Fにコミュニティスペースを開設し、自分のアートに気づき行動する仲間たちを応援、志の地産地消を目指す。家族の住む大阪と富山の二拠点居住。

ただの名刺相談に終わらない

山科さんは、ヤマシナ印刷という地域に根付いた印刷会社の3代目。DTPオペレーターという本業のかたわら、プロボノ活動として地元のお店を紹介する「おやべローカルかわら版」の発行や、たくさんの「ありがとう」を集める「北陸三県 ありがとう プロジェクト」などを展開しています。

その真ん中にあるのが、2012年に印刷所の二階を改装してオープンしたコミュニティスペース「ELABO」です。そこでは、セミナーやイベント、世代を越えた学びの場である「寺子屋」、自習スペースなどさまざまな活動が行われ、近所の方々が気軽に立ち寄れるような場所になっています。
 
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ELABOのロゴマーク

「ELABO」のロゴマークは3つの円。それぞれ「職能」、「そこから見える社会問題」、「ワクワクする気持ち」を表現していて、そのすべてが重なったところが、まさに“ど真ん中”。

それぞれの根源的な部分である“ど真ん中”を探しながら、「じゃあ、こんな名刺を作ったらどうですか?」と提案していくのです。 

完成したど真ん中名刺!

「仕事は何? 何がしたい? 何をしてたら楽しい?」山科さんは、まるで静かな水面に石を投じるように、ハッと核心を突くような質問をしていきます。
 
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海老さんの名刺

例えば、配管をつなぐジョイント部分をつくる会社を営む海老さんの場合。

もともと「高岡市の魅力を発信したい」「地元の社会福祉を応援したい」と思っていた海老さんは、「仕事以外のプライベート用名刺をつくりたい」と山科さんに相談します。

すると、山科さんは海老さんのウェブサイトをチェックし、「名刺から誘導されてくるのはウェブだから、まずはこっちを変えましょ!」と、名刺をつくりに行ったにも関わらず、ウェブサイトの変更を指示します。

さらには、「社会福祉を応援したい」という海老さんと対話を深めていくうちに、目に見えないところで人をつなげる配管と、同じように地元の人をつなげる社会福祉が似ていることに気付きます。

そこでなんと、山科さんは「社会福祉ジョイント部を会社内に作っちゃいましょ!」と部署の立ち上げまで提案してしまったのです。

もう、いつになったら名刺の話になるんだという感じですが、その後に完成した名刺は、海老さんの会社の宣伝だけでなく、自分の強い思いを伝えることができるツールとなりました。 
 
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浦田さんの名刺

もうひとつ、現在は幸せな終活をするための「ハッピーエンディング講座」などのセミナーを開催している浦田さんの名刺も紹介しましょう。

当初は一般の生徒用、目上の方用、気軽に渡せる用と3つの名刺を考えていた浦田さん。山科さんへの相談は、いまやっていることの整理から始まりました。すると、当初は本人も見えていなかった、「終活」や「命の話」というキーワードが見えてきたそう。

核心に近づくも、まだ不満顔の山科さん。実は浦田さんは、それまで「うらた せつこ」と、ずっとひらがなで活動していました。でも、その場でポロリと「漢字にした方がいいのかなと」少しの迷いを見せたのです。

そこで山科さんから「死ぬ時は、本名の漢字で死ぬんじゃないの?」という一言。それを聞いた浦田さんはハッとして、漢字にすることを決定したそうです。名刺をつくったことではずみがつき、その後は折り畳み式の棺桶まで購入。終活の講座では、参加者に棺桶に入ってもらう体験を提供するまでに。

こうして今までに約20人が、山科さんと一緒に“ど真ん中名刺”をつくってきました。口をそろえて言うのは、「自然に行動したくなった」ということ、そして何より、「嬉しくなって、早く配りたくなる」のだそうです。

ど真ん中名刺、気になりますね。 
 
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実際ど真ん中テンプレート使って相談のっているところ

とはいえ、山科さんはお願いされたすべての名刺をつくっているわけではありません。ときに「もう一度考えて来てください」と帰ってもらうこともあるのだとか。

それはもちろん意地悪ではありません。自分の中でまだやりたいことが固まっていないような人は、まだその時期ではないというのが理由です。

夢に向かって自由に飛ぶ蝶がいるとしたら、名刺をつくろうとしている段階の人はさなぎ、「まだ」と言われる人は幼虫なのかもしれません。あえて帰ってもらうことこそ、山科さんなりの応援にも思えます。その気持ちが届いてか、多くの人がより自分を深堀りして、再び相談に訪れるようです。

セカンド名刺なんていらないんじゃないの?

最近、会社とは別の場所でプロボノ活動に取り組んだり、仕事とプライベートを敢えて分けて、「二枚目の名刺」を持ったりする人も増えています。それでも、山科さんが“ど真ん中”にこだわるのは、「バラバラな生き方をするのはもったいない」という思いからでした。

今の時代、仕事の価値だけじゃ幸福感は得られにくくなっていて、不安や焦りなんかが生まれやすい。とはいえ、プロボノをやろうとしても、生活の基盤にかける時間は一緒だから、スケジュールどうしようってなる。

それなら、自分が軸のど真ん中をやったらどうって思うわけ。そしたら、時間の管理とかもう関係ないでしょ。ど真ん中として、自分の中でできることをやればいい。

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ど真ん中テンプレート。「職能×社会問題」のあいだがマイプロジェクト。「社会問題×ワクワク」のあいだがボランティア、「ワクワク×職能」のあいだがプロボノを表すそう。

その人にしかないど真ん中。それを見つけるために、いろんなセミナーに行ったり、本を読む必要なんてない、と山科さんは続けます。

そんなことをしなくても、今やっていることをこの「ど真ん中テンプレート」に当てはめて考えるだけでいいんです。そうすると、足りないものを知ることができるし、案外既にど真ん中に近いってことにも気付ける。

ど真ん中は、その人にとって天職、天命なんです。それを見つけた人間は強い。誰の意見にも左右されないし、自分の価値がぶれなくなるから継続する。

ぶれない人間を応援するって、応援する側にしても損がない。途中でやめたっていうことがなく、フィードバックが必ず来る。名刺作りを通じて、僕も幸せな仕事をさせてもらっています。

ど真ん中が仕事になった瞬間、新しい社会問題も見えるし、新しい喜びも見つかってくる。そしてさらに、以前とは違うど真ん中が見えてくる。山科さんは、そんな螺旋上昇こそ理想的だと考えています。
 
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ど真ん中を探す夏合宿の一コマ

天職を探すためのヒントとなる「ど真ん中テンプレート」が生まれたのは4年前、山科さんが富山市で開催されていた「プロボノカフェ」に参加したときでした。その中で、参加者のひとりから、「こういう活動は必要だと思うけど、やっていてお金がなくて大変」という声を聞いたのです。

このとき「いろいろ言っているけれど、それは言い訳で、実はただ面白くないだけじゃないか?」と感じた山科さん。楽しく続けていくためには、何が必要なのだろう? その問いを考えていた時、自身がアイスホッケーのヘッドコーチだった頃の経験を思い出したそう。

勝つことも大事だけど、チーム自体も幸せを実感できるチームじゃないといけない。そうしたら、自ずと幸せとはなんだ? という問いが生まれた。

例えば、自分はこう思っているよーって言って、動く。それができたらストレスがないよね。自分の思っていること、言っていること、行っていることが一致させられたらいいなとずっと思っていた。

とはいえ、スポーツのチームでは、先輩、後輩という力関係があり、正論であったとしても後輩からは言いづらいもの。でも、その壁を越えなければいい議論はできない…そこでヘッドコーチ時代に出会ったのが、「本音を語り合う、本気で行動するチーム作り」というコンセプトでした。

技術では無理でも、チームという存在での日本一を目指そう。そう聞くと、結果は出ていないと思ったかもしれません。でも実際は関西学生リーグで4年連続優勝、3部から1部リーグまで昇格を果たしたのです。

本気で行動するには、それぞれの軸をはっきりさせることが何よりも大事。その経験が「ど真ん中テンプレート」につながっていきました。

地域の会社として、志の地産地消を

こうして、ELABOとして、多くのチャレンジする人たちを応援してきた山科さんですが、あくまで大切にしているのは、地域の軽印刷屋であるという自覚です。そこには、地元に根付いた会社だからこそできる地域貢献という、強い思いがあります。

食やお金の地産地消はよく聞きますが、同じように志も地産地消したい。スタートしたばかりのサービスはビジネスにならないことが多いが、この存在はすごく大事で。

そういう会社がちゃんと続く世の中じゃないとダメだと思うし、それが広がることが軽印刷としての喜びにもつながる。いろんなことをしているように見えても、矛盾はない。だから僕にはストレスはないんだ。

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ELABOの階段を降りると目に入る「今日はいい日だ」のメッセージ

最近では噂を聞きつけて、県外からも名刺の依頼が増えているのだとか。また、ど真ん中テンプレートを自分の仕事に取り入れたいという声もたくさん届いているようです。

誰もがど真ん中を生きることで、一人一人が輝いていく。これからの時代、「光の大小は関係なく、どう輝いて、与える生き方をしてくかが重要になってくる」と山科さん。そして、そのときに忘れてはならないのは「愛」だとも。

誰も名刺そのものが欲しくて、名刺を作るわけじゃない。あくまで名刺は人と人をつなぐためのツール。人と人を繋ぐことこそが、本当の仕事なんだから。

仮に作る前と全く同じ名刺になってしまったとしても、まとめあげていく過程がとても大事で、それがとても意味のあること。今までやってきたスキル、そして今感じている課題、それをワクワクしながら作り上げようとする未来が込められた生き様。そういうものが一枚の名刺になっていくんです。

自分自身が生きる方向性に自信を持つことで、名刺の渡し方自体も変わっていく。そんな真新しいど真ん中の名刺は、過去と現在だけでなく、未来までさまざまな縁をつないでくれることでしょう。

ぜひみなさんも時間の余裕ができたら、自分のど真ん中を深堀りしてみませんか?

(Text: 橋本奈生子)