あなたは「まち」と関わりながら暮らしていますか?
自分の住んでいるまちや出身地、あるいは、一度訪れたりニュースで知ったりして、気になっているまち。たとえそのまちに暮らしていても、「関わっている」と感じることは、実はあまりないかもしれません。
特に、学生のみなさんは親元離れた一人暮らしをしていたり、勉強やサークルに忙しく、「まち」との接点を持つ機会は少ないもの。そんな学生のみなさんと「まち」をつなぐ取り組みが今、全国各地で始まっています。
今日ご紹介するのは、商店街という昔ながらの場所に拠点を構え、学生と地域をつないでいるトランスカルチャーシェアスペース「Deまち」。京都のまちなかにあり、そのまちの人々だけではなく、田舎と都会をつなぐ役割を果たしているというその場所には、日々、学生が立ち寄り、商店街や地域の人々と交流を持っているのだとか。
シェアオフィス、イベントスペースなど、さまざまな顔をもつ「Deまち」について、管理人の西馬晋也さんにお伺いしました。
1986年生まれ、京都府与謝野町出身。株式会社応用芸術研究所取締役。2006年~同社が運営する河和田アートキャンプに大学生の頃から関わる。大学卒業後、東京の紙加工会社のデザイン部局に勤務。退職後、2010年株式会社応用芸術研究所に入社。福井県本社勤務を経て、京都Xキャンプの企画・運営を担当となり京都府へ。現在、同社「Deまち」サテライトオフィスの管理人として地域と若者をつなぐ役割を担う。
多様な人と地域、文化が交わり合う拠点として
京都市上京区。鮮食料品や日用雑貨店など、個性豊かな店舗が軒を連ねる「出町桝形商店街」の一角に、学生や子ども、お年寄りなど様々な人が出入りする場所があります。
Deまちの入口。営業時間中はシャッターが上がり、いつもオープンな状態。
ここが、「Deまち」。オーナーは商店街にある衣料品店で、商店街組合が備品置き場としても利用しているスペースの一部を利用しているため、商店街の方々とまちの人の間に、自然に交流が生まれています。
場所自体は、河和田アートキャンプ・京都Xキャンプの学生の拠点として2012年12月に「Deまち」として正式オープン。
出町桝形商店街の大きな特徴は、周囲に大学が多いということ。京都大学、同志社大学、京都工芸繊維大学、京都精華大学、京都産業大学など、市内でもとくに学生が多い場所です。
「Deまち」は、そんなまちの強みを活かして、学生のみなさんと合同でイベントを開催するなど、学生がまちに関わる入り口としての場所づくりを行っています。
現在の用途は実に様々。24時間利用可能なシェアオフィスや月極め、時間貸しのコワーキングスペースとして利用されている他、地域のお祭りや商店街のイベントの集会所になったり、まちづくりに関するセミナーや講座が開かれたり。
京都府の都市と農村をつなぐため、京都各地の美人ママによる1日限りのスナックがオープンする他、地域の物産展が開かれることもあります。
地域のお祭りの際には、集会所として利用される。七夕祭り、餅つき大会など、商店街イベントにも積極的に関わっている。
京都府内の各地域から、地元を愛する美人ママが地元の美味しいお酒とおつまみ、小話を用意して、一夜限りのスナックをオープンするという酒場企画「スナック京都のどこか」。記念すべき第1回は、相楽郡笠置町からゲストママを呼んで開催。
また、芸術系の学生がお店のシャッターにペインティングするシャッターミュージアム事業(商店街組合主催)への協力や、出町エリアの歴史やまちの成り立ちを知る「出町まちあるき講座」を開催するなど、「Deまち」からまちへと飛び出していくことも。
商店街のお店のシャッターに、ペインティングをする学生。
一人でも、カップルでも、親子でも気軽に楽しみながらマチの歴史に触れられる。
このように、「Deまち」は、単なるイベントスペースとしてだけではなく、商店街の人々や学生が自然に交わり合う様々な企画を生み出すことで、まちの人と人、さらには地域間の交流のきっかけを生み出す拠点としての役割を果たしているのです。
「まちづくりにつかれた人へ送る、まちづくり講座」の様子。まちづくり事業に関わる人や学生が集まり、半年間かけてまちづくりの実験を行った。現在も参加者有志で補講が継続されている。
学生がまちに関わるはじまりの場所
「Deまち」を運営するのは、福井県に本社を置き、全国で地域づくり事業を行う株式会社応用芸術研究所。
桝形商店街との出会いは、2007年、同社代表の片木孝治(かたぎ・こうじ)さんが京都市ごみ減量推進会議が提唱する「2R型エコタウン構築事業」に関わったことがきっかけでした。商店街や京都精華大学の学生のみなさんと共に、買い物時のごみ削減について実践したのだそうです。
その後同社は、以前greenz.jpでもご紹介した「河和田アートキャンプ」の他、学生が京都の農村活性化をめざす「京都Xキャンプ」など、各地域でプロジェクトを展開してきました。
活動の規模が広がるにつれて、プロジェクトに参加する学生たちの拠点が必要になり、目をつけたのが、桝形商店街のシャッターが下りたままの空き倉庫。気軽に若者が集まる場所として、また、同社の都市部拠点としても機能する「Deまち」が誕生しました。
「Deまち」のコンセプトについて、管理人の西馬さんは、こう語ります。
「Deまち」の「De」は「脱」の意味で、都市部の中心の構造から抜け出すという意味が込められています。
例えば、アートを学ぶ学生と商店街の魚屋さんが偶発的に出会ってハプニングが起こったり、商店街のおじさんが会議中のオフィスに出入りするような、建築的には本来分離しなければならない部分が共存している、そんな不思議な空間です。
色々な世代や立場の違うコミュニティが共存することで、偶然に「トランスカルチャー」が生まれる可能性が設計されています。
「Deまち」のある路地では、新しい出会いが生まれている。
「空調が整っていて、オシャレな場所もいいけれど、商店街にあるDeまちとしては、そこを目指さなくても良い」と、西馬さんは続けます。
路面の開かれた場所で、誰でもアクセスできて、かつそのアクセスした人が商店街の周辺で、何か良いことをつくっていけて。それに対して共感する人がいて、つくった人が対価を受取ってまた返せるような、そういう仕組みをつくっていけるようにしたいと考えました。
そのために、まずは「日常的にイベントをやろう」と決めた西馬さん。オープンから約半年経った現在は西馬さんが企画するイベントが中心ですが、商店街の店主、学生、地域の人たちが自主的に企画を持ち込み、年間365日、毎日イベントが開催されるような状態をめざしています。
東京にB&Bという本屋があります。毎日欠かさずイベントをやっていて、でもちゃんと人が集まっていて、僕はすごく好きな場所です。でも京都にも大阪にも、まだ毎日イベントをやってるところはない。
イベントを通じて、だんだん共感する人が増えていって、「Deまち」を知る人が増えていく。そこから、その人たちが今度は「Deまち」を使って発信したり、商店街や学生と関わっていったり、そういうまちづくりの拠点にしていきたいですね。
農山村で活動する学生が夜な夜なミーティングをすることもある。
京都市内にも、いくつかまちづくりの拠点施設はありますが、やはり「Deまち」の魅力は、学生が深く関わっているところにあるようです。
「Deまち」は、「河和田アートキャンプ」や「京都Xキャンプ」に関わる学生が、都市で活動するための拠点です。プロジェクトのミーティングや報告会を開催したり、夜遅くまで活動冊子を作成したり。
他にもサークルやゼミの活動で、学生が一般向けのイベントを開催することもあり、商店街も賑やかになってきています。
まちの雰囲気は、やはり行き交う人々によって変わるもの。学生が集まる「Deまち」の存在が、商店街やまちに小さな変化を巻き起こし始めているようです。
大人との出会いが、僕をまちづくりに進ませた
西馬さんがまちづくりの道に進むきっかけとなった、河和田アートキャンプ。
学生の頃から、芸術の視点でまちづくりに関わってきた西馬さん。でも初めから関心があったわけではなく、今の道に至るまでには様々な出会いがあったと言います。
大学2年生から「河和田アートキャンプ」に関わっていました。最初は、野外で作品をつくり、展示できるから参加しようという感覚でしたが、3年、4年と年間を通じて関わっていくにつれて、代表の片木に、この活動の未来について深く教えられました。
片木さんは当時、京都精華大学建築学科の教員(准教授)を務めるとともに、河和田アートキャンプの総合ディレクターとして活動の運営を行っていました。「2006年当時はこのような活動はほとんどなく、将来のことを考えることは霞を掴むような話だった」と、西馬さん。
継続していくにはどうしたらよいか、卒業した後はどうしたらよいか、地域が経済的に潤うにはどうしたらよいかということを議論していくうちに、徐々にまちづくりに関心が出てきました。
河和田アートキャンプを通じて出会った地域の特産物を販売することも。
その後、東京で就職した西馬さん。デザインの仕事をしながらも、地元・京都のこと、学生時代に関わった福井のことが忘れられなかったそうです。
そんなときに、インターンシップや起業支援を行う、NPO法人ETIC.を通じて、福島・会津で伝統工芸と若者をつなぐ仕事をする株式会社明天の貝沼航(かいぬま・わたる)さんに出会います。
貝沼さんに「地域が抱える問題に気付いたんだったら、責任を持ってそこに飛び込もう」って言われて。たぶん、貝沼さんは覚えていないと思う。でも、当時は衝撃だったんです。
周りの人が「地方に自分のフィールドがほしい」と言っている中で、自分には福井、そして故郷の与謝野町がある。うーわ、やらなあかんなと、ある意味勘違いさせられた。当時、やっている人が少なかったので、ビジネスチャンスだと感じて飛び込みました。
「河和田アートキャンプ」で地域の人も知っているし、京都には友だちもいる。西馬さんは、まちづくりで先を進む先輩に背中を押されるように、東京で就職してわずか1年、応用芸術研究所に入社し、福井県鯖江市へIターンすることを決意します。
その後、「河和田アートキャンプ」や「京都Xキャンプ」の事務局担当として、学生と農村をつなぐ仕事を始めた西馬さんですが、2015年2月には「Deまち」の正式オープンが決定。同時に管理人に抜擢され、結果として、地元・京都へUターンすることになったのです。
ゼロからイチを生み出すきっかけづくり
商店街で主体的に活動する学生のみなさん。活動地域である与謝野町で、農家と協力しながら自分たちで栽培するトマトを販売。
現在、約200名もの学生が出入りする「Deまち」。様々な学生のみなさんとの関わりの中で、西馬さんはこんな想いを抱くようになりました。
僕は、「田舎に行ったこともないし、興味もない」という“ゼロ”の学生を“イチ”にするところをやりたくて。
ポテンシャルは高いけどやり方がわからない人とか、自分の能力を活かす場所を見つけられていない人に、活躍の場を見つけてもらいたい。自分の居場所は一つじゃないということに気付いてほしいですね。
最終的に選ぶ場所は田舎でも都市でも海外でもいい。そういう視界を獲得できる場所にしたいです。
地方への移住が注目されている近年。「Deまち」にも移住促進の役割を期待する声もあるそうですが、西馬さんはあくまでゼロからの“きっかけづくり”に焦点を絞っています。大人の事情や地域の事情を決して学生に押し付けない。そんな姿勢が、「Deまち」に気軽に立ち寄れる雰囲気を生み出しているのでしょう。
桝形商店街に企画協力して開催した与謝野町の物産展には、多くの人が足を運んだ。
さらにこれからは、「都市農村交流機能を広げていきたい」と、西馬さん。
都市から田舎へ、田舎から都市へ、もっと気軽に行き来できるようにしたいです。
魅力的な場所でも、そこに住む人を知らないと、おそらく一回しか訪れない。でも、好きな人が居たら、何回も行くと思うんです。そうやってお互いが大切に思える場所が増えるのはいいですよね。
“まちづくり”と聞くと、移住したり、地元出身じゃないと関わることができないイメージがあります。でも西馬さんと話していると、「肩肘張らずに、自分のできるところから関わっていけばいい」と気付きます。
「いつかUターン・Iターンしたい」とぼんやり考えている人も、忙しく働いている人も、地域にゆるく関わっていけるようにしたいです。
結果を求めなくてもいい。すぐじゃなくても良い。 「今の生活の中で何ができるだろう」と考えるようになるくらいで、ちょうどいいのだと思います。
若者と地域がゆるやかに交わり合う場所へ
オープンして約半年。前を通るたびに挨拶をしてくれる商店街の店主や近隣住民や、気軽に足を運ぶ学生の姿を見ていると、西馬さんが理想とする「Deまち」に、少しずつ近づいていることを実感します。
「Deまち」で毎日何かが行われていて、学生や商店街の人、地域の人が出入りをして交流が生まれる。そんな賑やかで楽しい場所にしていきたい。そこから、まちに関心をもつ学生が増えていったら。
もちろん、まちづくりに関わる人が増えることも嬉しいですが、例えば、まちに関心のある学生が、卒業後にどこかの会社に就職して、学生の頃の経験を活かしてその会社で活躍するような。一人ひとり、それぞれのフィールドで、まちに関わっていく流れを生み出していきたいです。
まだまだ生まれたばかりの「Deまち」。これからどんな人と人が結びつき、新しいプロジェクトが生まれていくのでしょうか。商店街や学生がどう変わっていくのでしょうか。今後がとても楽しみです。
「近所の子どもたちともよく遊んでいます」と西馬さん。
「まちに関わりたい」。少しでもそんな気持ちがあるのなら、あなたのまちの商店街に、ふらりと足を運んでみてはいかがでしょうか。元気の良い魚屋さん、健康に気を遣ってくれる八百屋のおばちゃん、自分の店を開く若者。きっと「また、会いたいな」と思える人に出会えるはず。
その出会いが、あなたが自分のまちに関わり、自分らしい生き方を見つけるきっかけになるかもしれません。