Some rights reserved by 100万人のキャンドルナイト
今からちょうど10年前の2003年、みなさんは何をしていましたか?
グリーンズではこの年を「ソーシャルアクション元年」と呼び、2003年に誕生したソーシャルムーブメントの担い手の方々に、取り組みの背景や目指している社会について伺っています。
今回は「100万人のキャンドルナイト」呼びかけ人代表の一人であるマエキタミヤコさんに、greenz.jp発行人の鈴木菜央と、「打ち水大作戦」の真田武幸さんがお話を聞きに行ってきました!
コピーライター、クリエイティブディレクターとして、97年より、NGOの広告に取り組み、02年にソーシャルクリエイティブエージェンシー「サステナ」を設立。「エココロ」を通して、日々、世の中をエコシフトさせるために奔走中。「100万人のキャンドルナイト」呼びかけ人代表・幹事、「ほっとけない 世界のまずしさ」2005年キャンペーン実行委員。京都造形芸術大学・東北芸術工科大学客員教授、慶應義塾大学・東京外国語大学・立教大学・上智大学非常勤講師。「フードマイレージ」キャンペーン、「いきものみっけ」、「エネシフジャパン」「グリーンアクティブ、緑の日本」をてがける。
http://maekitam.tumblr.com
キャンドルナイトのはじまり
菜央 さっそくですが、キャンドルナイトはどのように始まったんですか?
マエキタ 2002年頃、キャンドルナイトの呼びかけ人である「ナマケモノ倶楽部」の辻信一さんから、「大地を守る会」の藤田和芳さんをお引き合わせいただきました。もともと辻さんは「暗闇ナイト」という、部屋を真っ暗にしてロウソクを灯すイベントをカフェでやっていて、「一緒にやりませんか?」と提案されたのがきっかけです。
菜央 「でんきを消してスローな夜を」というキャッチコピーもいいですよね。
マエキタ 電気を消して、どうするんだっけ?って考えていたとき、ふと辻さんが「スローな時間を楽しんでほしい」と言ったんですよね。
ロウソクを灯すことで“スローな時間”を楽しめるし、電気を消すということで石油燃料に頼らない暮らしができる。そこからそのコピーが生まれました。
2010年冬至のポスター Some rights reserved by saikocamera
真田 「100万人の」というのはどこから来たんですか?
マエキタ 「キャンドルナイト」だけだと他にもいろいろあるので、「数字とか何か固有名詞をつけましょう」と提案したんです。すると、藤田さんが何やら計算し始めて、「73万人はいきそう!」って言ってくれて。
真田 73万人!?それはどんな計算なんですか?
マエキタ どうやらその数字、藤田さんが一緒にやろうと声をかけたグループ、全国の生協や農業者やJAなどの会員数を足してたみたい。藤田さんは生協やJAに知り合いがいるので、「声をかけたらやってくれそうな人たちの総数がそれくらいかな」と。
それで「じゃあ、四捨五入して“100万人のキャンドルナイト“にしますか」って返したら、「いいね」って即決で。本当に100万人が参加してくれる確信があった、とか、そういうこととは関係ないので、その日のうちに呼びかけ文まで、ほとんど全部でき上がったんです。
菜央 すごいスピード感ですね。
広告費ゼロで、新聞の一面に
真田 キャンドルナイトは、どうやって呼びかけていったんですか?
マエキタ ブログやメールなど地道なこともしましたが、イベントの口コミが大きかったと思います。広報のために東京タワーの近くの増上寺でイベントをやることになって、忌野清志郎さんや小泉今日子さんも出演してくれたんです。
真田 豪華ですね!
マエキタ そしたら次の日の全紙の一面がキャンドルナイトのカラー写真。そのときは「勝った!」って思いました(笑)。勝ち負けの問題じゃないですけどね。
真田 広告費ゼロで、これだけ世に出るっていうのはすごいですよね。
マエキタ 忘れられないのは、増上寺でカウントダウンしたとき。真っ暗になった瞬間すごく不思議な感じがしました。スポーツ紙以外でも「真夏の夜に、黒い東京タワーが浮かび上がった」みたいなタイトルで、一般紙にも掲載されたのは嬉しかったです。
菜央 東京タワーもライトダウンしたんですね。
マエキタ 「東京タワーを消したい」というアイデアは最初からあったの。東京タワーの方には、「お金はないけど、CO2削減とか文明を見直すってことだからお願いします!」って説明したら、快く協力してくれました。
東京タワーのよい手応えもあり、環境省とのコラボも実現し、日本初のソーシャルアクションと官公庁との対等なパートナーシップとなりました。「言い出しっぺはこっちで、それを環境省がバックアップする。それでいいですか?」って聞いたら「いいよ」って。そんなことそれ以前にはありませんでした。
真田 一体感と自発性と対等感。みんな合わさったのがキャンドルナイトだったんですね。それを見た人たちが「私たちもやってみたい」って、どんどん増えていったと。
マエキタ 環境省が毎日新聞に呼びかけの広告を出してくれて、おまけで毎日新聞が調査までしてくれたんです。そしたらなんと500万人がキャンドルナイトを実施したという結果が出ちゃって、ビックリでした。
そのあと「1000万人を目指そうか」みたいな話も出たんですが、ローカルに向かう時代だから、名前はそのまま「100万人」にして、あっちこっちに広がっていくことを目指していきました。
デモもデザイン!
菜央 僕がマエキタさんの仕事のなかでも特に好きなのが「ぬり絵ピースプラカード」なんです。これもちょうど同じ頃に誕生したのでは?
マエキタ そう、2003年はイラク戦争が起きたときで、国際環境NGOのグリーンピースに戦争反対を訴える広告をつくってほしいと頼まれて。「怖いのじゃなくて、かわいいのをつくりたい」と思って、イラストのやり取りをしていたんですが、それが塗り絵に見えたので「じゃあ、塗り絵にしちゃお」ってなったんです。
真田 それは新聞広告として掲載されたんですよね?
マエキタ 「戦争に反対の人は、この”No War ぬりえピースプラカード”をぬって、デモに持ってきてください」と目的を設定して、結果、 デモへのお誘い広告になる作戦でした。
当日デモに行ってみたら応用や展開がすごくて、似てるけどほぼオリジナル自作のプラカードを作って持っている人も多くてとっても驚きました。一枚一枚撮影したんだけど、追いつかないくらいの数で、しかもみんな嬉しそうなんですよね。自分がつくったものって、やっぱり気持ちがいいんだと思います。
真田 広告って発信しただけで終わってしまいがちですが、受け手が目の前で喜んでいるのを生で体感できたんですね。
マエキタ 未完成のままで出したら、ちゃんとみんなキャッチしてくれて、さらに自分のクリエイティビティを加えて、お互いの作品を見せ合っていた。本当に仰天しましたね。
帰りの電車で隣に座ったおばさんに「今日の新聞見た?こんな広告があってね、塗り絵するのよ」って言われてのも何だか嬉しかった(笑)
真田 みんな自分でつくりたがっているんですね。
マエキタ 最近の官邸前のデモを見ていても、そう思います。モノを作って表現したり、クラフトワークが得意なのは、日本の農民文化の名残なのかもしれません。
ソーシャルアクション=政治
真田 日本で行われているソーシャルアクションについてはどう思いますか?
マエキタ 大切なのは、本質的なことをすることだと思うんです。じゃあ本質じゃないのは何かっていうと、「これはできないだろ」みたいな思い込みとか偏見ですね。
「日本は中央集権国家です」とか、「重工業産業が主体の国だから原発がなかったら滅んでしまいます」とか、「そもそも誰がそんなことを言ったの?」って。「もしかしたら、そうじゃないかもしれない」って想像力を持つだけで、解決することってすごく多いと思う。
菜央 政治もそうだよね。
マエキタ そうそう、本来ソーシャルアクションって政治のことなんですよ。でも、まだそこまで結びついていない。やっぱり政治に対して汚いとかそういうイメージを持っている人は多いから。
民意っていうのはもっとナチュラルなものであってほしい。人工的に「これはこう思え!」みたいに押し付けられると、「余計なお世話じゃい!」って思う。でも、まだ日本の政治では、「言うことを聞け」とか「自分の意見は言わなくていい」みたいになっている。多様性に耐えられないっていうのかな。
真田 そうなると、政治と距離を置きたい気持ちになりますね。
マエキタ その通り。だから逆に言えば、政治をする側にとっては成功しているとも言える。そこを何とかしたいですよね。
真田 今の多くのソーシャルアクションは、共感できるようなキャッチコピーだったり、素敵だなと思えるようなビジュアルで輪になっていくような状況ですよね。ある意味、政治色がないからこそ参加しやすい感じがある。
マエキタ でもそれが本質的な政治行動だと思うんです。みんな横につながって、「嫌なものには嫌だ」とはっきり言う。「私たちは今までどおり、ちゃんと生活したい」って意思を表明していく。
政治に関わること=かっこわるいっていう変な思い込みがあったのかもしれませんが、こんな時代だからこそ、政治の話がちゃんとできる方がカッコイイと思うけどなあ。
真田 そうですね。
マエキタ ほかにも「戦争なんかなくならない」とか、「デモなんてやっても意味がない」とか、まだまだたくさんの思い込みがあります。今まではそうだったかもしれないけど、これからは違うかもしれないじゃない。
だから、状況はどんどん際どくなっているけど、逆におもしろいっちゃおもしろい時代だよね。本当に変えられる時期に入ってきたからこそ、今が正念場。根本的で本質的なことを、ぶれずに続けて行きたいと思います。
真田 今日は100万人のキャンドルナイトの話を聞こうと思って来たんですけど、最後はすごく本質的なところまで伺えて、とても楽しかったです。今日はありがとうございました!
一人ひとりの小さな一歩から、世界が変わっていく。そんなことを実感した対談となりました。みなさんはいかがでしたか?
次回は「green brid」を立ち上げたハセベケンさんのインタビューをお届けします。
そして8月23日には、打ち水大作戦10周年特別企画として、ソーシャルアクション10年をテーマにした「ソーシャルアクションフォーラム」も日本財団で開催します。打ち水大作戦、100万人のキャンドルナイト、green birdの10年に学ぶソーシャルアクションのトークなどを予定していますので、ぜひ遊びに来て下さい!