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自分が生まれてきたことを、誰もが肯定できる社会へ。辛い出産のイメージも祝福の瞬間に変える「誕生学プログラム」

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自分が生まれたときのこと、お母さんから聞いたことはありますか?

「嬉しかったよ!」と肯定されたら幸せを感じるかもしれませんが、「もう二度とイヤ」だったり「死ぬかと思った」だったり・・・出産時のエピソードとして“辛さ”も語られがちです。

そういう気持ちを吐き出すことも大切ですが、もし子どもたちの耳に入るとどうでしょう。子ども時代に聞く自分の誕生の話は、生命観や自己肯定感、未来の自分が親になる時期などにも影響する可能性もあるのです。

どうしたら出産や自らの誕生をポジティブに捉えることができるだろう? 今回はそんな思いから生まれた「誕生学」プログラムをご紹介します。

幅広い世代それぞれに対応するプログラムと講師の育成

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胎児と母体が織りなす不思議なほどに巧妙なプロセスや、それにまつわる情報を伝える“いのちの授業”

「誕生学」を普及・啓発する誕生学協会では、幼児から成人までの幅広い層に向けて、年代やライフステージにあわせたプログラムを開発しています。それぞれの対象によって、言葉や見せ方、情報などを吟味し、いのちを学ぶ講座を組み立てているのです。

研修を受けて、“誕生学アドバイザー” や“バースコーディネーター”といった資格を得た講師は既に400人以上。母親や看護師、助産師など、さまざまなバックグラウンドを持った講師たちが、全国の幼稚園や保育園、小中学校、企業などで講座を展開しています。

「いのちをつなぐことがミッション」の5児の母

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大葉ナナコさん

代表を務める大葉ナナコさんは、5児の母。『いのちはどこからきたの?』や『えらぶお産』など、誕生や妊娠出産を優しく伝える20冊以上の著書があります。

もともとの仕事は出版やテレビなどのメディア関係。あまりにも辛そうに描かれすぎていたドラマの出産シーンを監修するなど、出産のネガティブなイメージを払拭することに力を入れてきました。30万人が観たドキュメンタリー映画『うまれる』の制作コアメンバーでもあります。

「いのちをつなぐ、力をつなぐことがミッション」いう大葉さんがこの分野に興味を持ったきっかけは、1987年に第一子の妊娠で体験した自然出産や母乳育児でした。そのとき女性の体の仕組みやいのちをつなぐ”デザイン”に感動したものの、世間の出産に対するイメージはまだまだネガティブ。

だからこそ、新しい命が誕生する奇跡のような仕組みや、それを大事にしながら暮らすための知恵を、もっと世間に広めたいと感じ、トータルな視点をもって「出産はハッピー!」と伝える専門家が必要だと考えたのです。

そこで、社会学や教育学など関連する学問を学び、ついに「誕生学プログラム」が完成。2011年には、公益社団法人の認可を取得しました。公立中学で行われた「自尊感情の向上尺度」を使った調査研究でも、自尊感情が高まると結果がでるなど、確かな効果が証明されてきました。

「私のしている活動は、次世代のためのエンパワーメント」と元気に語る大葉さん。毎日、大忙しで各地を駆け回りながらも、家族の食事も大切にするなど、一貫して“次世代”につながる取組みに力を注いでいます。

自己肯定感で、思春期のいじめ・自殺などもふせぐ

それでは実際に、「誕生学」でどんなことを伝えているのでしょうか? まず、ある公立中学の講演会にお邪魔してみました。

こちらでの誕生学の講演は5回目。リアルな生体図が描かれたスライドや、実物大の骨盤模型と新生児の人形を使ってテンポよく展開される大葉さんのお話に、中学3年生の男女が真剣な面持ちで集中します。

この頃の子ども達にとって大切なのは、『自分ってすごい』という気持ちを持つこと。日々変化する身体のことをしっかりと知ることで、いじめや自殺を防止する効果もあるそうです。
 
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豊かな表現で“誕生学”を語る大葉さん。手にしている模型は“骨盤”!ここを頭が通ります!

また、「日本においても、1週間に250人の10代の出産がある」という驚くような統計も次々と紹介され、性感染症や望まぬ妊娠などの重い社会的事実も触れてゆきます。その上で、「未来の命をつなぐために、おつき合いする相手のことも大事にしようね」と、温かく声をかける大葉さん。

「誕生したての乳児は、手をかけないと育たない。生きることができない」という話では、「赤ちゃんを大切にしよう」ということだけでなく、「ここにいる全員が、赤ちゃんのとき、誰かに大事にされた証拠だよ」というメッセージも伝えます。その一言に、生徒だけでなく、見守る先生や保護者にも、目頭をおさえる姿がみられました。

成人には、ストレスマネジメントや、仕事と育児両立の情報も

一方、別の日には、「これから親になる成人女性やカップル」のために講演が行われていました。こちらでは、出産のストレスを軽減するためのヒントや、仕事と育児の両立についてなど、具体的な話に重点が置かれます。

出産や育児が抱えるリスクや負担も真っ向から語ると同時に、女性の身体機能を活かした自然出産の魅力や実例もあわせて紹介。すべてが命を肯定する内容で、深刻そうな表情をした参加者も、大葉さんからの言葉を受けて明るくなっていくのが印象的でした。

2014年秋には「妊娠出産の基礎知識を各世代の働く男女が共有」するための「バースフレンドリー検定」を展開する予定で、それに先立つセミナーも始まっているところです。
 
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成人には、仕事と育児の両立問題を解決するヒントも。

「”いのち”を実感できること、それが誕生学からのギフトです」と大葉さんは言います。出産とは親が”産む”だけではなく、子どもが”誕生する”瞬間でもある。「赤ちゃんも主役」と捉え直すだけで、祝福のイメージに変わる方も多いのではないでしょうか。

少しでも興味をもった方は、ぜひ誕生学の講座に参加して、実感のギフトを感じてみてください。