目の前には芝生と大きな空が広がり、外からは子どもたちの笑い声や走る足音が聞こえてきます。
ここは、東京・立川市にある「子ども未来センター」。名前はなんだか近代的な雰囲気が漂っていますが、施設内は小学校を思い出すような、どこか懐かしさを感じます。
今回は、市民活動コーディネーターとして子ども未来センターの運営に携わっている「studio-L」の落合祥子さんに、センターでの仕事、働いてみての気づきや、働くことになったきっかけについて伺いました。
子ども未来センターとは
子ども未来センターは、子育て、教育、市民活動、文化芸術活動を支援するとともに、イベント実施などによって地域のにぎわいを生み出す複合施設です。建物はもともと立川市役所として使われていたもの。市役所の移転に伴って改修されることになり、この空間をどのように活用していくか、市民参加による検討などを経て、2012年12月にオープンしました。
センターには主に5つの機能があり、館内には、子育てひろば、会議室、アトリエ、ギャラリー、スタジオ、協働事務室、立川まんがぱーくなど、用途に合わせたさまざまな空間があります。
1. 子育て・教育支援(子育てに関する相談室や、乳幼児の一時あずかりなど)
2. 文化芸術活動の支援(文化芸術の教室・講座の開催)
3. 市民活動支援(立川市を中心とした市民活動のサポート)
4. にぎわい創出(さまざまな世代が楽しめるマンガをそろえた「立川まんがぱーく」)
5. 行政機能の補完(住民登録に関する証明書の交付など一部の行政機能)
センターの管理運営は、各機能のノウハウを持った民間企業9社からなるコンソーシアムによって行われています。studio-Lが担当するのは、3つ目の「市民活動支援」。落合さんを含む3人の”市民活動コーディネーター”が業務に携わっています。
アイデアを形にするお手伝い
市民活動コーディネーターは、子ども未来センターを舞台に展開されるコミュニティプログラムの企画や広報活動、他団体とのつながりづくりなどのサポート役です。芝生広場で楽器をつくったり、みんなのおすすめのマンガをシェアしたり、あるいは館全体を使ってダンボール遊びを楽しんだり、50近くの市民団体が、さまざまなプログラムを展開しています。
多摩の間伐材を使ってカホンを手づくりするプログラム。楽器づくりを楽しみながら、林業の現状を知ることができます。
「立川まんがぱーく」があるという子ども未来センターの特色を活かし、自分たちの活動とマンガとをかけ合わせたプログラムを実施する団体も。
コミュニティプログラムを実施している市民団体は、打ち合わせなどのために「協働事務室」というシェアスペースを利用することができます。落合さんたち市民活動コーディネーターは、協働事務室に常駐し、センターでどんな活動をしたらいいのか、他の市民団体と一緒に活動したい、これまでの活動をさらに発展させたいといった相談を市民団体から受けています。
センターで活動する市民団体の皆さんは、5つのコンセプトを大切にしています。
2. つながりを大切にしよう
3. 社会性を意識しよう
4. 楽しんで自主的に活動しよう
5. 魅力的なプログラムをつくろう
これらのコンセプトは、センターがオープンする前にstudio-Lが実施したワークショップで「センターがどんな場所になったらいいか」「センターでどんな活動をしたいか」ということをみんなで話し合い、生まれたものです。センターには、自分たちの活動を通じて地域の皆さんに楽しんでほしいという想いを持った市民団体が集まっています。
そう話す落合さん。子ども未来センターという施設名ではありますが、必ずしも「子ども」に特化したものである必要はないそうです。
お話を伺った落合祥子さん
大切なのは5つの活動コンセプトに沿っているかどうか。中にはドキュメンタリー映画の上映会や子育て中のお父さんお母さんを対象にした座談会など、大人が楽しめるプログラムも実施されています。子どもから大人まで、多世代の人が集まるきっかけをつくり、地域のみんなで子どもたちを育てていく場にできたらいいですね。
昨年の夏にはルミネ立川と連携し、日中は子ども未来センターで、夕方からはルミネ立川で、一日を通して立川を満喫できるイベントを開催しました。各団体と地域とのつながりづくりにも力を入れている一方、個人の取り組みのサポートも始まっています。
センターでの市民団体の活動が少しずつ認知され始めたころ、団体に所属していない個人の方から「センターやまちで活動してみたい」と相談を受けることが何度かあって。そこで、センターを運営していく仲間として、個人でも活動できるフィールドをつくることにしました。
自分たちでオリジナルのプログラムを企画したりアクティブな活動をしてほしいという想いを込めて「アクティベーター」と名付け、メンバーを募集してみたんですが、小学生から50代の方まで、すごく幅広い世代が集まっていただいて。みんなそれぞれが本当にいい味を出しています(笑)
募集後はまず、アクティベーターとして活動していく上で必要となる企画・写真撮影・情報発信などのスキルを身につける講座を実施しました。つい最近、全6回の講座を修了して、まさにこれから本格的に活動を始めていくところ。とても楽しみです。
さまざまな想いを持って集まったアクティベーターたち。これからどのような活動が生まれるのか、楽しみですね。
コミュニティデザインとの出会い
studio-Lに入る前は、企業の商品やサービスに対する消費者の声をリサーチする仕事に携わっていた落合さん。当時についてこう振り返ります。
入社したての頃は見るもの聞くもの分からないことだらけで、とにかく早く成長しなくては、と必死でした。でも、一年が経って少しずつ仕事に慣れてきたころ、「私、このままでいいのかな」と漠然とした不安を感じるようになったんです。
この不安は一体何だろうとモヤモヤ悩んでいたとき、NHK番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で「アバンティ」の渡邊智恵子さんが働く姿を見て、「ズシンときた」と言います。
番組の中で渡邉さんは、「誰のために仕事をしているのか」がはっきり見えていて、自分の働きがその人たちの暮らしにつながっていることにやりがいを感じる、とおっしゃっていました。それがすごく素敵に見えて。
私も、手の届く距離にいる誰かに喜んでもらえるような仕事をしてみたい、クライアントというフィルターを通さず、人の暮らしをもっと近くに感じられるところで働いてみたい、と思うようになりました。
モヤモヤの原因の手がかりを見つけた落合さんは、渡邉さんを通して出会った「社会起業家」という言葉をきっかけに、面白い、興味があると感じたイベントやプロジェクトにどんどん参加していったそう。
グリーンズが主催する「green school Tokyo」や「東京にしがわ大学」、「東京ウェッサイ」、海士町へのインターン、つくし文具店の日直、モンゴル武者修行ツアーなど、それはそれはさまざま。
そのように辿るながら「コミュニティ」や「人と人とのつながり」といったキーワードに興味を持っていることに気づき、やがてコミュニティデザインの分野に行き着いたのだそうです。
自分が何をしたいのか、もっと具体的なイメージを持ちたくて、少しでも興味を持ったことには、直感に身を任せて飛び込んでいくようにしました。市民活動コーディネーターとして働くことになったのは、その結果なんです。
平日は会社で働き、休日は地域で活動。green drinks tachikawaは「みんなで、いつもとちょっと違う週末を」というテーマで月に1度開催していました。
落合さんに転機が訪れたのは、green drinks Tachikawaのオーガナイザーを引き継いだあとでした。自分の企画として、何度かイベントを開催していたころ、子ども未来センターがオープンする前のヒアリング対象として、studio-Lと出会ったのです。
違う仕事に就いてみたいという気持ちを抱きつつも、転職活動をするつもりはなかったそうで、「自然と機会がやって来るだろう」と思っていたとのこと。まさにその通りになり、2012年の年末に転職することになりました。
裏方だからこそ、の特権
市民団体さんからの相談を受けているところ。「散歩がてら、ふらりと立ち寄ってくださる方もいます。ほんの少しでも、皆さんの生活の一部になれている気がして嬉しいです」と落合さん。
こうして子ども未来センターのコーディネーターとなった落合さんですが、「表現があまり良くないかもしれませんが……結構地味な仕事だなと思いました」と意外な感想が出てきました。
私たちの仕事はあくまで市民活動のサポートなんです。相談を受けたり、会場となる部屋を手配したり、調整を図ったり。地域の皆さんに告知したり、当日の写真を撮ったり、実施レポートを作成したり…主役ではなく裏方として、市民団体や地域の皆さんの目に触れないところで行う仕事が多いですね。
市民団体の方から「私たちと接していない時、コーディネーターは何をしているの?」と聞かれたこともありました(笑)
でも「裏方だからこそ、みえてくるものがある」と落合さんは続けます。
市民団体同士のいろんなつながりがわかってくるので、どんな仕掛けをつくってさらに面白いものにしていくか、そこが私たちの腕の見せどころです。例えば「この団体とあの団体、一緒に活動するとお互いに良い効果があるんじゃないかな!」と思ったら、定期的に開いている懇親会でさりげなく両者を近づけて…。意気投合している様子を見ると、思わずニヤリとしてしまいますね。
コミュニティプログラムの参加者が楽しそうにしている様子だけでなく、それを見て嬉しそうにしている市民団体の皆さんの様子も見ることができるのも、私たち裏方の特権。そういうやりがいがたくさんあるので、コーディネーターってお得な役割だなと思っています。
市民活動コーディネーターの仕事を始めてから一年。「あっという間…いや、あっといわない間に過ぎ去りました」と笑います。
センターはオープンしたばかりで、studio-Lとしても公共施設を管理するのは初めての試みだったので、本当に手探り状態で。今はやっと仕事に慣れてきたところなので、次の一年は、もっと視野を広げて自分から面白い取り組みを仕掛けていきたいです!
変化を続ける「子ども未来センター」は、誰でも自由に出入りできます。この春、何か新しいことを始めてみたいな、と考えている人は、ぜひ「子ども未来センター」に遊びに行ってみませんか?