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中高生の「楽しい」と「やりたい」を実現! 文京区にある“中高生の秘密基地”「b-lab」金森俊一さんが語る、主体性の大切さ

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形にしたいプロジェクトをもつ中高生が集まるプロジェクトミーティング。第1回には文京区の区長も駆けつけました!

自分が中学生や高校生だったとき、どこで、何をして遊んでいたっけ。どこかに居場所があったかな。

思い出してみると、それは学校近くの商店街だったり、通学途中のファストフード店だったり、公園だったり。それぞれに思い浮かぶ“場所”があるのではないでしょうか。

ところが都会の中高生事情として、カフェや繁華街でたむろすることが問題視されてしまうケースもあります。多感な時期の中高生が、自由に楽しく、かつ安全に過ごせる場所というのは意外と少ないものなのです。

全国的に中高生の居場所づくりが必要だとの機運が高まる中、2015年4月に、東京都文京区在住・在学の中高生向け施設「b-lab(文京区青少年プラザ、通称ビーラボ)」が、文京区教育センター内にオープンしました。

こちらの運営業務を委託されているのが、高校生と大学生スタッフが本音で語り合うキャリア学習プログラムで知られるNPO法人カタリバです。

ビーラボは、文京区とカタリバの協力による自由な発想で、オープン前から話題を集めました。文京区在住・在学の中高生が放課後や休日を過ごす場所として瞬く間に定着し、2015年12月1日現在で来館者が15,000人を突破。目標年間利用者数を上回るペースで利用されているそう。

中高生が公共施設を積極的に利用しているイメージって、正直、あまりありません。なぜビーラボは、これほど子どもたちに支持されたのでしょうか。以前に「コラボ・スクール大槌臨学舎」スタッフとしてグリーンズでも紹介し、現在はビーラボ副館長として働いている金森俊一さんに、その秘密を伺いました!
 
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ビーラボ副館長・金森俊一さん

大人も羨ましくなるビーラボの施設内容は?

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文京区教育センター内に設置されたビーラボ。正式名称は「文京区青少年プラザ」です

ビーラボは、文京区教育センターの一画にあります。入口を入って正面に受付があり、その奥がビーラボ専用の中高生談話スペースです。

自由に動かせるフリーデスクや畳スペース、調理設備があり、壁際には電源コンセントのついた勉強スペース、利用者の活動を紹介する掲示板や壁一面のおしゃれな本棚などが設置されています。WiFiも自由に使えて、パソコンやiPadの貸し出しもしているそう。

談話スペースは、おしゃべりしようが勉強しようが昼寝をしようが楽器を弾こうが、何をしてもオッケー。いわゆる公共施設にありがちな、かしこまった雰囲気はありません。
 
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机や椅子を自由にレイアウトすることができる中高生談話スペース。本棚の奥には音楽スタジオがあります。パッと見ただけではわからない秘密基地らしい仕掛けです

その奥にはバンド練習用と個人練習用の音楽スタジオがひとつずつ、イベントやライブが開催できる本格的なホールも併設されています。
 
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音楽スタジオA

2階に上がると屋外にはハーフサイズのバスケットコートがあります。教育センターとの共用となりますが、より静かな環境で勉強したい人は2階の研修室を、運動したい人は卓球などができる軽運動室も利用可能です。
 
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プレイヤード

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研修室(教育センターと共用)

準備に巻き込むことで“自分ごと”の場所にしていく

東京都文京区は、中学・高校だけでも公立・私立合わせて50校以上の学校があり、東京大学や順天堂大学など、有名大学も数多く立地する、その名のとおり、教育機関が大変多い地域です。そのため、子育てに関するサポートが手厚く、より良い教育環境を求めて人口は年間約3,000人ずつ増えているそう。

中高生の数は、人口21万人中、在住者が約7,000人。他市町村からくる在学者は約2万人です。教育に対する意識の高い住民が多いため、受験のプレッシャーを抱えている中高生が、比較的多い傾向があります。

そんな中高生の自主性・社会性を応援するため、安心して好きなことがやれる場所をつくろうと、文京区が動き始めたのが2010年。その後、3,000人以上の中高生にアンケートをとったり、ヒアリングをしたりと試行錯誤を重ね、中高生の理想のスペースづくりを考えてきました。

そして、建物の建設も進み、実際の運営を検討する段階に入ったところで運営団体の公募を行い、2014年3月末に、NPO法人カタリバが選出されました。

文京区の成澤区長は、地方自治体の首長で初めて育児休暇を取ったことで話題になりました。そのぐらい子育てや教育には力を入れていて、かつ考え方も柔軟な方なんです。中高生専用の公共施設ってまだほとんどないんですよ。

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「秘密基地のつくりかたワークショップ」の様子。この日はビーラボのロゴを考えました

カタリバの特徴といえば、子どもたちの意欲を引き出し、主体性をもって行動するきっかけをつくるところ。そのため、カタリバが運営団体に選出されるとひとつの大きな方向性が決まりました。それは“中高生を巻き込んで準備を進めていく”ということです。

ただの“屋根付きの公園”のような居場所を大人主導でつくるなら、僕らカタリバがこのプロジェクトをやる意味はないと思いました。そこで、僕らが最初に決めたのは、「中高生の秘密基地」というコンセプトです。

中高生の秘密基地に、大人があれこれ言ってもしょうがないだろうっていうことで「秘密基地のつくりかたワークショップ」を開催し、大事な意思決定に中高生を入れたり、施設についてのアイデアも出してもらうことにしました。

SNSを使ったり、区内の中学校や高校に直接PRしに行って呼びかけた結果、半年で60人ほどの中高生が秘密基地づくりワークショップに参加しました。

「もっと元気でいいんだよ」っていう話をすると、どんどん自分を出してくれたり、役割があると、普段はおとなしい子が主体性をもってかかわって、積極的になったり。学校ではこんな自分は出せないっていう中高生たちの参加が予想以上に多かったです。

その子の“学校でのいつもの状態”を知らないので、とても元気で活発な子が、よくよく話を聞いたら不登校だった、なんてこともありました。

そして、中高生からの公募で文京区の実験室=Bunkyo laboratoryを意味する「b-lab(ビーラボ)」という施設の愛称が決まり、フリーペーパーの制作が始まり、施設のレイアウトや空間デザインについての検討がされました。

たとえば、窓際の勉強スペースはハイデスクになっていますが、当初の設計では今より30センチ以上低くなっていました。それが「スタバの窓際席みたいなのが欲しい!」という中学生の声が反映されたんです。

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子どもたちのアイデアから誕生したハイデスクの窓際勉強スペース

そのほか「人が入れるような大きな本棚が欲しい」というひとことから壁一面の本棚が誕生したり、その一画に自由に落書きできる黒板スペースができたり。

印象的だったのは、本棚の一部に小さな小窓がついていたこと。これは本棚の向こうにある音楽スタジオが覗ける小窓で、かっこいい先輩がスタジオに入っているときに、本を探しているふりをしてスタジオを覗き見したい、という要望から設置されたものなのだそう。これは絶対に、大人では思いつかないアイデアです(笑)

こうして、自分たちのアイデアが形になっていくプロセスによって、ビーラボは多くの子どもたちの“自分ごと”の場所になっていきました。
 
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本棚の一画に大きな黒板。その左側に音楽スタジオを覗き見れる小さな小窓がついています

大人は、ひとりひとりのやれる範囲を広げる手助けをする

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調理スペースでごはんやお菓子をつくったら、写真を撮ってコメントを書き「つくりましたフォト」スペースに貼ります。見える化することは、モチベーションの向上につながっていきます

こうして一年間の準備期間を終え、ビーラボがオープンしたあとも子どもたちの参画は続いています。中高生スタッフとして、スポーツチーム、ウェブチーム、フリーペーパーチーム、音楽チームなど、興味のある分野ごとに分かれて活動しているのです。イベントなどの企画も、一緒に考えているのだそう。

参画の度合いは段階によって分かれていますが、与えられた役割をやっていると「もっとこういうことをやってみたい」っていう欲求が自然と出てくるんですね。

「じゃあそれは自分でやってみなよ」って、だんだん子どもたちを押し上げていくのが僕らの役割です。ひとりひとりのやれる範囲を広げていく手助けということを第一に考えています。

たとえば、フリーペーパーを制作するチームは、すでに2回の発行を経験し、「次は自分たちで取材して自分たちのフリーペーパーをつくりたい」と提案しました。そこで、文京区の路地裏で見つけたすてきなお店を紹介する路地裏マップを現在、制作真っ最中。マップと連動したウォーキングイベントも企画しています。
 
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フリーペーパーチームの中学生3人が始めたマイプロジェクト「路地裏JUMP !」

ドラムを小さい頃から習っているという音楽スタッフの男の子は、「ドラムを叩く楽しさや音を表現する楽しさを知ってもらう機会をつくりたい」とドラム講座を始めました。実際にやってみると、伝える難しさや、丁寧に人に教えることの大変さがわかり、悩みながら続けているのだそう。

また、中高生の「やってみたい」を引き出すことに特化した大学生ボランティア「フロアキャスト」が、話し相手や相談相手となっています。

こういうのって、ひとりのカリスマ先生がいるよりは、10人ぐらいの身近な先輩が親身になって話を聞いてくれるほうがいいと思うんです。

やりたいと思ったときに相談にのってくれて、ときには力になってくれる大人や先輩がいる。そのための場所があり、同年代の仲間たちもいる。これって、とても羨ましい環境だなと思います。

主体性がなければいいものはできない

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かと言って、自由で楽しいだけではないのがビーラボ。公用施設なので、ルールやマナーは守らなければなりませんし、やりたいことを実現するには、努力や苦労もあるのだという現実を、きちんと体感してもらうことも大切にしています。

大槌のコラボ・スクールでの経験を通じて、今も大事だなと思っているのは、「優しさは挽回できるけど正しさは挽回できない」ということなんです。

厳しいことを言ったり、注意したりすれば、そのときは気まずくなります。でもそれは、その後のコミュニケーションでフォローできるんですよね。でも何も言わなかったら、それはもう取り戻せないんです。

だから、こちらから「お願い、やって」と言う関係性にならないように気をつけています。子どもがどれだけ不満そうでも「自分がやりたいって言ってやってるんだよね、こっちがお願いしたわけじゃないからね」って。

突き放しているように見えるかもしれませんが、主体性をもって行動するとはそういうこと。子ども扱いせず、正しさを諭すことで、子どもたちは成長していきます。

コラボ・スクールの校舎をつくってもらった設計士さんとお話してるときに、「主体性を引き出さないコミュニケーションほど不毛なものはない」って言われました。

主体性があれば、言われたとおりにやるだけじゃなくて、ああしたいこうしたいと思うようになる。で、そう思ってもらわないといいものができないと。つまり「きみたちがやらなかったら何も起きない」っていうことですね。それを子どもたちに本気で言っています。

本当に任せる、本当に失敗させるっていうのは、僕ら職員が大事にしていることかもしれないですね。

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ビーラボに触発されているのは子どもだけではありません。中高生スタッフの道具をしまう引き出しを、秘密基地らしく畳ボックスの下につけたいと職人さんにお話したら「じゃあ、知ってる人しかわからないように、取っ手はないほうがいいね!」と意図をばっちり汲んだすてきな提案が返ってきたそう。コミュニケーションが主体性を帯びると、こんなことも起こります

使いやすい寄り道場所として利用している子もいれば、中高生スタッフとしてビーラボでの日々にやりがいを見出してる子もいる。たくさんの選択肢の中から、“自分で”選ぶということが、子どもたちの主体性を引き出すビーラボの魅力と多様性を担保していました。

いずれ、中高生スタッフをやっていた子どもたちが、フロアキャスト(大学生ボランティア)としてビーラボに戻ってきてくれるのが、金森さんの夢のひとつ。

秘密基地での楽しい思い出が、子どもから大人へと移り変わっていく時間の中で、どのように息づいていくのでしょうか。ビーラボで育まれる心の成長のその先が、今から楽しみでなりません!