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東京に”もうひとつの2丁目”を! LGBTもそうでない人も一緒に集える街をつくる、神宮前2丁目の「カラフルステーション」

colorful station
LGBTの象徴であるレインボーフラッグが掲げられたカラフルステーション

日々の生活は、たくさんのさまざまな人との関わりの中で成り立っています。その中にはもちろんLGBT(セクシュアルマイノリティ)の人もいるはずですが、そのことに気づく人は少ないかもしれません。

人口の5%程度はいると言われているLGBTも、そうでない人も、一緒に暮らしていける街づくりをめざして、東京・神宮前2丁目に「カラフルステーション」ができたのが、今年5月。

ここは、シェアオフィスやギャラリーといった機能のあるコミュニティスペースとして、さまざまな人の居場所になっています。「カラフルステーション」を手がけたのは認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ。(以降、グッド。2014年10月1日に東京都より「認定NPO法人」としての資格を取得)

今回はグッド代表の松中権さんに、NPO設立の経緯から、「カラフルステーション」の活動内容について聞きました。
 
matsunaka
認定NPO法人グッド・エイジング・エールズの松中権さん

将来を思い描くのが難しいLGBT

松中さんがNPOを立ち上げるまでには、さまざまな理由がありました。

ゲイである松中さんは、留学先のオーストラリアでLGBTに理解のあるオープンな環境に憧れを抱く一方、就職活動を通して、日本にはまだまだ厳しい現実があることに気づきます。

その後、ニューヨークでの研修で、企業とNPO/NGO間で仕事やお金のやりとりなどの仕組みが整っているアメリカのような形を、日本でも実現したいという夢を描くようになりました。

そんな想いを重ねていく中で、松中さんの個人的な経験がNPO設立のきっかけになります。

2009年に付き合っていた人と別れちゃって、僕、このままひとりなのかもと思ったんです(笑)

そこで改めて周りを見渡すと、LGBTの人って将来を描くのが難しいと言うか、年を重ねていくことにネガティブだったりするんですね。特に老後とか、そういうことに対してあんまり目を向けないんです。

年を重ねることをもっとポジティブに捉えられるようにしたい、将来はLGBTにもやさしい老人ホームをつくりたい。そう考えた松中さんは、グッドを2010年4月4日にスタートさせます。

3月3日でも5月5日でもなく、4月4日。女の子の日があって、男の子の日があって、そういうところにもセクシュアリティって埋め込まれてるじゃないですか。そういうことに気づいてもらいたいと思って、4月4日にしたんです。

LGBTの生活や人生を考えようとすると、いまの日本ではどうしても困難を伴うのが現状です。

例えば、世の中のマネープランや老後のプランは、すごくストレート(LGBT以外の人)向けになってますよね。そこで、LGBT視点で老後を考える勉強会ができるような場所をつくりたいと思いました。

同時に、松中さんがグッドの活動において意識したのは、LGBTのコミュニティの間だけで活動を閉じるのではなく、もっと開いていくことでした。

LGBTに向けての活動を考えていたとは言っても、自分の周りにはゲイしかいなかったんですね。

でも隣にはレズビアンもトランスジェンダーもいるかもしれないし、LGBTも全然いいじゃんって思っているストレートの人もいますよね。いろんな人が出会うための場づくりとかイベントもしたかったんです。

そこからアイデアがどんどん膨らみ、グッドはさまざまな動きを始めていきます。

まず、葉山に夏の間の週末だけ開かれる「カラフルカフェ」というLGBTフレンドリーなカフェを2011年につくりました。

これによって、家でもなく職場でもない、もうひとつの自分らしくいられる場所=”サードプレイス”をつくれたという手応えを感じたよう。一方、その場所で過ごす以外の時間に目を向けるようになりました。
 
colorful cafe
カラフルカフェの前で、Tシャツでつくられたレインボー

そこで生まれたのが、LGBTフレンドリーなシェアハウス「カラフルハウス」。「暮らす」という”ファーストプレイス”に対する取り組みです。

そして、「働く」という”セカンドプレイス”のために、LGBTの学生向けの就活セミナーや異業種交流会を行ったり、職場におけるLGBTの働きやすさをテーマにした企業間のネットワーク「Work With Pride」を、日本IBMや国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチと一緒に立ち上げたりもしました。

さらに小淵沢の「中村キース・ヘリング美術館」と連携したマラソンイベント「カラフルラン」や、さまざまなNPOと共同で企画した「Tokyo Rainbow Week」など、人が集まるイベントも”フォースプレイス”というひとつの場づくりとして行っています。

そのような活動を通して、ぱっと見ではわかりにくいマイノリティであるLGBTを、可視化していくことが大切だと松中さんは考えています。

地元の人との交流を通した街づくり

毎年夏に営業する「カラフルカフェ」では、4年目に入り地元の人たちとの自然な交流も広がるようになってきたといいます。その経験から松中さんは、建物をつくるだけではなく、そこにあるコミュニティとどうやって過ごしていくかを考える必要があることを学びます。

街づくりへと興味が広がっていく中、偶然松中さんが引っ越したのが渋谷区神宮前2丁目。そこで、この街がとても魅力的なことに気づきました。

働く人もいれば、学びに来ている人もいる。遊びに来ている人もいれば、住んでいる人もいて、新しいお店もあれば古い商店もあって、コンパクトな中にぐちゃっと詰まっている街なんです。可能性があると思いました。

そしてもうひとつ、1丁目でも3丁目でもなく、2丁目であることも大きなポイントでした。新宿2丁目と言えば、日本最大のゲイタウンとして知られた存在。そこで松中さんは、「神宮前2丁目を、もうひとつの2丁目みたいな感じでキャッチーに皆に届けることもできるかな」と思ったそうです。

また、地元の商店街である、神宮前2丁目商和会の人たちの出会いもありました。ピープルデザインという、障がい者のサポートをしている団体の企画で、商店街の人たちとLGBTについて話をするきっかけがあったのです。

「ゲイとオカマとホモって何が違うの?」といった、LGBTについて知識のない年配の人たちと話しながら親しくなり、まちづくりへの想いについて話したところ、意外にも話は盛り上がり、さらにそこにいた不動産屋さんによって、現在の「カラフルステーション」の物件が見つかるにいたったのです。
 
renovation
八百屋さんとラーメン屋さんをひとつの建物にするリノベーション工事が行われました

「カラフルステーション」をつくる際に松中さんがイメージしたのは、去年の夏、International Visitor Leadership Programというアメリカ国務省主催のプログラムに参加したときに、アメリカ各都市で目にしたというLGBTセンター。

LGBTの人がメインだけど、もちろんそうでない人も訪れることのできる、人が集う場所がアメリカの都市には必ずあるんですよ。その中にはインフォメーションセンターとか図書館とかコミュニティスペースとかがあって。こういうのが日本でもできたらいいなって思いました。

そのアイデアと物件が合わさって、「カラフルステーション」計画が持ち上がりました。去年の冬頃のことです。

「カラフルカフェ」をつくるときも、「あそこにゲイバーができるらしいよ」といった声があったといいます。神宮前2丁目では、地元の人の理解をどのように深めていったのでしょうか。

いきなり登場するんじゃなくて、リノベーション工事をするときからワークショップみたいなことをやりました。

work shop
クラウドファンディングの企画の一つとして開催した壁塗り・床塗りのワークショップの様子

地元も含めた周りの人にも声をかけて、建物のペンキを一緒に塗ったりすることで、お互いを知るためのきっかけをつくることを心がけたそうです。

そこで松中さんは一組の親子と出会います。その子どもたちは地元で生まれ、「カラフルステーション」になる物件にもともとあった八百屋のおじいさんに叱られながら育ち、そこへ初めてのお使いに出かけたという、その建物と関係の深い子どもたちでした。

八百屋のおじいさんが倒れてお店を閉じ、ここがカフェのようになると聞き、お母さんはショックを受けたようだったそうです。

けれども、実際どういうものができるかを知ると、最初は驚きつつも、すごく大事なことで子どもにとってもいいことだと考え、子どもたちと一緒に足を運んできてくれたのだそうです。でき上がった後も子どもたちが学校帰りに寄ってくれたりと、交流は続いています。

「カラフルステーション」に行ってみたい! けど・・・

irodori
木を基調とした、irodoriの明るい店内

「カラフルステーション」の1階には、エスニックレストラン「irodori」が営業しています。これはNPOとして寄付だけで運営するのは難しいと考えた松中さんが、飲食業界で働きノウハウを持っている杉山文野さんに相談して実現したもの。

トランスジェンダーの当事者であり、NPO法人「ハートをつなごう学校」の代表として、LGBTの子どもたちのために活動をしている杉山さんは、就職に壁があるトランスジェンダーをはじめとしたLGBTの人たちの職が提供できることに賛同し、会社を立ち上げて「カラフルステーション」の立ち上げに協力。

結果的には、彼の会社とグッドが一緒に「カラフルステーション」を運営する形に。現在「irodori」では、店長をはじめLGBTの当事者や、そうでない人たちが一緒に働いています。
 
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irodoriのおいしい料理も評判です

2階は、「FLAT」というシェアオフィスとなっており、LGBTはもちろんそうでない人も気軽に「ふらっと」利用することができます。中には、歌手のMISIAさんも理事を務め、MDGs(ミレニアム開発目標)をゴールとして活動を続ける一般財団法人mudefのオフィスも。
 
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高い天井が印象的なオフィス。こちらも木が基調で温かい雰囲気が漂います

さらに1、2階の壁は、松中さんいわく「MoMAならぬ」、「MoCA東京」(The Museum of Colorful Arts, Tokyo)という、多様性を発信するギャラリーとしても機能し、その一環として当事者の方の作品を展示したりしています。
 
exibition
「MoCA東京」にはキース・ヘリングの作品が常設されています

オープンから5ヶ月、「カラフルステーション」はどんな場所に育ってきているのでしょうか。

ここに来たら誰かがいるような、ホームっぽい感じがありますよね。何度も帰りたくなる、通いたくなる場所でもあるし、そういうコージー(居心地のよい)な雰囲気があって。

そういう人が多いから、自分ひとりでご飯を食べようかなと思ってふらっと来ると、必ず誰か知っている人とか、この間名刺交換した人がいたりするんです。

先日、MoCA東京にて僕たちの先輩ゲイのアーティスト大塚隆史さんの展示会を1ヶ月半かけて行ったのですが、なんと500名以上の方々にお越しいただくことができました。

訪れる人の中にも、ちょっとしたファミリーのような、新しい形の家族感ができ上がっていると感じている人が多いそうです。

「カラフルステーション」をつくるとき、松中さんたちが思い描いた都市がありました。それは、最近注目を集めているポートランドです。

ポートランド発の雑誌『KINFOLK』が発信しているスモールギャザリングというコンセプトのように、すごく近い身近な人たちとちっちゃく集まって、生活の一部として日々の出来事や将来の夢を気軽にご飯を食べながら話して、ワイワイ集まれるような場所になるといいねって言ってたんです。

それが徐々に形になってきていることを松中さんは感じています。

LGBTでない読者の方の中にも、「カラフルステーション」に興味をそそられた人がいるかもしれません。ただ、興味本位で足を運んでいいか少しためらってしまう気持ちもあるのではと思い、率直に松中さんに尋ねてみました。

興味本位で来てもらって全然OKです。来ればいろんなことが見えると思います。テレビに出ているオネエ系のタレントさんみたいな人をLGBTだと思っている人にすれば、カルチャーショックかもしれないし。

普通にスーツ着てるおっさんもいますから。すごくキレイな女の子なんだけどレズビアンの子がいて、もったいないって言うおっさんもいたりとか。そういうのは自分の目で見ないとわからないですよね。

松中さんは自分の目で見ること、実際に人が関わることが大切だと考えています。

どれだけ場をつくっても、制度を変えようとしても、結局は、ある人がカミングアウトして、ある人がそれを受け止めてという、一対一の関係が無数にできていくことが世の中を変えていく一番のきっかけだと思っているんです。

興味本位でも足を運んでみれば、そこで友達ができるかもしれません。きっと世界が広がることでしょう。最近は、LGBTについて取り上げられる機会も増え、以前より多くの情報が耳に入りやすくなりました。

けれども、LGBTの人とそうでない人が直接触れ合うことで、新しい何かが生まれるはずです。「カラフルステーション」がそんなきっかけをつくり出す、素敵な場所に育っていくことを願っています。

百聞は一見にしかず、まずは「カラフルステーション」に足を運んでみてはいかがでしょうか。