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持つべき人に渡ったら、自然とものは減っていく。「BOOK APART」三田修平さんに聞く本のある暮らしと、ものの価値の話

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どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。

部屋の中を見渡せば、本や映画、CD、DVD、買い込んだ洋服や雑貨…気に入って買ったはいいけど生活には必ずしも必要のないものばかり。多くの人は、そういったものに囲まれて暮らしているにではないでしょうか。

でも、それらのものがなくなったと想像したら寂しいですね。

必要ないかもしれないかもしれないけれど、あるとよいもの。きっとそういうものなのでしょう。では、それはあればあるだけ豊かなのでしょうか?

東急東横線の大倉山駅から線路沿いの道を歩いてほどなく、白い光の差し込む集合住宅が目に飛び込んできます。2013年10月、その一室に「家」をコンセプトにした書店「BOOK APART」がオープンしました。

お店を運営するのは店主の三田修平さん。青いヴィンテージトラックが目印の移動式書店BOOK TRUCKを経営する彼の、2店舗目のお店です。

今回は、移動と住居をテーマにした2つの本屋を営む三田修平さんにお話を伺いました。本屋という情報の集積地ではたらく三田さんにとって、本当に必要なものはどれだけなのでしょう。

人々の帰る町にある本屋

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Book truck,Book apartを経営する三田修平さん

BOOK APARTがあるのは、東急東横線の大倉山のアパートの一室。店舗ではなく住宅であることに、三田さんのこだわりがあります。

SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERSで働いていた頃は渋谷周辺に住んでいたんですが、独立したら都内で暮らさなきゃいけない理由もないですし、都内の駐車場は高いので引っ越しました。

町の本屋さんを始めたいと思っていた時にこの物件を見つけました。家の中で本を読む風景が想像できる、そんなコンセプトのお店にしたかったんです。

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「SANAA」妹島和世さん設計による開放的な集合住宅

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BOOK APART店内の書棚は、すべて手づくり

書棚は全て自分で手づくりしたもので、デザイナーさんに発注はしなかったのだそう。お金に余裕があればデザイナーさんにオーダーしたいし、なんでも良ければ既成のものを購入すればいいけど、なんでもいいわけじゃないと三田さんは言います。

基本的に僕はなんでも自分でやりたいんです。棚をつくるのってそんなに難しくないので、自分でもできますし、空間に合わせてサイズ、幅、どんなデザインにするかを決めたかったんです。

誰かにデザインしてつくってもらうお金はないし、自分でつくった方が、あとあと手を加えて工夫できますし、ちょうどいいかなと思って。

BOOK APARTは3階建ての居住スペースに合わせて本棚が並んでおり、部屋の役割に合わせて本が配置されています。

ベッドサイドには子どもに読み聞かせるための絵本、キッチンには食卓にあたたかみを加える料理本、窓辺には外の世界へとつながっていく旅の本というように、その本が生活の中でどんな役割を果たしてくれるのかを教えてくれます。
 
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店内のインテリアは本のある風景を想像させます

また、三田さんのもうひとつの店舗である、自由自在に移動できる本屋BOOK TRUCKは、各地で行なわれるイベントに出店しています。

浜辺なら海の本、マルシェなら食の本が多くなるよう選書。売るのみでなく、様々なシーンに合わせて本をコーディネートするのが三田さんの仕事です。
 
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移動式書店BOOK TRUCK

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出店先に合わせて書籍を入れ替えている

持つべき人に渡ったら、自然とものは減っていく

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本をセレクトする三田さん。売れる本ではなく、独自の視点から本が選ばれている

本を扱う職業の三田さんですが、ご自宅も本でいっぱいなのかと思いきや、手元にはほとんど本がないと言います。好きで集めたものでも、自分よりその本を求めている方に出会ったときには、他のその方に引き継いでいっているのだそうです。

集めている古い雑誌があったんですけど、その話を書店で働いている友人にしたら、僕よりも熱心な読者であることがわかったんです。「じゃあいる?」ってことになって譲っちゃいました(笑)。

そんなふうに人に譲っていたら、手放すのが自然になっちゃって。求めている人がいるところに本が渡った方が、僕も嬉しいですし、本にとってもいいことですよね。

僕のところにあってもあまり読み返さないけど、その人に渡ったことで価値が生まれる。それに、色々集めたり手放したりして自分に必要なものは多くないって分かってきたんです。

古本屋は新刊書店とは違います。いつも同じ商品を安定して仕入れるのは難しいです。

古本との出会いは一期一会。欲しい本と出会ったら売らずに自分のものにすることもできますが、自分以上にその本を必要な誰かに引き継いでいくことに喜びを見出し、本との出会いを演出していくのが三田さんにとっての古本屋なのです。

好きな本を読む楽しさもあると思うんですけど、それを買って帰る時の楽しさ。自分のものにしてやったぞっていう気持ちで帰り道を歩くあの楽しさって、僕にとっては他に代え難いものなんです。だからそれを人にも味わって欲しい。

本の楽しさを伝える場は図書館とか、雑誌の特集とか色々ありますが、本を買う楽しさは本屋でしか味わえないので、そこを追求するのが使命かなとは思っています。

本はその軽さで、想像力をかきたてる

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人生を豊かにするためには、「最低限のもの」だけでは足りないと三田さんは言います。本や映画に全く触れずに生きていくことはできますが、それはちょっと寂しいですよね。

本の良さは、自分のペースとタイミングで手に取って読み始められるところ。テレビや映画より情報量は少ないですが、自分の中で好きなように細部を想像し物語を補完しながら読むことができますよね。

もうひとつ重要な役割は、知的好奇心を満たすということ。知らないことに触れたときってそれ自体が楽しいじゃないですか。本の先に人がつながっていたり、世界の広がりを想像していくのに本は最適なんです。

自分のペースで情報と付き合い、誰かの考えにふれること。本は、体験として、その大切さを教えてくれます。

想像力で補いながら本を読むように、生活の中にも自分なりの工夫を加えていく。豊かな暮らしに必要なのはこういった姿勢なのではないでしょうか。

本当に質の高いことをしていれば、世界中で100人しか興味を持たなくても50人が買ってくれる。小さいお店だからこそ本のセレクトをしっかりやっていきたいと思います。

お店に限らず生活をつくる上でも、世の中にある全部のものと向き合う必要はないですよね。自分にとっての必要なもの、好きなものが分かればそれにかける時間やお金、暮らしそのものが変わってきます。

みなさんも本棚を整理するように、「生活に本当に必要なもの」を見直してみてはいかがでしょうか?