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これからは、音楽のほうから会いに行く。グッドネイバーズ・ジャンボリー坂口修一郎さん×おとまち佐藤雅樹さん対談「地域をつなぐ音楽の使い方」

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坂口さんが手がけている「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」の様子

特集「音楽の街づくりプロジェクト」は、音楽の力を通じてコミュニティの未来をつくるプロジェクトを紹介していく、ヤマハミュージックジャパンとの共同企画です。

「あなたは、何か楽器が弾けますか?」

ラジオやイベントで音楽を聴くのは好きですが、こう質問をされるたびにドキッとします。なぜなら僕は、小さいころに音楽教室で厳しい先生にあたって以来、楽器の演奏に挫折してしまったから。

こんな風に、“音楽への苦手意識”を持つ人にこそ、この対談を読んでほしいです。

ヤマハミュージックジャパンが2009年から取り組んでいる「音楽の街づくりプロジェクト(通称おとまち)」。これは、人口減少と少子化が進む日本で「音楽が持っている力」を利用し、地域をつなぐための活動です。

同社でプロジェクトリーダーを務める佐藤雅樹さんが「音楽とコミュニティ」をテーマに、さまざまな方に話を伺う対談篇。今回は、佐藤さんが「ミュージシャンであり、コミュニティづくりのきっかけになる取り組みをしているのでお会いてみたかった」と語る、坂口修一郎さんをゲストに迎えました。

坂口さんは、東京を拠点にミュージシャンとして活動しながら、郷里の鹿児島で「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE(グッドネイバーズ・ジャンボリー)」を手がけています。
 
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坂口修一郎(さかぐち・しゅういちろう)
1971年鹿児島生まれ。ミュージシャン、プロデューサー。93年、青柳拓次(リトルクリーチャーズ)、栗原務、ボーカリストの畠山美由紀らと、10人編成の無国籍楽団Double Famous(ダブルフェイマス)を結成。トランペット、トロンボーン、パーカッションを担当。Landscape Products(ランドスケーププロダクツ)に所属し、アートイベントや企業のコミュニケーション・ディレクターも務める。2010年より鹿児島の野外イベントGOOD NEIGHBORS JAMBOREEを実行委員長として主催。東日本大震災後に緊急来日したジェーン・バーキンの公演におけるバンドのコーディネーションとプロデュースでも知られる。

暮らしに寄りそう音楽

坂口さん ようこそいらっしゃいました。この「CURATOR’S CUBE(キュレーターズ・キューブ)」は、僕が所属する「ランドスケーププロダクツ」がディレクションするスペースです。

佐藤さん 1Fアートギャラリーだけでなく、2Fで服や雑貨を販売したり、家具やインテリアも展開しているんですね。バスルームまであって、ライフスタイルをそのまま見せている。

坂口さん ええ。この部屋では僕らがつくる家具が使われている風景を見せる目的もあるんです。

佐藤さん 今はやっていませんが、以前はヤマハでも家具をつくっていたんですよ。ピアノで使われる木材には素晴らしいものが多いので。

坂口さん それは、実物を見たかったな。僕はミュージシャンやプロデューサーとして普段は主に音楽に携わっていますが、好きな音楽を聴くときって「いい椅子に座ってくつろぎたい」「できれば美味しいコーヒーを飲みながら聴きたい」となりますよね。

そうやって暮らし全般に関わっていきたくなって、会社として手がけるコンテンツがどんどん増えていったんです。
 
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対談は、坂口さんがディレクションをしている虎ノ門の「CURATOR’S CUBE」にて行われました。グリーンズと日本仕事百貨が運営する「リトルトーキョー」から、徒歩30秒!

全国にある400もの市民音楽祭

佐藤さん 改めて、おとまちの役割とは、コミュニティづくりのツールとして「音楽の力」を伝え、自治体や企業のサポートをすることです。普段は通りすぎてしまう駅などの公共空間、賑わいを取り戻したい商店街、マンションの新しいコミュニティなど、さまざまな場所に関わってきました。

たくさんの出会いから、私自身は「市民音楽祭」のようなスタイルが、音楽の力を生かすのに最適ではないかと思っています。商業的なイベントを除いて調べても、全国で大小500くらいの音楽祭があることがわかったんです。

坂口さん 他のものも含めたら、スゴい数ってことですね。

佐藤さん でも、音楽をテーマにした街づくりにも、イベントの日にしか街に音楽が流れないところも多いです。

坂口さん 先日は仙台に行ってきたんですが、おとまちが関わる「JSFスウィングカーニバル(定禅寺ストリートジャズフェスティバルのオープンステージ)」は盛り上がっているようですね。

佐藤さん 2011年から始まった、楽器を持っていれば誰でも参加できる音楽祭です。前回はゲリラ豪雨に見舞われてしまい、チューバなんか、演奏中に水をジャーッと出しながらやってました。こういう自由さが音楽の本来の姿だなって実感できましたよ。

坂口さん 濡れても大丈夫ですからね、金管楽器は。僕なんか一緒に風呂入って洗ってあげます(笑)

確かに、全国で500も音楽イベントがあるっていうのは、とてもいいことだと思います。僕は、5年以上「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を続けていると、いろんな地方の人に相談されるんです。

共通の悩みとして、“続かないこと”があります。それはネタが尽きちゃうから。有名な人を呼ぶだけでは予算もあるから2〜3回で終わってしまう。つまり、ディレクションする人がいないんですね。地域から引っ張れる人、ディレクターの役割を担える人が増えれば、状況も変わるはずです。
 
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グッドネイバーズ・ジャンボリー、オリジナルのバッジ。右は、イベントを開催している地区の地元の陶芸家の作品

音楽のほうから会いに行く

坂口さん 鹿児島は地方なので、音楽活動してる人も少ないです。だから「グッドネイバーズ・ジャンボリー」は音楽だけじゃなく、陶芸家とかアーティストとか、とにかく彼らが発表をする場所にしました。ライブも展覧会もトークショーも一緒にしたんですね。

ただ、どんなに素晴らしい器を見ても、1000人がウォーってならないじゃないですか。それを実現できるのが音楽の力。音楽のほうが外に出て行かなきゃな、と思っています。自分たちのバンドはフジロックなどのフェスティバルに出て行くんですが、音楽の世界はまだ敷居が高い部分もあるのかもしれません。

佐藤さん 音楽のほうから会いに行く、なるほど。

坂口さん 僕は代官山のUNITというライブハウスとクラブの立ち上げに5年くらい携わりました。自分でやる音楽はアコースティックなんですが、そのスペースではエレクトロニックなトガった音楽をやっていて。

ある日、企業のイベントで「初めて来ました」というお客さんに、「近くに住んでいたけど、怖くて入れなかった」と言われたんです。そして「音楽を知らない人が入っていい場所か不安だったけれど、中にいるのは普通の人で安心した」と。

それを聞いたときに結構ショックでした。僕は音楽が昔から好きだったから当然だったけど、昔のジャズクラブなんかでも、地下や建物の奥に通じる穴の中に入って行かなきゃいけない。それは未知の人にとって「怖い」んだって気づいたんです。

だから、扉を開くだけじゃなくて、もう壁自体をなくさなきゃいけないと。それがジャンボリーをやろうとした最初のきっかけです。

佐藤さん それは音楽の世界の中にいる人は、あまり気づかない感覚かもしれませんね。

坂口さん 商業施設の仕事でも同じで、とにかく出て行こうと。福岡のパルコが大きくなるタイミングでは、衣裳を揃えてミュージシャンが街を練り歩いたんですね。お祝いのお裾分けを音楽でやろう、と。中に来てない人に向けパルコの方から出て行く。

渋谷のヒカリエでやっている「ヒカリエ楽団」でも、突然ハプニング的に演奏しましたね。“音楽の方から会いに行く”、それを大切にしています。
 
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「ヒカリエ楽団」の模様。商業施設のなかに突然現れるさまざま音楽に通りがかりの人々も沸き立ちます。

音楽史の転換点にいる私たち

佐藤さん 商業音楽の歴史は、それほど長くはありませんよね。19世紀に蓄音機が発明され、20世紀にラジオ放送が始まって以来、パッケージやメディアに乗った音楽が生まれました。その歴史がひとつの転換点を迎えようとしています。

一方で、ホールやライブハウスといった閉ざされた空間の中だけでエンターテイメントを成立させるビジネスが育ってきた背景もあります。

坂口さん 箱の外にいる人には聴かせない、そんな産業が限界に来ていると僕も思います。そういうことをしていった結果、音楽が“たこつぼ状態”になって、ジャンルも無数にわかれてしまいました。

同じ音楽なのに、クラシックとジャズとレゲエとヒップホップ、それぞれの愛好家は話もできない「バベルの塔」のような状態になっているんです。

でもパッケージ産業は衰退しているけど、音楽自体が衰退しているわけではない。こんなやり方があるよ、と僕らもイベントをやって伝えたいと思っています。

佐藤さん そうですね。家の中からも、ライブハウスやホールからも、外に出て行くところに立ち会っている。ここから面白い音楽の世界が始まると思います。

もともとピアノは貴族のものでした。そのときはピアノという名前じゃなかったけど、サロンの中で数人で楽しむ楽器だった。それが大人数で楽しむためにどんどん重厚長大化していったんですね。

音楽をもう一度、私たちに近いところへ持っていくには、”新しいコンセプトのピアノ”が必要じゃないかと思うんです。

例えば、マンションの前の広場で音楽を入れてパーティーをしようとしたとき、ご近所からうるさいという声が出る。外に音楽を出したときにどういう機材を開発できるかは、ヤマハでも議論し始めているところです。

坂口さん いいですね。

佐藤さん 商店街でアンケートをとったときも、視覚的に賑わいを感じるのは300メートルくらいの距離からでした。そんなに大きな音は必要ないんですね。

ちょっとスマートに盛り上げるくらいの自在感で、30〜50人くらいのかたまりにフワッと十分な音量を届ける楽器や装置には、十分な需要があると考えています。

坂口さん よく「原音忠実再生」をうたうオーディオがありますが、一番いいのは楽器本来の音ですよね。音の大きさでいえばトランペットにウクレレは負けてしまうけれど、ベストな聴かせ方があるんだと思う。

音楽教育も変わっていく

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ヤマハミュージックジャパンの佐藤雅樹さん

坂口さん おとまちが目指す、音楽を特別なものとしない方向性はとてもいいなと感じます。

僕たちはみんな学校で英語を習うし、音楽を習っている。それなのに、英語の文法や単語は知っているけど喋れない、楽器の持ち方を知ってるのに授業以外では触れない。おそらく、楽しいと思ったことがないからですよ。

佐藤さん 坂口さんが楽器に親しむようになったきっかけはなんでしたか?

坂口さん 最初に楽器に触ったのは、ヤマハのオルガン教室なんです。実家が保育園だったので、物心ついたときには弾きはじめていました。小学校3年生くらいでマーチングバンドに参加して、最初に買った自分の楽器がトランペットでしたね。

佐藤さん そうだったんですね。全国で展開しているヤマハの音楽教室も少子化に直面して、厳しくなっていくことが予想されますので、変わろうとしているところです。

うまく演奏するだけではなくて、音楽をつくり出すこと自体をに楽しいと思う人がいたり、参加の仕方はたくさんあるわけですから。

坂口さん グッドネイバーズ・ジャンボリーの中でも、とにかく音が鳴るものを持ってくれば参加できるマーチングバンドをつくって、その場でステージから声をかけるんです。ガラス瓶でも手拍子でもいい。楽器ができる人は持ってきてください、と。

そこへミュージシャンが来て、口伝えに歌を教え、最終的に全体でコーラスをするワークショップをどんどんやっています。どのようにして先に「楽しい!」と思わせるかがポイント。いきなり「バイエル」と言うから、腰が引けちゃうんですよ。

メチャクチャにピアノの鍵盤を叩いても楽しいな、そのうち欲が出て、綺麗に弾けるにはどうしたらいいんだろう、その後にバイエルなんだと思う。これまでの音楽の世界は、囲い込んで、敷居を高くして、ヒエラルキーをつくる文化が強すぎたのだろうと思うんです。
 
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グッドネイバーズ・ジャンボリーは、“演ずる側と観客”という壁のないお祭りです。

坂口さん このあいだは台湾でアミ族という、歌がスゴくうまい人たちに会ってきたんです。顔立ちもポリネシアンに近いから、エキゾチックなハンサムが多い。

彼らはみんな唄いながら輪になって踊るんですが、誰が歌手と言うのはなく、すべての歌が口伝えで、歌詞もない。今でこそワールドミュージックというジャンルがありますが、これは健全だし、いい音楽のあり方だなと。

そこへ彼らが初めて目にするトランペットを僕は吹きに行ったのですが、楽しかったですね。

佐藤さん そういう音楽のある場面というのは、日本でいうと沖縄の離島に近い気がしますね。家も開放的で、鍵もかけないし。

坂口さん 音楽があふれてくる風景というのはありますよね、三線の音色とか。

佐藤さん そう、音を外に出す。人がつながっていることが安心安全につながるから、カギをかけるとかえって怖くなる。

坂口さん 台湾の村ではおばさんたちがすぐに唄って踊り出す。一方、北の国では哲学的に音楽に接しています。どちらがいいというわけではなく、音楽にはいろんなあり方があるからいいんだなとも思いますよね。

地域のこれからと音楽

坂口さん 全員が全員、外に出て音楽をやる必要はないんです。その音楽をうるさいと感じる受け手の気持ちもあるから、いろんなやり方があっていいと思う。

佐藤さん ただ、文句を言う人に限って、もしかして「仲間になりたい」という心理が根源にあるのかもしれません。「なんだよ。俺に断りもなしに、仲間はずれかよ」って。

おそらく祭のようなものに解決策があるのでしょう。祭はその瞬間、誰もがその中に入っているから文句の言いようがない。

坂口さん 鹿児島には「六月灯(ろくがつどう)」という夏祭りがあるんですよ。毎日いろんな街を灯ろうが巡回して、近所のあちこちに屋台が出ます。有名人が来るわけじゃないし、盆踊りすらないのだけど、子どものころはスゴく楽しみでした。

お祭ってそういうもので、子どもにとってヒエラルキーもない。音楽を楽しむのも、そういうことだと思います。大人になるとこうした楽しさは途切れてしまって、音楽をやりませんかと誘っても「私、譜面を読めないんで」とピシャッと言われたりします。

佐藤さん 私も以前、音楽と心理の関係を探ったことがあるのですが、そのときに「同質の原理」という理論を知りました。音楽で言えば、スゴく落ち込んでいるときにハッピーエンドのラブソングを聴くと、ますます落ち込むというようなことです。

坂口さん 確かに、悲しいときには悲しい音楽を聴きたくなりますから。

佐藤さん 今後、音楽が地域にどんどん戻っていき、地域の中で消費されていくあり方を考えたとき、そんな「共感性」が必要だと思っています。それは旋律でもいいし、歌詞でもいいし、リズムでもいい。

坂口さん 音楽を親しむフック(きっかけ)になるでしょうね。

佐藤さん そうですね。僕はウッドベースを弾くんですが、習っている先生いわく「日本の風景にもすごく合うクラシック音楽がある」と言うんです。

例えば、奈良の室生寺。あそこには素敵な石段があって、その先に素晴らしいお堂があり、その庭には桜がある。最高の風景なわけですが、そこに行くときはドビュッシーだと。実際にiPodで聴きながら行ったら、涙が出るような体験でした。

そうした風景と旋律をキュレートする人がいるのは豊かだと思う。今は世代で音楽ジャンルが切られがちですが、そういった音楽との付き合いになると、世代を超えてつながります。

坂口さん そうですね。
 
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音楽のある風景について語る坂口さんと佐藤さん。日本だけでなく世界の事例も登場し、会話はさらなる熱を帯びてきました。

佐藤さん だから私は、「ご当地ミュージック」みたいな動きが起こらないかなと期待しているんです。これだけ自然が豊かで四季がある国なら、風景にインスパイアされないはずがないですから。いろんなところに地域のミュージシャンが生み出されたら面白い。

観光資源は今、「食」ばかりですけど、わざわざ足を運ばなくてはいけないエンターテイメントになれば、今の音楽より相当面白いはずですし、そこで得られる感動は違うものになる。自然とか、人の違いを背景にした音楽が再び生まれてくると面白いですね。

坂口さん 楽器にしても、日本のそれぞれの地域にすでにスゴい数が存在しているはずなんです。ピアノだって何台あるかわからない。コミュニティをつくるとき、そうしたものを有効に生かす道がないのかなと思います。

佐藤さん 南米などでは、貧しい人でも使えるように、国が楽器を支給したりしています。日本でも「使われてない楽器を持ってきて自由に使っていいよ」と、地域ごとのかたちでみんなのものにできるといいですよね。

楽器屋さんって、行き慣れない人にとっては少し敷居が高い雰囲気がある。そういうのを変えていくと、広がる市場もあると思う。楽器販売はともかく、音楽で広がる経済ってあるんだろうなと。そこになんとか向かっていく議論ができればなと思います。

(対談ここまで)

 
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プロのミュージシャンへの敬意は払いつつ、音楽を演奏したり、聴いたりする楽しみを当たり前のものにしたい。そんな自由さが、ひいては地域社会を変えていく可能性を持っている。ふたりのお話からは、そんな思いが伝わってきました。

自分とは縁がないものだという抵抗感から、音楽が騒音として伝わったり、敷居の高さを感じりするのかもしれませんね。

初めて楽器を叩いたり、口ずさんだり、身体を気持ちよく揺らした経験を思い出しながら、日常生活へ気軽に音楽を取り入れてみませんか?

(撮影: マスモトサヤカ)