Startup Weekend Tokyoを終えたキュア開発チーム
もし身近な人がうつ病になってしまったら、どうすればよいのでしょう。どんな声をかけたらていいのか、病院に連れて行くべきなのか、戸惑うという方も多いかもしれません。
株式会社フレキシブル代表の石原吉浩さんと、株式会社小石川代表の広瀬眞之介さんが開発した「Qyour(キュア)」は、うつ病患者のまわりでそのような悩みを抱えている人に、専門家や元うつ病患者がマンツーマンでアドバイスするサービスです。
当事者でなく、そのまわりの人にポイントを置くQyourは、うつ病という病気への理解や患者への温かいまなざしが感じられます。
そして驚くことに、このQyourはたった54時間で事業をつくりあげてしまう起業家支援イベント「Startup Weekend Tokyo」で開発されました。そんな短時間で、いったいどのようにしてこのプロジェクトは形作られたのでしょうか。石原さんと広瀬さんに話を伺いました。
格安のカウンセリングサービスから発想がスタート
Startup Weekend Tokyoが実施されたのは、2013年11月22日(金)~24日(日)にかけての3日間。金曜日の夕方、googleの会議室を会場に、審査員たちのほか起業を目指す約100名の参加者が集まりました。
このイベントはプレゼンからはじまります。100人のうち、70人くらいが起業のアイデアを次々に1分ずつプレゼンします。参加者は3票の共感票を持っていて、気になるプレゼンに票を入れていくんですね。
多くの票を集めた10のプロジェクトが生き残ったのですが、そのひとつに僕の提案もありまして。自分のプレゼンが通らなかった人は他の方のチームに参加します。(石原)
キュアー誕生の経緯を話す石原さん(左)と広瀬さん
石原さんはふだん、お医者さんの研究のサポートをしながら、産業カウンセラーの勉強をしています。そんな石原さんがプレゼンした内容は「気軽に受けられる、ITを活用したカウンセリングサービス」というもの。
10年ほど前に精神的に苦しんだ時期があったのですが、そのときに誰にも相談することができなかったことがアイデアの源泉となりました。(石原)
僕はそんな石原さんのプロジェクトに共感して票を入れました。僕の提案は残らなかったので、じゃあ一緒にやりましょうという流れになったんです。(広瀬)
広瀬さんはネコのいるコワーキングスペース「ネコワーキング」の初代オーナーとして知られています。今は“プロデュース”をテーマに新規事業の開発や組織の人材育成を仕事として手掛けています。自身がうつ病をわずらっていたことから、もともと本業でうつ病患者の支援プログラムも開発していました。
石原さんと広瀬さんは別のイベントでも顔を合わせていただこともあり、チームを組んで、一緒に石原さんのアイデアを育てることに。こうして石原さん、広瀬さんを含めた7人のチームで、「ITを使った格安のカウンセリングサービス」というアイデアを事業化することにしたのです。
インタビューを重ねてニーズを明確にする
どんな事業にすればいいのか、誰をターゲットにすればいいのか、など、チームでいろいろなことを話し合ってみましたが、特に結論は出ません。そこで、会場にいる他の参加者などの方へのインタビューを行い、悩みに対するニーズを探ってみることにしました。
インタビューに慣れている広瀬さんがチームメイトに方法を伝授
インタビューでは二つの立場の人に対してアプローチをしてみようと思いました。ひとつは軽い悩みなどを持った人、もうひとつはうつ病など重い悩みを持った人です。(石原)
会場にいる参加者は、事業が成立するようお互いに協力し合うことになっています。石原さんと広瀬さんは何十人という人に声をかけました。
インタビューをしてみてわかったことは、悩みの軽い人にも重い人にもあまりカウンセリングニーズがないということでした。悩みが軽い人はそれこそ友達に話せば発散できるので有料のサービスを必要としません。また、症状の重い人はその症状の重さゆえ、放っておいてほしいという気分になることがわかったのです。(広瀬)
ITを使った格安のカウンセリングサービスというアイデア自体が否定されたわけではありませんが、特に必要とされる手ごたえもありませんでした。
限られた時間のなか白熱するStartup Weekend Tokyo
Startup Weekend Tokyoの方針として、多くの人に「いいんじゃない?」と言われるようなアイデアは捨てたほうがいいというものがあります。「いいんじゃない?」ではなく、「そのサービスはどこで買えるの?もう買えるならすぐにでもほしいんだけど!」という熱狂的なファンを見つけること。
たった一人でもいいので、熱狂的なファンを見つけられたら、それは事業の種になるという考え方があるんですよね。これはまさにその通りだと思います。(広瀬)
うつ病患者のまわりの人もとてもつらい思いをしていた
石原さんと広瀬さんのチームはここで壁にぶつかりますが、さらにインタビューを重ねて、改め悩みに対するニーズを探ることにしました。
たくさんの方にヒアリングをしていくと、あることに気がつきました。それは「いままでの人生で一番つらかったことは?」という問いに対して、「家族や友達がうつ状態になってしまったこと」という回答がいくつか見られたことです。ほんの数件ではあったのですが、そのインタビュー結果を見て、うつ病患者の周辺の人にニーズがあるのではないかと思ったのです。(石原)
僕もうつ病の当事者としてそのニーズはよくわかりました。傷ついているのは当事者だけでなく、そのまわりにいる人たちもなんですよね。また、傷ついているだけでなく、手を貸したいけれど「なにをしていいかわからない」という現状もあるんです。
うつ病に関する本があっても、目の前の今ご自身が直面しているケースに、なにが当てはまるかがわからないからです。(広瀬)
うつ病患者がそばにいるときに、どんな風に声をかけていいのか、あるいはかけないほうがいいのか、ケースはそのときどき。病院に行くことをすすめたほうがいいのか、あるいは強引にでも連れて行ったほうがいいのか。薬は飲ませたほうがいいのか、飲ませないほうがいいのか…。うつ病という病名が一般的に広がっていることに対して、患者への対処法はあまり浸透しているとは言い難いのが現状です。
うつ病患者のまわりの人へのサービスという方向性はチーム内でもみんな納得でしたから、そこからはどんどんサービスを具体化していくことになりました。(石原)
ハスラー、ハッカー、デザイナーが協力してサービスを構築
Startup Weekend Tokyoの目標は、ビジネスアイデアの種を形にして、サービスとしてローンチ。一度でもいいからそのサービスを提供してみよう、というものです。
サービスの名前を「Qyour」にしようということや、専門家や元うつ病患者がマンツーマンで対応するサービスにしようといったことが決まってきたので、そこからはサービスのポスターをつくったり、ウェブで利用できるようデザインを組みたてたりしました。(石原)
参加者ひとりひとりがそれぞれのポジションで活躍する
Startup Weekend Tokyoの参加者は3つの立ち位置に分かれています。ひとつは“ハスラー”と呼ばれ、アイデアを提供するなどチーム内を活性化させる人、もうひとつは“ハッカー”と呼ばれ、こちらは思いついたアイデアが事業として成り立つのかシステム設計を考える人、そして最後が“デザイナー”と呼ばれ、文字通りアイデアから具体的なITサービスをつくりあげていく人です。それぞれが役割を果たしていくことで、サービスが形作られていくことになります。
オンライン上でスキルの販売が行えるココナラというサービスがあるのですが、そこでテスト的にQyourのサービスをはじめてみると実際に数件申し込みがありました。
これはテストサービスではありますが、売れたということ。手応えを感じ、広報のための動画もつくりました。Startup Weekend Tokyoの54時間で、そこまで作り上げた形です。(石原)
キュアーはまだまだはじまったばかり!
Startup Weekend Tokyoが終わると、7人いたチームは一度解散。現在は石原さんと広瀬さんのふたりで、Qyourを実践しながらサービスとしてブラッシュアップを図っています。
うつ病患者にもさまざまな状況がありますから、それぞれの状況に対してどう対処していくかなど難しいことはたくさんあります。元うつ患者が対応したときに、共依存の関係にならないように配慮する必要もあります。(広瀬)
すでに行政機関から「正式なものがリリースされたら、チラシなどを置きたいのでぜひ教えてください」と声がかかるなど、ふたりのもとに、サービスを求める声は確実に届いています。
いまはまだ、情報収集を続けながら、サービスとしての着地点を探している状態ですね。当事者の周囲の人へのサービスと考えると、これはうつ病患者だけに限ったことではなく、さまざまな病気にも応用を利かせることができるとも思っています。もちろん、最初小さくやりたいので、うつ病患者の”周りの人“支援で特化し、その充実を図りたいですね。(広瀬)
うつ病患者本人へのサービスは医療を中心にさまざまなものが充実していますが、その周囲の人へのサービスは、まだ手厚いものが少ないように感じられます。
うつ病まわりの環境が少しでも改善されるように。Qyourの成長に期待したいところです!