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あなたのまちの公共空間は、誰もが楽しく使えていますか? 規制だらけの公共物件を活かすために、馬場正尊さんが「公共R不動産」を始めた理由

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神戸市三宮の東遊園地で行われた屋外図書館&マーケット「Urban Picnic -Outdoor Library」。通り抜けるだけに使われていた公園の広場にカフェスタンドと本棚と芝生を設置したら楽しい場に。

公園なのにボール遊び禁止、ペットが糞をするからと砂場も封鎖され、ベンチはホームレスだらけ…みなさんの周りにそんな公共空間はありませんか?

その公園を実際目の当たりにして、ここは一体何のためにあるんだろう…と疑問を抱いたのが、R不動産のディレクターであり設計事務所Open A代表の馬場正尊さん

一方、社会を見渡してみれば、高度経済成長期に建てられた多くの公共施設は、一斉に老朽化の時期を迎えています。地方自治体にとってこの施設を運営していくのは、財政的にも厳しい状況。

ルールに縛られて、活かしきれていない公共空間の活用を、民間企業や市民を巻き込んでオープンに考えていこうと始まったのが「公共R不動産」です。

従来の「R不動産」が、築年数や広さだけでは価値が見出しにくい物件にレトロ感や味、個性などの斬り口で新たな付加価値を示したのと同じように、公共空間にも面白く利活用できそうな物件がたくさんある。そんな面白い物件や活用事例を紹介していこうとする、公共物件に特化したウェブメディアです。

これは、R不動産にとっても、小さく始める大きなチャレンジ。公共という分野に携わるのはほぼ初めてという馬場さんに、この立ち上げへの思いと、今後見据えている将来について伺いました。
 
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馬場正尊(ばば・まさたか)
Open A代表/東京R不動産ディレクター/東北芸術工科大学准教授。
1968年佐賀生まれ。早稲田大学大学院建築学科修了後、博報堂入社。早稲田大学大学院博士課程へ復学、雑誌『A』編集長を務める。2003年建築設計事務所Open Aを設立し、建築設計、都市計画まで幅広く手がけ、ウェブサイト「東京R不動産」を共同運営する。著書に『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』『RePUBLIC 公共空間のリノベーション』など。2015年3月、新サイト「公共R不動産」を立ち上げる。

「行政空間」になってしまった「公共空間」は、もはやパブリックではない?

冒頭に挙げた公園でのエピソードは、馬場さん自身が子どもを連れて公園へ遊びに行った際の実話です。これを機に世の中を改めて見渡してみると、多くの公共空間が、本来の「公共」、“パブリック”なものからかけ離れてしまっていることに気付きました。

同じ頃、池袋西口公園に仮説カフェを設計するという仕事に携わることになった馬場さん。行政の担当者から返ってくるのは「あれも駄目、これも駄目」という制約ばかり。使える材料にも制限があり、手続きもとても煩雑。何より違和感を抱いたのは、その行政マンの態度でした。

馬場さん 本来一緒に考える立場であるはずの人が、自分の土地に何をしてくれるんだと言わんばかりで。この場所ってあなたのものだっけ…と考えざるを得なかったんです。

後から馬場さんも公共空間を管理する難しさや必要性がわかるようになりましたが、やはりその場所は、管理されているだけの硬直化した“行政空間”であり、もはやパブリックでオープンな“公共空間”ではなくなっている、という思いは拭えませんでした。

こうした過剰なまでのルールやクレーム対策は、簡単に解決することの難しい、行政の抱える闇とも言えます。この闇が実用性からかけ離れた“使えない”公共空間を生む要因のひとつになっているのです。
 
03_parkcaravan“小さな公園革命”として横浜市保土ヶ谷区で行われたパークキャラバン。公園を楽しい空間として取り戻そうという試みで、人工芝の上にテントを張り1泊2日のキャンプイベントが行われた。

公共施設の維持管理が、いまや地方自治体の大きな財政負担に

一方で、人口が減っている地方自治体にとっては、こうした公共施設の維持管理は大きな負担にもなっていると教えてくれたのが、公共R不動産の一員であり、1年半前まで日本政策投資銀行で働いていた菊地マリエさんです。
 
04_marie_0585現在、公共R不動産のコアメンバーである菊地マリエさん

菊地さん もともと日本の公共施設の国民一人当たりの床面積は、平均3.3平米(1坪)くらいと言われてきました。

それが市町村合併や人口減で、今は1人あたり3倍の9平米近くになっている地域もあります。今後30年間で施設量を今の50パーセント削減しなければ、財政的にもたないと言われている地域もあるんです。

地方自治体がもつハコモノなどの公共施設の床面積推移をみると、1970年代に一気に増加し、その後は横ばい状態(*1)。

*1総務省「公共施設等の総合的かつ計画的な管理による老朽化対策等の推進」、(「地方自治体における公共施設マネジメント推進のあり方と実務のポイント」シンクタンク・レポートより)

最近では「公共施設マネジメント」が盛んに推進され、進んでいる地域は未活用施設を売却したり、民間に貸し出して負担を軽くする努力がされています。ですが、まだその多くが手就かずで、いまだに年何千万円ものお金が垂れ流し…といった所も。例えば、と馬場さん。

馬場さん 最近見に行ってきたのが、帝釈天近くの葛飾区の職員寮です。もう10年も使われないまま放置されていて一見ボロボロですが、建物自体はしっかりしていて面白い活用が期待できる物件でした。

これをいま、Open Aの設計で宿にリノベーションしようとしています。そうした物件を地方自治体は驚くほどたくさんもっています。

「公共R不動産」始動!

こうした空いている公共物件を、民間や市民がもっと自由に活用できるようになれば、と馬場さんは考えます。

そのために、まずは「こんな公共空間が空いています」という情報と「こんな素敵な活用方法があります」という活用中の事例を知ってもらおうと始まったのが、2015年3月に公開された「公共R不動産」です。

まだ掲載情報の数は少ないものの、募集中の公共物件と、活用事例が掲載されています。
 
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■■ 募集中の案件 ■■

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消防署が買える?石川県白山市の旧鶴来消防署は、目下売り出し中。価格は1585万円。写真は在りし日の消防署。

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東京の公共空間である日本橋と隅田川では、護岸上にまでせり出したテラスを活用する社会実験として、飲食店を対象に出展事業者を募集中。

■■ 活用中の事例 ■■

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もとは立川市の第二庁舎で、今は4万の蔵書を誇るまんがパーク、「子ども未来センター」。子育て、市民活動、芸術活動を支援する公共施設としても活用されている。

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旧四谷第五小学校の物件を、吉本興業が本社オフィスとして活用中。1934年、戦前に建てられた建物で、そのモダンなデザインも魅力的。

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同上、吉本興業オフィス。広い廊下にタレントのグッズやイベントで使用したと思しきデカい看板や着ぐるみがあったりと、文化祭のような雰囲気が醸し出されている。

ちなみに数多い掲載事例の中でも、馬場さんが評価している事例は何かと尋ねると、「アーツ千代田、やっぱり3331は素晴らしい」との答え。

中学校と公園を空間的につなげたという建築的な意味でも、合同会社が借りてサブリースするという民間発想の事業構造でちゃんと行政に賃料も支払いつつ黒字にしている。もともと中学校だった歴史を継承した上で、エリアの価値もあげている、と評価。
 
11_3331「3331、アーツ千代田」。都市型のモデルとしてはいい事例だが、地方ではそれほどの賃料は取りにくいかもしれない。地域によって解答が違うとのこと。

このようなよい事例はまだ日本には少ないため、「公共R不動産」では海外の事例も紹介しています。

公共物件だから、情報掲載すら難しい?!

ところがサイト公開後にわかった、大きな誤算もありました。

どの地方自治体も多くの不良公共施設を抱えている時代。「民間に活用してほしい」という声や募集物件はどんどん出てくるだろうと予想していたものの、行政だけの判断では募集情報を掲載できないとわかったのです。

馬場さん 行政のものということは市民のものなので、市民のみなさんにこういう募集をしてもいいでしょうか、とお伺いをたてて住民調整を終えた上でないと情報掲載できないということなんですね。これには驚きました。

それでも、まずは空いている物件の情報を、少しでもオープンな場所に出していくことが大事だと考え、自治体のHPから公募中の物件を探し出して掲載するところから始めました。その後、少しずつ「こんな物件があるので見に来てほしい」という各地の自治体からの相談や、公共空間を新規事業に活用したいという民間企業からの問い合わせも増え始めています。
 
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公共施設を民間利用するために、越えなければならないハードルの多さ

馬場さん 貸したい行政がいる、借りたい民間がいる。本来ならそれでもう話は成立のはずですが、実際に活用してもらうには、その先が大変です。どれだけの調整をしないとならないか…!

ひとつひとつ例を挙げれば切りがありませんが、例えば、借りる民間企業が、中古だし安く借りられるだろうと想定していても、行政が耐震補強をした上でなければ貸せないと言い出し、かえって高くつく場合があります。

馬場さん それまでも普通に使っていた建物なのに、人に貸すなら耐震しなければ駄目だというんです。行政が貸すもので万が一何かあったら困る、というリスクヘッジなのですが、じゃあ何故今までは使えたのか…。これも僕からすると不思議なロジックです。

他にもクリアしなければならない問題はたくさんあり、「用途地域」もそのひとつ。一般的に土地は都市計画のなかで、住宅しか建ててはいけない土地(住居専用地域)、お店を出せる土地(商業地域)、といった具合に建てていい建物が決まっています。

馬場さん この10年間に全国で約6000近くの学校が廃校になると言われていますが、学校の多くは、住居専用地域にあるわけです。廃校になった建物を事業に使いたい場合、商業利用になるけど住居専用地域で商業を行ってもいいのかといった問題が出てきます。

さらに、学校や文化施設の多くは補助金でつくられたものも多く、民間に貸し出すなら、先に補助金を返せといった話も浮上します。

馬場さん そうした課題ひとつひとつに向き合って、社会実験や一次使用許可など、期間を区切って、ひとまず3年間だけやってみるなど既成事実をつくっていくしかないわけですが、そのクリアの仕方が本当に難しい。

将来的には、うちにそのノウハウがたまって、コンサルティングできるようになるんじゃないかと思うようになりました。ある意味で翻訳者ですよね、民間と行政の間の。面倒なことも多いですが、そこをクリアしないと、公共空間の活用は先がないなと思っています。

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地方自治体は横並び意識も強いため、一度突破すれば他も同じ方法でクリアしやすいという側面もあります。何とか解決できたノウハウは囲い込まずに「公共R不動産」を通してどんどん公開していくつもり、と馬場さん。

貸したい行政と、借りたい民間企業やNPO団体の仲介の役割を果たしてマッチングしていくのが公共R不動産の目指す役割。そのためにまずは、「募集中」として掲載できる公共物件を、自治体と相談しながら増やしていくことが第1ステップの仕事になりそうです。

行政マンの悲鳴も聞こえてきた

管理費に年間6000万円かかっている施設なら、無償でもいいから貸し出そうという発想は、民間なら普通のこと。ところが、安い金額で貸すことを議会で問題視されることもあるのだとか。

馬場さん メディアの役割として、ちゃんとコモンセンスをつくってあげることが大事だと思うんです。この時代にそんなことを言い出す人のほうがおかしい、という空気感をつくることが必要で、公共R不動産はそれをやっていきたい。

情報発信を始めてから、行政マンの本音や悲鳴も聞こえてきた、という馬場さん。サイレントマジョリティよりも、少数のクレーマーのために、行政マンが必要以上の対応を迫られている局面が少なくない、と話します。

馬場さん 行政のなかにも、現状に疑問をもつ人もたくさんいるんです。ただ住民からクレームを受けるとそれに答えなければならない義務感があるのでしょうか。マイノリティの意見を無視できない、過剰反応するしかないという社会構造になっちゃっている。

公共R不動産では、そうした現状を批判するのではなくて、素敵な事例やこうなったらいいねという楽しいアイディアで凌駕したい、と話します。

馬場さん 公共R不動産は公共空間の存在を見直して、何かやろうぜっていう呼びかけみたいなもの。まずは無駄になっている空間の存在に気付いてよってことですね。公共空間を使って何かやりたいって時にまず相談しようと思ってもらえる相手になれたらいい。

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兵庫県神戸市の都心と自然を同時に楽しむ、東遊園地パークマネジメント社会実験「Urban Picnic -Outdoor Library」。最終日前夜には、夜の交流会も開催。その名も「ナイトピクニック」。参加者が食べ物を持ち寄り、夜のUrban Picnicを楽しみました。

いま埋もれている公共物件や画一的に管理されている公共空間が、よりオープンになって、市民や企業が自由に楽しく活用できることが当たり前の世の中。

将来、まちの不動産屋へ行くと、一般の物件情報と並んで、公共施設や公共空間の情報も掲載されるようになる日がくるかもしれません。「安いし、面白いからこの廃校をオフィスに使おうか」、とみんなが自由に選べるような。

さて、あなたのまちには、どんな資源が眠っているでしょうか?