みなさんはソーラーパネルというと、どのような姿が思い浮かびますか?
建物の屋根に乗っていたり、何百枚も地面に並んでいたり、あるいはgreenz.jpでご紹介したキャスター付きの姿だったりと、ソーラーパネルの活躍の場所が広がってきているようです。今回は、庭を充電スタンドにできる太陽光発電システムをご紹介します。
自家製電気をつくりたい
大分県の湯布院でコインランドリー「ランドリーハウス ありあ」を経営する溝口さんは、布団などの洗濯物を近隣の旅館や高齢者の家庭に集配するサービスをしています。2012年7月の九州北部豪雨では、観測史上最大規模の豪雨により湯布院を含む広域が被災しました。溝口さんは炊き出しや布団乾燥などのボランティア活動をする中で、電気を自分でつくりたいと考えました。
停電の中で、小さくても明かりや温かい食べ物があるととても嬉しかった。いざというときのライフラインを持ちたいと思って。
環境ビジネス展示会などに顔を出すうちに出会ったのが、「青空コンセント」という太陽光発電システムです。
完全自立、完全独立の電源
「青空コンセント」はソーラーパネルと蓄電池がセットになった自立型の充電ステーションです。基礎工事無しでいろいろな場所に設置でき、商用電気を使わない独立電源をつくれることが特徴。溝口さんは設置場所を変えて発電量を計測し、一番発電できる場所に置くことにしました。超小型電気自動車「コムス」の場合、6時間の充電で50km走行できます。
溝口さんは今、お店の駐車場に置いた「青空コンセント」でつくった電気で洗濯物を集配しています。
この電気自動車(コムス)はちっちゃいでしょ。だから湯布院観光の方が道に多くても、皆さん注目して笑顔で避けてくれるの。おっきな車だとなかなか進まないんだけど、今はとってもスムーズよ。
いろいろ使える自家製電気
「青空コンセント」は100Vコンセントを利用できるので、携帯電話を充電したり、ホットプレート調理してみたり、溝口さんは車以外にもいろいろなモノを自家製電気で充電しています。家庭菜園のように外のちょっとしたスペースで電気を収穫して、車に食べさせたり、暮らしに使うのが楽しいと溝口さんは言います。
今度はね、この電気でお風呂を沸かしたいの。それから乾燥室をつくりたいのよね。今はガスなんだけど、電気のファンで布団を乾かせたら、いいじゃない。雨でもお日様の力で乾かすの。これ作っている人たちはね、技術集団だからきっとできちゃうのよ。
車を動かす電源をつくろう
溝口さんが期待しているのは「青空コンセント」を開発しているT・プラン株式会社。溝口さんのお店にメンテナンスに来ていた所にお願いして、大分県中津市にあるオフィスでお話を伺いました。
インタビューに対応してくれたのは、社長の寺下さんと、営業部長の佐藤さんです。
T・プランはもともと技術派遣をしている会社でしたが、循環型社会の発展に貢献する技術開発やモノづくりをしようと方向転換。もともと自動車系のエンジニアが多かった流れで、充電ステーションを開発することになったのです。充電ステーションがあれば、電気自動車以外にも電動自転車や電動シニアカーなど様々な車を再生可能エネルギーで動かすことができることも大きなポイントでした。
寺下さんたちは「青空コンセント」を通して、”エネルギーの地産地消”と”地域活性化”を進めたいと考えています。
地域の電気を地域でつくる
寺下さんは大分県北東部の姫島出身。その外周17kmの島で昨年、周遊観光サービスの実証実験を行いました。島内のお店で使えるクーポン券がセットになった電気自動車レンタルサービスで、観光スポットを地元産電気だけで走って廻ることができます。
地元のお店とも連携して、地元参加型で地域を盛り上げたいですね。地域の電気は地域で作る、分散型電源をもつスマートシティをつくっていきたいです。
と寺下さんは話してくれました。
佐藤さんは、共感してくれる人たちとつながっていきたいと話します。
電気自動車以外の分野でも、エネルギーの地産地消にみんなで気軽に取り組める仕組みをつくっていきたいです。そのためにもハード面やソフト面で一緒に挑戦していける人たちと、どんどん出会いたいですね。
自家製電気で観光客をおもてなし
この電気自動車レンタルサービスは現在、大分県観光地の”本耶馬渓”でも実施中です。ここでは観光施設の駐車場スペースに「青空コンセント」を設置しています。T・プランの多々良さんに案内していただいて、実際に走ってみました。
多々良さんはコンパクトな電気自動車で人や景色とのつながりを楽しんでいます。
乗っていると、歩いている人に声をかけられるんですよ。とても小さいので車の中と外の境をあまり感じません。自分でつくった再生可能エネルギーだけで走るのは、自転車を自分で漕ぐみたいに気持ちがいいです。充電してお待ちしていますので、この車でぜひ本耶馬渓を散策してみてください。
地元でつくってくれていた電気で本耶馬渓の”青の洞門”を走ってみると、確かに交通整備員さんや道行く人がニコニコと見守ってくれている感じがします。「あの小さい車に乗っているのは観光客」とすぐわかる、言わば”乗っている人の顔が見える”車なのです。逆に乗っているこちらからすると、電気をつくっている人の顔が見える。この関係は、直売所で野菜を買うのと似ているのかもしれません。
つながりが生み出し、旅をより味わい深くしてくれる”産直電気”。みなさんのまちでもいかがでしょうか。