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自分の将来やこれからの人生について、漠然とした不安がある。そんな状態を経験したことがある人って、多いんじゃないでしょうか。いま、いきいきと楽しそうに働いている人にも、もしかするとそういう時期があったかもしれません。
各方面で活躍している方々の“レイブル期(=仕事はしていないけれど、将来のために種まきをしていた時期)”について伺う連載「STORY OF MY DOTS」。今回は、このテーマにぴったりの人にお話を伺いました。“生きるように働く”人のための求人サイト「日本仕事百貨」を運営するナカムラケンタさんです。
株式会社シゴトヒト代表取締役。1979年、東京生まれ。明治大学建築学科を卒業後、不動産会社に入社。2008年に求人サイト「東京仕事百貨」(※現在は「日本仕事百貨」に名称を変更)をオープン。生き方・働き方を考える本のレーベル「シゴトヒト文庫」や、憧れの職業を試せる場「リトルトーキョー」の企画・運営など、“仕事”をテーマにさまざまなサービスを提供している。
「こんな人には合わないかも」まで紹介する求人サイト
“勤務地”、“業種”、“雇用形態”、“給与”といった項目を選択し、「この条件で検索」をクリックする。求人サイトというと、そういう仕組みのものが多いですよね。
日本仕事百貨は、そういった旧来の求人サイトとはちょっと毛色が違う求人サイトです。サイトのトップページに並ぶのは、「地域に根ざした学び舎で」「あなたに、お福分け。」といった言葉たち。「それってどんな仕事なの?」と興味をそそられます。
実際に一つひとつの職場を訪問し、その場の雰囲気や働く人の姿勢、想いなどを飾らない言葉で紹介しているところが日本仕事百貨の特徴。
実際よりも良く見せて応募者を増やそうということはせず、「こんな人には合わないかもしれない」「こう考えられる人には向いていると思う」といった率直な感想も掲載しています。「仕事と人との幸運な出会いを生み出したい」という気持ちが行間から滲みでています。
その誠実なスタンスが多くの人の共感を呼び、現在(2014年3月)、月間65万人以上が訪れる人気サイトとなっています。それだけ、「生きるように働きたい」と願う人が増えているということかもしれませんね。
「日本仕事百貨」
数年後、数十年後に後悔しそうな気がした
代表のナカムラさんがこのサイトを立ち上げたのは、2008年のこと。意外なことに、それまで人材業界は未経験だったといいます。若い頃から場作りに関心があり、建築を学んで大学院へ進学。卒業後は不動産会社に就職し、忙しい毎日を送っていました。しかし、3年7か月勤めた28歳のときに会社を辞めてしまいます。
仕事は楽しかったし、不満はなかった。でも、数年後、数十年後に後悔しそうな気がしたんです。本当はもっと色んなことをしたいしできるのに、やっていない。だったらそれに挑戦してみよう、と思いました。
退職してからの半年間は、温めていたビジネスプランを試しつつ、知人や友人の仕事を手伝いながら過ごしていました。不動産の仕事から、新規開店するお店の企画やデザインまで、手伝う内容はさまざま。サラリーマンのときに稼いだ貯金はあったものの、何かをしていないと不安だったといいます。
その頃が一番キツかったですね。やっぱりお金はどんどん減っていきすし、精神的にも不安になってくる。でも、じゃあ何が不安なんだろう、何が問題なんだろう、と考えたんです。
その結果、ナカムラさんは不安の正体が「お金」であることに気づきました。お金さえなくならなければ、死ぬことはないし、焦ることはない。そう考えると、道はふたつ。ひとつは、ある程度お金がもらえる状態をつくること。でも、それは仕事を発注してくれる人が必要なので、確実ではありません。もうひとつは、支出を減らすこと。こちらは自分でコントロール可能です。
ただ、食費を切り詰めるといった深刻な方向へは行かず、けっこう楽しく暮らしていました。生活していく上で、一番大きいのは家賃。そこで、中目黒の一軒家を借りてセルフリノベーションし、男3人でシェアしたんです。
古い一軒家をかっこよくリノベーションしたので、大家さんは家賃を抑えてくれました。だから1人3万円強の負担。中目黒でこの家賃って、すごいでしょう。工夫すればいろいろできるんだなって思いました。
仕事との出会い方を変える
そうやって生活コストを下げてお金がかからない暮らしをしながら、着々と 日本仕事百貨の準備を進めていたナカムラさん。そもそもなぜ、日本仕事百貨を始めようと思ったのでしょうか?
「東京R不動産」というサイトに大きく影響を受けています。普通のサイトは、家賃や最寄り駅から物件を検索しますよね。でも、それだと埋もれてしまう物件もある。東京R不動産では、「改装してもいい」とか、「部屋より広いバルコニーがある」とか、そういった特徴を押して物件を紹介しているんです。
そうすると、「考えてもみなかった沿線だけど、何この物件、気になる!」とか、想定外の出会いがあるでしょう。仕事にも、そういう出会い方があっていいんじゃないかと思いました。
実際、日本仕事百貨には、「島の管理人」というユニークな仕事が載っていたりします。トカラ列島・中之島で、島の魅力を発信したり、施設を管理したりする仕事。そんな仕事があるなんて思いもよらない人が大多数だろうし、おそらく従来の検索方法では漏れてしまう。でも、紹介されると「行ってみたい、挑戦してみたい!」と思う人が現れる。そういった仕事は世の中にたくさんあるようです。
180人ほどが住むトカラ列島・中之島
また、西村佳哲さんの『自分の仕事をつくる』という本も、何度も読みました。世の中の仕事に関する情報って、結論ありきのものが多いじゃないですか。「この習慣を身につければあなたの仕事は格段にスピードアップする」みたいな。でもそれって、ある人にとっては当てはまるけど、ある人にとっては違うかもしれない。答えは提示されるものではなく、自分で辿り着くものだと思います。
西村さんの本は、自分でさまざまな職場を訪ねて、そこで感じたことを書いているだけで、結論を出さない。だから、自分も一緒にそこを訪ねているような気分になれるんです。もしかすると、「自分もここで働きたい」と思う人も出てくるかもしれない。そういう求人サイトをつくりたいと思いました。
社会人になってから抱いていた違和感と、「こういうの、いいなぁ」と思える人や考え方との出会い。それらが少しずつ熟成して、日本仕事百貨の輪郭が描かれていったようです。
最初はほかのプランもあったんですよ。たとえば、セルフリノベーションする人向けの道具を揃えたECサイトとか。でも、それだと在庫を抱えなくちゃいけないから、初期費用もかかるしリスクもある。その点、日本仕事百貨なら、かかるのは自分の手間と時間だけ。リスクが少なく、かつ広がりが見込めたことから、日本仕事百貨に落ち着きました。
サイトリリース後、半年間は実績作りのために知人・友人の仕事を無償で紹介していましたが、次第にサイトの評判が高まり、「うちの求人を載せてほしい」と依頼が来るように。いまでは月に100件以上の掲載依頼や相談をいただき、「生きるように働きたい」と願う人の背中を押しています。
目隠しを外して、現状を把握しよう
そんなナカムラさんが、いままさに仕事に迷いを抱いている人、将来に漠然とした不安を感じている人に対して伝えたいのは、「目隠しを外そう」ということです。
漠然とした不安や心配をそのままにしておくと、前に進めなくなります。それはたとえるなら、目隠しをしながら山の尾根を歩いているような状態。目を開けて、隣が崖だったら、確かに怖いですよね。注意せずに足を踏み出したら、落ちちゃうかもしれない。
でも、よく次の一歩を見極めて慎重に踏み出せば、前へ進めます。だから、怖くても自分の置かれている状況を確認して、不安のもとが何なのかを把握することが大事なんじゃないかと思います。
ナカムラさんの場合、不安の原因は「お金」でしたが、人によってはそれが「周囲の評価」だったり、「安定」だったり、色々あるでしょう。でも、原因さえ明確になれば、対処法はいくらでも考えつくもの。目をそらさずにしっかりと向き合えば、不安は解消されるはずです。
そうして目隠しをとって周りを見渡したら、「なんとなくあっちの山に行きたい」と大まかな方向性が見えるかもしれません。そのとき必要なのが、地図やコンパスといった道具。なんとなく這いずり回るのもいいけど、そうした道具があるとより確実に目的地に辿りつくことができます。
ナカムラさんにとって、それは東京R不動産のサイトや西村さんの本でした。コンパスの示すほうに向かって歩き、時には道に迷いながら進んできたといいます。
「こっちかな。いや、違うな」というのを繰り返していくと、精度が高まってきました。ぼくも2転3転していますよ、はじめからはっきりと今の状態が見えていたわけじゃないし。
正直、いま振り返ると「もっと近道があったんじゃないか?」と思うんですよ。でも、遠回りしたからこそ生まれたものもあった。だから、寄り道するのも悪くないんじゃないかな、と思います。
グリーンズと一緒に運営している「リトルトーキョー」。古いお寿司屋さんを改装し、バーやイベントスペースをつくりました。この場所も、建築や不動産の知識、リノベーションの経験があったから実現したものです
もし、あなたが新しい生き方、働き方を探しているなら、日本仕事百貨のサイトを眺めてみてはいかがでしょう。そこに掲載されている多様な人の人生や仕事は、あなたのコンパスになるかもしれません。
ちなみにナカムラさん、ときどきリトルトーキョーのバーでバーテンダーをしているとのこと。今は「しごとバー」という企画もはじまり、さまざまな業界の方がバーテンダーをしているそうです。就職相談から仕事の依頼などもできるそうなので、気になる方は訪れてみては?