地図をつくる人。旅をつくる人。住まいをつくる人。
東京・調布の一角に、今日も暮らしのつくり手が集まりました。
毎月第3日曜日にco-ba chofuで開かれる「green drinks 調布」は、日々の暮らしや自分の住むまちがちょっとよくなるアイディアをシェアする場。
9回目を数える今回は、多くの人から愛される調布・仙川の地図を作成した、仙川地図研究所の小森葵さん、スプーンデザイナーから神主まで様々な職業体験旅行を企画する、仕事旅行社の田中翼さん、賃貸住宅の常識を覆しコミュニティが生まれる住まいのチャレンジを続ける、メゾン青木/都電家守舎代表の青木純さんを囲んで開催しました。
まちを構成する人の表情が伝わってくる地図だから
1人目のゲストは小森葵さん。今日のために地図っぽい柄のワンピースを選んだのだとか。
仙川地図研究所― それは地図好きが集まって地図をつくる研究所。
今年の4月1日に初版となった『見る知る歩くせんがわ地図』は、調布市の一角・仙川地域だけを切り取った地図であるにもかかわらず、発売後20日間で1500部が完売。大阪、愛知、岩手、沖縄など全国から通信販売の申込みがあるそうです。
まちづくりに関心があるから、いつか行ってみたいから、など購入理由はさまざま。
なぜこの地図に多くの人が惹きつけられるのでしょうか?その理由のひとつは、ネットでは見られないまちの情報が載っていること。
地図の裏面には、仙川でお店を営む店主さんの顔写真とお店に対する想いが綴られています。
小森さん ラーメン屋さんは恥ずかしいって言って顔写真はなくて、ラーメンの写真になってるんだけど(笑)。
研究所のメンバーが一軒一軒訪ね歩いて集めた情報だから、このまちを形成している人たちの姿がダイレクトに見えてきます。
もうひとつの理由は、ディテールにこだわったデザイン。
デザイン用のソフトウェアをいくつも使いながら、手間暇をかけてアナログ感を出しています。
地図をよく見ると、もこもこと立体的に表現された草木、マップのあちこちに隠れている動物たちもかわいらしく、道路や建物のラインにも温かみが感じられます。
これらの話からもわかるように、制作者の仙川地域への愛が伝わってくることが、この地図の最大の魅力かもしれません。9回目の引っ越しでやって来た仙川に、小森さんは特別惹かれるものがあったそうです。
小森さん 国分寺で生まれて、吉祥寺にも住んで、荻窪にも住んで、四谷にもデンマークにも住んで。四谷在住時代に仙川に通っていたんですけど、このまちの魅力はんぱないなって思ったんですよ。
第二の故郷っていうんですかね、この土地に住んでて恩恵を受けていることを大切にしたいと思ったんです。
お話を聞いていると小森さんの仙川への愛が伝わってきて、私も地図を片手に仙川を歩きたくなってきました。
まちを育てるのは、そのまちに住んでいる人自身
地図づくりだけでなく、「仙川手作り市」や「仙川体育部」を主催する小森さん。そんな小森さんが地域に関わるきっかけは何だったのでしょうか?
小森さん 仙川の新聞販売店が発行するミニコミ誌の編集長を務めることになって、地域の取材をしたりネタ集めをしたりするうちに地域のことが気になり始めたんです。
3.11では計画停電対象地域だった仙川で、利用客がぱったりとなくなり困っている地元の飲食店に売上の一部を被災地に寄付する取り組みを提案、地域経済支援と被災地支援を結びつけるプロジェクト「仙川でごはん!」を実行しました。
このプロジェクトを通じて、まちに関心のある地域の人々とのつながりができたのだそうです。
まちづくりは、そこに住んでいる人がまちをよくしたいという想いをもって行動することなのだと思います。小森さんの地域への目線にはっとさせられました。
小森さん まちは内側からしか変わっていけないと思うんです。住んでる人たちとのネットワークができたことで、地図づくりとかもできたのかなと。
まちを育てるのは住んでいる人自身。住民が地域に関心が高いまちは楽しいまちになる気がする。これが私の心情です。
一日だけ違う職業になれるなら、何になりたいですか?
2人目のゲストは仕事旅行社の田中翼さん。シンプルなスライドで熱い話をしてくださいました。
仕事旅行社とは、スプーンデザイナーやファンドレイザー、旅行家や神主など、さまざまな職業体験の旅をプロデュースする会社。キッザニアの大人版といえば、イメージしやすいかもしれません。
探偵や占い師、照明デザイナーやウエディングプランナーなど、職業体験を旅に見立て、「ネイチャーガイドになる旅」など、その数100を超える旅がwebサイトに並んでいます。
旅人は、その仕事に就く人に会いに行き、仕事内容の説明を受けたり、実際にやってみたりして一日を過ごします。日々の仕事の流れからやりがいまで、職業人から直接聞くことができるのも魅力です。
田中さん よく聞かれるのは、これは転職サイトですか?っていうこと。僕はそのつもりはなくて、あくまで旅行サイトなんです。見知らぬ職場を旅行して、異文化に触れてほしい。
仕事旅行には、おもしろい経験を求めて参加する人もいれば、小さい頃なりたかった職業の夢を叶えるために参加する人もいます。中には、転職や生き方について考える際にこの旅を利用する人もいるのだそうです。
そういった参加者からは、やっぱり隣の芝は青く見えたという声が多い一方で、転職の決意が定まったという声もちらほら。「人の人生にインパクトを与えてるなーと思います」と田中さん。
「自分は今のこの仕事を続けていていいのだろうか?」
一度でもそう考えたことがある人は少なからずいるのではないかと思います。そんなときはどうするか。
たくさんの本を読み、交流会など様々なイベントに足を運び、答えを見つけようとするのも一つの方法でしょう。
田中さんは資産運用会社で営業をしていたときに、リーマンショックが起きました。「自分の仕事は、果たして人の可能性を広げているんだろうか?」それまで大事にしてきた仕事の目的に疑問を持った田中さんは、大量の本を読んだそうです。
そして、社会起業家として活躍する同世代に焦り、めまぐるしく変わっていく世界を知り、でも本によって言っていることはバラバラ。そこで得た結論は、答えはないんじゃない?っていうこと。
田中さん 自分が思ったことをやるしかないんじゃないかって思いました。
そんなときに、当時としては目新しい、アクティビティを売るカタログギフトの会社に出会います。イベントで知り合った社長に誘われてオフィスに遊びに行くことになりました。
田中さん 夏場に行ったんですけど、僕は金融業界で働いていたんでジャケットに手土産持ってたんです。だけど、出てきた社長が短パンの兄ちゃんだったんですよ。カルチャーショックで(笑)。
マウンテンバイクが置いてあったり、ポップコーンマシンがおいてあったり、社内もユニークで自由な雰囲気でした。自分よりも年下の人が起業して、このような会社をつくっていることに衝撃を受けたのだそうです。
田中さん そのとき、この人と自分と何がちがうんだろう?って思ったんですよ。それはやるかやらないかだけだなって思ったんです。
アクティビティギフトが求められたのは、モノよりも経験に価値を置く時代にシフトしているからなのでしょう。やる気になった田中さんは、自身が体験しカルチャーショックを受けた職場見学の一連の流れをサービスにすることを思いつき、仕事旅行社を立ち上げました。
友人につくってもらったwebサイトに、知り合いに協力してもらって3つの職業旅行をのっけたところから事業は始まりました。今では体験できる旅の数は100以上に拡大し、企業の研修に利用したいという問い合わせが寄せられるなど、新しい展開も見えてきました。
仕事を選ぶときは、正解なんてないのだから「自分の想いにストレートに従う」ことだと田中さんは言います。まずは小さく動くことから始めてみませんか。そう、たとえば仕事旅行に参加してみたりするのはどうでしょう。
声を大にして言う、「自分らしい暮らしを手に入れよう」
3人目のゲストはメゾン青木代表の青木純さん。TEDxTOKYOでのスピーチもご存知の方も多いのではないでしょうか。
あなたは今の自分の住まいを、何を基準に選びましたか?
「会社まで一本で行けるから」「新築だから」「駅からが近いから」
しかし「どこに」暮らすかより、「どうやって」暮らすかをこれからは選ぶ時代だと青木さんは言います。
賃貸住宅だからと諦めなくていい、豊かな暮らしがそこにありました。
大家業を営む青木さんは、賃貸住宅においてオーダーメイドの部屋やご近所付き合いのある暮らしを実現させ、大家業界に風穴をあけました。
「壁紙が選べる」「コミュニティのある暮らしが営める」と支持される賃貸住宅「ロイヤルアネックス」(東京都豊島区)は、元はごくごく平凡な賃貸住宅でした。
しかし今では、マンション内のコミュニティスペースで住民たちが集まって恵方巻を食べるイベントが行われたり、屋上では家庭菜園をしたり、青空の下みんなでヨガをやったり・・・。人間関係が希薄な現代社会、しかも東京のような都心において、「本当に?」と疑ってしまいそうな光景です。
どうしてこの住まいにはコミュニティが育まれるのでしょうか?青木さんがまずこだわるのは、大家と住まい手の関係づくりです。
青木さん 誤解していただきたくないのは、壁紙を勝手に選べじゃない、一緒に選ぶということ。一緒にその人の好きなもの探しをするっていう行為が大家さんと借り手をうまくつないでくれるんです。
壁紙を貼ったり、床を張ったり、そういう作業を大家、新しい借り手、隣人が一緒に行うことで、お互いの親睦が深まります。
青木さん できたお部屋がとても素敵だったので、モデルルームにしてもらった。
そしたら、見学に来たお客さんに住まい手がお手製のアップルパイを出して対応してくれたんです。最高のおもてなしですよね、そこに住みたいって誰もが思います。
中には、入居日に住民票と共に婚姻届を出してきたカップルもいたのだとか。
「ここに一緒に住むのが嬉しくて」大家冥利に尽きることだと青木さんは言います。
さらに、青木さんの工夫は続きます。
青木さん 僕はやりたいことを必ずグラフィックにします。そしたら、実際に絵がかたちになるんです。
屋上で音楽を奏でて、みんなで野菜を育てている風景。住民たちが「やりたい」と思うことを絵に描いて共有し、それを実現できる場所をつくると、自然と流れが生まれるといいます。
青木さん 菜園があると屋上に上がるきっかけになる。そこに人がいると話す。そうすると自然にコミュニティになるんです。
驚くのは、このコミュニティがそこに住む人たちだけに閉じたものではないということ。
マンション内にあるテナントは、幼児教室にすることで、マンションの外の人からも利用され、コミュニティの輪が広がっていきます。
子育てにやさしい住まいになると、住民たちも安心する。最近は結婚や出産のラッシュになっているというエピソードもどこか偶然じゃないのかもしれません。
子供がいるなら、職場も近い方がいい。最近ではシェアオフィス「co-ba ROYAL ANNEX」もできるなど、暮らしはどんどん豊かになっていきます。
青木さん コミュニティは結果としてしか絶対にできてこないと思うんです。全部結果論なんです。
壁紙を選べばいいんでしょ、じゃない。オーダーメイド賃貸にすればいいんでしょ、じゃない。そう簡単にはいかないです。
最近では、コミュニティの輪がまちづくりについて話し合われる場に発展。「消滅可能性都市」に入っている豊島区を魅力的なまちにするべく、区長も交えて熱い議論が行われています。
自分の住まいを良くすること、それは自分の暮らしを良くすること、さらにそれは自分が住むまちを良くすることにつながっています。
豊かな暮らしをつくることがまちづくりにつながる。gd調布が考えてきたことが、そこには実践として行われていました。
青木さんの取り組みは、新築の賃貸住宅である「青豆ハウス」(東京都練馬区)でも花開き、住民同士が交わるだけでなく、地域住民と交わる賃貸住宅を実現させました。
一見順風満帆に見える青木さんですが、その素顔には意外な一面も。
青木さん 僕はどちらかというと根暗な人間なんです。だから楽しいことに価値転換していきたい。楽しいことには経済がまわります。
最後に楽しいなって言ってもらいたいので、そこを追求してきた。楽しい結果をなんとかしてつくっているという感じです。
自分の暮らしに関心をもつこと、そして暮らしをよくするために一歩でも行動してみること。青木さんの取り組みを特別扱いするのではなく、自分でできることを考え実践していくことが、豊かな暮らし・よいまちへつながっていくのではないでしょうか。
お月見カレーを囲んでわいわいおしゃべり
今回のケータリングは、おなじみ「sippoterry」こと杉田志保さんのカレーです。毎回どんなお料理が出てくるのか楽しみなんですよね。
今回は9月だったので、真っ黒いカレーにかぼちゃでできたお月様をのっけて夜空を描くお月見カレーでした。カレー目当てでこのイベントに遊びに来たという方もいらっしゃいました。
おいしいカレーとビールで会話が弾みます
green drinks chofuは、調布の外からも中からも人が集まります。調布にこの場ができたことで調布の外からも人が集まり、まちに風穴があいたような感じがします。
アットホームでありながら、エネルギッシュな場。今日もここで様々な想いをもった人たちのコラボレーションが生まれています。
green drinks chofuは毎月第3日曜日に開催中、次回は10/18(日)です。
記念すべき第10回のゲストは、日本仕事百貨代表のナカムラケンタさん、デコレーションアーティストの山田卓生 aka R領域さん、NPO法人ちょうふ子育てネットワーク・ちょこネット 理事・事務局長の杉山裕子さんをお迎えします! 自分らしい働き方を考えるヒントを見つけてみませんか?
個性豊かなゲストに囲まれて、一体どんな会になるのでしょうか。お楽しみに!!
(Text:池田睦美)