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東北の日常生活を面白くしよう。そんな思いから、本やアート、映画、まちあるきなど、ゆる~くてユニークなイベントを活発に開催している集団が仙台にいます。その名も「つれづれ団」。
“団員”と呼ばれるメンバーは、10歳以下から60代までと幅広い年齢層で、東北6県に400名も潜んでいるというから驚きです。この「つれづれ団」の活動内容や設立の経緯に迫りながら、まちをもっと楽しくするためのヒントを探ります。
の~んびりまちを歩きながら、大人の遠足を楽しもう
2012年11月。宮城県仙台市青葉区「まちなか農園藤坂」では、笑い声を上げながら畑で土を掘る人たちの姿がありました。「つれづれ団」が主催した「toko! toko! Sendai vol.3 花壇・大手町の謎に迫る一日」という、オリエンテーリング型まちあるきイベントの参加者です。
冷たい北風もなんのその。土の感触を楽しみながら、畑を掘りおこして指令の
宝物を探す参加者。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
畑から指令の宝物を掘り当てた、参加者の小学生。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
会場になった花壇と大手町はその昔、忍者がいたという言い伝えがあるエリアです。ギャラリーや神社などを歩いて回りながら、「手裏剣飛ばし」「吹き矢でポン!」など、テーマにちなんだ7つの指令をクリアしていきます。「toko! toko! Sendai」は、参加者がゲーム感覚でまちの歴史やお店を知ることができる人気企画で、2010年から毎年開催。地域活性化にも貢献しています。
忍者も出現して、イベントを盛り上げました。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
地域の魅力を再発見する企画は、「つれづれ団」の十八番です。まちを歩いて気になる場所をデジカメで撮影する「仙台市ロマンチッ区 勝手に珍迷所案内」。クリエイターが集まるシェアオフィスなどへ行き、利用者に話を聞く「大人の社会(科)見学」。「BOOOKいいかげんツアー」では、BACH幅允孝さんの選書で話題のブックカフェ「BOOOK」にも訪問しました。
BOOOKに初訪問した感想や、幅さんを想像した似顔絵をしたためる参加者。©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
他団体とのコラボレーションにも積極的です。今年3月の「第1回ベルリン国際映画祭in仙台」では、「ベルリンの時間 仙台の時間」と題した関連企画で協力。映画祭の感想や意見を募るスペースを提供し、次回に活かす貴重なアイデアを集めました。
2011年1月には、「としょかん・メディアテークフェスティバル」に「Book! Book! Sendai」と共同参加。「あ!っと驚く本の楽しみ方を提案します」のタイトルで11種類もの展示を披露し、来場者を喜ばせました。
「あ!っと驚く本の楽しみ方提案します」内、「私は本になりたい」の展示で、本の
形の着ぐるみを背負う小学生。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
はじまりは、ひとつのメーリングリストから
「つれづれ団」全企画のサポートや統括を担当しているのが、“団長”の桃生和成(ものう・かずしげ)さんです。
団長の桃生和成さん。穏やかながら芯のある語り口が印象的です。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
岩手県盛岡市の大学を卒業後、仙台市の中間支援NPOに就職した桃生さんは、市民活動や町内会をサポートする仕事に精力的に取組みます。一方、大学時代の友人たちは就職後、家と職場の往復だけの生活に疲れきっていたり、すぐ辞めてしまう人もいたといいます。
最初はそれぞれ興味のありそうなイベント情報などを友人たちに個別に連絡していました。次第に、面倒だから一斉に送ってしまおうと思い立ち、2008年4月にメーリングリストを作ったのが、「つれづれ団」設立のきっかけです。
当初の登録者数は、桃生さんの友人を中心とした盛岡市や仙台市在住の約20名前後。5年経った現在では約400名まで増え、学生、会社員、公務員、アーティストなどさまざまな職業の団員が老若男女問わず登録し、情報交換を行う重要なツールになっています。
2011年7月の「toko! toko! Sendai vol.2 人も歩けば本に当たる」で、マップを見ながら参加者に丁寧に案内する桃生さん(手前右)。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
登録費はありませんが、入団にはある条件があります。“つれづれ団員を探して声をかけること”、すなわち招待制です。あれ、ちょっと敷居が高いのかな?と思われた方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。ほぼ毎月のペースで開催されるイベントは、ゆる~くてアットホームな雰囲気のものばかり。初めてでも参加しやすく、団員とも自然と顔見知りになれてしまいます。
古い建造物が残る界隈や、路地裏をのんびりと回る「ゆりさんぽ」(2012年10月)。
たっぷり歩いた後は、参加者で食事会を行い親睦を深めました。
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“ゆる~くて面白い”のつくりかた
参加者の記憶に残る個性的なイベントの数々が生み出される秘密は、「つれづれ団」の仕組みにあります。団員からの提案や他団体から協力依頼があると、桃生さんがメーリングリストで企画スタッフを募集。企画毎に興味のある団員だけがミーティングに集まり、イベントが終わると解散するプロジェクト方式です。
団員が義務感で活動することがないので負担も少なく、モチベーションを持続しつつ楽しみながらやり切ることができます。
ミーティングで心がけているのは、団員の主体性をできるだけ尊重することと、“妄想”を大切にすることです。予算や場所にとらわれると限られた発想しか出てこないので、これは無理だろうな、と思う“妄想”でも、どうやったら実現できるレベルまでにもっていけるかを考えます。
異なるバックグラウンドを持つ団員が、それぞれの経験や視点からアイデアを出しあうことで相乗効果が生まれ、全く新しい発想が出てくるとワクワクしますね。
ポストイットにそれぞれの“妄想”を書き出したり、仏の絵を描いてアイデア出しをする団員。後に、お坊さんを招いてお話や精進料理を楽しむ「ぼうず日和~ほっとけない一日」(2011年9月)として実現されました。©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
イベント広報で使用するチラシにも、「つれづれ団」らしさが光ります。前述の「BOOOKいいかげんツアー」のチラシは、印刷されたチラシの余白に、団員がそれぞれイラストを手書きして配布。一枚ずつが一点ものの仕上がりというユニークさは、書籍『予算がなくてもステキなデザインのフライヤー・コレクション』(グラフィック社)でも紹介されました。
団員がイラストを添えた後のチラシ。黒字部分が手書きした箇所で、1枚毎に異なります。
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誰かが「こんなことやりたい!」と手を上げて、「あ、面白そうだな」と思う人が集まって、わいわい楽しむ。他の場所で手を上げた人に、また人が集まる。「つれづれ団」が“架空の広場”のような存在になることで、地域のあちらこちらに居場所を提供することができているのかな、と思います。
「仙台市ロマンチッ区 勝手に珍迷所案内」で司会を務める桃生さん(右)。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
最後に、“東北がどんなまちになるのが理想ですか?”と桃生さんに聞いてみました。
新しい価値観を見出せるようなことが、いろんな場所で同時発生しているまちになることですね。そこで生まれた出会いによって誰かの暮らし方が変わったり、新しい生き方が見つかったり。そのためには、集客数を増やそうとか気負わずに、小規模でもゆるやかに活動を継続していくことが目標です。
“架空の広場”のような存在の「つれづれ団」は、まちをもっと楽しくする理想のかたちかもしれません。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
イベントや団員との出会いを通して、じんわりとファンを増やし続けている「つれづれ団」。人や地域が本来持っている可能性を引き出す“広場”となり、多様なアイデアを発信していくことで、これからの東北をより魅力的なまちに変えていくことでしょう。
合言葉は「ナイスボーダー!」
次に予定されているイベントは、11月11日の「ボーダーレスボーダーナイト」です。1が並ぶ日なことから、団員が「ボーダーの日」と命名。しましまの服を着て盛り上がろうという記念日で、今年で3回目の開催となります。
昨年の「ボーダーレスボーダーナイト」。ドレスコードのしましまの服が、参加者に不思議な一体感を醸し出します。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
会場となったカフェバーAReT.では、当日限定のしましまカレーも登場しました。 ©2013 tsurezuredan. All rights reserved.
場所や内容など詳細は現在企画中。決定次第HPで発表されますので、随時チェックしてみてください。仙台市近郊にお住まいの方はこの機会にぜひ、イベントに参加してみてはいかがでしょうか?会場で知らない誰かに思い切って声をかけてみることで、新しい世界が広がるかもしれませんよ。
(Text: デラベキア牧枝)