学校や会社を選ぶとき、どんなところなのか、そこで何ができるのか丹念に調べますよね。同じように赤ちゃんを産む場所も、数ある選択肢の中から、自分たちでしっかり選び、納得感のある選択をしてほしい。そんな思いから、助産院や産婦人科の情報を伝える「ぱぱままっぷ」の作成が今、進められています。
このサイトをつくるのは、以前greenz.jpでも紹介した「ぱぱとままになるまえに」。「ぱぱとままを、夢見る世の中に。」をビジョンとし、結婚・妊娠・出産を“していない”20代前後の若い世代の男女で集まって妊婦さんの話を聞き、その後テーマを持って対話をするというイベントを行っています。
これまでの自分、今の自分、そしてこれから家族をつくっていくであろう自分のことについて、いろんな切り口から感じたり、考えたりするきっかけを提供してきました。
子どもに関わる仕事がしたいけれど、自分の子どもは“まだ”
「ぱぱとままになるまえに」をはじめたのは、自身も“ぱぱとままになるまえの世代”だという西出博美さん。
西出博美さん
もともと子どもが好きで、保育を勉強できる高校を選びました。当時から、「子どもに関わる仕事がしたい」と思っていたんです。
ボランティア活動中に、障がいを持つ子どもに出会ったことがきっかけで、“福祉”という領域から子どもをみたいと思い、社会福祉学部の大学に進学しました。学生時代の実習やアルバイトをきっかけに、虐待されてしまったこと等を理由に親と一緒に暮らすことができない子どもが住む施設(児童養護施設)にも行きましたし、
不登校になってしまった子どもが通う学校(フリースクール)では、子どもだけでなく、保護者の方の話を聞く機会もありました。社会人になってからは、発達障がい児の学習支援の仕事に関わったりもしました。
“子どもが好きだ”と感じて、その方面の仕事に進むための準備をずっとしてきたのに、自分自身の子育てというと、どうも想像がつかなかった。とにかく大変そう、つらそうというイメージしか持てずに、なかなか「自分がお母さんになる」という選択肢は思い描けなかったのだそう。
どんなに子どもが好きでも、感情的になってしまってイライラしてしまうこともあるじゃないですか(笑)。これがもし毎日だったら…と想像したら、まだなれない、と思って。自分がお母さんになることは、“めちゃくちゃ先のこと”というカテゴリーに入りました(笑)
子どもを持つ前に、自分の世界を広げよう
子どもを産み、育てることに「不安」という言葉がつきまとう中、ある気づきがあったそうです。
当時の自分を振り返ると、逆に私は、それだけ子どもとの生活を想像していたんですよね。今でこそ、子どもと一緒に過ごしたくて、子どもといる生活を思い描きまくっている結果の不安だよなぁって思えるんですけど。当時は不安で仕方なかった。
このことに気がつけたのは最近で。「ぱぱとままになるまえに」のイベントで、「ぱぱとままになるまえに、不安なことって何ですか?」というテーマでみんなで対話したことがありました。そのときに、みんなで気がついたのは、「不安なことって、よくよく見つめると、不安を抱えている人のたいせつにしたいことが際立ってくるよね」と。確かに!と、驚きでした。
こんなふうに子どもを持つ前に、自分のことに色々気がつくことってたいせつなことなんじゃないかなぁと思うんです。自分だけじゃない世界に触れることを、ぱぱとままになるまえにしておくことで、準備していくというか。
自分の子どもも、自分以外の世界ですから、戸惑いもあるだろうし、おもしろみもあると思います。けれど、なかなか対等に言葉を使って対話はできないですから、どうしても親の意向に左右されやすい。だから、なる前に世界を広げておいたり、自分以外の世界を対話して理解する時間が必要なんだと思います。
でも、あえてしないとそんな時間ってとれないので、”あえて時間をとってまで、行きたくなるようなイベントであること”は意識しています。楽しそうなこと、おもしろいことをやっていたいですね。
ぱぱとままになると楽しい!そんなHappyな事例の貯金が少ない?
”ぱぱとままになること”に対して、不安で、そして「なりたい」なんて思えなかったとき、身近な友人が妊娠・出産して、それでも楽しそうで、ほっとしたのだそう。
妊娠したときのことも、子どもが産まれたときのことも知ることができました。妊婦さんになったり、子どもが産まれてからも、普通に友だち関係が続いたことにびっくりしましたね。なんだか勝手に、“子どもが産まれたらできないこと”の中に、友だちを家に招くとか、子どももいっしょに友だちと出かけることを入れてしまっていたんだなって。
子どもが育っていく様子を見ていても、たくさんの大人が関わっているから、人見知りもしないでよく笑う子に育っているんです。そんな友だち一家の様子に触れたら、ほっとしました。「あぁ、けっこう普通なんだな」って(笑)
子どもを産んで育てることはとても大変で、ハードルの高いことだと思っていた西出さん。それは、普段見るテレビのニュースや、実習や仕事を通して出会った家庭が何かしら問題を抱えている家庭ということも影響していたようです。
身近な友だちが結婚して、子どもができてからの様子がわかったことで安心したし、何より心から喜んだり、楽しんでいる友人の姿を見ていて、自然と“子どもが欲しいな”とか、“私も早くお母さんになりたいな”って思えるようになりました。
でも、当時23歳の私の身近には、妊娠している友だちは少なく、子どもを育てている様子を知る機会ってあんまりなかったんです。だから“ないならつくるしかない”って思いました。
そうして立ち上げたのが「ぱぱとままになるまえに」
よく見ると、最後のaは妊婦さんになっています
大学を卒業してすぐの若い世代は、子育てをしている人と会うことってほとんどないですからね。私は“妊婦さんが好き!子どもが好き!”といろんな人に言っていて、珍しがってもらえて、たくさん紹介してもらえましたけど(笑)、だんだん私だけで妊婦さんに会うだけではもったいない!と感じて思いついたのが、「ぱぱとままになるまえに」です。
1回目のゲストの妊婦さんは、さっきも話した私の結婚・妊娠についての価値観を変えてくれた人。「この人が産んじゃう前にみんなに話しを聞いてもらわなきゃ!」と思って、急いで、友だちが臨月というギリギリのときにイベントを開催したんです(笑)
こうしたイベントは、子育て世代の「孤立化」という社会課題の解決にもつながるはずだと言う西出さん。
せっかく妊娠・子育てって、めちゃくちゃ素敵なことをしてるのに、なんでこの人たちが孤立しなくちゃいけないんだろう、と感じました。そこで、妊婦さんや子育て世代の人たちが主役になる場所というものもあってもいいんじゃないかと。
2年間の活動のなかで、実際に少しずつ、「ぱぱとままになりたい!」と思う人たちが増え、そして本当にイベントの参加者の“ぱぱとままになるまえ”だった人たちが、パパやママになったという、うれしい成果も出てきているのだそうです。
“分からないことも分からない”人のための目線にあった「ぱぱままっぷ」
参加者のなかから、だんだん結婚したり、妊娠する人が増えてきて…。
みんな「妊娠したー!」と報告してくれるんですが、その次には、必ずと言っていいほど「どこの病院に行ったらいいの?」「今、私は何をしたらいいんだっけ?食べちゃいけないものとかあるかなぁ?」と聞くんです。知っている範囲で答えてきたのですが、わたしは専門家ではないのでもどかしくて。インターネットや雑誌等、情報源はたくさんあるはずなのに、何でみんな、そこに行き着くことができないんだろうと思いました。
イベントではあえて知識の提供を行ってきませんでした。インターネットで検索すれば出てくるので、せっかく妊婦さんに直接会う機会には、ネットで調べることのできない話を聞いてほしかった。「妊娠したことが分かったとき、どう感じましたか?」とか、「妊娠したことを旦那さんに話したら、どんな反応してましたか?」とか。
でも、実際みんなが妊娠しはじめると、結局情報はあふれているはずなのに、わたしに聞いてきました。最初は不思議でした。「あれ?調べられないの?」って。
こうしたやりとりから、あまりに情報が溢れすぎて、知りたい情報をうまく探せなくなってしまっていることに気がついたのだとか。
妊娠してすぐは、分からないことが分からないっていう状態なんです、きっと。新卒の社会人みたいな感じです(笑)情報はたくさんあっても、どれから手を付けたらいいのかも分からないんですよね。だから私に聞いて、情報の目星をつけたいんだなって。
「ぱぱとままになるまえに」の活動は2年以上続けてきたこともあって、だんだん信頼度も増してきました。世の中にあふれている情報を、「ぱぱとままになるまえに」のフィルターを通して、発信したら、“もっと”わかりやすくなるんじゃないかなぁと思って。ぱぱとままになるまえのわたしたちだからこそ作れる「ぱぱままっぷ」というウェブサイトをつくろうと思いつきました。
大学進学、就職は“選ぶ”のに、産む場所はどうして“選ばない”のか?
妊娠したかも?と気がつくと、まずは妊娠判定のために病院に行くことになります。そのときには、急いでいることもあって、とりあえず近所の病院へ、というふうに、病院を選んでいない感じがするという西出さん。
色々わからない妊娠初期に関わりを持つ一番最初の病院ってけっこう大事で、そのまま、初めて検診を受けた病院で出産をする人も多いのではないでしょうか。
高校を受験するときでさえ、文系かな?理系かな?と考えたり、大学を選ぶときも、何を勉強したいか?と考え、学部を選びます。就職活動でも将来何を成し遂げたいのか、どんな社風の企業で働きたいのかを考えますよね。でも、出産する場所については、なぜか「近い=安全」という認識だけが強く残って、選択肢がとっても狭い。
それこそ、身近に出産経験のある友人がいたりする場合は、口コミで紹介された病院を選んでいたり、あるいは、もともと妊娠・出産に関して興味があって、熱心にいろいろ調べている人は選んでいたり…という状況です。でも、それって少数派ですよね。
今、産院は、なかなか探しやすい仕組みがありません。けれど、妊娠してから通院をしていくうちに、「なんかここの病院違うかも…」と感じても、妊娠週によっては、病院を変えることができない時期になっていることも多かったり、そもそも次の病院も探すのが大変なのが現状です。
幅広いの活動を表すロゴ。並べ替えるとmapになる!
西出さんは、出産を終えて、こんなはずじゃなかった、もう二人目は産みたくない…なんて言う人にも出会ったのだそう。
私は、妊娠をするもっと前から、“いつか産むなら、こんな院長先生のもとで産みたいなぁ”とか、“こんな産み方があるなら、わたしでもたのしめるかもしれないなぁ”とか、妊娠するよりもっと前から産院を選ぶという文化をつくりたいって思っていて。
妊娠や出産について興味をもっても、やっぱりまだ当事者(妊娠している人・子育てしている人)目線のものが多く、“わからないこともわからない”という私たちくらいの人の目線で、知れるような仕組みがあったらいいのに!と感じました。
ぱぱとままになるまえの時期から、「ぱぱままっぷ」のサイトを見て、産院を選んでおくことが文化になれば、実際に妊娠がわかったときにも、なんとなく目星をつけておいた産院の中から、選べるので、二人にとって、より理想の出産に近づくのではないか?と思っています。
本当はたくさんあるはずの選択肢を、わかりやすく知ることができる仕組みさえあれば、もっと二人にとって納得感のある家族へのプロセスが実現できるのかもしれません。
“パパになりたい”と言えるような世の中に
いくら備えても、出産や子育てやのことって、なってみなきゃわからないし、思ったようにはならないこともあります。けれど、そこに至るまでのプロセスが大事なんじゃないかと最近は思っています。そのことは、その後の子育てにも影響してくるんじゃないかとも。
自分たちのしたい!という気持ちをたいせつにしながら家族になるまでの道のりを進んでいけるということは、そこに主体性があるからです。自分たちで望んでここまできた、という実感が支えてくれるものって、多いと思います。
出産や、子育てっていうと、どうしても女性目線での情報発信が強くなってしまうけれど、男性目線も忘れずにサイトをつくると決めています。そのためにも、「ぱぱとままになるまえに」のスタッフの中には男性メンバーも多く、お互いに勉強になります。男女って、違うからおもしろいんですよね。家族をつくるのも、性別の違うふたりあってのことだから。「二人の子どもを、二人で」というかけがえのない体験をしてほしいし、私もこれからしていきたいわけです。
イベントには男性の参加者も多いようです。
また、もっとみんなが主体的に出産に取り組んでほしいなと西出さんは感じているのだそう。
もっと自分のからだを自分で感じて、出産までの期間を過ごせればいいんですが…。多くの場合は、血圧を計ってもらって、例えば「甘いものは控えてくださいね」って言われたら、それに従って…って、なってしまいます。
産まれるまでは任せっきり、聞けば教えてもらえるっていう状況でも、子どもが産まれてからは急に、あなたの判断でどうぞ、ということになってしまう。子どもはみんなそれぞれ違うので、聞いて解決することもあるけれど、そうじゃないこともあるし、そのほうが多いですよね。でも子どもを目の前にして、初めて自分で感じたり、判断したり、考えたりしはじめるのって、それは困るし、不安にもなるなと。
妊娠している期間も、むしろもっともっと前から、自分で考えて、行動して、カップルや夫婦で対話して決めていくという経験をしていけたらいいんじゃないかと思うんです。
妊娠周期が進めば、地域の両親学級などの取り組みもありますが、それまでは、本か、インターネットで検索して調べるか、母親に聞いてみるか…。身近に妊娠や出産経験のある友だちがいれば聞くこともできますが、妊娠初期は、職場に言うか言わないかっていうタイミングも迷っている期間だったりすることも。その時期、からだが大きく変化する時期でもあるわけです。
妊娠する前から、知って、選んでおければ、焦ったり、急な変化に気持ちが追いつかず、グラグラと揺れるような不安も、少しは軽減するのではないでしょうか。事前に取り組んでいく時間は、選択肢の広がりにも比例するんじゃないかと思うんです。
ぱぱままっぷでは、産む場所を探すというのがメインですが、「ぱぱとままになった先輩のインタビュー」や、「ぱぱとままになるまえから食べたい♡食事のレシピ」など、ゆったりめのコンテンツも展開していく予定だそう。
産院の探し方は、地図から探せたり、実は多様にある出産スタイルについては、心理テストみたいな感じで「あなたにピッタリ?!産み方診断」といったコンテンツも用意する予定です。
助産院や他の病院に転院するならこの時期だよとか、そうした情報も載せていきます。病院と助産院のメリット・デメリット、院長先生のインタビューなど、盛りだくさんな内容ですが、やっぱりそれだけ大事ですからね、家族が増えるときというのは(笑)。しかも、わたしたちは“ぱぱとままになるまえ”から選ぶという文化をつくるので、時間はたっぷりあるわけです。たっぷり時間をかけて、じっくり楽しんで選んでもらえるように工夫します。
産院へのインタビューでは、働く方たちの仕事の尊さに触れられればいいなとも思っています。病院の中も見たいですよね。分娩室や、院長先生の動画メッセージなども可能な限り載せていきます。様子がわかりやすくなることで、安心につながると思うんです。
サイト内には、「お気に入りボタン」を設けておいて、「この病院、この助産院がいいなぁ」と思ったら、お気に入りリストに登録ができるようにする予定です。自分たちなりのお気に入りリストから産院を選ぶ!ってなったら、すごくいいなぁって、思いませんか?
ゆくゆくは都道府県の行政と連携したいと言う西出さん。
そもそも産婦人科も減ってきていますし、助産院がない県だってあるんです。産んだ後のサポートだけではなくて、まず産む場所が減っているということも、社会的な問題だと思っています。自分の住んでいる、または将来住もうと思っている地域に、産院がないんだということを可視化できるサイトにしたいです。
なんで産む場所がないの?と疑問を持つ市民が増えることで、地域の底上げにもつながるんじゃないかと思っています。“自分たちのほしい環境は自分たちでつくっていく”という意識をつくっていくことも、このサイトの役割になったら嬉しいです。
また、病院名と住所等の必要最低限の情報がまとめてあるサイトはあっても、産院の中の様子、どんな人が関わっているのかまではわからないのも今までの課題でした。
特に助産院って、ホームページもないところが多く、メールアドレスさえないところもあります。若い、これからパパとママになる世代って、インターネットで情報を探しますよね。病院によっては、妊娠してから見学に行っても、分娩室は見ることができないところもあると聞きました。中で出産しているとか、何かで使っているとか、いろんな理由はあるのかもしれないですけど…そこで産むんだから分娩室を見たいはず。
妊娠とか出産って、どうしても怖いとか、不安になる要素がくっついてきます。でも、つらいだけ、痛いだけなら、人類はここまで続かないと思うんです(笑)。もうちょっと、子どもを育てることの楽しい実態とか、妊娠がわかってからの嬉しい気持ちを形づくることができれば、怖いこともそれなりに広まっていきますが、それに負けないくらい嬉しい、楽しいって気持ちも伝播すると思うんです。
“保育士になりたい”とか、“公務員になりたい”ということと並んで、“パパになりたい”と言えるような”ぱぱとままを、夢見ることができる社会”にするための「ぱぱままっぷ」なんです。
「ぱぱとままになりたくなっちゃう総合情報サイト ぱぱままっぷ」は、2013年10月に公開予定ですが、このウェブサイトを立ち上げるための支援をREADYFOR?で募集中です。
子どもを産む。家族になっていく。そんな大事なときだからこそ、様々な選択肢があることを知ってほしい…。みなさんも、ぜひ考えてみてくださいね。