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誰もが無理だと思っていた。多くの人があきらめていた。独裁政権下のチリで、そんな空気をひっくり返すべく立ち上がったのは、ひとりの若い広告マンだったー
歴史を大きく変えた実話に基づく映画『NO(ノー)』の舞台は、1988年の南米チリ。
当時のチリは、1973年の軍事クーデターにより政権を奪ったピノチェト将軍による、軍事独裁国家でした。不当な逮捕や人権侵害が相次ぐ軍事政権は国際的な非難を受け、信任を問う国民投票を行うことに。
しかし、政治的な自由を奪われてきた状況下では、国民投票も対外的なアリバイのために行われるもの過ぎないと考える国民がほとんどでした。どうせ出来レースだろうということで、関心は高まらなかったのです。そんな状況に対して数ある野党は団結し、独裁政権を終わらせるキャンペーンを張ります。
キャンペーンで使えるメディアは、ピノチェト信任陣営と反対陣営それぞれに与えられた15分のテレビ放送枠。この限られた時間を最大限に活用するために声をかけられたのが、新進気鋭の広告クリエイターのレネでした。
不利な条件や圧力のもと、レネ率いる「NO」陣営と、なんとレネの上司が率いる「YES」陣営との熾烈なキャンペーン合戦が繰り広げられます。
この映画は、過去のドラマとして楽しめるのはもちろん、いま日本に生きる私たちにも考える材料を与えてくれます。「NO」陣営で起こる、ドライに結果を求めるレネと原則論にこだわる堅物の重鎮たちとのわだかまりは、イデオロギーや立場にこだわりがちな野党の選挙戦を象徴しています。
また一方で、独裁政権側の「YES」陣営による恐怖を煽るアプローチは、対外的な不安を煽るいまの日本政府の姿勢に通じるものがあります。そしてなにより、無気力と無関心が広がり投票率が下がりつづけている日本で、政治を熱くするヒントに満ちています。
レネが牽引した「NO」キャンペーンの鍵は、怒りを抱えながらも抑えつけられることに慣れていた国民に、カジュアルに「NO!」と叫ぶきっかけをつくることでした。
拳を振り上げ、怒りにまかせて反対の声を上げるのではなく、「自分たちの一票で、自由で開放的な暮らしをつくっていけるんだ」というイメージを、まるでコーラのCMのようにポップなトーンで発信したのです。
日本を代表するコピーライターの仲畑貴志さんはこう評します。
NOの広告キャンペーンに分があったのは、南米チリの国民の心に自由や公平を希求する思いが十分に育っていたからである。1988年時の、あのピノチェト体制に対して国民が充足していたら、レネの広告キャンペーンではそよ風も吹かなかっただろう。
2012年の総選挙で自民党が政権与党になって以来、特定秘密保護法の制定や集団的自衛権公使の容認など、それまで考えられなかったような強権的な動きが続いています。
しかしその自民党も、前回の衆議院議員選挙での得票率でみると小選挙区で24.67%、比例代表で15.99%しか獲得していません。それに対し棄権した人の割合は全体で約40.68%。20代ではなんと62.11%、30代でも49.9%もの人が投票に行っていませんでした。(東京新聞と総務省による)
多くの人々が無関心になっている状況が変わり、ひとりひとりが社会の主人公なんだという意識を強く持つようになれば、この国の政治をめぐる状況も大きく変わっていくかも知れません。
カンヌ国際映画祭など、世界中の映画祭で賞を獲得し、大ヒットを記録している映画『NO』は、8月30日から全国順次ロードショー公開。政治はもちろん、キャンペーンの企画や表現に関心のある人は必見なのではないでしょうか。
2012/チリ・アメリカ・メキシコ/スペイン語/カラー/スタンダード/5.1ch/118分
日本語字幕:太田直子/スペイン語監修:矢島千恵子/後援:チリ大使館
監督:パブロ・ラライン
脚本:ペドロ・ペイラノ
オリジナル戯曲:アントニオ・スカルメタ「国民投票」
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、アルフレド・カストロ、アントニア・セヘルス、ルイス・ニェッコ
配給・宣伝:マジックアワー
8月30日(土)より
[東京]ヒューマントラストシネマ有楽町
[大阪]テアトル梅田
[神戸]シネ・リーブル神戸
[京都]京都シネマ
ほか全国順次ロードショー