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「生き方」の危機で加速する!? 全米で住みたい都市No.1、ポートランドに学ぶ「DIYカルチャーの今」

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。わたしたちは、もっとかっこよく、もっと賢く、もっとおいしく、暮らしたい。そのためのヒントを「オフグリッドライフ・マガジン」からダイジェストにてお届けします。

大量生産・大量消費の象徴だと思っていたアメリカにおいて、ひときわオルタナティブでオーガニックでヒップな空気を漂わせる街があります。それは、アメリカ西海岸、サンフランシスコとシアトルの間に位置するオレゴン州の「ポートランド」。

「全米で住みたい都市No.1」とも言われ、日本でもここ2年ほどエコでクリエイティブな都市として、ストリートカルチャーやショップ、街づくりやライフスタイルの紹介を目にする機会が急激に増えました。

ダウンタウンにはファストフードの店はほとんどなく、アメリカのファストカルチャーとほどよくOFF-GRID(=距離をおいている)。人口わずか60万人、大都市ほど気取ったり洗練された感じもなく、郊外には森と湖の大自然、人々が日々、活き活きと暮らしているのが印象的。

暮らしかた冒険家が「暮らしかたの冒険」をする中で「こんなビジネスがあればいいのに」「こんな仕組みがあればいいのに」と思っていたことが、この街ではふつうに存在するのです(しかも思った以上にかっこいい形で!)。

というわけで、アメリカの「ファストでジャンク」なイメージを完全に払拭するポートランドの今をレポートします。

Index
〈前編〉「生き方」の危機で加速するライフスタイルの革命
〈後編〉ひとりひとりの選択が街を変えてゆく

greenz.jpでは、ダイジェストとして前編のみお届けします。続きは、「オフグリッドライフ・マガジン」でお楽しみください!

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リノベーション&DIYカルチャー

「ポートランド」の紹介で真っ先に取り上げられる最も有名な場所「ACE HOTEL」。中心地にあるこのホテルは今でこそ環境客や地元客で賑わうが、元は老朽化したホテル。それがリノベーションされ今や世界中で真似されるオシャレなホテルへと産まれ変わった。

そのACE HOTELから歩いて数分、かつて工場と倉庫が立ち並んでいた場所には、古い建物をリノベーションしたオフィスやお店が軒を連ねる。

ポートランドのオルタナティブな開発の多くを手がけた「GBD Architects」のオフィスのある複合施設はもともとのビールの醸造所の趣を残しつつも彼らの知見と最先端技術で省エネビルに生まれ変わった。古い建物の隣に新しいビルを建設し、渡り廊下を設置。エレベーターも使える快適さもある。

歩いて回れるほどの街中に、うまく再生・活用されたこうした古い建物がそこかしこにあるのがポートランドだ。個人邸でもリノベーションは盛んだ。昨年、Airbnbで泊まったエミリーとアダムの家はなんと築110年級の木造戸建て、それを自分たちでコツコツ直している。

「歴史のない国」と揶揄されることが多いアメリカだけど、実は100年級の家はゴロゴロしている。日本では京都や一部の城下町か、農村に行かなければそうはいかない。歴史がないからこそ大事にしようとするのかもしれない。

大量生産・大量消費の国の本場よりも日本のほうこそがスクラップ・アンド・ビルドの国だったと面食らう。
 
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アメリカではどこの家でもこうしたガレージやベースメント(地下室)がある。

リサイクル&アップサイクル

スモールビジネスも盛んなこの街では、お店も家も自分たちの手で作ってしまおうという気風が漂っている。フットワークの軽さと実行力の高さ。さすがはNIKEの本拠地「Just Do It」を産んだ街ということなのだろうか。

日本でもDIYの機運が高まってきているが、いざ重い腰を上げたところで、材料は? 道具は? やり方は? となって萎えてしまうのが実際ではないだろうか。

その点、「家一軒建てられる材料」の揃うホームセンターが、ポートランドに限らず全米中にある。家造りの専門書の充実度も比べ物にならない。さすがDIYの国アメリカ。ポートランドではそれに加えて、もっと画期的な仕組みを見ることができた。

ミシシッピ通りにある「リビルディングセンター」では家を解体するときなどに出てきた廃材を寄付などで募り、安価で販売している。窓、建具、照明からドアノブ、タイル、バスタブまで。なんと言っても品揃えとその量に驚かされる。

実際にエミリー達も改修資材の多くをここで調達したようだ。また、手作業で解体した業者から木材を買い取り家具をつくる「Salvage Works」、ほどよくセレクトされた建具やアンティーク家具の「Hippo」や「Rejuvenation」、家作りに関するあらゆる道具を貸出しをしているサービスまであるそうだ。要するに、何か作ろうと思った時のハードルがものすごく低い。
 
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HIPPOの店主。「Portlanders are weird(ポートランドの人は奇妙だ)」というキャッチコピーがある。まさに彼のようなWeirdな人々がポートランドを作ってきたのかもしれない。

「生き方」の危機で加速するライフスタイルの革命

ポートランドの郊外にあたるセントジョンズでは、葬祭場を宿泊可能なイベント施設にコンバージョンしたり、空き地に古小屋を並べてコテージにしたり、ビル1棟分はゆうにある大きさの廃貨物船をリノベして川の上に住む男がいたり、とハードコアな動きを見ることができた。

これらはみな元は不要物、価値の無いものとされていたものたちだ。既存のグリッドからこぼれ落ちたものを磨いて、再びグリッドに載せる。いや、自分たちで新たに構築したグリッドにつなぎ合わせる。どうしてわざわざそんな大変そうなことをしているのだろうか。

彼らは単に「weird(物好き)」なのだろうか?アメリカ文化に精通するライター・佐久間裕美子氏は『ヒップな生活革命』の中でこう分析する。

危機をきっかけに「生きる」ということをあらためて考え直した人たちのライフスタイル改革があり、それに呼応する消費者が増えてきているからこそ、今のムーブメントがあるのです。

ここで言う危機とは、2009年に起きたリーマン・ショックによる「生き方」の危機だ。 佐久間氏はこうも続ける。

自分とは無関係だったかもしれない国家レベルのマネーゲームの失敗のおかげで、家や車といった物質の価値がある日突然変わってしまう危機を体験したからこそ、物的所有や金銭的成功よりも、自分の人生の舵を自分で取れる状況を作ることや、自らが社会を変える力の一部になろうとする力が、メディアや文化の様々な場所に生まれてきたのかもしれません。

リーマン・ショック以降、あまりに複雑で行き過ぎた仕組みの上にがんじがらめになっていたことに気づいてしまった人々が、価値観や暮らしかた、働きかたを変え、まさに日々試行錯誤している。でもそこには困惑や悲壮感はない。むしろ彼らはみな幸せそうだ。

なぜなら暮らしを自分たちの手で取り戻しているからだ。これはアメリカだけでなく、全世界で同時多発的に起きているムーブメントだとも言われている。電気だけに留まらず、あらゆることのOFF-GRIDもまさにその流れの中ででてきたムーブメントなのだ。
 

(つづく)