みなさんは、地域の治安を改善しようと思いたったら、何をしますか? 警察のパトロールを強化することや、監視カメラの設置などが思いつく方が多いかもしれません。
今回はこれまでにない視点から、住民が安心して暮らせる街をつくろうとしているメキシコのプロジェクト、「Pachuca Paints Itself」をご紹介します。
メキシコの都市、パチューカにあるパルミタス地区は、貧困層が住むエリア。これまで若者による犯罪や、暴力事件の多発など、暗くなったら外に出歩けないほどの治安の悪さに悩まされていました。
もともとのパルミタス地区の様子
この問題の改善ためにパチューカ政府が声をかけたのは、ストリートアート集団の「Germen Crew」。なんと行政が、街の壁一面を使った巨大なアート作品を依頼したのです!
209戸の家を含んだこの壁画の大きさは、2万平方メートル! 東京ドームの敷地面積が4万6755平方メートルですから、そのおよそ半分もの面積を染め上げることになりました。
一旦全ての壁を白で塗り、キャンバスをつくります
完成後の風景。カラフルで生き生きとした生活スペースへと生まれ変わりました!
どの家の壁画も一つで完結することはなく、隣の家とつながるように描かれていることがわかります
見違えるように生まれ変わった街の様子に、住民の一人は「とても満足だ」として、こう話します。
朝、目が覚めて周りを見渡すと、カラフルな色に囲まれているのです。それはとても美しくて、私は「なんて素晴らしいのだ!」と外に出て声をあげたい気持ちになります。
壁を塗る作業は住民と共同して行われ、その結果、住民間の会話が活発になり、これまで家と家とを隔てていた階段の踊り場で、子どもたちが遊び始めたといいます。またこのプロジェクトによりいくつかの雇用が生まれ、若者による犯罪は根絶されたのだとか!
プロジェクトディレクターのEnrique Gomez(以下、エンリケさん)は、この予想以上のインパクトに驚いていると話します。
正直、何が一番私をびっくりさせたかというと人々の変化です。彼らは成長し、コミュニティへの愛着が芽生えました。住民たちは自分たちの手で安全な暮らしを手に入れたのです。
エンリケさんら、Germen Crewのメンバー。元ギャングでアートが人生を変えるきっかけになったというメンバーも
アートの持つ力が、健全なまちづくりの促進に役立つということを、見事に示したこのプロジェクト。住環境の美しさと色の持つ力が住民たちの心を活性化させただけではなく、「街を新しくつくる」という作業が、人々のコミュニティに対する意識を育てた様子。今後は、観光目的に来る人々も増え、それによる雇用や経済効果も期待できそう。
一方で、今は目新しいこの景色も、やがては見慣れていくもの。どうやってメンテナンスをし、持続的なコミュニティを育てていくかということがこれからの課題になっていきそうです。
みなさんもこの機会に、アートが街や社会に貢献できる役割について考えてみませんか? もし、いいアイデアが浮かんだら教えてください!
[via inhabitat,designboom,ASSOCIATED PRESS,STREETARTNEWS,The Telegraph,mitu beta,Facebook]
(Text: 高橋尚子)