パタゴニア東京・丸の内ストアで70人が参加!
みなさんは「経済成長」という言葉から、どんなことを想像しますか?経済と社会、そして幸せをバランスさせるために、私たちにできることは何でしょうか。
2014年3月7日、「パタゴニア東京・丸の内ストア」で“経済成長を前提としない幸せのあり方”を考えるワークショップの第三回が開催されました。講師は環境・経済分野で活躍されている環境ジャーナリストであり、「幸せ経済社会研究所」所長の枝廣淳子さん。
グリーンズでもレポートした一回目はティム ジャクソン著『成長なき繁栄-地球生態系内での持続的繁栄のために』、二回目はF・アーンスト・シューマッハー著『スモール・イズ・ビューティフル』と、毎回一冊の本をきっかけに気づきを共有し、対話を深めていきます。
最終回の課題図書は藻谷浩介さん著『里山資本主義』。70人もの人たちが参加し、熱気にあふれるワークショップとなりました。今回はその様子をお届けします。
疑問を投げかけ、問いを立てる場
2013年秋からアウトドアウェア・スポーツウェアブランドのパタゴニアが展開する環境キャンペーン「レスポンシブル・エコノミー(責任ある経済)」。
パタゴニアでは「繁栄とは成長と消費の拡大に基づいた経済のことである」という前提に疑問を投げかけ、地域が栄え、有意義な仕事を生み出し、地球が補充できる分だけを自然界から減じて使うという、「より責任ある経済とはどのようなものか」を2年間かけて検証しようとしています。
その一環として2014年1月から開催されているのが、パタゴニアの直営店「パタゴニア東京・丸の内ストア」と「幸せ経済社会研究所」共催による、「“経済成長を前提としない幸せのあり方”を考えるワークショップ」です。
経済成長を前提に大量に生産し、大量に消費していく今の社会のあり方は、限られた地球の資源を考慮すると、おそらく持続可能ではありません。とはいっても、急に経済成長を止めるわけにはいかない事情もある…そんなジレンマを、さまざまな課題図書を通して考えていく場です。
「里山資本主義」を求める声と日本の社会
講師の枝廣淳子さん
20万部を超えるベストセラーとなった「里山資本主義」について、枝廣さんは「日本の社会がこのような本を受け入れるようになってきたのは、大きな変化」と紹介しながら、次のような切り口で話をはじめました。
この本のタイトルは『里山資本主義』ですが、『里山・資本主義』か『里山資本・主義』か、点を打つ場所で意味合いが変わってきます。皆さんはどちらで捉えていましたか?
このことについて正解も間違いもありません。上で区切るとどういう意味になるのだろう。では、下で区切ると?その違いについて感じたことを、各グループで話し合ってみてください。
2つの意味の違いは何だろう?どうして今の時代に「里山資本主義」なのだろう?そんな問いかけを参加者同士で投げかけながら対話を進めたあと、枝廣さんはこう続けました。
『里山・資本主義』とした場合、私が感じたのは里山対資本主義という対比です。資本主義を残すのか、壊すのかという議論ですね。
一方、『里山資本・主義』とした場合は、”里山資本”に重きがあります。企業では生産手段やお金といった資本が大事だと言われてきましたが、今は社会関係資本や自然資本という考え方が広がってきました。その流れで里山資本を中心に考えていこうという捉え方もできるということです。
参加者も、本のタイトルを取り上げるだけで、意味合いや感じ方がこんなにも変わってくることに、感心している様子でした。
また、「課題図書を設けるメリットの一つは、いつか読もうと思っていた本を読む理由ができること。そして、これを機に読んだ本を通じて考えたことを、家族や友人に伝えられること」と枝廣さんは続けます。
例えば枝廣さん自身は『里山資本主義』を読んで、江戸時代のことを改めて考えるきっかけになったそうです。
江戸時代は鎖国をしていて、何も輸入していなかったので、あらゆる暮らしに植物を活用した”植物国家”だったと言われています。森を伐採して家を立て、あまった木は薪にして使う。脱穀した稲を草履にして、使いきったら燃やして畑の肥料にする。
言い換えれば、前の年の太陽エネルギーで、次の年の経済が賄われていたということです。少し前まで、ごく普通にそういうことをやっていて、それが残っているのが里山なのだと思います。
アイデアを持ち寄り、答えをつくる
ワークショップの後半は、「里山資本主義」を求める時代背景はどんなものなのか、社会にはどんな問題があり、それをどう解決するのか、グループで話し合いが行われました。
震災を機に目の当たりにしたエネルギー問題、社会のあらゆる仕組みを無意識に委ねすぎていたことへの反省など、の課題を出しあった後は、解決策を探っていきます。
対話の様子
例えば、貨幣には換算できないけれど、身の回りの人たちとのつながりや地域に既にあるものを再発見していく。『里山資本主義』に描かれていたような里山の豊かな資源を活用することは、多くのグループにヒントとなっていたようです。
参加者に共通していたのは、「何のための成長なのか」といった根本的な問いかけと同時に、幸せや豊かさの定義を見直すこと。あるグループからの「これまで当たり前のことのように受け入れてきたことは、必ずしも私たちの幸せを導くものではないのかも」という声は、とても印象に残りました。
自分で考えて自分の言葉で伝えていくこと
皆さんの発表を聞いていて私が強く感じたのは、私たち自身がもっと経済のこと、お金のことについてもっと学ばなければいけないということです。枝廣さんも、「経済すべてがお金ではないし、経済すべてが悪いものではない」といいます。
大切なのは今の資本主義を否定することではなく、どういう形ならいいのかを考えることです。特に今は高度経済成長で見失ってしまった、もともと持っていた大事なものを取り戻す時期。そこに私たち日本人の考え方が貢献できることはあるはずです。そういうさまざまな対案を、自分で考えて自分の言葉で伝えていくことが大事だと思います。
ただし気をつけたいのは、新しいものをつくろうとするときに、責められたように感じて身構えてしまう人もいるということ。そういうときは「たまたま50年くらい脇に置いておいたことを見なおして、一緒に考えてみませんか?」と、言い方を工夫するのもひとつの手ではないかと思います。
「あるもの」を見つめ直すことから始められる
“経済成長を前提としない幸せのあり方”について考えていくことに、最初は戸惑うかもしれません。でもそれって意外とシンプルで、自分たちの手の届かないものに頼りきるのではなく、「既に持っているもの」を見直すことから始まる、というのが、このワークショップのメッセージだと思います。
お金だけに頼らない幸せや豊かさのあり方は、自分たちで考えながらつくっていくもの。そのために大切なのは、これまでの暮らしを振り返ったり、目の前にいる人たちと対話を重ねることです。
ぜひみなさんも、今の自分の暮らしと幸せがどこから来ているのか、考えてみませんか?
(写真提供:幸せ経済社会研究所)