富洋観光開発(株)が運営する観光複合施設「the fish」
ここ最近、地方への移住や2拠点居住といった暮らし方に注目が集まっています。
とはいえ、「どこに住むか」だけでなく「何の仕事をするのか」も重要です。なかには、住みたい場所が見つかっても、仕事のことで二の足を踏んでいる、という方もいるかもしれません。
そこで今回は、千葉の内房で、移住を希望する人にさまざまな働き方を提案している地元企業「富洋観光開発株式会社」の羽山篤さんに、地方における仕事のつくり方のヒントを探りにいきました。
東京駅から2時間、海と山に挟まれた港町・金谷
舞台は千葉県の内房総に位置する富津市金谷。東京駅から高速バスで1時間半、電車で2時間の距離にある海と山に挟まれた港町です。ちなみに神奈川県の久里浜港からフェリーに乗れば、40分で到着です。
JR内房線「浜金谷」駅を降りると、良質石材の産地として江戸時代から盛んに採石が行われた鋸山がお出迎え。迷路のような路地裏を抜ければ、東京湾とは思えないほどの綺麗な海が眼下に広がります。晴れた日には富士山や大島が遠望できる素敵なロケーションです。
人口わずか1,500人という金谷ですが、近頃はアートをテーマにしたまちおこしプロジェクト「KANAYA BASE」が盛り上がっていたり、映画「ふしぎな岬の物語」の舞台にもなったりと、にわかに注目を集めています。
地元の人が集うクリエイティブスペース・「KANAYA BASE」
「the fish」内で販売している「見波亭」のバウムクーヘン
そんな金谷の地場の企業として、地元の漁師や農家さんとのネットワークを活用し、南房総を盛り上げているのが富洋観光開発株式会社です。
観光複合施設「the fish」や金谷美術館、ガソリンスタンドやファミリーレストランなどの運営・管理のほか、地元の食材を使った海鮮料理や、モンドセレクションを受賞したバウムクーヘンなどの土産物を製造、販売。
地元の雇用の創出しながら、住民に憩いの場を提供するなど、いまや金谷に欠かすことのできない会社へと成長してきました。
そしてさらに、人材採用や移住促進という側面から、金谷に新しい風を吹かせようとしているのが、専務取締役の羽山篤さんです。
富洋観光開発(株)専務の羽山篤さん
これからの暮らしをみんなで考える
羽山さんが中心となって導入を検討しているのが、「金谷版ゆるい就職」という仕組みです。内容はシンプルで、週3日だけ地元企業で働き、残りの4日は自分の好きな活動に充てもいいというもの。
給与や福利厚生などの待遇面はまだ検討中とのことですが、「土日休暇」といった概念もなく、自分のリズムにあわせて自由に勤務日を調整できるそうです。
とは言うものの、バイトの掛け持ちや契約社員として複数の会社に所属する働き方と一緒なのでは? と感じた方もいるかもしれません。羽山さんはどうして、敢えて「ゆるい就職」を進めているのでしょうか。
まずは地方への移住を検討する人への入り口を用意して、これからの働き方や暮らしを、みんなで考えていきたいんです。
ある程度自由の効く環境の中で、自分と向き合う時間を確保しながら、自分のやりたいことを見つけるプロセスをサポートできればと思っています。
古民家再生プロジェクトの一環として、低額で住む場所を借りることができるのも、嬉しいところ。点在する古民家などのスペースを活用しながら、自分の生業をスタートさせることもできます。
今では、移住者が開店したピザ屋やゲストハウスが憩いの場へとなっています。これからも農家やシェアハウスといったさまざまな生業が立ち上がっていくと思いますし、いろいろなテーマが出てきていいと思うんです。
これまでにないまちの魅力は、その分野に得意な人が自主的に創る。そして、お互いが連携することで地域の魅力を底上げし、訪れる人たちに楽しい時間を過ごしてもらいたいですね。
さらに、羽山さんは、「この動きは富洋観光開発の社員にとっても、成長の機会になっている」と続けます。
創造力を働かせて自由に考える環境が、特に若い社員には必要だと思うんです。我々年配層も発想のベクトルをクリエイティブな方向に向けていかなければなりません。
都心や他地域から来る人には、外部で培った知見やノウハウを社内に積極的に還元してほしいと思っています。
移住を検討している人に門戸を開き、社内外問わず人材の交流を促進することで、相互に研磨する環境が生まれ、クリエイティブな発想を持つ自律した人材が増えていく。
会社で働くスタッフや地元に住む人の活力こそ、魅力的な職場づくり、まちづくりには欠かせないと羽山さんは考えています。
鋸山からの金谷のまちと東京湾
オリジナリティに富んだまち創りを目指して
いまでこそ会社とまちの活性化に取り組む羽山さんですが、かつては東京の大手証券会社で、企業戦士として忙しい日々を過ごしていました。
三十歳を目前に家業を継ぐために金谷に戻ることを決意しますが、昔とは違うまちの姿にショックを受けたそうです。
まちには以前のような活気がなく、空き家が増え、人間関係もドライになったなと感じたんです。小学生の数も二桁に減ったと聞いて唖然としました。
昔は木登りをしたり、隠れ家を造ったりと山で遊び、海辺で休んだ思い出がありました。自然や人の魅力に溢れる金谷が廃れていくのを見るのが悲しかったです。ショックよりも、何とかこの状況を変えていきたいと思うようになりました。
「昔の活気を取り戻したい」と力説する羽山さんがこだわっているのは、「オリジナリティに富んだ町創り」です。
今や各地で地方再生の取り組みは多く、次第に注目を集めています。しかし、行政主導によるプロジェクトでは、「どうしても画一的な町づくりになり兼ねない」という感覚を羽山さんは抱いていました。
平均値を求めた場所に誰が魅了されますか? 便利である反面、それでは面白くないと思っています。
税金を貰っているので仕方ありませんが、役所の仕事は平等を保つことです。行政主導の地域興しでは個性が尊重されず、均一化された内容になる可能性があります。必要なところは連携しつつも、あくまでもその土地に住む人と主体的に考えていきたいです。
合掌づくりの家をお洒落に改装した喫茶店・「カフェエドモンズ」
まちづくりに対する強いこだわりを持つ羽山さんが目標とするのは、“まちのテーマパーク化”です。
海・山・鉱泉・石の芸術などの自然や人の魅力を活用して、“学び”、“くつろぎ”“遊び”といったテーマ分けされた、エンターテインメント性溢れるまちを創るという壮大な構想を語ってくれました。
例えば、ディズニーランドにはテーマごとに区分けさたアトラクションがあり、それぞれコンセプトが徹底的に差別化されていますよね。だから多くの人が魅了されるのではないでしょうか。そういった世界観をこの金谷で創出したいんです。
房総半島には、飲食や買い物、宿泊といった生活インフラはありますが、学びのある経験や遊び、癒しといった地元住人や観光客の潜在欲求にまだまだ応えられていません。でも、金谷にはそういったウォンツを満たしてくれる力が眠っているんです。
そして、まちの活力を取り戻していくためにも、「会社の成長」という「地盤固めが、まずは大切」と強調します。
まちを活性化させるためには、理想ばかりを追いかけるのではなく、企業として収益をあげ、人的にも資金的にも地元に対して貢献できるようになることです。金谷のまちづくりは、会社の成長の延長線上だと考えています。
地域で生まれた新しい生業の担い手が、このような視点をもてれば、本当に強いまちに育っていくのかもしれません。
まずは動いてみることから
金谷港からのサンセット。遠くに富士山も見える
地方への移住となると、躊躇してしまう人も多いでしょう。これまでの生活をリセットしてからのスタートとなれば、迷いがあるのはごく自然なことです。だからこそ、そのはじめの一歩をサポートしてくれる富洋観光開発のような存在は、とても大きいものがあるでしょう。
まずは、これからの暮らしのヒントを探しに、鋸山の麓にある「金谷」に一度足を運んでみませんか? エンターテインメントあふれる金谷のまちを創っていくのは、あなたかもしれません。
(Text: 竹内謙二)