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ありのままの自分におめでとう!“当たり前”を学んだ学校で、“当たり前”でないことを祝う特別な日「2013年度 LGBT成人式」


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澄みきった青空の下、冷たい風が吹く1月19日、2013年度LGBT(※)成人式が世田谷区で開催されました。今年の開催場所は、なんと学校です。
(※レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字)

皆さんは、学校にどんな思い出がありますか?
楽しい思い出、悲しい思い出、照れくさい思い出… 学校にはたくさんの思い出が詰まっているのではないでしょうか。

人生の節目を迎える方々のために、なぜ学校という場所でLGBT成人式を開催したのか。主催団体「Re:Bit」の初代代表、藥師実芳(やくし・みか)さんは言います。

学校にはたくさんの思い出があると思いますが、その中の一つに、“当たり前”を学んだ場所ということがいえるのではないでしょうか。男女で分かれているのが当たり前、両親がいるのが当たり前、普通に振舞うのが当たり前。そういう “当たり前”を教えられた学校の中で、ありのままの自分でいられなかった子が、私の周りにはたくさんいると感じていました。

それなら、ありのままの自分を祝う式を学校で開催したら、すごく面白いことになるのではと考えたんです。学校でもう1ページ新たに思い出を作るとしたら、この成人式であってほしいと。

校門をくぐり、下駄箱で受付けを済ませ、渡り廊下を進み、式典会場へ。そこには、パイプイスがずらりと並べられていて、なんだか卒業式を思い起させる雰囲気です。

年齢不問、ドレスコードは自由、誰でも参加できるLGBT成人式。ビジネススーツを着る人もいれば、カジュアルな格好で友だちと参加する人もいます。もちろん、パートナーと参加する人も。それぞれが大人になるためのヒントを探しに“学校”という場所に集まりました。

参加者はどのような決意でこの成人式に参加したのでしょうか。そして、どのような思いを持ち帰ったのでしょうか。新成人として祝辞を述べたお二人にお話を伺いました。

先入観を抱いていたのは、僕自身だった

まず初めに祝辞を述べたのは、丸山さんです。女性として生まれたものの、体と心のセクシュアリティが一致せず、長い間ありのままの自分を表に出せない生活を送っていました。

地元で開催された成人式には、「友だちにはカミングアウトしていないし、理解されないかもしれない」と心配する親の気持ちを尊重し、レディーススーツで参加したそう。LGBT成人式には念願の男性用スーツを着て参加し、自分らしくいられる一番の場所だと笑顔を見せてくれました。

小さい頃から男の子とばかり遊んでいました。けれど、小学校の高学年になると周りは性別を意識し始め、いつも男の子の中に混ざっていた僕は、いじめの標的にされました。そのせいか、心のセクシュアリティを知られてはいけない、ボロを出してはいけないと、感情を押さえつけ、次第に自分の殻に閉じこもるようになりました。

丸山さんを大きく変えたのは、彼のすべてを受け入れてくれる人たちとの出会いでした。セクシュアリティに関しては何も触れなくても、ありのままの自分を理解してくれた部活仲間や、人間性を好きになってくれたパートナーとの出会いを通じて、少しずつ自分の殻を破り始めることができたそうです。

今では大学でも、自分のセクシュアリティについて話をするようになりました。すると友だちから『ようやく心を開いてくれたね』と言われたんです。その言葉で、他者との間に壁を作り、どうせ話しても分かってくれないと勝手な先入観を抱いていたのは僕自身だったことに気が付きました。

「きっと理解されない」「嫌がられたらどうしよう」「ありのままの自分では生きにくい」そういった先入観を払拭し、自分のことをもっといろんな人に知ってもらいたいという思いから、丸山さんはLGBT成人式での祝辞を引き受けました。成人式を終えた今、彼は新たな決意を胸に抱いています。

LGBTという存在をたくさんの方に知ってもらえるような活動に関わっていきたいです。その中で傷つくことがあっても、へこたれるわけではなく、自分の周りの環境を変えていく努力をしていきたいです。ちゃんと僕のことを分かってくれる人がいるので、助け合いながら前向きに進んでいきたいと思います。

理想はLGBTという言葉がなくなる日

続いて祝辞を述べたのが、スバルさんです。昨年の2012年度LGBT成人式に参加したスバルさんは、今、一年前を振り返りこう語っています。

一年前と比べて変わったなと思うのは、10年後、隣にいる人たちを想像できるようになったことです。もちろん、今でも生きづらさを感じる時はありますが、共に乗り越えてゆける人たちがそばにいると感じています。

高校を卒業してから、自分は同性が好きだということを自覚し始めたスバルさん。自分の性的指向(どの性別を恋愛対象とするか)を友だちに伝えていなかったため、本当の自分を見せていなかった、嘘をついていたと自己嫌悪に陥る毎日を過ごしていました。

だからこそ祝辞を引き受けるにあたり、スバルさんはこれまでの自分と真剣に向き合ってみようと決意します。あの時はこんなことがあった、どうしてそう感じたんだろう、何故あそこでつまづいたんだろう、今は幸せなのかな…と。

過去の自分と向き合って気付いたこと、それは自分が同性愛者であることを大きく捉えすぎていたということでした。

僕の中には、性的指向以外にも、性格や興味、出身や専攻など、様々な要素があり、全部含めて自分なのだなと思えるようになりました。最近は、自分自身がLGBTであることを忘れつつあり、むしろ進路などの方が心配です(笑)。

LGBT成人式というきっかけで、自分をより深く理解することができたスバルさん。彼が向う先にはどのような未来が待っているのでしょうか。

LGBTという言葉がなくなる世界が理想だなと思っています。カミングアウト、ゲイ、レズビアンなんて、当たり前すぎて取るに足らない問題になればいいですね。マイノリティは僕らだけじゃないし、マジョリティであっても生きづらさを感じている人はたくさんいると思います。

「〇〇しなければいけない」「〇〇でないといけない」という強迫観念から解放されて、一人ひとりがありのままで生きられる世界が理想です。

成人式は自分の殻を破る勇気をくれる場所

LGBT成人式という別の式を開くことで、自分を周りから孤立させ、壁を作っているのではないか。

そう考える人もいるかもしれません。けれど、参加した方々からは、

「もっと自分を認め、大切にしようと思った。」
「周りはきっと理解してくれないと、偏見を抱いていたのは自分の方だった。」
「少しずつでもいいから周りにカミングアウトしていこうと思う。」
「失敗を恐れずに、前進あるのみ。」

などの、自分らしく生きるための前向きなメッセージが聞こえてきました。

LGBT成人式は自分と同じ境遇の友だちや仲間を増やせる場所です。けれどもそれ以上に、ありのままの自分を隠してきた殻を破り、社会へ飛び出す勇気をもらえる場所だと感じました。

知ることから理解は始まる

LGBTについては、まだまだ知られていないことが多いのかもしれません。LGBTは日本の人口の5.2%いると言われ(電通総研ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査」2012年2月より)、これは20人に一人という比率です。意外と多いと思いませんか?

自分の周りにLGBTはいない。そう思ってしまうのは、間違った情報や先入観、そして偏見を恐れ、自分自身がLGBTであることを公言できない人が多いからかもしれません。知らないが故に、誰かを傷つけてしまったり、対応に戸惑ってしまったりする場合もあります。学校や就職活動ではLGBTへの配慮がまだまだできておらず、本当の自分を隠し通して通学する子や、不登校になる子も多いといいます。

このような状況を変えていこうと、主催した「Re:Bit」はLGBT成人式以外にも、新たな取り組みを始めています。

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「みんな違って、みんないい」社会を目指して

2009年の発足以来、学校や教育委員会向けに、LGBTを題材にした出張授業を開催してきた「Re:Bit」。さらなるステップは、「LGBT teachers」というものです。LGBT teachersでは子どもに関わるすべての大人を“先生”と定義づけ、LGBTの子どもたちが安心して生活していける環境を整えていくことを目的としています。現在は、“LGBT×教育×〇〇”をコンセプトに、〇〇のテーマについて、より深く、より具体的な理解と対応策を見出していくために活動中です。

1月25日に行われた第2回LGBT teachersには、Re:Bitのメンバー他、教員を目指す学生、小・中学校教員、大学職員、児童養護施設の職員など、子供にかかわる多くの方が参加し、どのようにしてLGBTの子どもたちと向き合うべきかを話し合いました。

例えば、〇〇ちゃん、〇〇君という呼び方を止めて、どう呼ばれたいかを子どもたちに聞いてみる。女の子なんだから、男の子なんだからという言葉は使わない。ライフプランに“正解”はなく、生き方は多様で自由なんだよということを伝える。一体感を重視する学校で、違いを尊重する心を養う。こうした大人の少しの配慮で、気持ちが楽になる子どもたちがたくさんいるのです。

普段何気なく使っている言葉を見直し、“当たり前”のものさしで周囲を測るのを止めてみる。すると、「違うから理解できない」が「みんな違って、みんないい」に変わるかもしれません。

“当たり前”を教えられた学校で、“当たり前”はないことを学べたLGBT成人式。参加者の皆さんの心の中には、新たな思い出の1ページが刻まれたのではないでしょうか。