今年の10月から、受講者と一緒に3ヶ月で実際にタイニーハウスをつくってしまうというワークショップを開催する、タイニーハウスビルダーの竹内友一さん。
その竹内さんのつくったタイニーハウスやツリーハウスを訪ね、最後は本当に隠れ家のような素敵なツリーハウスで、自身もタイニーハウスに住み始めたgreenz.jp Co編集長の鈴木菜央さんとタイニーハウス対談を行いました。
タイニーハウスって何? ワークショップでは何をするの? そんな小さい家に本当に住めるの?など様々な疑問を解決しつつ、タイニーハウスが切り拓く未来とはどのようなものなのか聞きました。
ツリーハウスからタイニーハウスへ
竹内さんはイギリスやオランダのクリエイターのもとでプロダクトデザインを学んだ後、日本では「人と自然をつなぐ体験プログラム」のプログラムデザインに従事します。
その中でツリーハウスのワークショップに出会いツリーハウスビルダーに。その後は全国各地をツリーハウスやタイニーハウスをつくりながら旅していたといいます。
ツリーハウスビルダーとしていくつものツリーハウスを手がけてきた竹内さん。そもそもツリーハウスと言われればイメージは湧きますが、タイニーハウスって…?とイメージがわきにくいのも事実。そこで竹内さんにツリーハウスとタイニーハウスの違いについて聞いてみました。
竹内友一さん
竹内さん タイニーハウスというのは、ツリーハウスも含んだ「小屋」全般を指す言葉で、他にボートハウスやトレーラーハウスなども含みます。
ツリーハウスは実は小学校の頃からつくっていて、古タイヤを木にくくって階段にして、コンパネシートで床つくってみたいなことをやってました。それが何十年後に蘇ってツリーハウスビルダーになった。
それで、ツリーハウスをつくりながら全国を回ってる時に、いろいろな道具を全部詰め込んで、寝泊まりもできる移動式の家があればいいなと思うようになって、それでモバイル・タイニーハウスのことを知ったんです。
そんな竹内さんが「タイニーハウス」に本当に目覚めたのは、ディー・ウィリアムスさんのTEDxの講演を見て「ビビッときた」時だといいます。
この講演の内容をざっと説明すると、大きな家に住み、ごく普通の消費生活を送っていたディー・ウィリアムスさんですが、心臓の病気が見つかり、「いつ死ぬかわからない」状況になったところから、いろいろなものが実は自分の人生にとって大事ではなかったということに気づき、「シンプルな生き方」を求めるようになります。
そこで彼女は、友人の女性の裏庭を借り、そこにタイニーハウスを建て、高齢になり暮らしのサポートが必要になっていた彼女の日常的なケアをしながらそのタイニーハウスで暮らすようになったというものです。
菜央さん 彼女は持ち物も200個くらいに絞っていて、なにか増やすとなにか減らすというくらいシンプルな生き方をしている。
すごいシンプルにして修道女みたいになったのかと思ったら、実は逆で、シンプルにすることで人や自然とよりつながるようになり、むしろ自分が外に広がったと言っていますね。
竹内さん そう、彼女は小さくすることによってもっともっと外に行く。タイニーハウスは経済的・環境的な負荷が小さくなるという社会的な意味もあるけれど、自分の世界を広げるっていう自然科学的な効果もあるって彼女から学びました。手放すことによって可能性が広がる、そんな彼女のメッセージに込められたいろいろなことから、「俺も昔はそう思ってたのになぁ」というのが蘇ってきて、その2〜3週間後にアメリカであるというワークショップに参加するためにすぐに飛行機チケットを取って彼女に会いに行ったんです。
実際にワークショップに参加したら、彼女のことが大好きになってしまって、身振り手振りとかもそうだけど、考えてることもすごくツボにハマったんです。
竹内さんは以前からタイニーハウスには興味があり、河口湖の近くに店舗用のモバイル・タイニーハウスもつくっていました。そこにディー・ウィリアムズさんとの出会いがあり、今回のワークショップへとつながったのです。
タイニーハウスはムーブメントになれるか
タイニーハウスをつくる竹内さんと、タイニーハウスで暮らすことを選択した菜央さん、二人が考えるタイニーハウスの魅力とは何なのでしょうか。単なる「小さな家」ではない、タイニーハウスの魅力について聞いてみました。
菜央さん タイニーハウスで面白いのはムーブメントになっていて、同時にマーケットにもなっていること。
ビルダーとして建てることを仕事にするだけじゃなくて、さまざまなパーツが売り買いされていたり、タイニーハウスの雑誌や本がたくさん出版されていたり、産業がそこに生まれていて、いろいろな人の仕事にもなっている。
それに個人的にはある意味ではカウンターカルチャーだっていうところも面白いと思います。
大きな流れで言うと、アメリカにとって、リーマン・ショックの影響は大きかったと思うんです。ある日突然資産が紙切れになる、仕事を失う。家から追い出される……沢山の人の暮らしを壊された。そんな状況で、本当に大切なのは、自分で生きていける力、友達や家族との豊かな時間、周りとの協力関係、コミュニティのようなものだと気づいた人たちが、消費社会に反旗を翻して自分たちの手で生活をつくっていこうというムーブメントを起こした。それにすごいドキドキしたんです。
竹内さん このサイズの家って、実は誰でもつくろうと思えばつくれる。そして、自分でつくっていれば、あとから直すときにもどこをどう直せばわかるし、必要に応じて窓をつけたりカスタマイズもできる。建売の住宅だと、箱のほうに自分を合わせていかなきゃいけないんだけど、タイニーハウスなら家を自分に合わせて変えていくことができる。
子どもに合わせて4ベッドルームある家を建てたけど子どもが独立したらいらなくなっちゃったっていうんじゃなくて、その生活に合わせて空間を変えていける方が楽に暮らしていくことができる。そういう生き方の変化をタイニーハウスが促すんじゃないかと思うんです。
菜央さん 家の大きさというだけじゃなくて、経済のあり方そのものへの問題提起になっていると思う。家が小さいってことは光熱費も少なくて済むし、収納できないからものも買わなくなるし、一見家の話なんだけど、暮らし方とか経済のあり方とか生き方の問題を提起しているところが面白いと思います。
竹内さん 社会運動ですよね。
タイニーハウスは社会運動だという2人。しかし、今のこの日本でこれがムーブメントとなりうるのか、私には疑問でした。週末をツリーハウスで過ごすのは楽しそうだけれど、小さな家にずっと住むということには抵抗がある。その抵抗を超えるためには何が必要なのか、聞いてみました。
竹内さんが店舗用に制作した河口湖畔のタイニーハウス
竹内さん 別にずっとタイニーハウスに住む必要はなくて、ジャンクなものをいっぱい食べれば頭では満足するけど、体では消化しきれていないっていう状況を改善するに断食道場に行くみたいに、モノのあふれた生活を改善するために一度タイニーハウスに住んでみるみたいな。
シンプルな暮らしを経験して、こういう選択肢もあるということを学んで、その上で今後どんな生活を送るかを考えてもいいんじゃないかと思うんです。
菜央さん 家って、一番長くいる場所だし、暮らしの基本になる場所だから、家を考えることは、日々の日常、生き方から仕事、人生の幸せにまで、関わってくる。「手放すことによって可能性が広がる」効果が、一番大きい。でも、僕も含めて、今の消費する暮らしから外に出ることがなかなかできない気持ちもある。レールから外れる不安がある。でも、このままでいいのか?と多くの人が思っている。そこに対して、タイニーハウスは的を射った提案になってるな、と思います。
竹内さん オルタナティブだし、カウンターカルチャーだから、何かに対するリアクションだと思うんですよね。その何かに気づかないといけない。
シンプルな暮らしに、みんな興味はあるけれど、今の暮らしを捨ててカウンターカルチャーに飛び込むには勇気がいる、それは当然のことです。
しかし、竹内さんが言うように、タイニーハウスは必ずしも「飛び込む」ことを意味するのではなく、それを体験してみることでもありうるわけです。それならば、今の消費社会に飽き飽きしているなら試してみても良さそうです。
しかしそれでも私にはタイニーハウスが生活から近いところにあるものには感じられませんでした。それが「自分たちで生活をつくっていく」ということならば、DIYやキャンプのようなカルチャーの延長にあるものなのか、それがどこでカウンターカルチャーとつながるのか、聞いてみました。
富士吉田のツリーハウス
富士吉田のツリーハウスとその内部。手づくりの小さい家だからこそさまざまなこだわりが実現できる。
竹内さん 今はだいたいのことが外注で、外注のためにお金を稼ぐという経済構造になっている。だから、DIYがカウンターカルチャーの入り口と言われればそうだと思います。
手づくりで自分の好きな空間をつくるということを多くに人が始めているなら、自分の人生に合わせて空間をつくれば楽だということもわかるはず。そう思う人たちが増えればマーケットやメディアが動き出し、カウンターカルチャーであったものがひとつの文化として確立されるんだと思うんです。
今はなるべく武装したいというか、物があればあるほど安全になるみたいな神話がある。戦後のものがなかったところから少しずつ増えていったから、ものをない時代を知っている人はそういう神話から抜け出すことができない。今はちょうどそこからシンプルな方に行く過渡期なんじゃないかと思うんです。
全員に届くムーブメントではないのかもしれないけれど、世の中このまま行けないというのは明白で、どこかでダウンシフトしなきゃいけない時は来る。タイニーハウスはそのダウンシフトのきっかけの一つで、他の何かでシフトする人もいるだろうし、何十年前からシフトしてる人もいるわけです。
菜央さん 慣性の法則ですよね。何もなくて食べることにも苦労して、幸せに生きるための物がない状態で生きてきて、それが経済を発展させる上で都合が良かった、その時代の慣性の法則がすごく強いんだと思います。
竹内さん 切羽詰まるところまで行く人は行くと思うんですけどね。それでもこのまま行くと楽じゃなくなるから、どこかで楽な方に行くはずなんですよ。今はわーっと消費するほうが考えなくていいから楽なんですけど、「こっちのほうが楽だね」ってなれば楽なほうに行くと思うので、いつかは変わる。
隣のお父さんがつくってるからつくってみようかとなって、それが楽だってことに気づくような人が増えれば、キャンプやバーベキューのようにやる人が増えていくんじゃないかと思いますよ。
タイニーハウス・ワークショップが実現するもの
消費社会や社会運動という大きな話になってしまいましたが、それが起きるために必要なのは、「シンプルに生きることの楽さ」に気づくことであり、大きなゴールを見なくても自分にとって楽なもの、気持ちいいものを見つければいいということに気付かされました。
タイニーハウス・ワークショップも、一人でタイニーハウスがつくれるようにならなきゃいけないというものではなく、そのような暮らしを体験できるようなものにしたいそうです。
こんな感じのタイニーハウスをつくるそうです。Plan from Shelterwise
竹内さん ディーのワークショップに参加して、自分がそういう暮らしができているからワークショップをするというより、自分もできてないしみんなもできてないから、みんなで少しとずつつくってこうという姿勢でもいいと思えたんです。
タイニーハウスをつくることがゴールというよりも、つくってどうするかのほうが興味のあるところで、どういう環境に置いたら面白いんだろうとか、オフグリッドにしたらどうなんだろうとか、そういう要素も取り入れられたら面白いワークショップになるんじゃないかなと思います。
菜央さん タイニーハウスで暮らしてわかったのは、自分の敷地に置くだけじゃ完成しなくて、水とか電気とか何をどうつなげて暮らしをつくっていくか、それがじつは重要なんだということです。今面白いと思っているのは、コミュニティビルドという考え方です。ヤドカリの小屋部がまさにそうですが、興味がある、位のレベルから、建ててみたい、すぐに建てる、という人までがSNSでつながっていて、近くでプロジェクトがあると、ボランティアで手伝いに行く。スキルを学んで、準備ができたら自分でも建てる。そこにもいろんな人が手伝いに来てくれる。
いま、日本には「全部一人で完結する症候群」に陥っている人が多いと思うんです。仕事でも子育てでもすべての責任を個人単位とか家族単位で引き受けなきゃいけない世の中だけど、本当はリスクと成果をみんなでシェアしたほうが楽なはずなんです。
タイニーハウスをつくるとなったときも、一人で全部基礎から仕上げまでできなきゃいけないわけじゃない、そういうシェアのモデルになるんじゃないかと思うんです。
竹内さん ワークショップをしてコミュニティの規模が大きくなれば、「俺だったらこうする」という人も増えて、面白くなっていく。日本でもムーブメントになって面白い人がどんどん入ってきたらいい。問題もたくさんあると思うけれど、それもみんなで解決していければいいかなと思っています。セルフビルドして暮らすところまでをワークショップにしたいですが、もちろん買ってもいいし、誰かにつくってもらってもいい。ワークショップ自体は割と楽しくやれればいいかなくらいに思ってるんですよ。
竹内さんのつくったタイニーハウスを見学し、お二人の対談を聞いて感じたのは、タイニーハウスというのは、消費にがんじがらめになって生きにくくなってしまったこの世の中で、そのくびきを一つ一つ外していった先にあるものという印象でした。
そして、同時に都会の暮らしから解放されるキャンプや、少しでも自分らしさを暮らしに取り入れようというDIYが、実は同じ根っこから生まれる欲求に突き動かされていたというものでした。
もし、今の生活の窮屈さから解放されたいと感じていたり、自分の手で何かをつくることに喜びを感じているなら、タイニーハウスを体験してみたら、本当に自分が求めているもの、楽だと感じるものを発見できるのかもしれませんね。