「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」

greenz people ロゴ

感性と直結する音楽の魅力を共有する。スマイルズ遠山正道さん×おとまち佐藤雅樹さん対談、音楽の価値の問い方、伝え方

tymst1
(左)おとまち佐藤雅樹さん(右)スマイルズ遠山正道さん

街づくりと音楽の関係性を探る「音楽の街づくり」対談。

「グッドネイバーズジャンボリー」坂口修一郎さん「ミュージックシティ天神」松尾伸也さんに続いて、今回はスープ専門店「スープストックトーキョー」やネクタイブランド「giraffe」、そして現代のセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などを手掛ける株式会社スマイルズの遠山正道さんをゲストにお迎えします。

音楽も含む、カルチャーやアートの価値を常に捉え続けながら、ビジネスでも新しいコンセプトを打ち出し続ける遠山さん。自分たちの取り組みの価値を自身に問い直すことや、それを周りへ広く伝えるときに大切にしていること…お話のなかに出される事例もおもしろいものばかり。

音楽に限らず、あらゆるイベントや場づくりのヒントになることが詰まったお話、どうぞお楽しみください。

音楽=感覚とのダイレクトな関係

tymst4
「おとまち」のパンフレットを手渡して

遠山さん はじめまして。こちらの音楽の街づくり連載シリーズ、今まではわりと音楽に関係されている方が登場されていたんですね。

佐藤さん 今日はよろしくお願い致します。音楽にべったりというよりは、そのなかでもコミュニティに関係されている方々にご登場いただいてきました。

世の中のために音楽が活用できる部分について、新しい切り口で広げていきたいと思っています。

遠山さん 今の時代はやりたいこととビジネスを結びつけて考えることが大事ですよね。“ビジネスのためのビジネス”ではなく、「なぜやっているのか」という視点が大切だと思います。

スマイルズもいくつかの事業がありますが、収益的にはうまくいかないことも多く、それぞれのブランドが潰れてしまうタイミングなんてこれまでにいくらでもあった。

けれど「それでもやりたい」という想いや「何がきっかけだった?」と戻って考えることを繰り返しながら、なんとか生き残り、気がつけば長く続いていた、というケースがほとんどです。必然性だとか、立ち帰れる根源的な部分が無いと踏ん張れない。
 
tymst3
遠山さん

佐藤さん 本当にそう思いますね。

遠山さん 音楽や楽器といったものは、そもそもビジネス目的で出てきたものでではないから良いなあと思います。音楽が好きだ、とか自分の身の周りにあった、とか。そういうスタートがすごくいいし、なんとも羨ましい。

私も近頃は、どんどん個人の範囲の小さいビジネスに興味を持つようになってきていて、それも音楽のような個人的なものに近いのかもしれません。

とはいえ、「何のためにやるんだっけ?」と「じゃあそれでどのように生計立てていくの?」の両側からの問いがあるわけで、どちらの立場も大変ではあるなと思いますが。

佐藤さん ちなみに、これまでヤマハで一番大きかったビジネスの軸は音楽教室でした。とはいえメインとなる対象はお子さんたち。今後、少子化という意味では教室だけをやっていても…ということもあり、ヤマハでもさまざまな新たな取り組みを始めています。

代表的な例としては、新しくマンションが建てられる際に、その街の核となるようなオーケストラ、バンドのようなものをつくりましょう、というもの。

3年間でそこに根付くオーケストラが本当にできるかどうかわからないけれど、みんなで奮闘しながらやっています。音楽を通じると、左脳で理解するより先に、音という感覚でつながれるところがいいですね。

遠山さん それはもう始動されているんですか?

佐藤さん はい。今年で2年目です。これは三菱商事さんと野村不動産さんとヤマハおとまちとの取り組みですが、お互いにそういう接点でやったことがない事例でしたから、誰もが自分ごとで納得できて、かつ組織のなかでやっていけるか、というところがポイントになっています。

仕掛ける側のメンバーとしても、自分の家族に自慢できる仕事だと言ってもらえるプロジェクトになってきていますね。
 

ふなばし 森のシティで生まれた「フォレストシティビッグバンド」(ヤマハおとまちウェブサイトより)

遠山さん 僕が音で感動した経験といえば、友人であるドリフターズ・インターナショナルというチームが、横浜の黄金町で開催した映画祭のプロジェクトですね。

黄金町の商店街にスクリーンを建て、その前で5分くらいの映像をヘッドフォンしながら観るんです。山の奥のような、とても静かな映像。商店街には人がわーっといるのに、完全に没入して本当に涙が出てきそうになって、ヘッドフォンを取るとまたわーっと街の喧噪が。

そのとき僕は「音はすごいなあ」と心底、感じました。映画なんかは、音と映像が同時にくるからずるいって思うんですけど(笑)

佐藤さん 素敵ですね!!

遠山さん あ、あとあれもすごかった! 「サイレントディスコ」って知っていますか? 僕は昨年の六本木アートナイトで体験したんですが、みんながヘッドフォンをして音の無いところでガンガンに踊っているんですよ。

周りからみると完全に異様なんですが(笑)今度は渋谷の図書館でやったりもするそうで。つまり、音一発で、静かな図書館で踊りまくっている状況もつくり出せてしまう。音が生み出すギャップも魅力ですね。

佐藤さん なるほど。やはり、できるだけ多くの人に触れられる場所、いろんな場所でやってみたいなあと思いますよね。
 
3844172733_255a941b21_z
サイレントディスコの様子 Some rights reserved by Underbelly Limited

合理性の逆にある、本当の価値とは

遠山さん 地方だったら、楽器とやる気さえあれば、いくらでも鳴らし放題!という場所は多そうですね。音を自由に鳴らすために移住する、というケースも増えるかもしれません。

佐藤さん おとまちの地方での事例としては、仙台の「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」があります。イベントとしては20年以上続いてきており、おとまちとしては東日本大震災後に関わるようになりました。

仙台の定禅寺通りを中心に公園なども利用して開催するのですが、いわゆる商業系のフェスとは異なっていて。市民が主催となり、2日間で70〜80万人もの人が訪れます。中には尺八を持参する人もいますね。

なかなかパッケージ化された音楽が売れなくなってきている時代でもあるので、新しい動きかと思います。
 
tymst2
佐藤さん

遠山さん そういったお祭り的なものが、地域ごとに出てくるとおもしろいですよね。

以前、「スペクタクルインザファーム」というサーカスのようなお祭りを那須高原で開催しました。我々の蝶ネクタイブランド『giraffe』と、『シアタープロダクツ』というブランドとで、動物王国でファッションショーを開催したんです。

アルパカやら羊などが50頭ぐらい出てきて。予行演習でアヒルが全然いうこと聞かなかったけれど、本番では奇跡的にちゃんと行列して出てきてくれて、
もういいコトだらけでした(笑)

佐藤さん 緑のなかで音楽をやるのは独特だなあと最近よく感じます。去年、宮下公園を中心に「渋谷ズンチャカ!」という音楽イベントを開催しましたが、渋谷にもこんなに緑があるんだ、と見えてきたり。

外で活動をすると、人とつながることの根源的な楽しさが見えてきますよね。いろんなところでやればやるほど、さらにいろんなものが見えてくる。
 

渋谷ズンチャカ!の様子

遠山さん ただ、音楽については「何が好き?」と聞かれるとちょっと発言しづらい感じもあるな、と思っているんです。ちょっと照れくさいし、少しややこしいことを言いたい、みたいな。

なんか深くなってないと音楽が好きって言っちゃいけないかな、というような感じってありますよね? なんだかレベル高そうというか。

佐藤さん そうですね。日本では、どうしても欧米文化の一面のみを持ってきた、みたいなところもあって。情報を左脳だけで処理しちゃうとそうなってしまったりするけれど、もっと「楽しいだけで十分じゃん!」ってなってもいいはずですよね。

音楽が提供できる価値にしても、チケットが5,000円のコンサートに行って「高かったな」と感じる場合もあれば、「こんなのが5000円でよかったの?!」というときもある。

遠山さん 僕は最近、「価値あるものに価値がある」とよく言うんです。「価値がある」と思えるのならば、あとからビジネス仕様に整えていけばいい。逆にいえば、価値が無いものには無い。

じゃあその価値って音楽の場合は何?と考えてみたら、「みんながつながれる」であるとか、そういった部分に関して、音楽はとても見いだしやすいと思うんです。

佐藤さん なるほど。

遠山さん ここで少し話が飛びますが、スマイルズは今まで自社のことだけをやっていたんですが、他社さんの課題解決もお手伝いしようということで「スマイルズ生活価値拡充研究所」をスタートしたんです。

さらに、小さいけど魅力的な個人のような企業に出資し、仲間も増やしています。やるならば、中途半端に関わるよりも“自分ごと”としてできたほうがいいだろうと、出資した企業にスマイルズからチームメンバーを入れているケースもあります。
 
tymst5

佐藤さん 思い切った取り組みですね。

遠山さん 逆に言えば、何かを思いついたときに実現するための手段を広げていこう、ということでもあります。全部自分でやるととても無理かなということも、他社さんと一緒だったらできることもありますよね。

ほかにも、今年の8月に越後妻有「大地の芸術祭の里」で、スマイルズがアーティストとして作品を出すんです。

佐藤さん 遠山さんご自身、ではなく会社がアーティストとして。

遠山さん はい。それもわかりやすいリターンはないわけで、コストもかかります。でも、なんでやるのかといえば「価値がある」からだし、「価値ってどういうことだっけ」という問いを、自分たちに投げかけたいからなんです。

最近、現代アートのコレクションもしているのですが、そこから学ぶことが多いですね。「現代アートにスマイルズ!」という、言葉で説明できない感じがいいなあ、と(笑)
 
main
作品名は「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」(株式会社スマイルズのウェブサイトより)

佐藤さん 新しい価値が生まれる瞬間でもありますね。

遠山さん 簡単にいうと、合理性の逆、ということです。合理的なことだけで全部うまくいくんだったらどうぞやってくれ、ということで(笑)そんな簡単なことじゃないですよね。

「じゃあなんだっけ」と自分たちで考えながら、どうせだったら自分たちが憧れている世界へ登って行きたい。それがスマイルズの場合、現代アートだったんです。

お店づくりと音楽

tymst6

佐藤さん 話は変わりますが、スマイルズの店内環境をつくり出す音楽は、どのように選ばれていますか?

遠山さん スープストックトーキョーについては、松永耕一さんというDJもされている方にお願いしていますね。「食」が中心の空間ということ、「ちょっとマイナーな感じ」とお伝えはしていますが、基本的にはお任せです。

佐藤さん 遠山さんご自身がコミットしているのが大事なのでしょうね。遠山さんはそういったクリエイティブな部分とマネジメントを、どういうバランスで考えられているんですか?

遠山さん マネジメント部分というのは、社員もみんな真面目だから、当たり前に数字をはじくわけです。

その上で僕としては、“価値”とか“新しさ”というような、つまり「さすがスマイルズ」と言ってもらえるところを大切にしたい。そうすることで社長として踏ん張れる。

100億円のビジネスがひとつあるのはもちろんいいけど、2億円のビジネスが50個あるのも素敵だと思うんです。それで、あわせて10社くらいに出資しています。

佐藤さん いいですね。

遠山さん そのうちのひとつが、5月にオープンした「森岡書店銀座店」。東京の茅場町でとても素敵な本屋をやってきた森岡さんと、銀座の昭和4年にオープンした5坪しかない場所で1冊の本しか売らないという変態的な本屋をやることになりました(笑)

1冊の本を軸に、キュレーター、ギャラリストのような立場で森岡書店が好きな本を2週間ずつ展開していく。利益がなんぼと考えたらかなり怪しいわけですが、その彼にしかできない世界観があの場所ででき上がったら素敵だな、と。

佐藤さん そういう価値にお金を活かしているんですね。

遠山さん ただの“外注”ではなく、お互いよくわかっていて、お金のやり取りというより、面白いものつくってこうという日頃からの仲間として関わり合えているような、そんな関係性を広げたいんです。

今は、いかにチャーミングでいい仲間と出会えるかが重要で、マネタイズみたいなものは、その後で考えればいい。

佐藤さん いかにいい仲間に出会うかが大事。とても共感します。

遠山さん かつてスープストックトーキョーが本格的に展開していくとき、自分の中から出てきたキーワードが“個人性と企業性”でした。必然性のある個人が生み出すセンスや情熱を、企業が持つネットワークや信用力で応援していく。

その分、個人性の部分には、企業側の不協和音が入らないほうがいいですね。そのままだからこそ、我々も学ぶことが多いですし。

佐藤さん さきほどの「スマイルズ生活価値拡充研究所」の話は、“企業性”を広げるチャレンジでもあるんですね。企業の中にいると、個人性みたいなことをなかなか出せない、という話もあるなかで、とてもスマイルズさんらしいと思いました。

僕たちも、ありがたことに「とにかく、おもしろいことをやってください」という期待をたくさんいただいています。今日のお話は今後のヒントになりそうです。ありがとうございました!

(対談ここまで)

 
tymst7

遠山さんが「音楽はずるいなあ」と嫉妬の発言を何度もするほど、音楽には圧倒的な力があることを再確認した今回の対談。音楽を介した新しいコミュニケーションの可能性はこれからも広がるばかりです。

また、おもしろいことを始める個人とそれを応援する企業の関係性についてのお話も、これからの企業のあり方についての示唆に富んでいたのではないでしょうか?

音楽やアートの分野に限らず、「価値ってなんだ?」という問いを誰もが見つめ直すことで、きっとさまざまな場所でちょっとずつ新しいことが始まる可能性につながっていくはず。おふたりの熱い対談が、何かのきっかけとなれば幸いです。

(撮影: 秋山まどか)