企業の社会的責任を意味するCSRという言葉を耳にしたことがある方は多いと思いますが、ではUSRは?
これはCSRの大学版でUniversity Social Responsibiltyの略語。企業だけでなく、大学にも社会的責任が求められるようになってきていることから考えられた言葉です。そのUSRをエコロジー分野で推進するイベント「第6回エコ大学ランキング」表彰式が先日行われました。
「エコ大学ランキング」は学生が活動の主体となっている環境活動に取り組むNPO法人エコ・リーグのCCC(Campus Climate Challange)実行委員会が運営するもので、優れた環境対策を行っている大学を表彰することで、環境対策の必要性や優れた事例を社会に発信しようという試みです。
エコ大学ランキングの取り組みは5年前に始まり、昨年までは1位からランキング形式で発表、上位の学校を表彰することで、先進的な取り組みを他大学や社会に向けて発信しようと取り組んできました。
今年は、同様の方向性を維持しながら5段階のレーティングを導入、総合得点が600/1000点以上の大学を「5つ星エコ大学」として表彰するという形を取りました。調査は自己記入式のアンケート調査で、全国753大学・キャンパスに呼びかけ、146大学・キャンパスから回答を得ました。
アンケートは、「エネルギー・CO2」「廃棄物・資源循環」「環境人材育成・研究」「環境マネジメント・USR」の4アクション、305項目で、今年の「5つ星エコ大学」には岩手大学、京都工芸繊維大学、郡山女子大学、静岡大学、日本工業大学宮代キャンパス、三重大学上浜キャンパスの6校が選ばれました。
今回の表彰式で評価された取り組みをもとに、なぜ大学が「エコ」でなければいけないのか、その取り組みがわたしたちの生活とどう関わってくるのか、CCC実行委員長の小竹舞さんにも話をうかがいながら、考えてみます。
小竹舞さん
なぜ大学に「エコ」が必要なのか
具体的な事例を見る前に、なぜ大学が環境に取り組まなければならないのか、小竹さんに聞いてみました。
大学は地域の中で最大のCO2排出事業者であったりすることも多く、わたしたちの試算では、日本のCO2の1%は大学が排出していると考えています。
加えて、大学は将来の人材が育っていくところでもあるので、社会全体の環境意識を高めるには、そこで学生自身が足元にある課題に気づくような環境を整えていかないといけないと思っています。
つまり、大学自体の環境負荷を減らすことが重要であるのと同時に、環境に対する意識を持った人材を社会に増やしていく場として大学の果たす役割が大きいということなのです。
だから、大学が環境に取り組むことは、大学だけの問題ではなく、社会全体の課題とも言えるのです。小竹さんも「まずなるべく多くの人にそのことを知ってほしいし、この活動自体がその役に立って欲しい」と話します。
では、今年「5つ星エコ大学」に選ばれた6校の先進的な取り組みの例から、具体的に大学の環境対策がどのように社会のためになっているのか、あるいはなろうとしているのか見ていきましょう。
大学は地域の環境リーダーになれるか
・エネルギー、防災拠点としての大学
エネルギーに関しては、太陽光エネルギーを導入する大学が多くあるのが印象的でした。特に日本工業大学は総発電容量580kWと日本の私立大学では最大級、メガソーラーには至りませんが、ソーラー発電所と読んでも差し支えないくらいの発電量です。
大学は敷地も広く、大きな建物が多いので、ソーラーパネルを設置しやすい環境にあると言えます。郡山女子大学では、自立運転型の太陽光発電システムに加えて蓄電池も備えることで、災害時にも対応できる体制を整えているそうです。
そのような例を見ると、大学は地域のエネルギー拠点、防災拠点となりうるポテンシャルを持っているように思えます。自然エネルギーの導入はコストダウンにもつながるので、導入する大学は多く、「自然エネルギーだけでエネルギー自給率100%を達成できる大学もある」ということです。
この分野では大学が地域の拠点としての役割を果たす可能性は大きのではないかと思います。
日本工業大学のソーラーパネル
・人材の育成、環境技術の開発
わたしたちが、環境分野で大学の名前を最もよく目にするのは技術開発の分野ではないでしょうか。様々な研究が大学でなされ、それが実用化されています。大学はそもそも研究機関として環境保護の一翼を担っていることは間違いありません。
そこからさらに「エコ」な大学であるためには、環境を専門とする学生以外にも環境を学ぶ機会を提供することが重要です。
京都工芸繊維大学は「環境安全マインドを持つ人材の育成」を掲げてまるまる1日環境について学ぶ日を設けたり、三重大学はESD(持続可能な開発のための教育)プログラムに単位認定することでより多くの学生が環境について学べるよう取り組んでいます。
環境保護を推進する上でもっとも重要なのは人々の意識だとも言われます。大学生のうちに「環境安全マインド」を身につけた人材が、社会に出て行くことで社会全体の環境に対する意識が改善されていくであろうことは予想できます。
京都工芸繊維大学の環境教育
・地域環境と地域連携
エネルギーや教育というのは、大学と環境の関係から考えつきやすい「エコ」ですが、今回イベントに参加してみて一番興味深かったのは、大学と地域との関わり方です。
1つは地域環境との関わりで、静岡大学はキャンパスの起伏に富んだ地形に、500種の動物と650種の植物が確認されており、その生物多様性を保全し、同時に課外教育の場として地域に開放しているそうです。
大学というのは都市部にあっても自然に富み、その周辺では見られないような動植物も見ることができるビオトープのような役割も果たしています。それは大学が地域の環境資源であり、それを保護することが地域全体の環境保護につながるということを意味します。
それを意識的、積極的に行う取り組みというのはこれからの大学のあり方として必要なことなのではないかと感じました。
静岡大学の自然豊富なキャンパス
もう1つは地域に開かれた大学であるということです。
それ自体はあまり「エコ」とは関り合いがなさそうに見えますが、岩手大学で地域の小学生をキャンパスに招いてエコキャンパスツアーを行ったり、三重大学が大学内で行っていた環境保護活動でポイントが貯まる活動「MIEU(三重大学エコポイント)を大学の副学長の朴恵淑さんがAKP(オール亀山ポイント)という形で市に導したり、学校を地域に開くことで地域全体で環境に取り組む「環境」が整うのです。
地域という単位で環境保護を行うというのはなかなか難しいことですが、大学が中心となることがその1つの方法として有効なのかもしれないと感じました。
大学という小さな社会にイノベーションを起こす
さて、大学が環境保護に取り組むことの重要性と可能性はわかりましたが、いったいわたしたちに何ができるのでしょうか。
5つ星エコ大学のような取り組みが各大学でなされるには、大学が変わらなければいけません。そうなるとわたしたちにできることは何もできないように思えます。しかし、小竹さんはこう言います。
学生は大学の構成員の9割を占め、ある意味ではお客さんでもあるので、学生が自分たちの大学を変えたいという声を出せば、職員もそれを上に言いやすいし、大学も変わらざるを得なくなるんです。だから、まず学生に自分たちの足元にある課題に気づいて欲しいんです。
大学が変わるためにまず必要なのは学生が変わることなのです。実際に様々な活動を立案し、推進するのは職員かもしれませんが、学生の後押しがあってこそそれが可能になります。
小竹さんは「いろいろな大学の職員や学生と話をする中で『大学は小さな社会なんだ』と気づいた」といいます。大きな社会を変えるのがわれわれ市民の声であるように、その小さな社会を変えるのは学生たちの声なのです。
エコ・リーグは環境に関心のある学生たちがつくる「環境サークル」をサポートするために、ギャザリングやコンテストといった活動も行っているそうですが、想像して分かる通り環境サークルはそれほど人気のあるサークル活動ではないそうです。
なので、その声を大多数の学生に届かせることはなかなか難しいわけですが、環境サークルに人を増やすことばかりが必要なわけではありません。小竹さん自身、キャンパスにサークルがなかったので環境サークルには所属せずに4年間活動をしてきたそうです。どのような思いで活動をしてきたのでしょうか。
大学生になると、自分の行動や交流の範囲を自分の意思でできるようになると思いますが、何気なく過ごしていると似た志向や視野の人とのコミュニティにその範囲が狭まりがちです。
環境や社会問題を考える際には、多くのまだ関心を持っていない人をどのように巻き込むかが重要でもあるので、逆説的ですがあまり環境志向のコミュニティに固まり過ぎずに、様々な立場の人と意見を交わすことが必要ですよね。
エコ・リーグでの活動によって、必ずしも環境志向ではない人や、様々な考え方を持つ人に出会うことができました。またそうした人々と課題解決の目標に向かって協働したり、時に交渉しながら進めていくことが、面白いと感じています。
取り組んでいく中で、いろいろなもやもやが出てくるんだけど、それを1つずつ解決していくのがモチベーションになっていました。想いとしては行動によって小さな社会を変えて見せたいなというのがあるんですけど、未だにそれは実現はできていません。
4月から社会人になってしまいますが、実現したくてやりきれてないという思いに後ろ髪ひかれてもいます。
自分の足元にある課題に気づき、それを解決するために行動する。そしてそれが大学という小さな社会を変えること目指す。これはわたしたちが(大きな)社会で目指しているソーシャルイノベーションを、小さな社会で行っていることにほかなりません。
それはやりがいのあることのはずだし、その経験はきっと社会で役に立つはずです。大学生にとって貴重な経験になるはずの「挑戦」の1つの形として「環境」があるということなのです。
なるべく多くの学生に、大学生活を無為に過ごすんじゃなくて、今しかできないことに挑戦して、失敗もあるだろうけど、それを繰り返しながら何かを見出すということをやってほしいです。
必ずしも環境問題に立ち向かわなくちゃいけないということじゃなくて、試行錯誤しながら何かをつくり出すことの一つとしてそれがあると捉えてもらえればいいと思います。
この活動は学生だからこそできる活動であり、しかもそれが社会全体にとって意味のある活動であるという点で、より多くの学生に「挑戦」して欲しいと強く思いました。
小竹さんも「いまやっと何が根本的な問題だったのかがわかりかけたところ」というように、大学という大きな組織を相手に一朝一夕で結果が出るものではありませんが、次の代次の代へと引き継がれながら着実に進めて欲しいものです。
大学から離れて久しいという人ができることは応援することくらいかもしれませんが、大学と企業が協働で取り組む環境をつくるなど、やってみたいことはたくさんあるということなので、今後どのような活動をしていくのかにも、注目していきたいと思います。