「人が集う場所」といえば、みなさんはどんなところを思い浮かべますか? カフェや学校、駅、図書館、なかには会社と答える人もいるかもしれません。
しかし、そうした自宅から離れたどこかだけでなく、家族がなんとなく集まって話をはじめてしまう「リビングルーム」も、自然と人が集まる場所といえるのではないでしょうか?
そんなリビングルームがもし町中にあったら、一体どうなるのでしょう? 今回はポルトガルのアブランテスで、リビングルームを路上につくってしまった、地域交流アートプロジェクト「Domesticity」を紹介します。
「Domesticity」は、まちの路上にイスやテーブルなどを並べて、お家のリビングルームのような空間をつくってしまうというプロジェクトです。
使う家具は買わずに、地域の人からいらなくなったものを集めたものを使います。そうして集めたものを修理し、紙やすりで磨いて、ペイントをして色とりどりの家具をつくっていくのです。
家具は、地域住民がくれたものを使う
こうしてでき上がった家具を、路上に無造作に並べていって、だれでも立ち寄って一息つけるリビングルームができあがります。
道路に家具を置いていく
するとどうでしょう。家具を置いておくだけで、どんどん路上のリビングに人が集まってきました! イスやテーブルがあるだけで、人が集まりやすくなり、くつろぎの場に変貌したのです。一人で時間を過ごす人もいれば、周りの人と話している人もいたりして、自由に時間を過ごしている様子。
普段の路上
一変して活気のある路上に!
何やら楽しそうな雰囲気。
町角にだって!
とはいえ、ただイスなどを並べるだけでは、会話が弾まないかもしれないし、持続しないかもしれません。そこで、壁には会話のヒントとなるようなトピックが貼ってあります。更に、地域の人がトピックの提案ができるよう、専用の投稿箱も置いてあるのだそう。
家庭のものを公共のものに変える
「Domesticity」を発案したのは、建築家であるMaria Mazzanti(以下、マリアさん)と、産業デザイナーであるMartin Ramirez(以下、マーティンさん)。マリアさんは、路上にリビングルームをつくる今回のプロジェクトを行った理由について、インタビューでこう答えています。
私たちは、家庭のものを公共のものに変えてしまうというアイデアと、人々のあいだに生まれる交流がもつ可能性に興味があるの。このプロジェクトの良いところは、なんといっても人々とのつながりにあって、来た多くの人がくつろぐことができるって言っているわ。
プロジェクトを行ったマリアさん(左)とマーティンさん(右)
「Domesticity」は路上のスペースを利用して、イスやテーブルを置くだけでリビングルームをつくるだけで始めることができる気軽さが魅力。日本では、道路の使用許可をクリアするのが難しいかもしれませんが、街中の空いているスペースを利用することで開催することもできそうです。
実際に、以前にgreenz.jpでも紹介した埼玉県北本市の「北本団地」では、商店街の空き店舗をリビングルームにしてしまうアートプロジェクトが、2010年から行われています。こちらは、不用品となったタンスやソファー、オーディオなどを集めて、居間のような空間をつくったところ、自然と地域住民が集まるようになったというプロジェクトでした。
地域の交流を広める活動というと、団体をつくったり、イベントを開催することをイメージしがちかもしれませんが、人がくつろげるリビングルームをつくることも、まちの活性化に向けた第一歩としてすぐに始められることかもしれません。
みなさんの自宅や勤務先の近くに、リビングルームをつくることができそうな場所はありますか? ぜひ、明日の通勤・通学のときに意識的に道すがら探してみるといいかもしれません。
Domesticity @ 180 Creative Camp Abrantes 2015 from Canal180 on Vimeo.
(Text: 大矢崇人)