突然ですが、みなさんは「小さな図書館(Little Free Library)」という活動を耳にしたことがあるでしょうか?
「小さな図書館」とは、個人や企業が家のそばにポストのような書棚を置いて、もっている本を近所の人とシェアするというプロジェクト。本の貸し借りを通じて地域の人びとが知識を共有しあい、コミュニティを形成していくことを目標としてかかげています。
今回ご紹介するのは、そんな「小さな図書館」プロジェクトに「アート」をかけあわせた「The Public Collection」という取り組みです。
「The Public Collection」は、街のさまざまな場所に、地元のアーティストたちが制作した小さな図書館を設置するというもの。アメリカのインディアナポリスで8月に正式な活動がスタートし、これまでに9つもの個性あふれる書棚が市内の8か所に設置されました。
さっそくいくつかの作品をみてみましょう。ひとつめはBrian McChutcheonさんがデザインした「Monument」。『トム・ソーヤーの冒険』で知られる作家マーク・トゥエインからひらめきを得て制作されました。
モニュメントの上部にかたどられているのは、マーク・トゥエインのこんな言葉です。
公立図書館とはもっとも永続的な記念碑であり、真のモニュメントといえるでしょう。出来事や人々、感情などを保管しつづけるのです。だからこそ、戦争や革命が起きても守られ、生き残ってこられたのです。
一見、明るくポップなデザインですが、単に本を貸し借りするだけじゃないモニュメントとしての図書館を表現した作品でもあるようです。
次はちょっとした建築にもみえる「Table of Contents」という作品。デザイン、制作を行なったのはStuart HyattさんとShimizu + Coggeshall Architectsです。
この「Table of Contents」は、ホームレス支援を行なっている「Horizon House」という福祉施設に設置されています。
制作者たちがつくりたかったのは、ホームレスの人びとが心地よく本やオーディオブックを楽しむことのできる憩いの場。落ちついて一人になれるスペースを保ちながらも、集まった人たちが交流を深めるコミュニティとしても機能するように設計されているそうです。
そして、ぱっと見ただけでは何の形か分からないこちらの本棚は、Katie Hudnallさんによる「Nautilus」。
ユニークな形は水にうかぶボートをイメージしたのだとか。本はボートのようにわたしたちをちがう世界に運んでくれること、ときには困難にたちむかう手段になってくれることなどを表現しています。ちなみに、この作品は地元で手にいれた木材や廃材からつくられているとのこと。
こんなふうに、「本」や「図書館」への思いがぎゅっと詰まったプロジェクトを率いるのは、自身もビジュアル・アーティストであるRachel Simon(以下、レイチェルさん)。本の虫だったお父さんの本に囲まれて子ども時代を過ごしたレイチェルさんは、大人になった今でも本を心から愛しています。
彼女がプロジェクトをはじめたきっかけは、冒頭に紹介した「Little Free Library(小さな図書館)」プロジェクトのニュースを目にしたこと。
「ここにアートを組みあわせたら?」と思いつき、インディアナポリス公立図書館と協力してプロジェクトを進めてきました。ちなみに今年の8月末に書棚を設置してから1ヶ月のあいだに、なんと6000冊もの本が貸しだされたのだとか!
シモンさんがプロジェクトを通して伝えたいのは、「文学やビジュアルアートはみんなのものだ」ということ。「本やアートは、コミュニティのみんなで共有されるべき」と考える人がもっと増えてほしい。そんな願いが「The Public Collection」には込められているのだそう。
シモンさんは、次のように語っています。
本を手にとるうえでバリアや邪魔になるものはひとつもありません。そして、どんなバックグラウンドをもっているのか、階級やステータス、人種などはまったく関係ありません。
だれもが街を歩いて気軽に本を手にいれることができる。わたしにとってこれはすごくワクワクすることなんです。
でも、「だれでも本を手にいれることができるなんて普通なのでは?」と思う人もいるかもしれません。しかしシモンさんは、「みんなが気軽に本にアクセスできることは、人びとが思うほど当たり前ではない」と言います。
実際、アメリカでは低所得者層のおよそ3分の2が家庭にいっさい本を所有していないといわれており、本にふれる機会が少ない人々にとって、図書館は貴重な場所になっているのです。
電子書籍で名著が無料で読めたり、調べものだってネットで事足りてしまう今日このごろ。本や知識を得るための場は、図書館のほかにもたくさんあります。
しかし、アーティストたちがつくった小さな図書館たちが示すように、図書館にはコミュニティだったりモニュメントとしての役割もあります。そういった意味で、時代は変わっていっても図書館は人びとにとって必要な場でありつづけるのかもしれません。
もしみなさんが「The Public Collection」に参加するとしたら、どんな小さな図書館をつくりたいですか?
そこで人びとにどんなふうにアートや本を楽しんでほしいですか?
読書の秋が終わる前に、自分なりの小さな図書館を想像してみるのもいいかもしれません。
[via The Public Collection, GOOD Magazine, CICF, IndyStar, Fox59, SkyBlue Window]
(Text: 向晴香)