東光寺の境内で「やすられ様」を中心に踊る人たち 撮影:辻村耕司
最近は各地のお寺で音楽やアートのイベントが開催されていますね。これまでも「まちのお寺の学校ナビ」などを取り上げてきましたが、今回ご紹介するのは、滋賀県守山市の日照山東光寺で2008年より毎年開催されている「おてらハプン!」です。
毎年ゴールデンウィークになると、普段は静かなお寺が体験型アートの世界に包まれます。廃材を使った楽器を演奏し、踊るアーティストや来場者、その演奏にあわせて踊る子どもたちや大人たち、やすられ様と(勝手に)呼んでいる木をひたすらヤスリがけする人、本堂で朗読をはじめる人…。
そんなパフォーマンスが境内や隣接する古民家のあちらこちらではじまり、お寺がさまざまな表現を引き受ける場となります。毎年15〜20組のアーティストが参加し、地域の住民を含めて約400名が来場。その雰囲気が伝わる映像がこちらです。
「おてらハプン!」の発起人は東光寺の副住職である川本哲慎さんとアーティストの犬飼美也妃さんです。アーティストとして参加し、以降は事務局メンバーとして関わる三原美奈子さんを含めた3人に2014年のイベントのミーティング前にお話をお伺いしました。
知り合いがほぼいない状態からのスタート
左から川本哲慎さん、犬飼美也妃さん、三原美奈子さん
犬飼さん もともと、私たちアーティストが活躍する場所がほしくてはじめたプロジェクトでした。私も川本くんも野外展示の美術展が好きで、愛知県で開催されていた江島橋野外美術展に参加していたのですが、開催10年を経て終わってしまったんです。それを機に、偶然ふたりとも守山市在住だったこともあって、川本くんのお寺でやってみようとなりました。
場所は確保できたものの、最初はアクセスに不安があったそう。というのも最寄りのJR守山駅から出ているバスは2〜3時間に1本走っている程度という場所。犬飼さんは嫁ぎ先として守山市に来たばかりで、関西に知り合いがほぼいない状態でした。
犬飼さん 知り合いだった美術家の井上信太さんが、守山市にある滋賀県小児保健医療センターで院内ワークショップをされることになって声をかけていただいたんです。
そのアートプロジェクトを川本くんと半年間お手伝いさせていただいたご縁で、井上さんには「おてらハプン!」にも協力してくださることになりました。さらに音楽家で紙芝居アーティストの林加奈さんもお手伝いくださることになりまして。
多くのアーティストの方が協力してくださるとあって、必死にイベントチラシを配ります。その結果、心配していたことが吹っ飛ぶくらい1回目から大にぎわい。
川本さん 地元へは自治会や檀家さんにお話しして、ポスターを貼らせてもらったり、回覧板をまわしたりして告知しました。もともと友人だった三原さんには「説明会をするので参加しませんか?」とお声がけしました。
犬飼さん 私がチンドン屋をしながら、公園にいる子どもたちを呼んできて。そしたら日を追うごとに、ハーメルンの笛吹きみたいに近所の子どもたちが私についてくる状態になったんです。
はじめたばかりの1年目にも関わらず、取材が9社も殺到しました。特に新聞を読んでイベントに来られた地元周辺のお客様が多かったとか。
三原さん 滋賀はこういったイベントが少なそうなので毎回ニュースになるのかも。このメンバーでラジオに何回か出ていますね。
バイオリンを弾く犬飼さんと子どもたち 撮影:辻村耕司
「滋賀県以外から来られた方にも魅力に感じる数日間」と、3人は声を揃えます。というのも「おてらハプン!」は、地域のお祭りが重なる期間に開催されるからです。
例えば5月5日の「すし切り祭り」という神事の前夜に行われる宵宮は、夜の9時から午前4時頃まで、若者たちが新婚家庭を3度廻り、太鼓をどんどんと叩くそうです。
太鼓の後には子どもたちが提灯を持ち歩き、各家で配られるお菓子をもらいます。このような幸津川の住民しか知らない楽しみを知ることができたのも、「おてらハプン!」をやってたからだとメンバーは話します。
犬飼さん この連休の数日間だけで限界芸術、現代美術、仏教美術、まちの伝統神事などを一気に浴びる体験ができるんですよ。この混沌の中で産まれてくる今の表現を、探っていきたいと思っています。
子どもと対等に向き合う本気の4日間
アーティストが多く関わる「おてらハプン!」の特徴が”ダメだし”。例えば「子どもたちが鬼ごっこをしたい」と言っても、「ただの鬼ごっこじゃダメ」と切り返すのです。
三原さん そのときは「鬼ごっこするチーム」と「それをスケッチするチーム」にわけたんです。嫌がるかなと思ったら、意外と「わかった!」と言って楽しんじゃう。
スケッチする子が「動くなよ!」と言うと、それを受けて鬼ごっこする子が「動くとつかまるやん!」と言ったりして。そんなふうに子どもたちのやる気をアートな方向に振って、どこまで高みにもっていけるか。本気の4日間なんです。
工作などでハサミやカッターを使うこともあり、「怪我だけには気をつけている」と三原さん。会場に用意された「参加表明カード」を書き込めば、基本的に誰でも独自のスタイルで「おてらハプン!」に関わることができます。
東光寺を舞台にさまざまなプログラムが行われる 撮影:辻村耕司
子どもたちがアーティストを誘導しはじめることも 撮影:辻村耕司
犬飼さんも「地元のアーティストが関わるムーブメントにしていきたい」と続けます。その狙い通り、子どもと即興の表現を楽むアーティストの輪は、少しずつ広がっているようです。
犬飼さん 東光寺の仏教美術品や美術館に作品を展示しているようなアーティストの作品と、来場者がワークショップでつくった作品を、並列に並べたかったんです。展示も混ぜて表現しています。
準備期間に作業したりしていると、「うちに眠っているアレも展示してくれんかね」「お父さんが絵を描いているだが」と地元の方が訪ねてきてくれるんですよね。そういった地域のお宝を通じてコミュニケーションが生まれていくのがとても楽しいんですよ。
もともと作品をつくる場所がほしいだけだったのに、地域との出会いを通じて、アーティストってこんな役目があるんだと気づかされるようになりました。
アーティストの力で、子どもたちや周辺の大人たちがどんどん巻き込まれていく。プロのクリエイターやボランティアスタッフも、回を重ねるごとにどんどん巻き込まれていきます。
犬飼さん 撮影担当の辻村さんも、最初はお客さんで来られていた方です。撮影したCD-ROMを「良かったら使ってください」と持ってきてくださって。
私や川本くんがそろって企画などきちんとした仕事がダメなタイプなので、良かったら手伝いましょうか、という流れによくなりますね。三原さんもそのひとりです。みんな見てられないんでしょうね(笑)
お寺との触れ合いをつくる
東光寺に隣接する空き家ではワークショップが開催される 撮影:辻村耕司
地域の人達を巻き込んで、表現する衝動を湧き上がらせる「おてらハプン!」。2009年には京阪電鉄石坂線とのコラボレーションで電車内で展覧会を行ったり、大津市の西教寺でも「お寺deアートin西教寺」が開催されるなど、その勢いは各地に伝播しているようです。それは結果的に、お寺を身近に感じてもらう機会にもつながりました。
川本さん 本堂の中に入ることで、お寺に親しみをもってもらえることができるし、ほかの宗派の方も来やすくなったと思います。お客様の中には美術好きではなく、お寺好きで来られる方もいらっしゃいますね。
今までお寺は、お葬式のときだけお金をとっていくような見られ方をされていたかもしれませんが、それが少しずつ変化しているように感じています。昔と比べてお寺と触れ合う時間がなくなった今だからこそ、もっとできることはあると思います。
「お寺をもっと身近に!」という川本さんと「アートをもっと身近に!」という犬飼さんの、二人の思いが重なって誕生した「おてらハプン!」。今年は5月3日〜6日まで開催されます。このゴールデンウィークはぜひ、東光寺に出かけて「ハプン」してみませんか?