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対立がある場所にこそ、対話が必要! 本当の平和とは何かを探る、ヨハン・ガルトゥング博士と安倍昭恵総理夫人による「積極的平和」対談

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今年は戦後70年談話が発表されました。また、安全保障関連法案は世論をふたつにわけ、若者たちの大規模なデモもおこなわれています。今、平和・戦争に対しての市民の関心が高まっているといえるでしょう。

そんなさなか、8月にノルウェーの平和学者ヨハン・ガルトゥング博士が緊急来日し、首相公邸に安倍昭恵総理夫人を訪ねました。

ガルトゥング博士は「平和運動」ではなく、「平和学」のアプローチを提案し、「対立」がある場所にこそ、「対話」が必要だと語ります。果たして、本当の平和=ポジティブピースとはどのようなものなのでしょうか?

本日は9月21日、国連が定めた「国際平和デー」の特別コンテンツとして、greenz.jp独占でガルトゥング博士と安倍昭恵総理夫人の平和対話をお届けします。
 
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Johan Galtung(ヨハン・ガルトゥング博士)
1930年ノルウェー生まれ。平和学の第一人者で世界的に「平和学の父」として知られる。1959年に世界初の平和研究の専門機関、オスロ国際平和研究所(PRIO)を創設。1964年には影響力のある専門誌、平和研究ジャーナル(Journal of Peace Research)を創刊。その他多くの平和研究機関設立に貢献している。

平和学の教授としてコロンビア大学、立命館大学など世界中で数千人の学生を指導。1957年からこれまでに100以上の国家間、宗教間紛争を調停した経験を持つ。平和を戦争のない状態と捉える「消極的平和」に加えて、貧困、抑圧、差別などの「構造的暴力」がない「積極的平和」を提起し、平和の理解に画期的な転換をもたらした。また紛争解決ではなく紛争転換という考え方、トランセンド法(超越法)を発案し、1987年にもう一つのノーベル賞と言われる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞している。

これまでに発表した平和に関する文献は共著を含み1600以上で著書は160を数える。2000年には世界初のオンラインで平和学が学べる大学、トランセンド平和大学を創設した。また、国際NGOトランセンドの創設者で代表でもある。なお彼は、24歳の時良心的兵役拒否をして6ヶ月投獄され、兵役と同じ期間である12ヶ月間の市民奉仕活動している。現在も平和学と平和を広げるための活動を続けている。

安倍昭恵(あべ・あきえ)
1962年6月10日、東京都生まれ。1987年6月9日、安倍晋三氏と結婚。ミャンマーで学校(寺子屋)づくりの支援を始め、11回ミャンマーに通う。山口県下関市で無農薬のお米「昭恵米」を栽培。農作業、ランニング、ゴルフ、薙刀、フラダンスなど、いろいろな趣味に取り組む。

平和学ってなに?

安倍昭恵さん 今年は戦後70年で、多くの人が平和であったり、戦争であったりを考える機会になっていると思います。

私自身も、8月15日に特攻隊の飛び立った知覧というところに行って祈って参りました。数日前は靖国神社にも参りました。

主人が今やろうとしていることを、戦争にむかっているのではないかと思ってる方たちがいらっしゃいます。特に、子どもを持ったお母さんたちは、自分の子どもを戦争に行かせたくないという気持ちを抱いていらっしゃるようです。

私は、最終的にはすべての国の軍事力を持たないようになったら良いと思います。それはとても難しいことかもしれませんが、今日は博士にいろいろお話をうかがわせていただいて、学ばせていただきたい。主人に伝えることができたらいいと思います。

ガルトゥング博士 お目にかかれて光栄です。少しでも説明ができたらと思います。私はよく「平和学」という学問の”父”といわれますが、今の私の歳からすると平和学の”おじいさん”ということになるかもしれませんね。

私が最初に「平和学」に関心をもったのは、「平和というものが健康と非常に近い」と考えたからです。良く言われるのは「消極的な健康」に対し「積極的な健康」という考え方です。同じように平和も「消極的な平和」、そして「積極的な平和」というように考えられます。

「消極的な健康」とは、ただ単に病気でないという、消極的な状態です。本当の健康は気分もいいし、身体も強く、精神的にもクリエイティブで、こころの状態もポジティブで明るい状態のこと。

どんな人でも病気になることはありますが、真に健康な人は少々、病原菌が入ってもすぐに回復できますよね?

安倍総理が仰られている「積極的平和」は英語では「プロアクティブピース」と訳されていますが、これも自分の健康に置き換えて考えることができます。ポジティブな健康はプロアクティブです。健康に例えて考えるとわかりやすいですよね。
 
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ガルトゥング博士 65年ほど前、私は「この分野が必要なのではないか」と思い研究をはじめました。なぜなら、それまで学問としてこの分野は存在していなかったからです。人間の学術的研究のなかで、「平和」という分野がすっぽり抜け落ちていると感じていました。

「消極的な平和」は「単に戦争がおきていない」という状態。あるいは「武力衝突がおきていない」という状態。もちろんそれも大切なことです。

一方で、健康を蝕むもっとも深い病根はなんでしょうか? それは「コンフリクト(conflict=対立、紛争、衝突)」です。コンフリクトを完全に解決しなければいけません。

「消極的な平和」の中にも、コンフリクトはあります。たとえば、尖閣諸島がそうです。竹島や北方領土もそうです。戦争はおきていないけど、コンフリクトはあるのです。日本の近隣の3国を考えただけでもコンフリクトがあります。私たちは、コンフリクトを解決するべきです。

積極的平和とは、そういう諸国ともいい関係を育てていくということです。5つの側面があります。少しレクチャーっぽくなりますが、その5つの側面をお話しましょう。

積極的平和の5つのアスペクト

POINT 1:コオペレーション(協力的関係) ”cooperation”
問題のある国であっても積極的に関係をむすんでいって、協力的な関係を結ぶ。しかしそれがどちらか一方に利益があるような形ではいけません。他方に不利益があるようなことでもいけません。どちらの国も利益がもたらされるような解決方法を目指します。

POINT 2:ハーモニー(調和) ”harmony”
そして、それは調和がとれたものが必要です。ハーモニーとはこころの通いあい。相手を人として見て、こころの痛みを感じあい、喜びを感じあう。理解とは表面的なことではなく、お互いのこころを感じあうことです。

POINT 3:インスティテューション(共同体・組織) ”institution”
ただ2国だけが良ければいいというわけではありません。そのベースになる組織が必要です。たとえば国連など、北東アジア協力機構とか。そのようなコミュニティが必要です。ヨーロッパの場合のEUなどです。個人であればインスティテューションは結婚です。国家の場合は共同体ということになります。

POINT 4:ユニティ(結びつき) ”unity”
結婚した男と女が一体となって考えたり、行動するように。別々の人間ではなく、結びつきがひとつになること。国家の場合もひとつになって動くこと。ヨーロッパ共同体が「ヨーロッパ」というひとつの国のように動くこと。良き夫婦関係のように。

POINT 5:インスパイア(影響しあう) ”inspire” 
相手から利益を得るだけではなく、お互いが良い影響をうけあうようにするのが大切です。そうすることで、より高いレベルへと上昇することができます。ヨーロッパ共同体は、アフリカの国家連合にも良い影響を与えました。そして、そのアフリカの共同体の国家連合を手本にして、ラテンアメリカでも国際機関ができました。

尖閣諸島、竹島、北方領土の問題

ガルトゥング博士 消極的平和と積極的平和は両方必要です。

尖閣の問題を考えてみましょう。どうやって武力衝突にならないかを考えるなら、両者が主権を主張するのではなく、共同管理が必要です。

尖閣に関していえば、ジョイントオーナーシップ(Joint Ownership)=共同所有をおすすめします。そこで生まれる利益については、40%をそれぞれ日中に分配し、残り20%を漁業の資源保存に使うということなどがいいでしょう。同じように竹島の問題も、領有権は韓国と日本のどちらかということではなく、共同で管理するのです。
 
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尖閣諸島のひとつ、久場島 Wikipedia Commons

ガルトゥング博士 北方領土も大変難しい問題ですが、これも共同管理が望ましいです。それは日本の主権を主張して取り戻すということではなく、ロシアも主権を主張するのではなく、共同で所有するということです。ロシアは二島返還を示唆していますが、そうすると日本には二島の主権がありますが、二島の主権はロシアに残ります。

そのうえで共同開発ということを言っていますが、それではいけません。主権は放棄したうえでの共同開発が必要です。コンフリクトの解決の方法は、共同で同じ条件で管理することが大切なのです。

また北方領土は、アイヌのひとたちが長く住んでいたという歴史があります。一島はアイヌのひとたちに返還するということも良いかもしれません。それは、日本の歴史にとっても大切なことです。
 
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現在はロシア連邦の実効支配下にある、択捉島の風景。1981年撮影 Wikipedia Commons

ガルトゥング博士 実は私は南京大学によばれて、尖閣諸島や東シナ海について講義したことがあります。そのときは、中国の領土・領海問題の専門家の方たちも来ていらっしゃいました。彼らは、歴史的にだれが占有、領有したか、研究してきたひとたちです。もちろん日本側にもいろんな資料があるとおもいますが。

200人ほどの専門家の方たちがいらっしゃいましたが、そこで共同管理の提案をしたところ、スタンディングオベーションで受け入れてくれました。もちろん、北京の中国政府のスタンスは見解を聞けば、もっとハードな答えになるとおもうのですが、民間の学者の考えはもっと柔軟です。日本についても同様ではないでしょうか?

日本でも政府の見解はハードラインになってしまうとおもいます。しかし日本にも柔軟な発想ができるように、中国にも柔らかい流れがあるんです。

竹島・独島の問題も同じです。この問題では韓国政府だけでなく、北朝鮮も関係してきます。紛争解決の専門家としてこの問題をみれば、ロシアにも関係する問題であることも忘れてはいけません。

私はこの問題は北東アジア全体で考え、管理する必要があると考えています。竹島問題は、朝鮮半島において主権が主張されてきました。だからソウルだけではなく、ピョンヤンの考え方も忘れてはいけない。私は外の立場ですが、私の見解では、中国よりも韓国よりも難しいのはロシアだと思います。

北東アジア共同体の構想

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ガルトゥング博士 私はこれらの問題は、北東アジア共同体、東アジア共同体の中で考えると、解決ができるのではないかと考えています。

ヨーロッパでは過去、1958年1月1日にヨーロッパ共同市場(EC)ができました。最初は6か国でECを始めました。当時のヨーロッパの状況は、東アジアの状況よりひどいものでした。今はヨーロッパ連合(EU)になりました。もちろん種々の問題はあります。しかし問題を解決するメカニズムがあります。重要なシステムとしてヨーロッパ議会(European Parliament)がある。

もしその道を進むのであれば、日本はヨーロッパ議会に倣って、議会を設けることを考えるべきでしょう。選挙の仕方は市民が直接投票するべきです。政府が指名するのではなく。公正に。

その本部はいったいどこに置かれると良いのでしょうか? それは北京ではなく、東京ではなく、上海でも福岡でも、ピョンヤンでもありません。わたしは沖縄を勧めます。特別県として本部を置くべきです。

かつては琉球王国で、平和で軍隊も持っていなかった。1872年に日本に征服されてしまいましたが。沖縄を特別県という位置づけにすることが重要です。沖縄は、地理的にも理想的です。民族的にも、日本、中国、琉球という背景を持っている。積極的平和。ECでうまくいったのですから、ここでもできるはずです。

尖閣の共同管理は、可能か?

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安倍さん 私自身、平和のためにはまず近隣諸国と仲良くすることが大切だと思っています。中国に対しても韓国に対しても、「大好き」というメッセージを出し続けています。

しかし尖閣と竹島は微妙な問題で、日本の歴史から見ると日本の領土という認識になります。ですから中国と共同管理となると、日本としては譲歩したことになるのではないのですか? 例えば尖閣は半分は中国の管理とすると、次は沖縄というように攻めてくるのではという人もいますが、どうなのでしょう?

ガルトゥング博士 ですから、ハーフハーフではなく、ジョイント管理(共同管理)なんです。

安倍さん 沖縄は今、日本のものとなっています。しかし尖閣の共同管理に成功すると、そこに中国人がどんどん入り込んで、更なる主張をし始めるという懸念はないのでしょうか?

ガルトゥング博士 そうは思いませんね。”特別県”になったなら、それは日本にも中国にも沖縄にとっても特別なものとなります。

安倍さん 対馬に韓国人が今どんどん入ってきています。花を植えたりし始めている。とすると次は、対馬となるのではないでしょうか。

ガルトゥング博士 それは確かに理解できます。日本がそういう風に考えてしまうのも分かる。でも、発想を変えてみませんか?

小さな幼稚園でぬいぐるみの取り合いがある。でも、この方法で解決できるのです。幼稚園の先生を訓練をして、A君のものではなく、Bちゃんのものではなく、みんなのもの(=幼稚園のもの)とするのです。テーブルの上に置いて歌を歌ってあげたりもできる。「私のもの」という考え方から、出てみませんか。

実際に国際紛争の解決としては、エクアドルとペルーの例があります。この時は、私が仲介をしました。彼らは、アンデスの山の領土権で長いこと紛争していました。エクアドルもペルーも、自分のものだと主張してきたのです。戦争は54年続きました。何度も停戦協定があって、それは破られてきました。でも共同管理とすることで、今では戦争したことすら忘れられているのです。

安倍さん 考え方としてはわかります。日本でも国内で領土争いが続いてきました。

ガルトゥング博士 でもその中から日本ができたんですよね。
 
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積極的平和のために

安倍さん 私が少しお聞きしたいのは、ガルトゥング博士は軍備力が必要と思われていますか? ”健康”という話でしたが、強い体をつくるためには、軍備を持つという考え方もあると思うのですが。

ガルトゥング博士 軍事力は必要だと思います。しかし、それが良いバランスになるときもあれば、時には悪くもなる。軍事力を進めると、お互いの弱い点を探すということになります。日本のことも、北朝鮮も中国がスパイしているし、日本も同じでしょう。

どちらかがより相手より強くしようとすると、軍拡になってします。軍拡は非常に危険です。今この状況においては、私はそのことを非常に懸念しています。

安倍さん 私は政治家ではないので、私ができることをするだけなのですが、総理夫人として少しは影響力を持っていると思っているので、できることをしていきたいです。

たとえば、子どもたちをつなげていきたい。子どもというのは、何の情報もなければ誰とも仲良くなれると思います。なるべく子どものころ、若いうちにたくさんの国の人とつなげていきたい。彼らに国を超えた友だちができれば、友のことを思い浮かべるので、簡単に戦争はできなくなるでしょう。

中国人の子どもが日本に来たときに、中国では日本人は鬼だと教わってきたというエピソードを聞いたことがあります。しかし実際は、鬼ではなくて本当にやさしい人と、来てみて初めて分かってもらえました。だから、私は人の交流を盛んにしていきたい。つながることが必要です。

子どもだけではなく、人から何かをしてもらった経験をもつ人、たとえば障がい者同志がつながることもある。誰かに助けてもらった経験をもつ人には、誰かの助けをしたいという気持ちもある。障がいをもっていることが、平和のために役立つことがあるんだと思うと、力になっていくのではないかと思うんです。

ガルトゥング博士 非常に大事なことですね。
 
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ファーストレディーとして

ガルトゥング博士 安倍首相は聡明で力のある方です。私は政治的には賛同する者ではないが、尊敬(Admire)はしている。また一方で、強くて聡明な方として、私は中国の習首相のことも尊敬しています。おふたりのファーストレディーがお会いなってはいかがですか?

安倍さん 去年北京でお会いしました。おきれいで、聡明でオーラがある方でした。プロの音楽家でいらっしゃいました。夫人プログラムの中でお会いして、もっとお話をしたいと思いました。

ガルトゥング博士 それを公式にしてジョイント幼稚園をつくられてはいかがですか?

安倍さん 女性がつながることは大事なのかなと。男性は人に勝ちたいし、上に上がっていきたいし、戦う生き物なのかなと。

ガルトゥング博士 私も男としてそのような要素があると思いますが。男でも、てなずけることができる。ファーストレディーで始めることはいいアイデアですね。
 
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ファーストレディーとして積極的に活動される安倍昭恵夫人 Some rights reserved by Commander, U.S. 7th Fleet

安倍さん 政治家の中でも、女性の政治家が増えると変わっていくのかなと。

ガルトゥング博士 地位に上がっていくと、女性でも男性以上に男性になるんですよね。立場が、性的(性差)なものよりも上回ることが多いんです。

安倍さん 女性が少ない中で上に立つとそうかもしれませんが、女性が多い中では違って来るのではないかと。

ガルトゥング博士 そうかもしれませんね。

安倍さん どちらがいいということではなく、バランスが大事なんだと思います。数の問題ではなく。

安倍首相の70年談話について

安倍さん 主人は、70年談話の中でも女性に言及していました。主人はすごく色々考えて、官僚や秘書官につくってもらったのではなく、自分自身で考えに考えて書いたものなんです。あれ以上のものはできないというぐらい考えていたんです。

主人はこれ以上、謝り続けるということを後の世代に残したくないと。戦争したことはどの国においてもあるはず。今生きている私たちが戦争をしているわけではなく、それでも謝り続けなくてはいけないというのは、私も違うと思うのです。

主人は戦争は2度としてはいけないと思っているし、戦争で国のために亡くなった方々に対して感謝の気持ちを持たなくてはいけないと言っています。

戦争で亡くなった方を美化するということではないけれども、命を懸けて守ろうと思ったことは事実で、命を懸けて守られたこの国を、立派な国にしていかなければならないという気持ちは彼の中であると思うんです。

女性については、戦時中はどんな状況にあっても女性は犠牲になっている人はたくさんいたので、このようなことが2度とあってはいけないと思います。
 

戦後70年の安倍晋三首相談話

ガルトゥング博士 首相の談話については賛同します。未来の世代までいつまで謝り続けるというのは、平和に関係がない。苦々しい思い、反発という悪い心を起こさせることです。

安倍さん 戦争に負けると社会的にも経済的にも大きなダメージ被ると考えると、次は勝たなくてはいけないと思ってしまう人もいます。

国連も、現在は戦争に勝った国が中心に意思決定を行っているように見えますが、本当に平和をつくろうと思うなら、戦争に負けた国たちも含めて意思決定をしていくべきであると思うんです。

ガルトゥング博士 未だに戦勝国が支配しています。特に英米が。

ヨーロッパは、1000年もの間、戦争をし続けたわけです。しかし今は、西ヨーロッパで戦争が起きることは考えられないです。同じことが東アジア、北東アジアで起きることを祈っています。ECは6か国で始まったのですから。核の傘は破壊的。ピースアンブレラ(平和の傘)をつくる努力が必要です。核の傘より価値がある。

安倍さん しかし戦争がなくとも、軍需産業が一大産業となっている国もあります。軍需産業は世界のどこかで戦争があることによって成り立っている。そういう意味では、自国が平和でも戦争に関わっているということもありえるので、根本から解決していく必要があると思います。

ガルトゥング博士 その通りです。特に日本に対して高い兵器を売ろうとしている。

NATOはすべて一致しているわけではなくて、フランス、ドイツはアメリカに対して非常に懐疑的になっている。だからアメリカは日本に来るのです。これまでイエスマンとして、「はい、はい、ハイ」と言ってきた日本に来るのです。そして兵器を売ろうとしている。

安倍さん 自衛隊も高い兵器を買っていますが、必ずしも日本で訓練ができないので、アメリカなど他国で演習しているようなケースもあります。

ガルトゥング博士 それは平和の道ではないですね。

安倍さん 安全保障の観点からはアメリカとも仲良くしなくてはいけないし、難しい。

ガルトゥング博士 でも仲良くすることはすごく大事です。アメリカとの友好関係は保たなくてはいけません。しかし友人といっても、もっと対等でなくてはいけないのです。

ご主人も「はいはい」と言っているだけではなく、対等でなくては。日本は独立国なんです。独立国家として誇りをもって行動すべきなんです。

安倍さん 今までの総理に比べると、物を言っていると思うのですが…

ガルトゥング博士 政治基盤も強いですしね。

安倍さん TPPも日本の主張を強く発言しながら、交渉していると思います。

ガルトゥング博士 TPPは危険をはらんでいると思います。
 
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私たち自身の成熟が積極的平和を実現する

ガルトゥング博士 70年談話は素晴らしかった。しかし、今審議中(8月20日に取材)の安保法案はよく理解できない。それが、どういうふうに噛み合うのか。

安倍さん 主人は日本を独立した国にしていきたいという気持ちがあって、軍国主義を取り戻すという事ではなく、戦後日本が失ってしまった日本人の芯を取り戻したいと思っているのではないでしょうか。

そのためにはアメリカとは友好的な関係を維持したいけれど、いつまでもアメリカの傘の下にいる訳ではないということを、いきなりはできないので、安保法案をその一歩としているのかなと私は理解しています。

今までにないほど海外に積極的に出て、海外の首脳と密接な関係をつくろうとしていて、それが彼の実践している積極的平和の一つだと思う。そういう関係の中で、中国とも韓国とも、ただ仲良しという事ではなく、政治的交渉も行いながら関係を良くしていかなくてはいけないと主人はわかっていると思うので、これからだと思います。
 
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ガルトゥング博士 おっしゃることに、全く同意です。

でもアメリカは日本に対して、アメリカがISに対峙するときに助けてくれることを期待している。アメリカは、日本が近隣諸国と良い関係を保つかには関心がないんです。ただ日本が、如何にアメリカを支援してくれるかにしか興味がありません。その点ではアメリカは賢いやり方ではない。

ISの人は無人機で殺されているが、1人殺されたら、10倍のテロリストを生む。申し上げる時間がないのは残念ですが、彼らがどういう思考をもっているのかを思うと、日本がそのような泥沼に入ってほしくありません。

安倍さん テロとの戦いではなく、なぜテロリストが生まれるのかという点では?銃を持って育てられて、親兄弟を戦争の中でなくしている子どもは、どうしても負の影響を受けてしまいます。そういう子どもを一人でも減らしていきたい。

ガルトゥング博士 かつてのタリバンやアルカイダと、きちんと話すことが大事です。彼らのやっている暴力行為は許せないが、なぜそういう行動に出るのかを話し合わなければわからない。

安倍さん 日本人も、私たち自身が成熟していかないと積極的平和は難しいのかなと思います。「やる!」という勇気を持つことが必要なのかなと。

大事なのは「愛」です。 このことは、難しいですもの。主人にきちんと伝えられるかなと。まずは一人の人も、主人ひとりにきちんと理解してもらうことも大変なことで…

ガルトゥング博士 世界は常に変化しています。意外と良い方向に変化している側面もありますよ。

北欧諸国は600年戦って来て、最終的にCooperation(協力)という考え方に行きついた。北欧諸国のユニオンができ、EUもできた。ASEANもやっている。ぜひ日本を中心にトライしてほしい。ぜひ良い面を見出してベースにしてください。共同プロジェクトをつくれば必ず良い方向に変わっていきますね。

安倍さん 最初のきっかけは、環境問題がいいかもしれませんね。

ガルトゥング博士 環境問題はいいですね。

安倍さん 子どもの問題も。

ガルトゥング博士 ファーストレディー幼稚園です(笑) すべて実現可能ですよ。
 

(2015年8月20日、首相公邸にて。対談ここまで)

 
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ガルトゥング博士の語る「積極的平和」(ポジティブピース)と安倍総理の語る「積極的平和」(プロアクティブピース)は、同じ言葉を使っていてもまったく意味は異なります。

博士の語る「積極的平和」(ポジティブピース)は、完全なる平和。すべての武器を捨て去り、和解し、紛争の種を消し去った状態。そしてその状態は「対話」によってもたらされるといいます。ふたつの国がどちらが正しいかを争うのではなく、双方にとって新しい創造的な解決法を探し出すという「超越法(トランセンド)」。

一方、安倍昭恵夫人は「女性」や「子ども」や「弱者」の力が、平和にとって果たす役割があるといいます。それは「軍事」や「主義」という「強い力」とはちがった、しなやかなアプローチであることが印象的でした。

この記事をまとめている最中、安全保障関連法案が参院特別委員会で、自民・公明両党などの賛成多数で可決され、成立しました。今、戦後70年の平和国家の大きな転換点が訪れています。国会前では、空前のデモが起きています。目が覚め、気づき、声をだし、民主主義とは何かを問いかけはじめました。

おまかせ民主主義から、本当の参加型民主主義へ。

対立がある場所にこそ、対話が必要! 本当の平和=ポジティブピース。みなさんも考えてみませんか。

– INFORMATION –

 
TOKYO FMピースデー特別番組
ポジティブピース! 2015
2015年9月21日20時〜21時オンエア

司会: 今井広海(TOKYO FMアナウンサー)
出演: ヨハン・ガルトゥング(平和学者)、安倍昭恵(首相夫人)、根本かおる(国連広報センター所長)、丹下紘希(映像プロデューサー/NoddiN)、上田壮一(Think the Earthプロジェクト理事 / プロデューサー)、谷崎テトラ(放送作家/ピースデージャパン共同代表)
http://www.tfm.co.jp/timetable/?date=20150921