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ホームレス状態の人たちの自立に必要なのはお金だけじゃない! 「認定NPO法人 自立生活サポートセンター もやい」に聞く、貧困問題の解決に私たちができること

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こちらの記事はgreenz.jpがパートナーとして参加するSmartNewsのNPO支援プログラム「SmartNews ATLAS Program」との連動記事です。

アパートを借りるときに、連帯保証人を必要とされるのは当然のこととして多くの人が経験しているでしょう。そして、ほとんどの人が親や親族に頼んでいるのではないでしょうか。では、頼める人がいなかったら、あなたならどうしますか?

今回ご紹介する「認定NPO法人 自立生活サポートセンター もやい(以下、もやい)」は、路上・公園・施設・病院など、広い意味で「ホームレス状態」に置かれている、経済的に貧しいうえに孤立している人たちの自立を支援し、新たな人間関係をつくり地域社会で暮らしていけるように活動している認定NPO法人です。

せっかくアパートに入居できても

もやいの活動のひとつに、ホームレス状態の人がアパートに入居する際の連帯保証人を引き受ける活動があります。この事業を開始したのは2001年。その背景には、経済的な貧困だけでなく、「つながりの貧困」と呼ばれる、人間関係の稀薄さがありました。

家族や親族とも音信不通になり、頼れる友人もいない、人とのつながりのほとんど断たれたホームレス状態の多くの人は、連帯保証人を頼める人を見つけることが難しいのです。もやいでは、経済的な問題だけでなく、そういった人間関係の問題にも目を向けて活動をおこなっています。

もやいが連帯保証人を引き受けるようになって以来、のべ約2300世帯と連帯保証契約を結び、現時点で有効な契約が約750世帯あります。世帯数が減少しているのは、65歳以上の方など高齢でお部屋で亡くなってしまったり、中にはアパートから失踪する人も決して少なくないからだそうです。

なぜせっかく入居できたアパートから失踪してしまうのか、多くの人は疑問に感じることでしょう。けれども、そこには貧困に苦しんできた人だからこそ生じる、さまざまな理由があるのです。その理由を知ることは、貧困について深く理解するひとつのきっかけになるはず。

そこで、もやいで連帯保証人事業に7年たずさわっている、事務局長の小幡邦暁さんに、その理由についておうかがいしました。
 
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小幡邦暁さん

アパートに入居する際、ホームレス状態の人の誰もが、住みたい部屋について尋ねても、「どこでもいい」と答えるそうです。

普通なら、1階は避けたい、こういう間取りがいい、お風呂は大きいほうがいいなど、希望があるものです。そういった希望は、「これまで歩んできた歴史が刻まれているんですよね。小さい頃の思い出や生活環境、その人の歴史そのものなんです」と小幡さんは言います。

小幡さん 飯場や社員寮、住み込みだったり、仕事と住まいが一体化していると、そういうものを自分の中で構築していく経験を持ち得ないんですよ。選択肢を奪われている状態で生きてきているということなんです。

そこで、もやいの理事長の大西連さんに「トンコ(遁甲)という言葉を知っています?」と聞かれました。遁甲と辞書で調べると、「人目をまぎらわして身体を隠す妖術・忍術」とあります。ホームレス状態の人たちが自ら失踪する際に「トンコする」という言葉を使うそうです。

大西さん そういうやり方でしか自分を守るすべを知らないんですね。

たとえば暴力を受けたとき、解決できない問題を抱えたとき、誰かに相談するとか社会支援を使うとか、そういう方法を知らなくて、逃げるしかない。もしくは相談する、支援を使うという手段を試して、これまで失敗してきてるんです。ちゃんと話を聞いてもらえなかったり、家族に言ったら殴られた、とか。

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大西連さん

そのような状態で、ときには不動産屋にここしか貸せないと言われたりして決まったアパートであれば、そこに住み続けたいという気持ちを持つのは難しそうです。それまでの人生経験が、失踪につながっているのです。

住んでいた人が失踪すると、本来は連帯保証人には債権に関する義務しか発生しませんが、慣習的に部屋の片づけなどをすることも多いそうです。部屋を訪れると、決まって小幡さんたちが気づくことがあります。

小幡さん お部屋の片づけをしてて思うんですが、そこが住まい、生活の根拠になりえてないんですね。

失踪した人の部屋には、ゴミと布団とちょっとした生活に必要なものしか残されてないといいます。

普通に暮らせば、好みの本や思い出の品など、捨てられないものがあるのが当然です。そういったものがいっさいない部屋を想像できますか。そんな部屋なら出て行きやすいと考えられないでしょうか。

大西さん 例えば、お気に入りのレコードでもCDでも100枚とか持っていたら。本を100冊でもいいですが、手で持っていけない量の大事なものを所有していたら、簡単に置いていけないですよね。

着の身着のままいなくなるという選択肢をとれない。いなくなるにしても大切なものを持っていく方法とか、手段とかを講じるはずです。

そういう大切なものとか、思い出とか、そういったものがないということは、住まいに執着できない状況をうむ背景にあります。むしろ、トラブルに見舞われたときに、そこにがんばって居続けるよりも、一人で解決できないのであれば逃げた方が楽だし、安全だし、うまくやれると思ってしまう。そういう生活の基盤の部分の脆弱さ、培うことが難しさという視点は大切だと思います。

ほかにも、DV被害に遭って逃げてきたような人は、被害に遭うたびに手で運べる範囲の荷物しか持てず、どんどん生活が切られていきます。そうなると何かあったとき、ぱっとそこから出ていくというのも、ありえないことではないでしょう。

さらに難しい問題としては、一度アパートに入居した人が、万引きや無銭飲食といった軽微な犯罪で刑事施設に繰り返し収監されたり、メンタルの病気を持っている人が犯罪を犯し、刑期を終えた後も結局は措置入院したりといったような状況もあります。そういった人に地域でひとりで暮らしていく力をどうつけさせるのかは、まだまだ解決方法が見えない難しい課題です。

不動産市場における変化としては、もやいが連帯保証人を引き受けるようになった2001年頃にはなかったこととして、2000年代の中ごろからは、入居の際に保証会社が必要になるということが増えてきました。現在では、アパートを借りる際には誰でも保証会社プラス連帯保証人が必要となるケースも一般的になってきているそうです。

大西さん 保証会社は民間の企業ですから、例えば累犯の人や障がいをもっている人、75歳以上の人など、嫌な言い方ですが、滞納やトラブル等のリスクの高い人を避ける傾向にあります。そういった人がもやいで相談することが多くなってきました。

小幡さん 保証会社ができても、そこからこぼれる人はいるのです。もやいだけで、それらの問題を解決することはできません。

「こういう現実があることを知ってください」と大西さんは言います。

大西さん たとえば、自分の家の半径100メートル以内には、よっぽどハイソな地域でなければ、安い家賃のアパートがあって、そこには生活困窮者や生活保護利用者が住んでいるかもしれません。コンビニに行くまでの間に、高齢者の独居老人が住んでいるかもしれない。駅のホームに並んでいるとき隣にいるお兄さんは貧困家庭に育ったかもしれない。

そういう地続きに貧困問題があるんです。

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居場所支援事業「サロン・ド・カフェこもれび」の一環として、年に一回、関わって下さる地域の方も交えておこなわれるサロン・パーティの様子。居場所を作っていくには地域の方との交流が欠かせません。

貧困ってどういうこと?

最近、貧困という言葉を目にする機会が非常に増えましたが、ここで改めて貧困問題はどういう問題なのか、大西さんに教えていただくことにしました。

貧困とは、「読んで字のごとく貧しくて困ってるということなんですけど、定義はすごく難しい」と大西さんは言います。

OECD(経済協力開発機構、ヨーロッパや北米などの先進国による、国際経済全般を協議する国際機関)の基準で調査された相対的貧困率で言うと、現在の日本では6人に1人が貧困状態にあります。

相対的貧困率とは、収入から税金と社会保険料を引いた、実際に使えるお金を世帯人数で合算し、その後、一人あたりの金額(等価可処分所得)を出して1億2千万人を並べた真ん中の人の金額(中央値)の半分以下で生活している人の割合です。

日本の貧困ライン(相対的貧困に該当する金額)は、月の使えるお金(等価可処分所得)が約10万円。月10万円では、暮らしていけないと感じる人がほとんどではないでしょうか。その人数が全人口の16.1%いるのです。1980年代には12%だったので、徐々に貧困率は上昇しているといえます。

また、2009年のOECDの平均は約10%、日本は32カ国中の下から6番目、アメリカが5番目で、ワーストはイスラエルの20.9%です。日本は豊かな国というイメージを持っている人にとっては意外な数字ではありませんか。これが、日本の貧困問題の現状です。
 
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貧困問題や支援の現場について知りたい方、すでに現場で活躍されている方などが、貧困問題に関する基礎知識をまんべんなく学べる「もやい貧困基礎講座」。貧困問題に関心のある方がたくさん学ばれています。

貧困と聞いて、思い出しがちなのは、都会の駅や河川、公園などにいるホームレス状態の人かもしれません。国の調査ではこのような人びとは全国で6541人(2015年1月時点)という、実際にホームレス状態で暮らしている人の数よりも非常に少ない結果になっています。それは調査方法に問題があり、昼間に目視でカウントするため、見た目でわかる人しか数に入れられていないからです。

そういった数に入っていないホームレス状態の人として、最近は、ネットカフェ難民という言葉もよく知られるようになってきました。

大西さん ネットカフェ、ファストフード店で寝泊まりしている人は2000年代以降増えています。なぜかというとネットカフェ自体が最近のものですよね。ネットカフェ等で寝泊まりしている人の実数を把握している統計はない状態です。

このようにホームレス状態は、路上で暮らすだけでなくネットカフェやファストフード店を利用する、知り合いの家を転々とするなど多様化しているのですが、それは仕事も同様です。

以前は空き缶を拾ったり、古紙回収をしたりといった、ホームレスと聞いて想像しがちな仕事が多かったのに対し、今は、スマートフォンで登録会社に登録し、派遣で仕事に行く人が増えているそうです。ホームレス状態の人の暮らし方や働き方が多様化し、逆に見えずらくなっているのが現状なのです。

つまり、「街で出会っても、その人がホームレス状態にあるかどうかわからないということです」と大西さんは言います。

大西さん ネットカフェで寝泊まりしているということは、ある程度ちゃんとした格好をしていて、泊まるお金もあるので仕事もしている。野宿しているわけでも、炊き出しにくるわけでもない。けれども困っている。

こういったホームレス状態の人たちの見えずらさは、日本の貧困問題の特徴といえます。非正規雇用など不安定な生活をしながら、健康状態やメンタル面に問題を抱える人が増えているという、見えずらい困窮が広がりつつあるのが、日本の貧困率の上昇の背景にあるのです。

貧困の原因は? 住居がないことの問題は?

そう聞いても、自分は貧困状態には陥らないだろうと感じる読者もいるかもしれません。それでは、なぜ人は貧困状態に陥ってしまうのでしょうか。

その疑問に対し、まず大西さんは、人が収入を得る手段を4つ挙げました。「働く」「社会保障制度を利用する」「家族に養ってもらう」「資産を活用する」。この4つによって人は収入を得ています。

つまり、働けなくなる=貧困ではなく、社会保障制度がきちんと整っていれば、貧困に陥る人は現れません。仕事以外のほかの支えがないとき、人は貧困状態に陥ります。

大西さん たとえば、家族関係が難しく援助が受けづらいような人、貧困家庭に育った人、DVや虐待の被害に遭うなどして家族関係が断絶している人、母子家庭で働きながら子育てできる状況がない人など、社会の中でより弱い立場にある人ほど貧困に陥りやすいのです。

働くことへのハードルと、家族の援助などの人間関係へのハードル、両方が高いからですね。本来はそういう人のためへの社会保障制度があるべきですが、支え切れていないのが現状です。

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失業や病気などは、誰にでもありうるリスクです。そのように困窮しても、本人の状況や環境に弾力性があれば、貧困からは免れます。けれども、同じダメージでも、弾力性が弱く脆弱(バルネラビリティと言います)な人は、傷を受けやすく、回復しにくいのです。

そして、貧困状態に陥った人が住居を失うことももちろんあります。住居がなくなって一番の問題は、希望がないことだそうです。

住所がなければ、履歴書に住所も書けず、仕事も見つけられません。仮に見つけられても、日雇い労働で暮らしていると、正社員として働き始めて給料が出るまでの生活を支えることもできないのです。

日雇い労働で暮らしている人たちに対して、もうちょっと頑張って仕事を見つければいいのにと、自己責任的に思うのは簡単ですが、そのような人たちは日雇い労働をするしかない状況におかれている、それ以外の選択肢を奪われている状態なのです。

大西さん 住むところがないというのは、社会のあらゆるサービスが受けられていない状態、人権を侵害されている状態と言ってもいいんです。だから、住居を用意することは、恩恵的なものでもギフトでもなくて、奪われているモノを整え、全ての前提を取り戻すことなんです。

保証会社の登場など市場の変化により、もやいの活動が保証会社から取りこぼされる人の受け皿になるといった、本来の活動から変化してきている難しい状況にありますが、もやいのおかげで、アパートでの生活を取り戻し、安心して暮らせるようになっているホームレス状態だった人もいます。
 
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面談がおこなわれるのは、毎週火曜日。一人ひとり異なる生活にまつわる相談を受け付けています。

貧困に対して私たちができること

貧困問題を理解しようとしても、自分に何ができるか、何をしていいかわからないという人は多いでしょう。

大西さんは、「自分の近くの人に関心を持ってほしい」と言います。

現在の日本の相対的貧困率で言えば、小学校の30人のクラスのうちの5人は貧困状態です。10年後の同窓会で、貧困状態の5人がいれば、仕事を紹介するなど、何かアクションを起こせるかもしれないと、大西さんは提案します。

大西さん けれども、それが3000人の街だとその存在は遠くなります、30万人ならむしろ税金を使うなという人も出てきます、3000万人、1億人になると自己責任だろうと言われます。顔が見えるか、見えないかがすごく大事なんです。

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あなたの同僚の中にもトラブルを抱えている人もいるかもしれません。隣に住んでいる人がDVに悩んでいるかもしれません。「そういう身近にある社会問題に自分が関わっていないと思わないでほしい」と、大西さんは強く言いました。

貧困問題をニュースとして数字で知るだけではなく、その中に知っている人の顔を想像してみることで、身近にいる困っている人に声をかける一歩を踏み出せるかもしれません。

クラスや職場の中に、外からはわからないけれど、金銭的に困っていたり、家庭内にトラブル抱えていたりする人がいる可能性を心に留めておき、その人たちとつながることができれば、誰もが貧困問題の解決にささやかでも取り組むことができるのではないでしょうか。