『生きる、を耕す本』が完成!greenz peopleになるとプレゼント→

greenz people ロゴ

観光×再生可能エネルギーで温泉地が変わる!捨てられていた温泉水を活用する「小浜温泉バイナリー発電所」

main

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

こんにちは!greenz.jpライターの畠山千春です。
最近、福岡の田舎に引っ越し、少しずつエネルギーの自給を目指しています。今我が家では藤野電力さんのワークショップで作った太陽光発電機が大活躍!電気を自分たちでつくる暮らしを楽しんでいます♪

さて、すっかり寒くなり、温泉が恋しくなる季節がやってきましたね。実は今、その温泉を有効活用したとある発電所が全国から注目されています。温泉も楽しめてさらにエネルギーまで作れてしまう、新しい形の再生可能エネルギーってどんなものなのでしょうか?

その秘密を探るべく、今年4月長崎県に完成したばかりの「小浜温泉バイナリー発電所」を訪ねてきました!

バイナリー発電って?

温泉バイナリー発電とは、火山大国である日本が大きなポテンシャルを有する地熱発電のひとつ。地熱発電を大まかに説明すると、地熱によって作られた水蒸気でタービンを回し、発電するというものです。CO2排出量が少ないだけでなく、太陽光発電や風力発電などと違い天候の影響を受けにくい安定した電力供給が魅力とされています。

蒸気を採取するための井戸(蒸気井)を掘り、そこから吹き出す蒸気を利用して直接タービンを回すというのが一般的な地熱発電ですが、小浜温泉では温泉熱で沸点の低い液体を沸騰させ、その蒸気の力でタービンを回して発電するという「温泉バイナリー発電」を採用しています。

hatsudensho1

設備が小さいため初期費用が少なく、短期間で運転を開始できるなど、地熱発電のデメリットをうまくカバーしているこの発電方法。なかでも画期的なのが、捨てられていた未利用の温泉水を有効活用しているという点です!

そもそも長崎県の小浜温泉は約30もの源泉があり、日本屈指の温泉資源に恵まれた地域。温泉水の温度は約100度と高温で、1日に噴出する温泉水量は15,000トンほどもあるのです。しかしその豊富な温泉熱の約70%が未利用のまま捨てられてしまっています。

そこでこの温泉水に注目し、温泉バイナリー発電が計画されたということです。この「もとからあった資源を利用する」という点に、このプロジェクト成功の秘密がありました。

一般的な地熱発電の場合、新たな源泉を探すため井戸の掘削調査などが行われます。そうすると既存の温泉の枯渇が心配されるため、地域の温泉事業者との対立が問題となっていました。ですが、今回の発電方法は新たな掘削が必要ないため、温泉事業者と地熱資源開発者が対立を乗り越え、地域発展のために協力するという形が実現できているのです。

発電所を見学してみよう!

街のあちこちから立ち上る湯煙は、まさにこの地域のエネルギーの象徴。温泉街ならではの湯煙の香りにワクワクしつつ、早速発電所へと向かいます。

DSC01702

ついていないことに、この日は台風直撃の前日。小雨が降る中、担当のスタッフの方に発電所を案内してもらうことになりました。海のすぐ近くに建てられた建物は、発電所とは思えないほどコンパクト。この小さな発電所の中に、発電機が3つ設置されているのです。

DSC01726

これらの発電機で作れる電気は1日あたり約840〜1680kWhほど。一般家庭1世帯あたりの1日の平均消費電力を約10kWhとすると、約120世帯分もの電気を作ることができるのです。また、24時間発電が可能なため、太陽光発電と比べると発電量が6〜7倍にもなるという効率の良さ。この発電所と同じ規模の発電施設を作るには、太陽光パネルが約3000枚も必要になってしまうのです。

binary

この仕組みは、まず温泉水を熱交換器に入れ、真水に熱を伝えて温度を95度まで温めます。その真水が発電機の中に入り、沸点の低い液体を沸騰させ、その蒸気でタービンを回し発電する仕組みです。その後気体を冷やし再び液化させることで、液体は発電機の中で循環していきます。そして発電されたエネルギーは、主に地域の公共施設へ提供しているそうです。

また、小浜温泉では「発電事業を軸とした低炭素まちづくり」をコンセプトに積極的に活動しており、その一つがこの発電所をルートに組み込んだ小浜温泉ジオツアー。

kengaku

地元の観光協会とタッグを組んだこの企画は、4月にオープンしてから1200名以上の方が参加するなどスタート直後から大きな話題となりました。修学旅行などの見学のほか、別の温泉地から自分の地域でバイナリー発電を活かせないかと視察に来られることも良くあるのだとか。

温泉成分が固まると…?

発電効率も良く、環境負荷も少ない。さらには観光資源としても大きな魅力があるこの発電所。良いことずくめのように見えますが、温泉ならではの悩みも抱えていました。

それは温泉水から出る、温泉成分が固まった「湯の花」といわれる物質です。一見石のようですが、形や色はさまざま。固いものもあれば、手で触るとボロボロと崩れるものもあり、その実態はまだまだ解明されていません。

DSC01791

この湯の花が熱交換器の内部に付着し、熱伝導の効率が下がってしまうという問題が起きているのです。そのため、2週間に一度取り出して高圧洗浄機で洗浄する作業が必要とのことでした。この作業がなかなか辛いのだとか。

また、温泉水を源泉から引っ張ってくるパイプにも湯の花が付着してしまうため、遠くから温泉水を運んでくるのが難しいという状況なのだそうです。

DSC01738

この湯の花問題をどう解決していくかがこれからの小浜温泉の課題です。そこで事務局スタッフの方が日々、湯の花の実態解明のための実験を重ねているそうです。温泉成分の入った湯の花を粉末状にして入浴剤にできないか、湯の花で彫刻アートが出来ないか…などなど、良い素材としての使い道が発見できれば観光資源としての可能性も広がりそうですね。

今はまだ実証実験中のため、発電後の温泉水利用が許可されていない状況だそうですが、実験終了後は温泉水をハウス栽培や砂風呂、サウナ、養殖など、新たな観光や雇用促進のために二次利用できればと考えているそうです。

たとえばこの発電後の温泉水は、約70〜75度。小浜温泉の温泉水は温度が高いため、温泉に使用するために水を入れて温度を下げている所もありますが、発電後の温泉水を利用すれば濃度が薄まらず使用できるため、浴用への利用も期待されています。これは温泉利用者にも嬉しいお話ですね。

また、この温泉水は料理の「しゃぶしゃぶ」にちょうど良い温度なんだとか!美容効果のある温泉成分たっぷりのしゃぶしゃぶなんて、女性が放っておくわけがありません。源泉によっては温泉水が飲用可能なため、これから「温泉しゃぶしゃぶ」なんて贅沢なメニューも出てくるかもしれませんね。こうして、発電後の温泉水もまた有効活用されていく素敵な循環が生まれています。

若きリーダーが語る、これからの小浜温泉

今や全国から人々が訪れるようになった発電所ですが、始めからスムーズに物事が進んでいったわけではないようです。そこで、「小浜温泉エネルギー」事務局長の佐々木さんにお話を伺ってきました。

DSC01802

現れた佐々木さんは、笑顔似合う好青年。もう少し年配の方を想像していたのですが、現在まだ30歳というのだから驚きです。お話を聞くと、どうやら大学時代から自然エネルギー分野で本格的に活動されている方なのだとか。そう考えればここまでお若いのも納得ですね。

以前、一度別の地熱発電の計画があったそうなんですよね。最初の事業は新しい掘削が必要だったこともあり、地元の人たちから反対運動が起こっていたらしいのです。大きさも今の発電所の10倍のもので、大掛かりな開発だったそうです。

そこで、「今回は新たな掘削は行わない」ということを地域の方々に改めてお伝えし、丁寧に協議を重ねた結果、今は一緒になって地域活性のひとつとして取り組めるまでになったんです。嬉しいことに、かつて反対運動をされていた方々も今は温泉バイナリー発電計画の推進メンバーになってもらっているんですよ。

こう考えると、小浜温泉エネルギーがここまで来られたのは、地域のまとめ役の方々が協力してくれたからだと思っています。開発ありきで話を進めていくのではなく、地域の方々と対話していくことが本当に大事だと感じていますね。

小浜温泉は今、観光客数が1990年のピーク時の半分ほどになってしまっているんです。近くには日本一長い足湯「ほっとふっと105」があるのですが、日帰りをされる方が多く、宿泊に繋がらないというところも課題です。そこでこの発電所を観光場所のひとつに入れ、宿泊で楽しんでもらえるような仕組みを作りたいと思っています。足湯に続き、温泉バイナリー発電が小浜温泉らしい観光資源のひとつになればと思います。

Creative Commons: Some rights reserved by Norio.NAKAYAMA Some rights reserved by Norio.NAKAYAMA

小浜温泉で温泉バイナリー発電とそれによる観光事業がうまく行けば、他の温泉地でも導入を検討する場所が出来るかもしれません。推進協議会には地域の旅館の方々が多く参加されているため、旅館へのメリットが分かりやすいところもカギになるのではないでしょうか。

また、小浜温泉付近では、温泉熱を利用して、旅館などから出る使用済み天ぷら油からバイオディーゼル燃料を作る「温泉バイオディーゼル燃料」や、温泉熱を使った塩造り「雲仙エコロ塩」など、温泉を利用したエコなプロジェクトも活発に行われています。バイオディーゼル燃料は市のごみ収集車や学校などで使用されているそう。

「いつか、市内観光の1つとして地熱で作った電気で電気自動車を走らせてみたいですね」と佐々木さん。

DSC01781

今後はもっと「見せる/伝える」をテーマにしていきたいです。特にこれからの未来を作る子どもたちに、エネルギーについて知ってもらいたいですね。

そしてゆくゆくは、再生可能エネルギーを利用して地域のエネルギー自立を進めていきたいです。温泉の発電をベースにして組み合わせていけば、決して夢ではないと思うんです。温泉を通じて、この街をますます魅力的な街にしていきたいと思っています。

太陽光、風力、水力、地熱。

食べ物と同じように、エネルギーも地域資源によって適した発電方法が違います。今回の取材を経て、その多様性こそが観光資源そのものなんじゃないかと強く感じました。3.11を経て高まる再生可能エネルギーへの関心も考えれば、特色豊かな地域の再生可能エネルギー発電所が観光スポットになる時代も遠くないかもしれません。

エネルギーのことを学ぶにしても、堅苦しく施設を見学するだけでなく、合間に美味しいものを食べながら、温泉を楽しみながらの方が絶対に良いですよね。温泉から電気が作られているんですから、楽しむことも学ぶことのひとつ。エネルギーの源はどこか遠くにあるものではなく、本当はもっともっと自分たちの身近な所にあるんです。

とにかく楽しい!小浜温泉ジオツアー

小浜温泉ジオツアーは「ガチガチのエネルギー勉強会は友達を誘いにくい…」という方に特におすすめ。料金はたったの1000円。発電所だけでなく、街歩きや足湯体験、温泉の蒸気を使った蒸し釜料理も楽しめるという信じられないほど魅力的なツアーです!

Creative Commons: Some rights reserved by 泰二郎Some rights reserved by 泰二郎

申し込みはこちらから。3〜4名から参加可能だそうなので、旅行もかねて参加してみてはいかがでしょうか。これをきっかけに、エネルギーのことがもっとカジュアルに話せるようになったら素敵ですよね。

そのときは、小浜温泉で思い切り観光を楽しむこともお忘れなく!足湯に浸かりながらの温泉塩アイスクリームは最高ですよ。

地域活性化が進み、さらには地域の環境保全やエネルギー自立にも繋がるこのプロジェクト。地元の人たちが楽しそうに取り組んでいる姿がとっても印象的でした。ぜひとも全国に広まってほしいですね。