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みんなの「何かしたい!」をどんどん形に!柴山留佑さんが「出町柳文化センター」にかける思いとは?

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

皆さんは京都の出町柳という地域を訪れたことはありますか? 京都と大阪を結ぶ京阪電鉄の京都側の始発駅があり、朝夕多くの人が行き交うエリア。また、学生やアーティストが多い京都市左京区の中心地でもあり、ユニークな思いを背景にした小さな商店がひしめいています。

そんな出町柳に、「最近DBCという名前の面白いスペースができたらしい」という噂が、京都に住む私の耳にも聞こえてきました。

スペースの名前である「DBC」とは、「出町柳文化センター」の略。市や町が運営する「文化センター」は世に多くありますが、ここDBCはそのどちらでもありません。「私営」の文化センターとして、カポイエラ教室や音楽ライブなどなど、日々色々な教室やイベントが行われています。

そんな「DBC」を運営するのは、出町柳駅前のレンタサイクル店「えむじか」、「DBC」併設のレンタルスペース「ナミイタアレ」を運営する、サイクル&ミュージック代表の柴山留佑さん。出町柳を拠点にさまざまな取り組みをスタートする柴山さんは、一体どんな思いでこれらの商売を行っているのでしょう?

噂の「発信源」である柴山さん本人に、直接お話をうかがいました。

「サイクルシェア」で会員600名のレンタサイクル店「えむじか」

2006年にスタートしたレンタサイクル店「えむじか」がメインとするのは、通常のレンタサイクルよりも、通勤通学者を対象とする月極の“サイクルシェア”です。
 
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夜8時まで自転車が借りられる500円の通常プラン、1ヶ月3000円の長期レンタルプランも破格です

サイクルシェアの仕組みはとってもユニーク。自宅から駅まで自転車を使い、電車に乗り継ぐ「ホーム」の人、自宅から駅までは電車を利用し、学校や会社まで自転車を使う「アウェイ」の人、それぞれが自転車を利用する”時間差”によって、より少ない自転車を多くの会員間でシェアするのです。

現在ではのべ600名の方がサイクルシェア会員になり、10名を超えるスタッフさんがえむじかで働いています。
 
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柴山留佑さん

最初はのらりくらり一人でレンタサイクルの仕事をやっていくつもりだったんやけど、その仕事に本当にハマってしまって。ひとりじゃできなくなって仲間が増えていった、という感じです。

現在までのいきさつをさらっと語る柴山さん。もちろんその道のりは常に順調だったわけではありません。以前、出町柳からさらに北西に位置する交通の要所、京都市営地下鉄の北大路駅近くに出店したときのことをこう語ります。

京都の地下鉄沿線沿いは駐輪場が足りていないのでそこを選んだんやけど、ロケーションが甘く、「あかん」と思ってすぐにたたんだ。通勤通学を対象にするには、改札までがちょっと遠かった。徒歩一分圏内じゃないとダメですね。

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えむじか”ブラジル”店

出町柳駅前の”ブラジル”店(店長がブラジル好きでこの名前に!)に続いて、今年2月からは、やはり京都と大阪をつなぐ阪急電鉄の京都側の始発駅「河原町駅」近く、京都一の繁華街である四条河原町に新しくえむじか四条河原町店をオープンしました。

えむじか、京都一の繁華街四条河原町へ出店

新店舗えむじか四条河原町店の2階には、「ナミイタアレ会館」というレンタルスペースがあります。柴山さんが知り合った、「四条河原町でなんかしたかった」という人たちが、バー「立ち呑み三・五畳」などのお店を次々とスタートさせています。
 
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えむじか四条河原町店&ナミイタアレ会館

ただ、その出店も一筋縄ではいきませんでした。「出町柳店の次には、人もいて、ニーズも多い四条河原町付近に」と思い詰めていた2011年頃のことを、柴山さんはこう語ります。

店番しながら、段々視野が狭くなってる感じがしてたんですよね。それまで躍起になって四条河原町のテナントを調査して。でもちょっと根を詰めすぎてノイローゼ気味になってしまって。それで2年間、次の店舗のことを考えるのやめてたんです。

そんな「次の店舗のことを考えるのをやめていた」という2年の間に起きたのが、ナミイタアレとDBCの開館でした。

「なんかやりたい!」を後押しする、「ナミイタアレ」と「DBC」

「ナミイタアレ」は、柴山さんが2012年にはじめた出町柳の路地裏にあるレンタルスペース。「魅惑の路地裏デパート」などと呼ばれています。
 
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「ナミイタアレ」という名前は、(この写真からは分かりづらいですが)建物の外壁が「波板」でできていることと、路地の「アレイ」から。

ナミイタアレはもともと、えむじかの自転車保管場所と修理工場として使われていた倉庫スペースでした。機能移転のために空いたこのスペースを訪れた、インド帰りの友人が「ここでチャイを出したい!」と、柴山さんに提案。「分かった!」という柴山さんの一声で、元倉庫が生まれ変わったのです。
 
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ナミイタアレ&DBCのチラシ

最初はお店屋さんごっこみたいな感じで考えてたんやけど、「全力で応援するから、飲食店をやるなら本気でやったほうがいい」って言いました。そこから大工事して、保健所の許可も取りました。お店をするなら堂々とやってほしいし、僕もそうしてきたので、そこは背中押しました。

今ナミイタアレに入る人たちは、同じように「なんかやりたい!」という思いを胸に集った人たちばかりです。自転車を修理して売りたいけどお店がない人、輸入すると高いブラジルの太鼓を自分でつくって売りたい人。

今も、柴山さんの「じゃあここでやれば?」の一言に背中を押された店主たちが、ガラス細工工房「ぎあまん堂」や「太鼓工房カメノス!」などなど、それぞれの商売をしています。
 
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京都市役所前のふる本・レコード・CD屋「100000t アローントコ」は、ビルの立ち退きのため店舗移転先を探している間にここで無人販売所「100000tナミイターレ」をはじめたのですが、新店舗オープン後もなぜか継続中。

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ナミイタアレ内部

やりたいことはやったほうがいいですよ。みんな「やりたいんやけどな」で終わってるから、やめる癖がついているけど、「やりたいことをやる」っていう癖をつけたほうがいい。

2013年には、ナミイタアレの隣の小屋も借り、DBCこと「出町柳文化センター」を立ち上げます。ナミイタアレもDBCも同じレンタルスペースですが、お店が集まるナミイタアレに対して、DBCはその名が示す通り、むしろ「公民館」に近いイメージ。
 
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DBCにて

DBCのレンタル料金は、これまた破格の1時間500円!「人が雇えないから後悔してる」と柴山さんは洩らしますが、おかげでさまざまなスキルを持つ人たちが、ダンス、英会話、ウクレレなどを教え、また「何かしたい!」と思う人たちが気軽に利用できる場所を日々提供しています。
 
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DBCでのイベント

そんなナミイタアレとDBCを通しての、新たな人との出会いによって頭が緩んだ、と柴山さん。四条河原町への出店を後押ししたのは、「頭の休憩」だったはずの2年間だったのです。

地域への恩返し

柴山さんの現在の肩書きは「サイクル&ミュージック株式会社」の代表取締役。最近、スタッフさんの薦めもあって株式会社化を果たしました。えむじか、ナミイタアレ、そしてDBCは、サイクル&ミュージックが進めるメイン事業となっています。
 
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音楽は大好きなもの。自転車は生業。その二つがあれば生きていける。でも自転車は人の命を預かるものだから、シラフでやっていこう。シンプルにそう心に決めました。「サイクル&ミュージック」という名前もそこから。でも、そこに「アンド・ユー」というのが入っているんです。

柴山さんにとっての「ユー」とは、家族、周りの出会う人、そして自転車に乗ってくれるお客さん。自転車、音楽、「ユー」、大好きなこの三つとともに、柴山さんはサイクル&ミュージックを運営しています。

会社の代表となり、フルタイムで拘束されることがなくなった現在、柴山さんは出町柳町内会の会長も務めています。ただ、「実は今悩んでいる」と打ち明けてくれました。

市が出町柳駅前に駐輪場をつくろうとしているんです。僕も新聞で見てはじめて知ったくらい寝耳に水で、工事を知らせる案内が来たのも、着工日の二週間前。駐輪場ができるのはいいんやけど、以前放置自転車が問題になったとき、わざわざ私財をなげうって駐輪場をはじめてくれた柳月堂というパン屋さんも近くにあるんです。そういうところへの配慮もない。

柴山さんは町内会長として市と交渉するも、とりあってもらえません。心の底から落胆されているようでした。でも、なぜそこまで大変な役を自ら買って出たのでしょう?

きれいごとかもしれないけど、どこの馬の骨とも分からない兄ちゃんが何年もここで商売させてもらって、周りのお店の人たちにも声かけてもらって。うちの子も最近ここで生まれて。偽善的ですけど、恩返しの気持ちがあるんです。

町内会長にとどまらず、なんと柴山さん、京都府自転車軽自動車商協同組合のレンタサイクル部会の会長も務めています。自転車からはじまり、自転車を通じて出会う人々への柴山さんの配慮がずっしりと伝わってくるようです。

目標は「キング・オブ・ポップ・レンタサイクル」

レンタサイクル、レンタルスペース。柴山さんが「レンタル」こだわるひとつの理由は、「貸す、手入れする、返してもらうというサイクルの中でゴミが出ない」からだと語ります。

自転車ってあんまりみなさんの意識にないんでしょうね。手入れされることもなく放置されてる自転車も多い。使い捨てで、壊れたら「買い替えた方が安い」ってお店の人も言うくらい。自分たちの生活を支えてくれているものなので、もっと大事にしてほしいですね。

「そういうメッセージ性を伝えていかないと」と柴山さんは個人的な思いを語ってくれますが、仕事としてサイクル&ミュージックを運営する中で、組織をつくるという問題に突き当たります。「昔は人によってお金もらったりもらわなかったりしてた」と語る柴山さんにとって、最も難しかったのがマニュアル化だったようです。

ただ、マニュアル化してもなくさないでほしいものは、お客さんを好きになってもらいたい、ということ。自分が大事な人に「自転車貸して」って言われても、ボロボロの自転車は貸さないじゃないですか。ただ、有り難いことに、見てるとスタッフみんなお客さんのこと好きでいてくれてます。

えむじかで働く10名を超えるスタッフは、実はその半数が、音楽や演劇など、夢を持って自身の活動を行う人たちです。「言ってみたら、世の中からちょっと邪見にされてるような人たちですが、協調性があるからよく働けるんですよね」と、柴山さんはスタッフの皆さんをこう紹介します。
 
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えむじか”ブラジル”店でお客さんに説明するスタッフさん

最終的な目標は?の質問に、柴山さんは「キング・オブ・ポップ・レンタサイクルです」と一言。どういうことかと尋ねると。

自転車のように粗末にされているものが活躍できる場が、もっと増えていくといいなと思います。それは、あなたがあなたらしさを持ちながら、本当の能力を発揮できる場所をつくるということ。

ここでは、「ほんとはこうしたいんだけどな」って言いながら生きてほしくない。「ほんとはこうしたい」ということをやってほしいんです。僕はその中で気配りをするっていう役割かな。「みんな元気でやってるか?」って。

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DBCにて

そんな柴山さんの周りに生まれる、自分たちで責任を持って生きる人たちのための「サイクル&ミュージック」。柴山さんの言葉の端からは、生業を行う地域とそこに住む人々に「生かされている」という感謝と、それを他の人たちにもつないでいこうという思いが伝わってきます。

旅行や仕事で京都を訪れた際、えむじかで自転車を借りてみたり、その近くにあるナミイタアレのお店やDBCで行われているイベントにも訪れてみたりしてください。いっそう大きくなりつつあるサイクル&ミュージックの輪の中に、みなさんも入ってみてはいかがでしょうか?