富山県高岡市金屋町、銅器産業の中心として栄えた町
富山県高岡市は日本の鋳物生産のなかでもトップシェアを誇り、昔ながらの伝統を守りつつも、常に新しい価値をもった製品がうまれている場所です。
それらの製品は「高岡銅器」と呼ばれ、高い評価を得ています。今回は、そのなかでも現代の高岡銅器を牽引する「株式会社 能作」新夛(にった)さんを訪問し、ものづくりへのこだわりを取材してきました。
高岡の鋳物づくりの歴史
高岡は、1609年に加賀前田家二代目当主、前田利長が築いた高岡城の城下町として発展した場所。
高岡銅器の長い歴史の始まりは、その2年後となる1611年に、産業の振興をめざして現在の金屋町に7人の鋳物師(いもじ)が招かれたことがそもそものきっかけとされています。
銅板葺きの民家の壁
当時、鋳物(いもの)を製作することができたのは、免税などのさまざまな制度で優遇された特権階級の職人たちのみでした。
ところが江戸中期になるとこの許認可制度が崩れ始め、誰もが鋳物を製作できるようになりました。こうして、高岡の鋳物づくりは更なる発展を遂げることとなり、全国でも有数の鋳物産地としての地位を築きはじめます。
「能作」の工場内。
様々な形の風鈴が並びます。
自社商品の開発。曲がる金属「錫(すず)」を導入
「能作」の創業は1916年。当初は仏具や茶道具の製造をしていたそうですが、近年ではテーブルウェアやインテリア雑貨、照明器具、建築金物などを手掛けています。
以前は問屋の下請けの仕事が中心でしたが、10年ほど前からオリジナル商品の製作をはじめました。
記念すべきその第一号が「ベル」。しかし残念なことに評判は上がらず、思考錯誤の末にベルは「風鈴」へと形を変えました。それが見事に大ヒットし、日本各地で「能作」の真鍮の風鈴がその美しい音色を奏でるようになっていきます。
型に溶かした錫を流し入れる様子。
高岡の鋳物づくりは、原料に銅合金を用いるのが主流でした。その中で能作は、新しい商品開発にあたり抗菌性も高く設備投資のあまりかからない純度100%の錫に着目しました。この取り組みがきっかけで、それまであまり知られることがなかった高岡の鋳物づくりが、さまざまなメディアに取り上げられるようになりました。
市内には能作の器で飲食が楽しめる「GALLERY NOUSAKU」があります。
このように、分業で下請け製造が中心の高岡の鋳物づくりを能作は現場発信の手本となり、先陣を切って未開拓の道を切り開いていきました。こうした能作の残した轍を辿って、他の工場も各々の技術を用いて商品開発を行うようになったのです。
職人の熟練した技術が必要とされる手作業。
柔らかい、錫の特性を活かした商品は、日本に留まらず海外でも高い評価を受けています。
見学当日は快晴、そしてとてもクリーンな生産現場でした。
現場の持つ悪いイメージを払拭
また、能作は一般の方の工場見学も積極的に受け入れ、生産現場を公開しています。今回の私たちの取材も含め、外部からのさまざまな訪問を受け入れて下さる現場は、とてもフレンドリーで風通しがよく感じました。
若い職人さんが沢山いらっしゃいました。
とはいえ、このような取り組みを行うまでは、鋳物づくりの現場に対するイメージは「3K」(きつい、汚い、危険)とされ、地元の学校教育でもあまり触れられることもなかったそうです。
現在、能作では日本各地から集まった多くの若手職人が働いています。中には、何度も何度もアプローチした末に、ようやく就職できた女性の職人さんまでいます。10年ほど前までは20人ほどの社員数でしたが、なんと今では100人を超えています。
このように全国から職人が集まるようになったのは、能作の確かな鋳造技術と、ひらかれた受け入れ体制が、これまでの鋳物づくりの現場の大変なイメージを一掃させたからだと思います。
金沢の伝統である金箔とコラボレーションした商品。
今回は、「小さな町工場から一企業へ」飛躍を遂げようとしているものづくりの現場を目の当たりにすることができました。
私たちは、高岡銅器の未来を背負っているんです。
と語る社長の元で、高岡の鋳物づくりの先陣を切って走り続けてきた「能作」の物語の一部に触れることができました。
その近くで、これからも「能作」が残していく新たな轍を辿り、紹介していきたいと思いました。
(Text: 下山和希)
1988年、宮城県生まれ。東京の某アパレル会社でデザイナーを経て、2015年9月に金沢に移住。北陸産地の工場や工房の訪問取材をしながら、石川県金沢市を流れる犀川沿いにある3階建てのビルをリノベーションしたコミュニティスペース「セコリ荘 金沢」のディレクターを務める。金沢文化服装学院で教鞭も執る。
セコリ荘 金沢
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