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安心、安全、おいしいが手に入らなくなる? 災害が日常になった日本で考える、生産者と消費者のサステナブルな関係

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撮影:minokamo

わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。

greenz.jpでも度々登場する、高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索する、ウェブディベロッパーの池田秀紀と写真家の伊藤菜衣子による夫婦ユニット「暮らしかた冒険家」が、エネルギーの自給の先にある、暮らしかたを、考えます。エネルギーも、インフラも、人間関係も、どんなつながりをつくるのかを考えるオフグリッドライフな対談シリーズ。
 
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「暮らしかた冒険家」池田秀紀さん(以下愛称ジョニー)・伊藤菜衣子さん
ウェブディベロッパーの池田秀紀と写真家の伊藤菜衣子による夫婦ユニット。高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索中。 100万人のキャンドルナイト、坂本龍一氏のソーシャルプロジェクトなどのムーブメント作りのためのウェブサイトやメインビジュアルの制作、ソーシャルメディアを使った広告展開などを手がける。

「おいしい」はいつまでも買えるものなのでしょうか? 唐突な質問ですが、非常にシビアな問いです。

茨城県常総市で米農家を営む山﨑夫妻は、全国にたくさんのファンがいる人望の厚い人気農家。ただファンが多いだけでなく、有名料理家、陶芸作家、デザイナー、ギャラリーオーナーなどその幅の広さには、目を見張るものがあります。山﨑さんのお米が無農薬でおいしいのは当然のこと、どういうわけか楽しい仲間たちが続々と集まってくるのです。
 
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今回の主役、山﨑さん / 撮影:大沼ショージ

ところが。昨年の記録的豪雨による鬼怒川決壊で、田んぼと農機具が壊滅的な被害を受け、山﨑家は、米農家廃業の危機に追い込まれる事態になってしまいました。そんな山﨑さんのことを周囲は見捨てられるはずもなく、農作業の手伝いに300人、その他にも全国から続々とサポートが届いています。

今回紹介するのも、仲間たちが立ち上げたサポートプロジェクトのひとつです。「お米農家やまざき」のブランディングを手がけてきた、札幌を拠点に活動する夫婦デザインユニット「drop around」が、なにか自分たちにできることがないか? という気持ちでクラウドファンディング・プロジェクトを立ち上げました。

それが「おこめやま応援金プロジェクト」。
 
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drop aroundの青山さん

今回の記事は、実はつながっているかもしれない「畑と食卓」についてのお話。農家が苦しい時、消費者は何をすべきなのでしょうか。ただお金を払えば、いつでも安心安全でおいしい食べ物が手に入るというのは、本当でしょうか? そして、山﨑家は、農家を続けることができるのでしょうか。対談で迫りました。

被害総額1500万円

菜衣子 今回の被害総額は、多くの人が想像するよりも高いんじゃないかと思います。

山﨑さん 具体的に言うと、壊れた機械は7台。1台は修理できましたが、他の機械は古い機械なのでパーツがなく、新しく買わなければいけません。これらには、行政から助成金が3割出してもらえるというのが、今のところの方針です。でも、確定はしていないし、出してもらえるとしても、2017年の春以降となります。

中古で買うとすると保証体型が変わってしまうので、3割でないかもしれません。しかも農業で使うものだけに限定なので、仕事のために使っている軽トラは対象外です。

青山さん 被害の大きさを正しく理解するには、農業に関する知識がないとなかなか難しいのですが、例えば農業機械は、ひとつひとつが高級車が買えるような値段ですよね
 
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冷蔵庫や軽トラなど、すべておしゃかになりました。お正月の注連飾りつくるように室内干ししていた稲穂もすべてだめになり、田んぼで泣く泣く焼きました。(山﨑さん)

山﨑さん そうなんです。そんな状況だけど、収穫量は例年の2/3ぐらいだし、収穫したあとも米が出荷できる状態じゃなくなってしまったり。そういったことも含めると総額で1500万円くらいの損失なんです。

水没の保険にちゃんと入っておけばよかったなとも思いますが、持っている機械に全部保険かけると、またとんでもない金額になってしまうし、古い機械だから修理にお金がかかります。まさか、この場所で2mもの水没になるとは思いもしませんでした。

こんな風に被害総額を具体的に言うことも、つい最近まで控えていました。あまりお金の話をおおっぴらに言うのは、憚られるところもあって。でも、支援してくださるみなさんと話をしていくうちに、お金を募る上ではちゃんと伝えたほうがいいだろうという気持ちが固まってきて、1500万円という具体的な数字を出すことにしたんです。

菜衣子 1500万円…。家が建っちゃうような金額ですね。
 
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機械はすべて泥水まみれ。置いていたお米も3日間水没していたのでダメになりました。(山﨑さん)

山﨑さん 本当は冬の間もトラクターで田んぼを回って、田起こしをして、去年のワラを肥料に変えたいんです。ワラが土の中に混ざり、バクテリアが食べてくれることによって、うちみたいな農業ができるのですが、機械も壊れているし、手作業となると圧倒的に時間が足らない。人手も無い。

このままだと、未分解のワラやそれによって発生するガスが悪影響を及ぼして良い循環が止まってしまうんですね。あとは、土の成分が変わっていないかどうかのしっかりとした検査も、これからです。今年は何をするにしても手間とお金がかかるようになってしまいました。

1日の災害が、本当に多くの被害を引き起こしていて。

消費者は、真っ当な農家から労力を搾取していないだろうか?

青山さん お米でお金を稼ぐって本当に大変ですよね。その上、信用を見える化しているところほど、その信用を再証明するのにさらに多くのお金がかかるんです。

山﨑さん 「今回みたいなことが起きると無農薬って言えないね」って言われたりもしました。確かに流れてきてほしくないものが来ているかもしれない。水が引いたあとにお米を自主検査に出して、残留農薬と放射性物質の検査をしてもらいました。

幸いなことにどちらも検出されなかったのでまずは安心しましたが…。口で言うのは簡単なんです。でも、正直に言えば、割に合わないことばかりです。
 
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これは水没から3日後、やっと田んぼに近づけるまで水が引き、田んぼにいったとき。もっとべったりと稲穂が倒れているかと思ったのですが、無事、立っているお米もあって、驚きました。(山﨑さん)

菜衣子 その割に合わなさを、価格に反映するのは難しいのでしょうか? 相場から計算していったら、努力や労力の値段を反映するのって何倍にしたって足りないんじゃないかと思うんです。

山﨑さん 直販の場合、お米の値段は私たちが自由に決めますから、値上げは可能です。ただ、単純な話なんですが、日常的に主食とするお米に関しては、高いと売れないんです。

私たちのお米は、1kg800円で販売しています。そもそもかなり高いですよね。スーパーで売っているような一般的なお米は350円とかですから、普通のお米の相場には合わないですよね。

青山さん 3年前に、60円値上げした時も、たくさん考えましたよね。

山﨑さん そうですね。1kgって6合なんですね。3合を2回炊いたら終わり。2食のためにそれだけ払えるかって言ったら、ちょっと難しいと思うんです。今日はいいお米食べようみたいな日じゃないと。

青山さん 私たちの周りには、そういう生産者さんや食べ物自体に投票するみたいな感覚の人が多いけど、そういう人は少ないですもんね。

「おいしい」はいつまでも買えるものなのだろうか?

山﨑さん 今回の一連のプロジェクトで、私たちのお米のことを「自分ごとなんだ」って言ってくれる人が多くて、それには、とてもびっくりしました。「このままじゃ、山﨑の米は二度と食えないんだぞ!」くらいのことを言ってくれる人もいて。
 
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田んぼレスキュー初日に来てくださった方々。早朝組も含めると、40人以上の人が(他に人の気配のない)静まり返った田んぼ地帯にやってきて、手にカマをにぎり、稲を刈り取って、ズブズブぬかるむ田んぼから救い出してくださいました。(山﨑さん)

青山さん もうね、産地とか、いつから農薬を使ってないかとか、調べるのに飽き飽きしたわけです。どこにだって嘘が入っていく余地がいっぱいあるから。それだったら顔が見えててつくる姿勢を信用できるプロに託して、その人から適正価格で直接買いたい。

菜衣子 そうそう。さらに、私たちは青山家ともシェアして3反の家庭菜園の延長的な農作業をやっているけど、おいしい農作物をつくるのはとてもむずかしいことだって実感してます。これまで食べていたものは、本当に優秀な農家さんのものなんだって。

青山さん そうそう。自分でつくった小松菜は、ワイルドすぎて小松菜なのか、雑草なのかわかんない! みたいな…。

菜衣子 自分がつくったトマトがよく言えば淡白な、普通にいうと味が薄くてがっかりすると思わなかったです(笑) 家庭菜園の野菜はおいしい、なんてメディアに溢れているけど、それを言ってる人は今まで何食べていたのさ、と(苦笑)安全でおいしい食べ物を食べて生活していくことのハードルの高さっていったら…。

青山さん だからこそ、消費者から生産者を助ける方法がもっとあっていいと思うんです。たった1日の災害で、1500万円もの損害が出るようなリスクを、個人農家が負うっていうのは、どうなんだろうと。こんなにリスクが大きいんじゃ、真っ当な生産者は減っていきますよね。

これからの農家は直接つながるしかない。直販、クラウドファンディング。続けるための仕組み

青山さん 水害の後、みんなが続々と田んぼに手伝いに行く様子をFBで見ながら、札幌にいるわたしたちは手伝いにもいけず、ただただなにかできないか、モヤモヤしてました。だからこそ、今回のクラウドファンディングでは、応援の表明をあらゆるレイヤーにして、いろんな人が参加できるようにしたかったんです。
 
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動かなくなった機械の中に残っていた籾をレスキューのみんながこうして人力で救い出してくださいました。バトンリレーのようにして、この田んぼレスキュー作業を日毎きてくださるみんなが引き継いでくれて、そのバトンが、応援金プロジェクトにも引き継がれていると思います。すんごくキツイ作業なのに、みんなが笑顔ということにとても救われました。(山﨑さん)

山﨑さん 私の気持ちが完全に潰れているときにそういう提案をしてくれて。めちゃくちゃ熱いテンションで、クラウドファンディングというものがあるぞ!って。その時は前向きに考えられるような状態ではなかったから、すごくありがたかったです。

青山さん とにかく提案して、じゃあ、どうしようか、みたいな感じでしたけどね(笑)

山﨑さん 最初は、みんな困っているのに、私たちだけ声を上げるのは、自分勝手すぎるのではないかとも思いました。わが家の機械のために、みんなにお金くださいっていうのは、どうなのかなって。だったら私たちが借金しろよって話かもしれない。

でも、このままじゃ辞めなきゃいけないリミットも近づいてきて。だから、修理や、公的な保証など、自分たちでできることはすべてやってみて、それでも尚来年、やり続ける自分たちを許してほしいというか、もう少し続けてさせて欲しいという気持ちになって、それでやろうと思えたのだと思います。
 
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これが、水没ののち、発芽してしまった稲穂。発芽してしまうと食用にならず、籾種として活かすこともできない。

青山さん お金をくださいっていうことは本当に良いのか、今まですごく人とのつながりを大切にしてきた人が、結局お金くださいっていうのは、救いがない気もするし、それを言わせてしまっていることにやるせなさも感じました。世の中、結局お金なのかなと。

でも、現地にはいけないけど、何かやりたいという人が、お金でできることもある。そういう選択肢を増やせるならば、お金もいいなって。お金は便利なツールだし、意外と平等なんだなって思いました。

特に今回のクラウドファンディングは自分たちで運営していますから、お金の使い方はとてもクリアですし、友だちから手紙が届くような、そういう雰囲気でやりとりできるかなと思います。

山﨑さん そういう意味では、今回のクラウドファンドは直販のひとつのカタチかもしれないと思っています。直販というのもこれから必須だと。卸ももちろん必要なんですけど、直販のほうがもっと可能性があるし、鮮度もいいものお渡しできる。アクセスの不便な農家であればあるほど、直販を強めて、つくり続ける仕組みをつくっていかないといけないと思います。
 
s540_FireShotクラウドファインディグへの参加はこちらから

青山さん 今のところ、山﨑さんの近しい人や、名前だけは知っていましたという人、そして自分も田んぼで米づくりしたことあって今の山﨑さんの困難な状況がよく分かる人からの申し込みが多いです。

この記事を読んで、山﨑さんのことを全然知らなかった人、おいしいお米をこれからも食べ続けたい人、地方移住して就農した人、なんでもいいからとにかく「自力と他力を集結させて立ち上がりたい、つくること続けたい」という山﨑家に反応してくれる人を募集したい。

これは自分ごとであって、自分の未来とリンクしているんだってことが伝えたいです。

って、こんな風に必死になっていたら「あなたたちはお金を集めているけど、あなたたちのところにお金が入ってこないんだから、食べるものが必要でしょ」って、わが家にも食べ物が届いたんです。ありがたくて、泣いた(笑) 誰かを助けていると、助ける人を助ける人が現れる。そこには人の力を感じるなぁと。

農家であることを手放したくなかった

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早くこうやって美味しいお米を育ててもらいたいですね。

山﨑さん いろんなこと考えたけど、最期に思ったのはここで辞めるのは本当に悔しいってことでした。なんとしても続けたかったんです。戦後のお母ちゃんみたいな気持ちでしたよ。

青山さん 焼け野原から立ち上がるみたいな。

山﨑さん 希望の光なんですよ。クラウドファンディングでいただいたお金は、ただのお金じゃないんです。農家をやる意味であり、農家を続けることを肯定してもらえている証というか。だから、金額以上のものを受け取っていると思っています。

来年も続けられるという確証はどこにもありません。でも、どうにかして続けていくつもりです。

さらに言えば、今回のプロジェクトを通じて、できるだけ声を広げていきたいと思います。今回、良くも悪くも目立ったことで、いろいろな情報が集まってきました。余っている機械とか、手伝いたい人材とか、そういった情報は、周りの農家さんにも伝えていく。

それによって、私たちが続けていくだけではない、プロジェクトの成果が出てくると思うんです。
 
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今回の記事にしたクラウドファインディグの他、山崎さんを応援する有志の皆さんによって、2015年末よりチャリティ・イベント「お米農家やまざき チャリティ・キャラバン」も全国各地開催されています。様々なジャンルのモノづくり作家さん、飲食店などが出店し、楽しく応援できます。2016年2月25日(木)~28日(日)に、キャラバンの最終回を東小金井にて開催。http://dogdeco.exblog.jp/24908920/

 

(対談ここまで)

 
対談のあと、山﨑さんからメッセージをもらいました。そこにはこう書いてありました。

「わたしたちは、農家であることを手放したくなかったのです。手放したら、おわりだ。と思ったのです」

今、食の安全を語るとき、多くの場合は、買える対象として無農薬や減農薬な食べ物があって、普通の食べ物もあるけど、どっちを選びますか? という選択の話です。でも、そもそも、誰かが食べ物をつくってくれているということ自体が、とてつもなく尊く、奇跡的なことで、不安定な状況にあるのかもしれません。あなたの食べ物は、誰が、どんな気持ちで、どんな経済状況でつくってくれていますか?

– INFORMATION –

 
お米農家やまざき チャリティ・キャラバン 東小金井
2016年2月25日(木)〜28日(日)
11:00〜19:00
東京 東小金井 atelier tempo(アトリエ テンポ)
http://dogdeco.exblog.jp/24908920/

 
おこめやま応援企画「おむすびミュージック」
2016年3月5日(土)
昼の部 12:00~17:00
夜の部 18:30開場 19:00開演 21:30ごろ終演予定
東京都 等々力 巣巣(すす)
http://www.susu.co.jp/news/p1191.html