この場所が大都会なんて信じられない。
タイの首都バンコクは、今年5月にMasterCardが発表した2013年版の「世界渡航先ランキング」で、ロンドンやパリを抜いて堂々1位に輝いた東南アジアを代表する大都市です。
大小さまざまなビルが林立し、行き交う人々の熱気と車がひしめき合いながら進む大通りの光景が目の裏に焼付くエネルギッシュな都市バンコク。そんな大都市バンコクの大動脈といわれているメインストリート・スクンビット通りに近い場所に、今でも何千年も前からの原生林や果樹園、硬いアスファルトで舗装されていない柔らかな土の道が残るエリア「プラプラデーン」があるのをご存知ですか?
チャオプラヤー川の対岸沿いには高級高層アパートメントの姿をはっきり見ることのできるプラプラデーンは、チャオプラヤー川が海に合流する河口に位置しておりメインエリアは小さな島のような場所。住民は、タイの北部にも住んでいることで知られているタイやビルマの先住民族であるモーン族の地としても知られています。
そんな都会の隠れ家「プラプラデーン」の美しい自然を守りながら、観光業により地元社会の活性化を行っているエコリゾート「バンコク・ツリー・ハウス」を紹介します。
リゾート内を覗いてみよう!
バンコク出身のオーナー、ジョーイさんが都会のオアシス「プラプラデーン」を知ったのは、たまたま手にした米国の雑誌タイムズで紹介されていた世界のベスト・アーバン・オアシスの記事を読んだ2006年。その後なんと6年もの歳月をかけ、2012年に「バンコク・ツリー・ハウス」がオープンしました。
地元で入手できる竹材を自然素材として利用、さらに廃材であるスチールや木材を上手に活用する他、ジュースや牛乳の紙パックを断熱材として再利用した建物。リゾート内のLED照明は、すべて敷地内に設置されている太陽、風力発電ですべてまかなっています。
有機廃棄物を堆肥化、自然の浄化力を活用した浄化システム、キッチンで使われている太陽の熱を利用して調理するソーラークッカー、採取した雨水の利用など最先端のグリーン設備を導入しています。
大都会に忽然とあるジャングルは、世界的にも珍しいのだとか。
風力発電の設備も完備。
「バンコク・ツリー・ハウス」は、全12室。例えばオープンエアーガーデンルーフが嬉しい「ファミリー・ネスト」は家族4名がゆったりと過ごせます。また2名様利用で贅沢にも星空を眺めながら眠りにつける、ツリーハウスの原点と言っても良いオープンエアーのベットルームがロマンチックな「ザ・ビュー・ウィズ・ア・ルーム」も。
ヴィラ1階のバスルームエリア。
寝室も木のぬくもりを感じられるデコレーション。
シーズンによってはチャオプラヤー川に浮かべたフローティング・ベットに横たわって、星空と川を体感するというビックリするようなシンプルコンセプトの空間「リバーネスト」など、世界一の観光都会とは思えない、大自然を満喫できるアイデア満載のお部屋ばかり。
夢のような「リバーネスト」はオンザリバー!
天井を覆いつくすほどの、大小さまざまな竹が釣り下がっているバンブーシャンデリアに圧倒されてしまうレストランは、チャオプラヤーを眺めながら地元で採れたオーガニック食材をふんだんに使った料理を舌鼓できると好評です。
バンブーシャンデリアがゴージャスなレストラン。
流木でデコレーションされた壁はもはやアート。
“実践”で学んだエコ対策とビジネスの微妙な関係
オーナーであるジョーイさんの家族は、「バンコク・ツリー・ハウス」がオープンする前から、バンコク旧市街の中心でゴールデンマウンテンやメタルパレスなど、歴史的建築物が位置するラチャダムヌーン通りで、タイのアンティーク調度品をふんだんに使ったインテリアが評判の「オールド・バンコク・イン」という小さなホテルの経営をしています。
何かと制約がある伝統的な路面に並ぶショップハウススタイルの建築物ですが、環境問題に関心が高いジョーイさんの家族は、太陽熱温水器や省エネ・節電対応器具をホテル内で使用しエネルギー削減を率先して行っていました。
その取り組みを通して、ジョーイさんは、これらの省エネ設備投資は、環境に優しいだけではなくビジネス観点から見ても長期的ですが利益につながるということを実感。偶然にもバンコクの自然の宝庫「プラプラデーン」を知ったことが「バンコク・グリーン・ハウス」が誕生するきっかけになった一つの理由だったようです。
ここで環境へ配慮した取り組みをいくつか見ていきましょう。
自転車で来ると割引に!
車の渋滞が大きな問題でもある車社会のバンコク市内とは異なり、プラプラデーンエリアは、ほとんど車を見ることがない自転車社会。バンコク在住の自転車愛好家も週末になると、この地でサイクリングを楽しむ人が多いこの地はまさに自転車天国。
もっと自転車利用を促進したいという思いから、2013年より「バンコク・ツリー・ハウス」では、自転車に乗ってホテルに来ると宿泊料金から15%割引する割引サービスを開始しています。
自転車を持参しない宿泊客も、滞在中は、リゾート所有の無料自転車を利用してバンコク市内のジャングル「プラプラデーン」内に生い茂る野生農園、色鮮やかなエキゾチックな花々を横目にサイクリングを楽しむ他、ホテルから自転車で10分ほどの場所にある「バーンナムプーン水上マーケット」や、200年以上の歴史があり、歴代のバンコク王朝が毎年必ず参拝に来たと言い伝えられている白い仏塔が光る「プラ・サムットチェディ寺院」を訪れるなど、自転車を利用して大都市では考えられないような観光を体験することができます。
不定期ですがバンコク在住の人たちに自転車ライフをより一層楽しんでもらえるように、リゾート内で自転車のメンテナンスワークショップも開催しているそうです。
大自然の中を自転車で走る爽快感がたまらない。
1ルームの予約=1kgのゴミ削除
「プラプラデーン」へは、在住日本人が最も多く住むと言われているプロンポン駅から、自転車で15分(車で5分ほど)の場所にあるクロントゥーイ港の湾税関近くの船着場から、渡し舟(大型渡し船ではバイクや自転車も載せてくれる)に乗って来る人がほとんどです。
残念ながら10万人の人々が共有するこの聖なるチャオプラヤー川は、近年は環境汚染問題が深刻化しています。「バンコク・ツリー・ハウス」では、お部屋の予約一室に対して、川から1kgのゴミの削除をするという活動を行い水質汚染防止の身近な取り組みを行い、「今現在、何キロのゴミを採取したのか」という現状を自社ホームページのトップページで随時報告し、チャオプラヤー川の汚染問題への関心を高める効果的なアピールを行っています。
「バンコク・ツリー・ハウス」の目の前はチャオプラヤー川
地元コミュニティ活性化の中心地
都会にはない素朴で温かいサービスも好評な「バンコク・ツリー・ハウス」。なんと、リゾートで働くタッフのほとんどがプラプラデーン出身者です。
「バンコク・ツリー・ハウス」は今まで外国人観光客とは疎遠であった彼らへ、人材教育として業務に必要不可欠な基礎的な英語研修を提供して地元雇用の促進を行っているほか、ホテル内のレストランで使用される食材からお部屋にアメニティとして置かれているシャンプー、石鹸など可能な限りリゾート内で使用する物は可能な限り地元で供給しています。
このホテルを中心に、現在の環境を維持しつながら協働することによって、地域コミュニティの再生や、この地に住む人々の生活向上ができるシステムを作りだしているのです。
採れたての果物は、朝食の楽しみの一つ。
陶器のシャワーボトルはナチュラル感たっぷり。
「ホテルの規模を大きくすると、利益優先主義なホテルになってしまうから、今後の目標は現状維持かな」と話すオーナーのジョーイさん。
バンコクの秘密のオアシス「プラプラデーン」を守りながら、地元の人達と共に観光業も盛り上げていくエコリゾート「バンコク・ツリー・ハウス」。たった12室の小規模な宿泊施設も、利益を得ながら地域社会や環境問題など、自分たちの背丈にあった貢献ができるということを証明した身近な成功モデルではないでしょうか?