み・らいず代表の河内崇典さん
最近は車いすの介助をしている若者を、電車のホームでよく見かけるようになりました。こんな光景が当たり前の社会になっていけば社会はもっと良くなるはず、と考えて行動する人たちがいます。
NPO法人「み・らいず」の代表をつとめる河内崇典さんもそのひとりです。
誰もがあたりまえに地域(LOCAL)で生きる(LIVE)ことができる社会を目指してLIVELOCALというスローガンに。
み・らいずは、大阪市住之江区を出発点に障害のある人、発達障害や不登校や引きこもりの子どもたち、高齢者への支援を行っています。また、当初から障がいがある方へのガイドヘルパー派遣を行ってきました。その事業は高槻市や堺市、京都市に広がっています。
ほかにも高齢者の方がいくつになっても今まで通り地域で暮らせるように余暇支援を行う「しょーらいず」や、小学生の子どもたちへのイベントを提供する「みらKIDS」など、地域に根ざした支援が特徴です。
障がいのある方のアート活動事業「のーまらいず」は2004年に社会起業家のためのビジネスプランコンペ”edge”優秀賞を受賞しました。
み・らいずらしい活動で言えば、定時制高校の空き部屋をお借りして、カフェ事業というものをはじめています。ほかの高校を中退した学生も受け入れる高校なのですが、両親がいなかったり、そもそも戸籍をもっていない学生もいたりする環境の中で、行き場をなくした生徒たちをフォローしようと取り組んでいます。
授業の話、アルバイトの話、恋の話など、一見ふつうのおしゃべりをするだけだと言うものの、この何でもない時間を過ごせる場所が、教室やバイト先、自宅には見つけにくいことがわかってきたそうです。親と子どもの間、先生と生徒の間に福祉的な機能を取り入れた、距離を縮める大事な仕事です。
そういった誰かの支えになる場づくりや働き方、事業のつくり方をしているうちに、「み・らいず」ならできるかもと思って、という問合せが増えてきてもいるのだとか。日本のしくみの中ではこぼれ落ちてしまいそうな、誰も着手していない社会の課題に取り組むことはやりがいが大きいと河内さんは語ります。
半年間、被災地で支援していたときに、中高生に対する支援がないことに気づきました。特に高校生の就職や、一人暮らしの支援が行き届いておらず、フィリップモリスジャパンや日本財団が中心となって、み・らいず×スマスタ×コトハナでブラッシュアップしながらプロジェクトいしのまきカフェ「 」(かぎかっこ、と読む)を行ってきました。
この経験からひとつの団体でやるよりも、行政や企業、NPOと連携しながら、それぞれの強みをいかしてすすめたほうがより多くの困っている方たちのサポートができると感じました。
さまざまな方々との連携するスキルを身につける
外部と連携するスキルは、河内さんだけでなく、スタッフも現場で日々取り組まれています。
例えば今、壁に貼ってあるものはラーンメイトという発達障害やコミュニケーションが苦手な子どもたちや、学校に行きづらい子どもたちへの個別の学習支援なのですが、この事業の課題を知るためにワークショップしたものです。
それぞれが考える課題をポストイットに書いていき、読み上げながら模造紙に貼ってジャンルわけしていく。このワークショップの手法を採用する一番の理由は、声の大きな人からのトップダウンを防ぐためだと河内さんはいいます。
この方法なら入社1年目もベテランもキャリアに関係なく、自分の意見を出すことができます。最初から現場に参加して課題を把握することでスタッフの成長が伺えます。可視化されることで新人には見えていなかった課題が浮かび上がり、学びの機会になるんです。
また、「み・らいず」では”いしのまきカフェ「 」”のように、所属や背景の違う外部の方と連携しあう機会がたくさんあります。正解や前例のない課題に取り組んだときこそ、このワークショップのスキルが、それぞれの強みを生かして連携する力を高めてくれます。
こういった工夫はスタッフの働き方だけでなく、採用のやり方にもあらわれているようです。まず面接の際に提出する履歴書がみ・らいずオリジナルなのです。
オリジナルの履歴書は少しずつバージョンアップ中。
オリジナルの履歴書の写真の下には、”おもしろ写真”を貼るスペースがあります。自分だけしかいないような趣味を書く欄まであり、リラックスして話せる工夫がされています。
最初は普通の企業と同じように互いにスーツを着て、「地域福祉を述べなさい」などという面接をしていたものの、これは企業のスタイルであって、み・らいずらしくないと反省したそうです。
従来の履歴書だと、つくりこんだ姿を見せられるじゃないですか。それだと本当はどんな人なのかわからないですからね。
昨年の入社面接では、まず「なぜみ・らいずなのか?」というテーマで、ワールドカフェ形式で話してもらいました。昼食の時間をはさんで、ご飯を食べながら自己紹介をしてもらったのですが、出身地をアピールする雰囲気になり、徳島出身の方が阿波踊りを始め出して(笑)
そこから自然と特技を披露する時間になって、すごく盛り上がったそうです。このエピソードのほうがみ・らいずらしいなと思いました。
面接前には事前にしっかりと働くスタッフを見てもらい、本当にこの職場で良いのか決めてもらう仕組みであり、赤裸裸な姿を見せて選んでもらうスタイルだと河内さんは笑いながらいいます。前年は全国から応募があり、ふたをあけてみると、徳島、高知、大分、沖縄、栃木など地方から応募のあった学生が採用されました。
採用後はスタッフお手製の”み・らいず語録”や”スタッフ相関図”などがおさめられたハンドブックが手渡され、仕事だけでなく、プライベートなことまで楽しくざっくばらんに話せる工夫がされています。
さきほどの面接の話には後日談があります。この面接で知り合った学生やスタッフとの交流はまだ続いており、時折、飲み会が開催されているのだそう。福祉の業界に志を持っている人たちのゆるやかなつながりがみ・らいずを中心に生まれているようです。
ボランティアの入り口を増やしたい
2011年の震災時に多くのボランティア団体が現地入りして役立つことが実証されましたが、その後、福祉業界を眺めてみると、大きな雇用に結びついていない現状があります。もっと必要性を発信していかないと、社会は変わらないと思いました。
自分もそうでしたが、どうしてもボランティアをするまでのステップというのは高い場所にあります。より身近にしていく状況をつくるには、体験している人を増やすしかない。そうしていくことでハードルを低くしていきたいのです。
そんな思いから、多くの大学生に向けてフレッシュマンキャンプ(新入生歓迎会や1日体験活動)などを開催し、気軽にボランティア体験をしてみるきっかけを用意しているみ・らいず。関わる学生ボランティアは200名を越え、キャンプ合宿などを行い、ひきこもりの人たちと触れ合う機会をつくってきました。
そんな河内さんの福祉との関わりは、大学1年生の頃。友だちに誘われてバイト感覚で訪れた現場は、重度障害の方の入浴介助の現場でした。
なにも勉強してへんのにできるわけがない。障がいのある人と触れ合ったこともありませんでした。
いっしょに外出すると、お店の人も通行人も態度が普通じゃないことに腹が立ったし、何も知らずに生きてきた自分にも腹が立ちました。障がいのある人がこんな想いをして生きているんやってことに気づいてからは、「いつかこの状況を変えていかなければいけない」と思うようになったんです。
制度のはざまにいて困っている人たちは確実に存在していて、世の中的には見て見ぬふりができてしまうというか、後回しにされてしまうけれど、でもそこにはニーズが確実にある。そんな場所に自ら入っていくのも、これからの福祉の使命というか、み・らいずのやるべきことだと思っています。
困っている人の話に耳を傾けて、どうすれば助けになるかを考えて、すぐにかたちにする。ラーンメイトや高校のカフェ事業などのように居場所をつくって出口が見えなかったところに道をつくる。多岐にわたる事業を展開するみ・らいずですが、河内さんが取り組まれていることは、たいへんだけど実はシンプルなことなのだと感じました。
複雑な社会の課題に直面すると、さまざまな方との連携が不可欠で、だからこそワークショップなどの手法を使ってスタッフそれぞれが外部の方との連携するスキルを高めてゆく。さらにそのつながり、福祉業界を支える人たちを大切にし、福祉の魅力を広げていくためのゆるやかなコミュニティをつくっている。
このプロセスを大事にすることが、「誰もが地域で当たり前に暮らせる社会」を目指す、あるいは福祉業界全体の道しるべなのかもしれません。