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仕事帰りでも立ち寄れる”まちなかのキャンプ”は、異文化のるつぼだった!宿泊者以外も大歓迎の宿「岡山奉還町ゲストハウスKAMP」

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仕事帰り、あなたの足はどこへ向かいますか? スタスタと自宅へ帰ることもあれば、職場の仲間と飲みに行く日だってあるかもしれません。

一方で休日は、どんなふうに過ごしていますか? 見慣れた天井と向き合って、ゴロゴロと過ごすこともあるでしょう。

きっとそれは悪くない一つの暮らし。でも、もしあなたが現状に満足しておらず「最近コミュニティが狭くなった」「出逢いがない」と口にしたことがあるのなら、今回のお話に心躍るかもしれません。

普段ではなかなか出逢えない多種多様な人々と文化の集合地点が、日常のそばにあって、あなたが望むなら今日の仕事帰りからだって立ち寄れるとしたら、ちらりと覗いてみたくはありませんか?

今回は、そんな非日常を日常にしてしまえる場所のお話です。

ゲストハウスKAMPとは?

みなさんはゲストハウスを利用したことはありますか? 一泊素泊まり平均2500〜3500円で、気ままで無計画な旅には最適な宿泊施設です。

修学旅行の夜みたいに宿泊者同士が気軽に交流できるリビングが設けられていて、相部屋もあり、シャワー・トイレは共有というゲストハウスは、言うならば「交流スペース付き共同宿」。

1960年頃から欧米の若者達に広まったバックパッカー向けの宿や、海外のユースホステルと似ていますが、近年の日本のゲストハウスは面白い傾向があります。それが、“宿泊せずとも楽しめるゲストハウス”です。

今回ご紹介する「Okayama Houkancho Backpacker’s Inn KAMP(キャンプ)」もそのひとつ。しかも、彼らのバックグラウンドが前代未聞でとても魅力的なのです。
 
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パン屋さんやお総菜屋さんの隣の隣に、この三階建てビルがどんと登場します。外観には木が鱗のように並べられ、まるでビル型ツリーハウスといった装いです。

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道路側の側面は一階も二階もガラス張り。中の楽しそうな雰囲気に、商店街の道行く近所のおばあちゃんや小学生も、時折興味深そうに覗き込んでいます。

今年の7月19日から21日にかけて、三夜連続オープニングパーティを実施するなど、華々しく開業の日を迎えたKAMP。場所はJR岡山駅から歩いて5分。「経済産省が選んだ”がんばる商店街77選”を受賞」という垂れ幕が掛かる奉還町商店街のなかほど、路地を少し入ったところに位置します。

今回、取材を受けて下さったのはKAMPディレクターの北島琢也さん。6年前から奉還町商店街内でアウトドア系アパレルショップの店長もしている二児のパパ。チョビひげがチャームポイントの朗らかな男性です。
 
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KAMPディレクターの北島琢也さん

誰もが“遊びながら学べてしまう”空間づくり

KAMPは、宿泊はもちろんのこと、宿泊なしでも立ち寄り歓迎。旅人でも町人でも、何歳でどこで何を生業にしているかも関係ありません。

小さい子供もおじいちゃんおばあちゃんも、ひとりでも子供連れでも、誰もが気軽にふらりと立ち寄ってボーダレスに交流を楽しめるようにと、一階は広く開かれた空間になっています。

昼間はカフェ・夜はBAR営業をしているため、大きなL字のカウンター越しにドリンクや軽食を注文することができます。広々とした開放的な店内のつくりからか、はじめましての人同士でも自然と会話が生まれ、交流を楽しんでいる姿が見受けられます。

宿泊者の傾向で言うと、現段階は8:2で海外ゲストが多いですね。主にヨーロッパで、ドイツ・フランス・スペイン・イタリア・オランダ・デンマーク・オーストリアとか。アメリカ・オーストラリア・台湾・中国の方もいました。

町の人たちに、もっと「こんな異文化に溢れる場所が近所にあるんだ!」とぜひ知ってほしいし、立ち寄ってほしいですね。ここに来るきっかけになったり、「ああ面白い!」って思ってもらえる機会が増えたら良いなと思って、定期的に様々なイベントを開催するよう心掛けています。

KAMPが開催するイベントは多種多様。オープンからわずか2か月足らずの間に、参加者全員が川の字に寝そべって行うヨガや、藍染め体験をするワークショップ、台湾好きが高じて趣味で台湾屋台イベント出店を行うアーティストの台湾ナイトなど様々なイベントがすでに開催されたというので驚きです。

その中でも特に盛況だったのが「ペチャクチャナイト」。事前に講演者を募り、各自20枚のスライドを用意、一枚あたり20秒でプレゼンテーションを行うというイベントに、平日の夕方開催にも関わらず約50名ほどの来客で立ち見席も出るどの賑わい。

イベントは日本語で実施されましたが、日本人だけでなく、海外から来たゲストも、会場の楽しそうな雰囲気に惹かれ、興味深そうに参加していました。
 
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今回のプレゼンターたちも、魅力的で個性が溢れる方々ばかり。「日本オオカミ復活支援団体の活動」「木こり女子グループの活動」、今年で四国霊場開創1200年を迎える「お遍路さん」から「廃墟マニア」「手づくり家具職人」まで、まさにノンジャンル!

参加者の年齢層も20代前半から60代まで幅広く、誰もが好きなお酒片手に興味深くプレゼンを聴き、笑いを誘う場面ではみんな揃って頬がほころびます。約3時間のイベントはあっという間で、あまりの熱気に誰もが惜しみながら家路についているようでした。

日常の暮らしではなかなか触れることのない分野を、その道のプロ達から楽しく学ぶ。KAMPでは、こういった”遊びながら学べてしまう”人としての豊かさを育むようなイベントを積極的に開催していく予定です。

全てのはじまりは無人島アウトドアイベント

ちなみに「KAMP」の名前の由来は、北島さんたちが2010年に開催した離島アウトドアイベント「牛窓ナチュラルキャンプ」から。このキャンプイベントこそが「KAMP」が生まれる原点なのです。

自分達で、自分達の近くに、自分達が好きだと思える空間をつくろう

音楽ライブなどを専門として活躍する岡山出身プロカメラマン池上剛さんが、こんな想いを口にしたことが全てのきっかけでした。

仕事の経験上、「東日本では野外フェスなど躍動感や一体感の中で心が解きほぐされるような企画が多く開催されるのに、西日本ではまだまだ少ない」と強く感じていたそう。

想いを言葉にして伝え、共感者に出逢えれば一緒に実現していこうと口説く、その情熱的な行動が同じ想いを秘めた仲間達を集めていきました。そして、集まった有志で最初に企画したイベントが「牛窓ナチュラルキャンプ」だったのです。
 

2013年の実際の映像

岡山県瀬戸内市牛窓町で二日間に渡り開催する牛窓ナチュラルキャンプは、2010年からスタートし、毎年開催しています。2010年、2011年は広大な丘「牛窓オリーブ園」で、2012年からはずっと念願だった牛窓の無人島「黒島」での開催が実現しています。

大自然の中、明るい陽射しを浴びて風になびくカラフルな旗。ダッチオーブンで焼くパエリアや岡山地ビールなどこだわりの屋台が並び、昼間は青空忍者教室・竹灯籠づくり・海の生き物教室・宝探しなど子供から大人まで楽しめるようなワークショップが開かれます。

大きな木の根本では野外ライブがあり、夜には参加者全員でキャンドルナイトやキャンプファイヤーを楽しむのです。
 
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イベント開催地の黒島では干潮時には、離島から小島につながる道が現れ、なんとも神秘的な景色に。この道はバージンロードと呼ばれ、近隣のホテルからわざわざ観光に来るカップルもいるほど。2013年の牛窓ナチュラルキャンプではイベント内で結婚式を挙げ、このバージンロードを歩いたカップルもいました。

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牛窓ナチュラルキャンプの来場者数は毎年300〜400名に登ります。2014年も9月13日(土)14日(日)に開催され、浜辺近くの芝生にはカラフルなテントがいくつも張られ、イベントも多くの人々で賑わっていました。

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2014年の開催も、晴天と心地良い秋風の中での開催となりました。ワークショップは子供も大人も一緒くたになって熱中して参加し、思い思いの作品をつくりあげていました。

なかでも注目なのは「UFOを呼ぶかい?」という参加型ワークショップ。

地元でパワースポットとしても有名な牛窓はUFOに遭遇した!なんて記事もネットでまことしやかに囁かれています。そこでイベント内でも、夜空を見上げUFOを呼ぶということに毎年チャレンジしています。

UFOが出てもおかしくないかもと思える満点の星空を見上げ、心地良い海風を感じながら隣の人と手をつないで希望者みんなで輪になると、なんだか童心に帰ったような気持ちになります。

第一回目の運営メンバーは、レコード会社代表・環境コンサルタント・フェアトレードの経営者など、それぞれ違う分野で活躍する40〜50代の顔ぶれで、その中で自分が一番若いくらいでした。

はじめはみんな未経験で何から手をつけていいのかわからない状態。それぞれの本職もある中、出演者の手配やイベントの告知など、準備も大変でした。

第三回目から念願の無人島開催が決まって、みんなめちゃくちゃ喜んで。第四回目も待ちに待った当日を向えてみると、なんと終盤で台風が直撃してしまって。

イベント参加者全員を安全に本島まで送り届けるにはどうしたら良いかあれこれ必死になって考えて。もうずぶ濡れになりながら走り回った、あれが一番大変な出来事でしたね!

それぞれ本職もあるので有志の運営メンバーは毎年少しずつ変わるものの、はじめのきっかけを生んだ池上剛さん、いつも全体のまとめ役となってくれる頼れる広告会社代表の岩田洋史さん、そして現場の力となるアウトドアに長けた北島琢也さんの3名は皆勤賞。

いくら大変な思いをしても、それを越える”気持ち良い!”っていう開放感と一体感をイベント開催時に心底感じられるから、途切れることなく毎年企画できているんだと思います。

新たな仲間も増え、最近は30代40代の約10名が運営メンバーとして定着してきました。プログラマーからガテン系まで、相変わらず職業は皆様々。

5月末には事前準備として皆で草刈りイベントをしてきました。あちこちに生い茂る草を刈って、ビール飲んで、キャンプして、ドラム缶でお風呂炊いてみたりして。良い空間をつくるには、企画してる自分達が心底楽しんでこそだと思うので(笑)

“年に2日”だけでなく“毎日”つながり続ける場所を

そんな彼らが、なぜゲストハウス開業へと展開を進めたのでしょうか。実は、その理由はとても明快でした。

楽しい日が年に2日間だけではなく毎日つながり続ける場所を、という想いで今回のゲストハウス開業に至りました。

今まで牛窓ナチュラルキャンプという場を介してつながった縁は、日常生活ではなかなか手に入らない多彩で本当にかけがえのないものです。なのに今までその縁をつなぐ場が年に2日間しかなかった。

だから、そんな今までの縁とこれからの縁が毎日つながり続ける場所がほしいなって皆で話していて。一年くらいかけて物件探しや事前準備をして、今回のゲストハウスOPENに至りました。

計画当初は岡山駅付近にゲストハウスは一軒もありませんでした。新幹線も走る岡山駅は東西南北に交通の便が良く、どこに向かうにも便利な駅。だからこそついつい通過されがちなのです。

電車を降りたとしても観光と言えば、どうしても岡山城や路面電車のある東口側が注目される傾向にありました。

地元を知る北島さんは、岡山駅周辺に魅力を感じ、特に暮らしに根付いたディープで面白い文化は西口側にあると感じていました。そこで、もっと多くの人達へゲストハウスを介して町の魅力を伝えることができればと、この地を選んだそうです。

変わった人達がさらに変わった人達を呼ぶ

ゲストハウスづくりに関わった人たちは、イベント運営メンバーだけに留まりませんでした。幼い頃から一緒に育った地元仲間や縁あって各地でつながった様々な人たちの協力があって、現在の状態を迎えています。

宿全体の建築デザインは、倉敷駅近くにある大型ショッピングモール前のツリーハウスも手掛けている地元仲間の大工さん。螺旋階段を手掛けた鉄材屋さんや、キッチンにある業務用冷蔵庫などの手配に関わった業者さんも、地元の古くからの友人達。

他にも、たったひとりでオリジナル照明を全て手づくりする東京在住の照明屋さん。一階でおしゃれなキャンプ道具を販売するのは、キャンプをこよなく愛して独立したアウトドアコーディネーター。

ウェブサイトを手掛けるのは、岡山の山奥で地域おこし協力隊と共に活動をしながら田舎暮らしをするITエンジニア。今現場には若い20代前半のメンバーも増え、顔ぶれは個性派揃いでまさに十人十色です。

KAMPに居ると、普段出逢えない分野の人達に遭遇できることが多いのですが、その理由は、”変わった人達がさらに変わった人達を呼ぶ”という壮大なルイトモ現象だと考えれば納得がいきます。
 
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以前は整骨院を営んでいた築50年の三階建てビルを大々的にリノベーションしています。写真は今年4月に撮影した改装途中のもの。この状態をはじめて見た時は、ここが生まれ変わって各国の人達が集う場所になるんだろうか…とちょっぴり不安になるほどでした。

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そして、これが改装後の姿。たくさんの人達の協力があって、先ほどと同じアングルから撮った写真とは思えないほどの変化を遂げました。OPEN直前には、牛窓神社の宮司さんがいらして、新たな場の清めと開業を祝して健闘を祈り、神棚に神様をお迎えしていました。

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新たな息吹きを吹き込まれたこの場所は、今では世界各国から人々が集まる空間に。実際KAMPのようなゲストハウスでは、好きで通ううちに英会話が上達したというケースも少なくありません。

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一階は開かれた空間ですが、二階はセキュリティの掛かった宿泊者専用スペースになっているので泊まる側としても安心です。二階入口にある24時間のセキュリティロックだけでなく、二段ベッドの相部屋も和の個室も、各自皆に鍵を渡す徹底っぷり。そして、その鍵がまた可愛いデザインでウットリします。

夢を企むことに年齢制限はない

KAMPはまさに異文化のるつぼ。そこで出逢う活き活きと輝く大人たちには一つの共通項があることに気付きました。それは“夢を企み続ける大人”だということです。

一般的に大人になると、仕事ではキャリアアップして任される業務が増し後輩や部下が多くなったり、プライベートでは結婚してパートナーができ子供が誕生したりと、立場的にも経済的にも責任は大きくなり、大切なものは増加する傾向にあります。

すると小さい頃のような「いつか◯◯したい!」という、自身の気持ちに真っ正面から向き合って、夢に思い馳せる感覚が後回しになりがちではないでしょうか。

20代前半は東京や埼玉で一般的な企業の会社員をしていました。ただ、常に頭の中には、楽しいことを企み続けたいという感覚を強く持っていました。

そして約10年前描いた「いつか自分で店を持ちたい」という想い、約5年前描いた「地元でアウトドアイベントをしたい」という想い、約1年前描いた「ゲストハウスを運営したい」という想い、有難いことにこれらは全て実現できています。

振り返ってみると共通して大事なことは、「常に楽しそうな夢を描くこと、その想いを誰かに伝えること、そしてとにかく行動に移すこと」なのだと。考え過ぎて頭でっかちになる前に、ね。

そう話す北島さんは、現在可愛い二人の女の子を持つパパでもあります。KAMPには奥さんと子どもが訪れることもよくあり、子ども達は初対面の大人たちに照れながらも、笑顔でおしゃべりを楽しんでいるようです。

自身の夢の実現が、大切な人たちをも巻き込んだ幸せな空間として成すことを、実体験で証明しているかのようでした。そして次なる夢は、子ども達が大きくなったら、いつか奥さんとバックパックで世界を巡りたいとのこと。まだまだ夢は膨らみ続けます。

もしあなたが今の生活に満足しておらず「コミュニティを豊かにしたい」「彩る出逢いに巡り会いたい」そう夢を馳せるのであれば、こんな大人達の集まる空間へぜひ一度訪れてみるのはいかがでしょうか。岡山周辺にお住まいの方はぜひふらりと、東京周辺にお住まいの方は週末のお休みに都会を離れ小旅行を兼ねて。

こんな言葉から、躍動感溢れる非日常をあなたの日常にしてみませんか?

「さあキャンプへ行こう!」

(Text: 前田有佳利)