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世界でたったひとつのぬくもりを届けたい。大量生産の仕事を卒業して、手づくりブランド「PIKKA」を立ち上げた理由とは?

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右から二番目が今回お話を伺った吉田彩子さん

本格的な冬の到来で、ニットが温かい季節になりましたね。そんな季節にピッタリなのが、南米ペルーのお母さんたちがつくる、アルパカニットを中心に販売するブランド「PIKKA(ピッカ)」です。

このブランドがユニークなのは、世界にひとつだけの手づくりのニットなどが手軽に買えるところだけではありません。現地の人たちに直接仕事をお願いすることでコミュニティ支援にもつながっているのです。

ギフトが多くなる年末年始を前に、「PIKKA」を立ち上げた吉田彩子さんに話を聞きに行きました。

チャリティではなく、仕事をつくることで自立を促す

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丸原 肌触りがとてもいいニットですね。どういう経緯でPIKKAを立ち上げたんですか?

吉田さん きっかけから話すと、学生時代にさかのぼります。もともと国際協力とか開発に興味があって、大学で勉強していました。そのときのゼミの先生が、ペルーに住んでいる鏑木玲子さんという日本の女性を紹介してくれたんです。

鏑木さんは、WHOの元事務局長の奥さまで、現地の貧しい女性たちと手工芸品をつくるプロジェクトをスタートしたところでした。そこで私たちはゼミの有志で、鏑木さんから送られてくるニットなどをチャリティで売る活動を始めたんです。大学では今も続いているみたいですね。

丸原 なるほど、ペルーとのつながりは学生のときからなんですね。

吉田 はい。それでペルーに足を運んで、鏑木さんといっしょに働いている現地の女性たちの生活を実際に見て、衝撃を受けました。そのあと、チャリティという形ではなくて、現地のコミュニティがつくったものを買い取ってそれを販売し、仕事をつくることで自立を促すというやり方を知りまして、私も何かやってみたいという気持ちになったんです。

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丸原 で、大学を出て就職したのが…

吉田 ユニクロの服をつくる工場の、日本窓口のような会社です。チャリティ販売ではないかたち、仕事をつくり出すというかたちを模索していたんですけど、学生が売るという規模では難しいという実感がありました。

一方で、当時は私も参加していた「チョコレボ」など、ファトレードやオーガニックを日本で広める活動が始まっていたということもあって、マーケットを広げていく方法なんかにも興味が出てきたんです。

ユニクロというと、大量生産・大量消費というイメージでしたが、いちど自分でその仕組みの中で働いてみて確かめてみようと思いました。

丸原 就職活動をしているときから、そんな思いを会社に伝えていたんですか?

吉田 はい。学生のときにしていたこととか、興味があることを聞かれて、フェアトレードを広める活動をしていたり、ペルーのニットをつかったチャリティ販売をしていたことなどを話しました。そのうえで、自分の目で大量生産の現場を見たいと思ったということを率直に。そうしたら、面白い!ということで採用になったんです。

丸原 ユニクロに関わるお仕事をされて、実際にどう思いましたか。

吉田 日本でユニクロほど真剣にやっているアパレル企業はないんじゃないかと思いましたね。品質の面でも価格の面でも、強い意志をもって進めています。品質や納期なども、サプライヤー任せではないんですよ。かなり人を送ってきます。基準をクリアする責任はユニクロの生産管理の人自身の責任になるから、必死になりますよね。責任が明確だから、デザインの人たちも真剣です。

工場としては仕事が空くことがリスクなんですけど、その点ユニクロは長期間で仕事を保証しています。工場の環境はいいし、児童労働の話も聞きません。もちろん、基準を満たすために工場は大変なんですけど、長年ユニクロと取引している縫製工場はいま成功しているようです。

自分の好きなものを見つめ、原点に戻る

丸原 そこからPIKKAの立ち上げまで、どういう心境の変化があったんですか?

吉田 ユニクロと仕事をしていて工場なんかを見て、そのやり方は効率的で、それはそれでありだとは思うようになりました。でも、工場でつくっている人たちを見ていると、襟をつくる人はずっと襟だけ、袖をつくる人はひたすら袖だけなんですね。

それを見続けていると、そんなに同じ規格のものが大量にいるんだろうかと思うようになりました。そして、価格を抑えて品質を高めるために必死になっているけれども、どこまでのことを私たちは要求するんだろう、どこまで私たちは消費するんだろうという疑問が大きくなっていったんです。

丸原 そこで国際協力などをやっていたときの原点に戻る、と。

吉田 自分の好きなものって何だろうと改めて考えたんですね。私が好きなものは手づくりのもの。機械を使っていても人の手が入っているもの。あと、人と違ったものを身につけたいという気持ち。

その後、同じ業種の会社に転職をして経験を積んでいましたが、今までの経験をつかって、やりたいことをどこまでできるかやってみようと決意したんです。そこで、最初に就職した会社とつながりのあった方にそんな話をしたら、思いがけないことに「じゃあここでやってみなよ」とチャンスをもらえたんです。

丸原 職場での仕事ぶりが認められてのチャンスかもしれませんね。それでPIKKAを立ち上げた、と。

吉田 はい。事業計画なんて立てたことがなかったのでドキドキです。でも、このチャンスを活かしていまやるしかないと思ってがんばっています。

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丸原 ペルーの現地とのやりとりは、どのようにしているのですか?

吉田 年に一度、ペルーの鏑木さんのところへうかがい、直接お話しします。あとはSkypeやメールでやりとりしています。

丸原 現地の人たちと仕事をするのは大変なところもあるんじゃないですか。

吉田 チャリティでやっていたときと意識を変えてもらうのが苦労しましたね。チャリティのときは、向こうで好きなようにつくってもらって、それを送ってもらうという形をとっていました。どんなものが入っているかは着いてからわかる、という状態。

でも商売となるとそうはいきませんよね。日本のマーケットで売るために、「こういう形や色で、こういう物をつくってください」という相談をします。すると最初はどうして?という反応がきました。「前は好きなようにつくらせてくれたのに」と。そこは全部買い取るという形をとっていることなどを粘り強く説明して理解してもらいました。

格差がなく、多様性が受け入れられる社会を。

丸原 これからのPIKKAの展開を教えてもらえますか。

吉田 ニットだけだと、どうしても秋冬だけの商売になってしまうので、これからはアクセサリーにも力を入れていきたいですね。ちょうど、ペルー出身の作家の方と知り合いになったところです。これまで利用されていなかったヤシの実の種などを使ったユニークなアクセサリーを展開していければと思っています。12日から始まるエコプロダクツ展でも販売するので、手に取って見ていただきたいですね。

あと、基本ネットでの販売に軸を置いていきたいので、ネットでのコミュニケーションの新しいかたちを考えていきたいですね。ただ情報発信をするだけじゃなくて、コミュニティとして機能するようなシステムをつくっていきたいです。

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丸原 最後に、greenz.jpの読者にメッセージをお願いします。

吉田 私がどうしてこういう活動を続けていられるかと考えてみると、強い動機があるからです。ペルーで見た格差と、ロンドンに留学しているときに体験した都市の中での多様性が、いまも強く胸に刻み込まれているんですね。

どうして日本みたいに物があふれる国と、多くの人が生きていくのに必要なものが不足している国があるんだろう。ロンドンの人たちは奇抜なものとか手づくりのものとかを自分の好みで選んでいたのに、なぜか日本では、街を歩くと同じようなもの、似たファッションが溢れている気がする。そんな疑問が芽生える体験が、強い動機になっているんです。

これからは格差がなく、多様性が受け入れられる社会をつくっていけるといいですね。

(インタビューここまで)

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という吉田さんのインタビュー、いかがでしたか?いま社会貢献やソーシャルビジネスというと手法が注目されがちですが、続けていくには体験に基づく強い動機が必要なのかもしれませんね。

アルパカの赤ちゃんのように、まだ小さいけれども大きな希望をもって生まれた「PIKKA」。基本オンラインでの販売ですが、明日から始まるエコプロダクツ展にも出展します。そのあたたかい商品を、実際に手に取って確かめてみてはいかがでしょうか。